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離島における火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定について
~薩摩硫黄島、口永良部島、諏訪之瀬島~

鹿児島県 北薩地域振興局建設部
土木建築課道路建設第一係
松 元 啓 輔

キーワード:火山噴火、緊急減災対策砂防計画、離島

1.はじめに
日本には、2019(平成31)年3 月現在、111の活火山が分布しており、1990(平成2)年の雲仙・普賢岳、2000(平成12)年の有珠山や三宅島など、火山噴火による災害が各地で頻発している。
しかし、砂防堰堤等の整備率は低く、突発的な火山噴火に伴い発生する溶岩流、火山泥流、土石流等の被害を無くすことは困難である。
この様な状況の中、国土交通省は平成19 年4月に、「火山噴火緊急減災対策砂防計画策定ガイドライン」(以下、ガイドラインと呼ぶ)を発表した。これは、いつどこで起こるか予測が難しい火山噴火に伴って発生する土砂災害に対し、緊急対策を迅速かつ効果的に実施し、被害をできる限り軽減(減災)するため、全国の常時観測火山のうち49 の火山で「火山噴火緊急減災対策砂防計画」の策定を進めるもので、平成30 年3 月現在、全国29 火山で策定済である。
当県では、県内の常時観測5 火山のうち、桜島と霧島山で計画を策定済みであることから、未策定の薩摩硫黄島、口永良部島、諏訪之瀬島の3火山について計画を策定することとした。
本稿では、平成28 年度から3 ヵ年に亘り検討した離島3 火山での火山噴火緊急減災対策砂防計画策定の経緯及び緊急対策の概要について紹介する。

2.火山噴火緊急減災対策砂防計画とは
2.1 火山噴火緊急減災対策砂防計画の目的
火山噴火では、溶岩流や火砕流、降灰、降灰後の土石流など、多様な現象が発生し、甚大な被害をもたらす。また、降灰を起因とする土石流は、広域かつ長期的にわたることからその被害は顕著である。

このことから、前述の49 火山では、いつどこでおこるか予測が難しい火山噴火に伴う土砂災害に対し、緊急時に国及び都道府県の砂防部局が実施する火山防災対策を「火山噴火緊急減災対策砂防計画」として策定することとした。
この計画は,ハード対策とソフト対策からなる緊急対策を迅速かつ効果的に実施し、被害をできる限り軽減(減災)することを目的とする。

2.2  緊急減災対策の位置付け
火山噴火時の防災対応では、迅速かつ効果的な住民等の避難対応と、緊急対策による被害軽減(減災)が求められる。これらを迅速かつ効果的に実施するためには、国及び都道府県の砂防部局が実施する「火山噴火緊急減災対策砂防計画」と関係機関の実施する防災対策との連携が必要不可欠であることから、関係機関が情報共有して、一丸となった総合防災行政力により対策にあたる必要がある。

2.3 火山噴火緊急減災対策砂防計画策定の流れ
離島3 火山における「火山噴火緊急減災対策砂防計画」の計画策定までの流れを図- 4 に示す。策定にあたっては平成19 年4 月に国土交通省が示したガイドラインに基づき検討することとした。

2.4 検討委員会の開催
火山噴火緊急減災対策砂防計画(案)の策定にあたっては、島嶼とうしょ部の特徴を踏まえた現実的な緊急対策を立案するため、「離島3 火山(薩摩硫黄島・口永良部島・諏訪之瀬島)火山噴火緊急減災対策砂防計画検討委員会」を設置し、平成28 ~ 30 年の3 ヵ年に亘って計6 回の委員会を開催した。

3.火山砂防ハザードマップの作成
火山噴火に対しては、観測体制の整備、予防対策、応急対策、警戒避難対策など、様々な対応が求められる。これらの対策を具体的に検討、実施するためには、離島3 火山が噴火した時に、いつ、どのような現象が、どの範囲まで到達するかを示したハザードマップの作成が必要不可欠である。このため、これまでの噴火活動履歴や調査結果等に基づいた火山特性を踏まえ、噴火に伴って発生が想定される火山現象と土砂災害による被害の影響範囲を明らかにした。

3.1 噴火シナリオを踏まえた土砂移動シナリオ
これまでの火山噴火に関する資料を整理し、土砂移動実績図や想定される噴火シナリオを作成し、今後発生が想定される土砂移動現象等を抽出した。

3.2 数値シミュレーションの実施
前項で整理した想定現象を対象に、数値シミュレーションを実施した。

3.3 火山砂防ハザードマップの作成
火山ハザードマップは、噴火時の緊急時だけでなく、避難計画の策定など平常時の火山防災対策の検討においても活用される。このため、防災対策ができないような噴火規模・現象(例えば、カルデラ噴火など)は避け、集落等へ影響を及ぼす可能性の高い現実的な噴火規模・現象を想定した。

4.計画策定の基本事項
火山砂防ハザードマップの作成結果を踏まえ、火山噴火緊急減災対策砂防計画の基本事項及び対策方針の設定について検討した。

4.1 基本事項の整理
1)現状の把握
各島の土地利用、法規制、保全対象となる社会資本、火山活動の監視観測体制、火山噴火時の避難体制、対策施設の整備状況等の現状を踏まえ、離島3 火山の特性を整理した(表- 3)。

2)噴火シナリオと対象現象
離島3 火山の特性を踏まえた、緊急減災対策砂防計画とするため、対応可能な噴火シナリオは小規模噴火を基本とし、対応可能な対象現象は降灰後の土石流とした。

3)影響範囲と被害の把握
被害の影響範囲は、火山砂防ハザードマップによる被害想定結果を基に把握した。

5.対策方針の設定
基本事項で整理した離島特性及び噴火シナリオや、平成27 年の口永良部島の噴火活動とその対応を基に、緊急時に実施する対策方針として以下に示す項目について検討した。
 ①対策開始のタイミング
 ②対策可能期間
 ③対策可能な規模・現象
 ④対策場所
 ⑤実施体制  等
なお、各島の施設整備状況や想定する火口と保全対象の位置関係などを踏まえ、現実的に実施可能な対策方針を設定した。

【基本方針】
 火山噴火時には、噴火警戒レベル5(全島避難)に引き上げられる可能性が高いことから、平常時からの準備も含め、人命を守ることを最優先とした緊急時の対策を講じることとする。

6.緊急時に実施する対策の検討
6.1 緊急対策実施のタイムライン
緊急対策は、前兆現象や火山活動の高まりなどの火山活動の状況や、ごく小規模な噴火に伴う降灰などの発生現象を基に着手するため、町村の実施する警戒避難対応など関係機関と連携を図りながら実施することが求められる。
このため、火山活動の推移と、緊急時に実施する実施項目、避難対策等の動きについて整理し、緊急時の行動計画として、緊急対策実施のタイムラインを作成した。
なお、火山により着手段階が異なるため、タイムラインは各火山ごとにまとめた。

6.2 緊急ハード対策
限られた時間・資機材で可能な限り減災に努めることとし、平常時からの準備と合わせ効率的な緊急対策を実施する。
本計画の対策規模は、小規模噴火(106m3)以下の噴火に伴う降灰後の土石流を対象とした。

1)対象とする渓流
現時点で保全対象が確認される土石流危険渓流を基本とした。

2)対策工の工種・工法
島嶼部の施工環境を考慮

3)対策工事の安全管理
緊急対策工事の実施中は、降灰の影響により、通常時に比べ少量の雨でも土石流が発生する可能性が高く、天候や火山活動の急変に対応する必要がある。そのため、緊急対策の工事にあたっては、現場における情報収集体制や警報器の設置などを義務付け、施工中の土石流による被災を避けるため、降雨発生時には工事中止を基本とした。また、噴火活動が長期化する場合は、安全対策として避難施設等の設置を検討することとした。

6.3 緊急ソフト対策
緊急ハード対策の規模決定や、町村の実施する避難対策支援のための情報提供、工事現場の安全確保のための情報収集などを目的とし、以下の対策を実施する。

1)警戒避難対策支援のための情報提供
火山噴火時には、火山活動並びに土砂移動の監視情報を収集し、被害想定区域などの避難に関する情報の提供および町村の避難対策の支援を行う。
以下に提供する主な情報を示す。
①被害想定区域の範囲、被害の内容
②噴火後の二次的な土砂移動への警戒情報

2)監視・観測機器の緊急配備
設置する監視・観測機器は、渓流監視を目的とした土石流検知センサー及び監視カメラ、降灰状況の把握を目的とした降灰量計等の設置を基本とし、警戒区域による立入規制や通信電源環境、アクセス性などを考慮して配置する。

3)ハザードマップ等による被害想定
緊急ハード対策の検討や避難範囲の検討に使用するため、対象火山の噴火活動の状況に応じた被害想定を実施し、ハザードマップ等の情報を関係機関に提供する。主な被害想定方法を以下に示す。
 ①改正土砂法に基づく被害想定
 ②プレアナリシス型ハザードマップに基づく被害想定
 ③リアルタイムアナリシス型ハザードマップに基づく被害想定

6.4 火山噴火時の緊急調査
火山噴火時の緊急調査は、火山活動の状況によって異なり、各段階で実施すべき調査項目によって必要な調査を実施する。

7.平常時からの準備事項の検討
緊急時の対策を円滑に実施するため、平常時から必要な準備事項をとりまとめた。以下に主な準備事項を示す。

7.1 緊急時に必要となる諸手続き
【緊急ハード対策実施における主な手続き】
・緊急時の資機材調達・運搬に関する手続き
・緊急対策実施における工事契約に関する手続き内容の確認
・緊急対策実施箇所における関係法令等に関する手続き内容の確認
【緊急ソフト対策実施における主な手続き】
・監視機器等の資機材調達に関する手続き内容の確認
・緊急調査など災害協定に基づく支援要請等に関する手続き内容の確認
・監視、観測機器設置に関する関係法令に基づく手続き内容の確認

7.2 緊急対策に必要となる土地の調整
【緊急ハード対策】
・緊急時の具体的な土地使用の手続き内容
・緊急対策工事で発生する土捨場の確保など
【緊急ソフト対策】
・観測機器設置位置の具体的な土地使用の手続き内容
・公的機関が所有する敷地の利用に向けた調整

7.3 火山データベースの整備
緊急減災対策砂防計画の基礎資料及び緊急調査や緊急対策実施の基礎資料とするため、火山噴火履歴や公共施設、航空レーザ計測による地形データなど、緊急減災対策に関する各種の資料等を収集・整理した火山データベースを整備し、適宜、最新情報へ更新する。

7.4 関係機関との連携及び実施体制の確保
火山噴火に伴う現象は広域に影響を及ぼすことから、本計画の実行性を向上させるためには、平常時から町村をはじめ関係機関との連携を強化するとともに、緊急時の火山専門家等との連携・情報収集・提供、集約や共有を効率的に実施することが重要となる。そのため、各島の火山防災連絡会等を情報共有の場とし連携・共有の強化を図ることとした。

8.おわりに
今回、緊急減災対策砂防計画を策定した離島3火山においては、依然として活発な火山活動が継続している。特に、口永良部島では平成27 年以降も火砕流を噴出する噴火が確認されており、噴火警戒レベルもレベル2(令和元年7 月末現在)となっている。そのため、本計画に基づき緊急対策に着手することが急務となっている。
口永良部島では、本年度より緊急ハード対策の対象渓流である金ヶ迫川の砂防事業に着手することとしており、監視観測のための緊急ソフト対策についても合わせて実施する予定である。

謝辞
最後に、本県における離島3 火山の火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定にあたり、火山・砂防専門家として検討委員会において様々な技術的助言・指導などをいただいた、国立大学法人京都大学防災研究所火山活動研究センターのセンター長である井口正人教授をはじめ、国立大学法人鹿児島大学の小林哲夫名誉教授、農学部の地頭薗隆教授、並びに本業務をとりまとめていただいた日本工営株式会社の関係者各位に対しまして,深く感謝申し上げます。

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