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雲仙岳噴火と道路管理について

建設省九州地方建設局
 道路管理課長
重 石 啓 太

建設省九州地方建設局
 道路管理課 共同溝係長
小 串 正 志

はじめに
平成2年11月17日,約200年ぶりに眠りからさめた「雲仙・普賢岳」(標高1,359m)は,地獄跡火口と九十九島火口から噴煙を上げた。
それからしばらくの間は小康状態を保っていたが,平成3年に入ってから火山性の群発地震が多発化し,3月29日には,地獄跡火口・屏風岩火口・九十九島火口の3箇所が同時に噴煙を上げ,その後,火山活動が活発化して周辺に降灰をもたらすとともに地震が多発した(図ー1)。

5月15日には,水無川で初めての土石流が発生し,一部住民の避難が始まった。この時点では,それから半年にも及ぼうとする避難生活を強いられるような事態になると誰が想像したであろう。
島原半島には,半島の中心都市である島原市(人口43千人)をはじめとして1市16町の約18万人の人々が生活している。その中心都市が,雲仙・普賢岳の東側にあり,火山活動の影響をまともに受け,半島全体の経済活動が沈滞するなど地域社会に大きな打撃を与えている。
本稿では,降ってわいたような,しかしながら,有史以来世紀単位では起こってきた自然の猛威と現実の道路管理などのかかわりについて述べてみたい。

1 雲仙·普賢岳の火山活動
雲仙・普賢岳の火山活動は,記録に残る有史後で最初の噴火活動が1663年(寛文3年)にはじまり,翌年の九十九島池の決懐により死者30余人の被害があったと記録されている。
それから,129年の休止期を経て1792年(寛政4年)いわゆる『島原大変・肥後迷惑』と言い伝えられている死者15,000人にも達する眉山大崩懐の惨事,さらにそれから130年ぶりに発生した1922年12月の雲仙を震源地とするマグニチュード6.9の大地震で死者27人の被害がでている。
今回の火山活動は,眉山大崩落から198年ぶり,また1922年の大地震からは68年ぶりの火山活動の再開となった(九州技報10号「雲仙・普賢岳災害と防災対策について」 図-1参照)。

《『平成3(1991)雲仙岳噴火』の主な経緯と被害》
・平成2年11月17日一地獄跡火口と九十九島火口から噴煙上がる(写真ー1)。

・平成3年5月19日一水無川の河口付近まで達する土石流発生(橋梁:2箇所流出,2橋自主撤去)。
・平成3年5月20日一最初の溶岩ドーム出現(写真ー2)。

・平成3年6月3日一大規模火砕流発生(死者・行方不明者43名,焼失家屋179棟)。
・平成3年6月8日一大規模火砕流発生(焼失家屋207棟)(写真ー3)。

・平成3年6月11日一噴石・噴火(車両被害53台等)。
・平成3年6月30日一大規模土石流発生(一般国道57号が埋没し堆積土砂量約2,500m3,土石流は有明海まで達し家屋被害137棟)(写真ー4)。

・平成3年8月12日一噴石・噴火。
・平成3年9月15日一おしが谷からの大規模火砕流発生(大野木場小学校など焼失家屋176棟)
・平成3年10月末一第5の溶岩ドーム出現?(図ー2)。

2 火山活動と地域の制約
火山活動の激化に伴い,「災害対策基本法」第63条第1項による強制的な立入り制限(立入禁止)が警戒区域の設定によってなされ,区域内のあらゆる生活活動が強制的に止められることとなり,当然,道路の通行も禁止となった。
「災害対策基本法」による,いわゆる面的な制約・制限は,火山活動の変化とともに区域の拡大や,制限の緩和・解除と変遷をたどり,10月15日からの9回目の期限延長で,10月末現在もまだ約2,200世帯,8,500人余が避難生活を余儀なくされている(図ー3)。

一方,道路は,本来「不特定多数の一般の交通の用に供するもの」として、常時道路の維持・管理を行い安全な交通環境を提供していくものであるが,6月3日の大規模火砕流発生によって,道路交通の安全確保が困難となったことから,同日夕方から一般国道57号も道路法第46条の通行禁止措置を取った。
これによって,島原市を中心として行われていた半島の経済活動は,一般国道57号・251号の通行止めにより物流等の動脈線が断たれたが,新たな通行径路(迂回路)や代替交通機関(海上交通)によって最低限の交通路で経済活動を支えてきた(図ー4)。
その後の警戒区域等の規制緩和に伴い,一般国道251号が,通行止→生活物資等の搬送車両のみの許可による制限通行→さらに9月22日からは一般車両も通行可能(夜間は通行止)となり,10月15日からは定期バスの運行も開始され,通勤·通学の陸上交通が確保されることとなった(島原鉄道は依然として島原外港~深江間が不通)。

3 島原半島の地域経済と道路
観光立県長崎県の代表的な観光地である「雲仙・島原」において,今回の噴火災害およびこれによる道路の通行止めが,地域の経済にも大きな打撃を与えている。
民間のシンクタンクの調査によると,この夏,東京発着の国内旅行者数は九州全体で約20%の大幅減となっており,北海道の28%増と対照的な変化が見られ,一概には言えないものの,九州の別府・湯布院・阿蘇地区は前年並みか10%程度伸びていることから,雲仙・長崎から天草・鹿児島へ至る九州西海岸を下る周遊ルートが敬遠されたと見ている。
島原半島の代表的な,雲仙と小浜の両温泉街の宿泊者数(平成2年の宿泊者数1,188千人)は,対前年比約40万人の減と見込まれており,これは,小浜温泉の年間宿泊者数(平成2年の宿泊者数349千人)を上回る数となっている。特に,修学旅行を含めたキャンセルが8月末迄に22万人を超え,年末までのキャンセル数は36万人余となる見込みである。
このような観光入込み客数の減少は,噴火災害による危険を避けるため,ある程度の減少はやむを得ないと思われるが,一般国道57号の通行止め(東登山口~大野木場交差点L=4.2km,10月末現在は第五小学校前~大野木場交差点間L=3.0kmに短縮)によって,大型バス等が島原発着のフェリーに通常の観光ルートでは乗れず,2時間程度の迂回を要することが大きく影響したものと思慮される。
被災前の島原半島内の交通量と被災後の主な地点の交通量の変化は,主に通勤等の迂回路として用いられた国見雲仙線が通常の5倍程度の交通量増となった(図ー5)。

4 一般国道57号の管理
(1)一般国道57号の対応
2で述べたように,一般国道57号と並行して走る一般国道251号の規制緩和によって,現在は幸いにして,大きな制約があるものの一応の生活道路は確保されている。
一般国道57号の道路法による規制と災害対策基本法による制限関係は,基本的には両法と,さらに道路交通法がそれぞれ独立した法律であり,災害対策基本法の警戒区域が解除されれば,道路法・道路交通法のそれぞれの管理者の措置が問題となるが,警戒区域の解除は,火山活動による危険性の回避と解され,道路管理者としても共通認識の元に道路法第46条(通行の禁止または制限)の規制を,道路上の堆積土砂(約2,500m3)の排除および路面復旧を災害復旧事業(緊急災)で実施した後に解除することとなる。
しかし,火山活動が終息しても多量の火山堆積物による土石流の発生は十分予想され,これについては,面的な復旧事業と共に,桜島の一般国道224号と同様に通行止めという道路管理上の対応(土石流発生→検知線作動→通行止→現地確認→解除)並びに事前予告標識の設置等が必要なため,現在その準備を行っているところである。
(2)火砕流による道路構造物への影響
6月8日の大規模火砕流により,水無川沿いに下ってきた高温の火砕流の影響を受け,道路構造そのものへの影響が考えられる。
一般国道57号の水無川橋は,昭和35年に架設された橋長20mのPC-T桁橋である。
火砕流の本体は,600度以上の高温で周辺の熱雲でも200~300度もあるといわれ,まともにさらされれば,PC桁の耐久性や耐荷力の低下,すなわち①コンクリートの劣化,②PC鋼材の強度低下,③鉄筋の強度低下が懸念される。
以下,この3点について特徴をあげてみる(土木研究所橋梁研究室資料)。
① 高温の影響を受けた場合のコンクリートの材質変化等について
・ コンクリートは,300℃程度までの温度上昇では強度や弾性係数の低下はみられない。しかし,骨材の変態点である500℃あたりから急激に強度や弾性係数が低下する。
・ コンクリートは,火災などの影響で高温下に置かれると化学反応を起こし,炭酸ガスを発散して中性化する。
・ コンクリートの熱伝導率はかなり小さい。このため,例えば,表面温度1,000℃の状態が2時間経過した段階でも,コンクリートの表面から7cmぐらいのところの温度は300℃程度である。
② PC鋼材の強度低下について
・ PC鋼材は300℃以上の高温下で引張強さや降伏点が急激に低下し,常温下に戻ってもこれらの特性値はあまり回復しない。しかし,300℃以下の温度では,その材料特性にあまり変化はない。
③ 鉄筋の強度低下について
・ 鉄筋の場合も300℃以上の高温を受けると,急激にその引張強度と降伏点が低下する。なお,加熱後常温下に戻った鉄筋の性状については,加熱が500℃程度までの場合については元の性状に戻るが,それ以上の場合には強度等が一般に低下する。
幸いにして火砕流本体は,水無川橋から約100m上流の札の元橋付近で止まっており,それ程高温にさらされたとは考えられないが,将来的に長期にわたって橋梁の維持・管理を行っていく上で,耐久性の診断を行い,必要ならば補修等を実施しなければならない。
以下に高温の影響を受けたPC桁について,その診断法と補修法を簡単に述べる。
≪高温を受けたPC桁の耐久性診断法≫
・ コンクリートのコアを採取し,フェノールフタレイン等の薬品を用いて中性化の程度を調べる。
・ コンクリートの炭酸ガスの減少量を調べることによって,その部位の温度が何度まで上昇したのか調べる。
・ シュミットハンマーやコアの圧縮試験により,コンクリートの圧縮強度や弾性係数を調べる。
≪高温を受けたPC桁の補修法≫
・ 損傷部がかぶりコンクリートのみで鉄筋・PC鋼材が健全な場合には,高温の影響を受けた欠陥部分のコンクリートをはつり落とし,断面修復を施す。
・ 鉄筋・PC鋼材まで被害が及んで,タワミ等が大きくなった場合には,断面修復後に鋼板接着等を行い,外ケーブル等で必要なプレストレス量を導入する。

おわりに
市街地を巻き込んだ長期にわたる避難生活を強いられるような災害は,この雲仙岳噴火災害が国内ではじめてである。
このような状況のなかで,現実の道路管理について述べてみたいと試みたが,結局は,道路管理以前の問題で,道路自体を通行止にして2次災害を防止するしか方法がなく,島原半島全体の経済・社会活動に大打撃を与えている。
現在,政府においては21分野90項目にわたる救済対策を講じ,また,長崎県においても特別立法の制定までは至らなかったが,7月には県庁内に「雲仙岳災害復興室」を設置し,基金の創設や仮設住宅の建設(1,455戸)等あらゆる手を尽くして雲仙・普賢岳に立ち向かっている。
九州地方建設局においても「雲仙岳火山活動対策特別本部」を設置し,降灰対策車・散水車・路面清掃車・防災パトロール車等を現地に派遣し,一般国道57号および県管理の一般国道251号についても降灰除去作業等を実施している。また,災害対策活動を支援する衛星通信移動局を現地に設置し,常時火山活動を監視するとともに,その映像を地元および中央にも提供している。
また,道路管理者として,今後,受け身の管理だけでなく,より積極的な,例えば道路構造自体を土石流および火砕流に対して安全に通行できる構造にするなどの対応が必要であると考えているところである。
この雲仙だけでなく,大雨や台風による通行規制等を余儀なくされている道路が各地に点在し,日夜道路管理に従事しておられる方々の苦労をねぎらうとともに,今は,10月末からの不気味な溶岩ドームの変化があるが,火山活動の早期にしかも穏やかな終息を願うばかりである。

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