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高校生を中心とした自転車利用を考えるワークショップについて

佐賀市建設部道路課 課長
桑 原 敏 光

佐賀市建設部道路課 改良第2係 係長(前職)
久 保 雅 史

佐賀市建設部道路課 改良第2係 主査
内 田 雅 之

株式会社 ケー・シー・エス
 九州支社 支社長
高 原 茂 樹

株式会社 ケー・シー・エス
 九州支社 副技師長
松 本 好 史

株式会社 ケー・シー・エス
 九州支社 研究員
石 田 武 士

1 ワークショップ開催に至る経緯
(1)佐賀市における自転車利用環境整備の流れ
佐賀市は,佐賀平野のほぼ中央に位置する平坦地であり,市街地は4km四方の環状道路内側にほぼ収まるコンパクトな形状である。このように佐賀市は自転車利用に適した地理的条件を備えているためか,平成12年の国勢調査によると,通勤・通学で自転車を利用している割合は,約1/4と非常に高い。

このような状況を背景に,平成10年度に当時の建設省(現国土交通省)から「自転車利用環境整備モデル都市」の指定を受けた。これを契機に佐賀市では,自転車利用環境整備に関する計画づくりを進め,平成11年度に「自転車利用環境基本構想」を,13年度に「佐賀市自転車利用環境整備基本計画」を,そして平成14年度から「佐賀市自転車利用環境整備実施計画(以下,実施計画)」を策定している。

(2)実施計画の策定経緯
 ① 委員会での諸論
実施計画を策定するため,市民代表,学識経験者,交通事業者,道路管理者,学校関係者等からなる「佐賀市自転車利用環境整備実施計画検討委員会(以下,委員会)」が設けられ,平成14年度に3回開催された。1,2回の委員会では,自転車道の幅員構成や,整備優先度,駐輪施設等について議論がなされ,ハード面での整備方針は,概ね合意が得られていた。

 ② 委員会での議論の限界
委員会には道路管理者,公安関係者及び交通事業者等と道路交通に精通したメンバーが含まれていたこともあり,ハード面については議論が重ねられてきたが,自転車利用促進のための施策などソフト面については,2回の委員会で十分な議論はなされなかった。
自転車利用環境整備は,ハードとソフトの施策が連携してこそ意味をなすものであり,したがって,仮に,委員会で検討されている実施計画が実行に移され,快適な自転車走行空間が整備されたとしても,それだけでは自転車利用促進には不十分であり,何らかのソフト的対応が必要であると考えていた。また,委員会の中でも,もっと市民の声を聞いて計画づくりを進めるべきだという意見もあり,事務局からワークショップの開催を提案し,開催するに至った。これにより第3回委員会は,ワークショップ終了後の年度末に開かれることとなった。

2 ワークショップの概要
(1)ワークショップ開催の目的及び位置づけ
ワークショップは,委員会の意向を受け,自転車利用促進のためのアイデアづくりを目的に開催され,その成果は次回の委員会で発表され,実施計画へ反映されることになった。もっとも,ワークショップ参加者がモチベーションを持続でき,最後に満足感を得られるには,話し合った結果がしっかりと活かされたという事実が必要であり,ワークショップの位置づけを明確にすることが重要であるとは考えていた。
また,本ワークショップは市民参加による自転車利用環境整備の第一歩であり,今後につながるきっかけづくりとして捉えていた。そのため,主催者側の思惑を極力排除し,自由なおしゃべりの中からおもしろい発見やアイデアが生まれるようなプログラム作りを心がけた。

(2)ワークショップの構成メンバー
ワークショップの参加者の募集は,公募による方法も考えられたが,年度末までに成果を委員会に発表しないといけないという時間的制約や自転車利用の中心的存在である高校生の意見をより多く吸収したいという考えもあり,事務局から直接依頼して参加者を集めた。
また,ワークショップはグループワークであり,各グループでの活動を促進する進行役としてファシリテータ(中立的な立場にたち,参加者からでた意見やアイデイアを平等かつ適切にとりまとめながら,グループ会議の進行役を務める人)が必要となるが,今回は佐賀市で活動している技術士からなるNPO団体に参加をお願いし,協力していただくこととなった。
その結果,一般市民36人,行政11人の計47人が集まり,毎回約35人が参加した。この中には委員会の委員3名も含まれる。

(3)ワークショップの流れ
図ー3のフローに示すとおり,ワークショップは全部で4回開催された。第3回では,実際に自転車で佐賀の街を見てまわった。

(4)会場レイアウト
会場を,ワークショップの説明,発表会など全員が集合するAゾーンとグループで活動するBゾーンの2つに分割し,目的に応じて使い分けられるようにした。

3 第1回ワークショップ
(1)概要
第1回ワークショップは,参加者がワークショップの雰囲気になれること,自転車利用に関する情報を確認すること,今後ワークショップで検討する内容を認識することを目的にプログラムを組んだ。

ワークショップの説明の後,グループでの作業にはいる前に,簡単な質問に5択で答えてもらう旗揚げアンケートや,自己紹介を行い,雰囲気になれてもらうようにした。
全体でのプログラム終了後,機械的にグループ分けを行い,ワークショップでどのような課題について話し合うかを決める「テーマについての話し合い」を行った。グループ毎にテーマを決めた後のグループデイスカッションでは,はじめにテーマからイメージされる自転車の乗り方を話し合ってもらい,具体的に自転車利用のイメージをつかむことにより,今後の議論の土台となるようにした。なお,テーマからイメージされる自転車の乗り方については,事務局で事前に「風を感じながら走る」,「自転車レースを楽しむ」,「どこでも駐輪できる」など約70枚のカードを用意し,議論の活発化と作業の効率化を図った。
この後イメージをもとに「大切にしたい考え方」を整理し,テーマに沿った「街のイメージ」,そのために「佐賀市に欲しいもの」を話し合ってもらい,最後にグループ毎に成果を発表してもらった。

(2)参加者の反応
参加者の7割がワークショップに初めての参加ということもあり,ぎこちなく始まったが,グループに分かれてからの作業は,ファシリテータがうまくグループをリードしたおかげで,活発に議論が進められた。用意したガードもうまく活用され,デザインに工夫を凝らしたグループもあった。
取り上げられたテーマは,「楽しむ」,「便利にする」,「かっこよく」,「安全に」などであり,複数のテーマを扱うグループもあった。グループデイスカッションで出された意見は,自転車レーンや自転車専用道路などハードに関するものから,サイクルマップ,サイクルデー,レンタサイクル,マナーなどソフトに関するものまでと幅広いものであった。

(3)感想
高校生の大半は,最初は学校に無理やり参加させられたという意識があったと思われるが,グループでの活動を経るうちに活発に発言するようになり,終了後のワークショップの感想を聞いた旗揚げアンケートをみても,1/4が「期待した以上によかった」,半数が「参加してよかった」と好意的であり,「よくなかった」と答えた参加者は0であった。
はじめる前は,期待よりも,うまくプログラムを理解してもらえるか,参加者が自由に発言できる雰囲気をつくれるかなど不安の方が大きかったが,いざ作業を始めてみると,各グループから時間が足りないという声があがる程にぎやかな状況となり,事前に準備したカードやワークシートなどの小道具とファシリテータの存在が今回のワークショップを成功に導いたと思われる。
結局ワークショップは30分ほど延長になり,作業量に応じた時間配分が課題として残った。

4 第2回ワークショップ
(1)概要
第2回ワークショップは,第3回ワークショップで自転車に乗って街をまわるタウンウォッチングのためのコース設定を目的に,図ー6のスケジュールにしたがって行われた。
なお,マップ作成の小道具として,前回作成したワークシートの縮小版の他,自転車で市民にまわって欲しい場所を抽出するための市内主要施設の写真カードや観光パンフレット等を準備した。また,タウンウォッチングの際にチェックしたい項目を記入するチェックカードや,提案の概要を記入する提案カードも準備した。

(2)参加者の反応
第2回ワークショップになると,前回からの参加者は随分と慣れてきてワーキングヘの入りもスムーズとなってきた。最初の旗揚げアンケートでの「前回から今回のワークショップの間に,自転車について何か考えたりしたことはありますか?」という問に対し,複数回答で11人が「友達や知人と自転車について話をした」,3人が「自転車に関する本や新聞記事を読んだ」と答えており,前回のワークショップを経験し,自転車に対する関心が高まったと思われる。ちなみに「自転車のことはすっかり忘れていた」と答えた参加者は5人であった。
各グループでテーマは異なるが,ルートは,多布施川や,お堀周辺,商店街など同じようなところに集中した。
終了時の旗揚げアンケートでは次回のタウンウォッチングに対し,2人が「何か物足りない気がする」と答えた以外は,20人が「何か発見できることを期待している」,16人が「楽しく回れそうだ」と答えており,ほとんどの参加者が次回に期待を持って,ワークショップを終わることができた。

(3)感想
作業内容が多少,理解しづらかったのか第1回ワークショップとの関連性が低くなり,結果的に次回のワークショップで,自転車でまわるためだけのマップになったような感じがした。写真カードは満遍なく活用されたが,タウンウォッチングの際に,チェックしたい項目を記入するチェックカードや,提案の概要を記入する提案ガードは一部のグループしか活用できておらず,タウンウォッチングの目的が少しぼけてしまったため,第3回のはじめに目的を整理し直す必要性を感じた。

5 第3回ワークショップ
(1)概要
第3回ワークショップでは,前回ワークショップで作成したルート図に基づいて,参加者が実際に自転車に乗って佐賀の街を見てまわり,感じたことや発見したことを,地図に整理することを目的に開催された。

ルート図からタウンウォッチングの目的が読み取りにくいという前回の反省点を踏まえ,すぐにはタウンウォッチングに出かけず,タウンウォッチングの目的を整理するシートを作成した。その後グループ毎に市で用意したレンタサイクルに乗り,タウンウォッチングに出かけた。タウンウォッチングにあたっては,ルート図の縮小版と,街で感じたことや発見したことなどを記録できるようにポラロイドカメラや「発見カード」なるものを用意した。
タウンウォッチング終了後,会場で発見したこと,感じたことを「発見マップ」に整理し,グループ毎に発表会を行った。

(2)参加者の反応
実際に自転車に乗り,街に出るということで活動的なワークショップになった。中には地元のテレビ局が同行するグループもあり,違ったところで盛り上がった面もあった。
街に出てみると意外な発見が多く,佐賀市の良さを再認識したグループが多かった。歴史を感じさせる長崎街道や佐賀城跡周辺,路地の至る所にあるえびす像などは参加者の関心をひいたようである。反面,休憩施設の不備や狭い道路幅員,歩道と車道との段差,マナーの悪さなど問題箇所を指摘する面もあった。

(3)感想
各グループとも似たようなルートをまわってきたが,歴史や安全性などグループによって着目点が異なるため,グループ毎の個性が表現されたマップになった。今回の作業は,街を自転車でみてまわって,感じたこと,発見したことを地図にまとめるという作業であったが,前回と異なり,どのグループも写真や発見カードを活用して発見マップを作成し,こちらで意図した主旨に沿った成果物ができた。

6 第4回ワークショップ
(1)概要
第4回ワークショップでは,これまで行ってきたワーキング結果を「夢サイクルマップ」という形に整理し,発表会に向けた準備と簡単なリハーサルを行うことを目的に開催された。

(2)参加者の反応
これまで行ってきたことを「夢サイクルマップ」という形に整理する作業であるため,グループでのワーキングはスムーズに進められた。4回目ということもあり,参加者も作業に慣れ,ただ単に図面に落とすだけでなく,色づかいを工夫したり,ちょっとしたイラストを入れたりなど,内容だけでなくデザインの面でも充実したものとなった。
作業終了後,委員会での発表のリハーサルを,高校生が中心になり行った。

(3)感想
最終回ともなると参加者がかなり慣れてきているため,こちらでほとんど準備することもなく,ワーキングは進められていった。参加者の姿勢も非常に積極的となり,期待以上に盛り上がった雰囲気づくりができたと思う。今回のワークショップでいろいろなアイデアが出されたが,短期間で実施したこともあり具体的なソフト策の提案までには至らなかったが,自転車利用のきっかけづくりとなるワークショップとしては,満足できる内容であったと思う。

7 発表会
(1)概要
ワークショップの成果を策定中の実施計画に反映させる目的で,第3回委員会においてワークショッ プの発表会を開催した。
発表は1グループ発表10分,質疑応答5分の構成で行い,質疑応答終了後,委員の方々の感想を聞くための旗揚げアンケートを行った。

(2)参加者の反応
これまでのワークショップと異なり,少し緊張した雰囲気の中で発表会は進められた。発表は基本的に高校生が中心になり,質疑応答では大人が手助けするという感じで進められた。
各グループから提案された主なアイデアは表ー1に示すとおりである。

(3)感想
少しばかりの緊張が加わった発表会であったが,高校生ら発表者はリハーサルのかいもあり,堂々と発表することができ,委員の方々も真剣に興味を持って聴いてもらい,大変有意義な発表会となった。

8 おわりに
グループ毎にテーマを設定して「自転車」について考えるワーキングを進めてきたが,自転車という移動手段を通して,街のいろいろな部分をみているうちに,単に自転車利用だけを考えるにとどまらず,佐賀市のまちづくりについての提案が,数多く見受けられるようになった。特に,目的がソフト的な内容であったため,このような傾向になったとも考えられるが,おそらく,利用者からすると自転車は単なる「移動手段」ではなく,街が活動するための「装置」であると捉え,「装置」が適正に起動するためには,佐賀の街がどうあるべきかを考えた結果であると思う。
はじめは学校に無理やり参加させられた感覚もあったであろう高校生らも,表ー2に示すように最後の旗揚げアンケートでは,ワークショップに対してかなり積極的な意識を持っており,市民参加による計画づくりの第一歩としての役割は果たしたと思う。また,4回のワーキングの中では,タウンウォッチングが一番おもしろかったと答えており,今後ワークショップを開催する上で,参加者の意欲を高める手法として,このようなフィールドワークをうまく組み込むことが重要になると思われる。
今回のワークショップは,市民による自転車利用促進のためのアイデアづくりという目的を達成し,参加者の意欲を盛り上げつつ終了したが,今後はこの熱意をどのように佐賀市の自転車利用,ひいては,まちづくりにつなげていくかということが,ワークショップを開催した事務局の大きな課題として残されている。

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