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鋼製パイプアーチを用いた東大橋の耐震補強工事の施工について

国土交通省 北九州国道工事事務所
 副所長
佐々木 敏 裕

国土交通省 北九州国道工事事務所
 筑豊維持出張所 技術係長
髙 木 賢 史

1 施工概要
本工事は,福岡県田川市を通る一般国道201号線の東大橋における通行車両の大型化に伴う耐荷力の増強と振動特性向上を目的とする鋼製パイプアーチによる耐震補強工事である。
東大橋は,昭和42年に架設されたPC桁(単純桁)であるため,活荷重の大型化,交通量の増加,及び耐震設計方法の変更に伴う既設橋脚の地震時保有水平耐力確保のため,耐震補強工事が必要になった。
鋼製パイプアーチ構造は,既設上部工,既設橋脚の両者への負担が少なくでき,支間長の半減によるB活荷重への対応や落橋を防ぐ構造として有利な構造である。
また,鉱害復旧事業の先行盛土に対する重複作業を避ける事が可能で施工時期に制約を受けない工法である。

(1)施工区間(図ー1)
東大橋のA1橋台からP14橋脚(上り線)までであり,平成筑豊鉄道をはさんで2分割されている。A1橋台~P14橋脚間のうち,A1橋台~P6橋脚間(6径間)とP10橋脚(下り)からP14橋脚(上り)間(3径間)の合計9径間である。

(2)施工内容
本工事の現場施工内容は下記の4工種である。
① 鋼橋架設工
鋼橋パイプアーチの地組立,溶接,横取り,アーチ据付,フラットジャッキによる応力導入。
② 現場塗装工
鋼製パイプアーチの現場溶接を行う。
③ 架設設備工
鋼製パイプアーチの架設に要するアーチ据付,フラットジャッキによる応力導入,ベント設備,横取り装置,架設足場等の施工をおこなう。
④ パイプアーチ基礎工
コンクリート基礎工を施工する。

2 施工方法
本工法は,隣接する橋脚間の相互を鋼製パイプアーチ部材で連結し,アーチクラウン部に積層ゴム支承を配置して主桁中央部を支持する。
主構は平行する4本のパイプアーチで構成され,主構は横構で連結されている。アーチスプリンギング部は既設橋脚に架台を設け,コンクリートで巻立て既設橋脚と一体化する。
パイプアーチ部材の施工は橋梁の側面で地組し,横取り装置で所定の位置に横移動し,アーチクラウン部と主桁との圧着はアーチスプリンギング部とアーチクラウン部に設けられたフラットジャッキを用いて施工する。

3 施工順序
各施工段階・施工順序を以下に示す。
(1)アーチ部材の製作
アーチ部材を工場にて曲げ加工し組立。

(2)スプリンギングの一次施工
橋脚のアーチスプリギング取付架台の一次コンクリート施工。

(3)搬入・架台設置・組立
パイプアーチ部材を現地に搬入し,組立用架台と横取り装置を設置。
組立用架台上でパイプアーチを地組,横組みする。

(4)横取り
横取り装置上で,地組されたパイプアーチ部材をチルホールで横引きし,所定の位置にセットする。

(5)据付
アーチクラウン部に鉛直のフラットジャッキ,アーチスプリンギング部に水平のフラットジャッキを設置。水平ジャッキを作動し,アーチクランと既設桁を接触させる。
鉛直ジャッキにより,最終ジャッキアップ量を管理します。

(6)スプリギングの二次施工
二次コンクリートの施工により,アーチスプリギングと既設橋脚を一体化させる。

(7)完成
パイプアーチの架設サイクルは,仮設備,地組,溶接,調整,応力導入と平均7日サイクルで施工した。

4 管理について
鋼製パイプアーチによる既設橋梁の補強は,設置した鋼製パイプアーチの両スプリギング部の強制水平変位による応力導入,およびアーチクラウン部での上部構造主桁突き上げによる応力導入を行う事を特徴とする補強工法であり,設計で想定した応力状態とするための導入応力の管理が最も重要である。
施工に当たり,鋼製パイプアーチによる既設橋補強工事の施工方針・管理方針策定の為,試験施工を実施し,設計の妥当性及び管理手法を確認するため,同種工事である「遠賀高架橋」と本橋「東大橋」での試験施工での検証を踏まえた管理要領によって管理を行った。

5 管理手法
鋼製パイプアーチ部材の強制水平変位作業時および突き上げ作業時において,設計で想定した応力状態となっていることが重要である。
しかし,作業の度毎に応力状態を直接確認するには「ひずみゲージ」による計測が必要であり時間と経費がかかる。
そこで,管理要領に基づき,強制水平変位量と突上げ力を管理することとし,現場作業の効率化を図った。
なお,フラットジャッキ内に樹脂を注入し固定するが,フラットジャッキをなじませるためにに水を注入しこの段階で鋼製パイプアーチの挙動を確認する。また,フラットジャッキ圧力導入は段階的に圧力を導入しフラットジャッキや各部材の挙動を確認した。

6 管理内容
施工に当たり,下記の3項目について各作業時に管理を行った。
  ① 事前作業時
  ② 強制水平変位作業時
  ③ 突き上げ作業時

(1)事前作業時
管理項目:各主桁位置における主桁下面とアーチクラウン上面との離れ量(主桁下面と支承上面の離れ量)を管理項目とした。
管理方法:アーチクラウンの強制水平変位による設計鉛直変位量と橋面上の通行車両による主桁鉛直変位(2mm想定)と考慮して,離れ量を設定し管理した。

(2)強制水平変位作業時
管理項目:強制水平辺量と強制水平変位作業後における主桁下面とアーチクラウン上面との離れ量(主桁下面と支承上面の離れ量)を管理項目とした。強制水平変位作業におけるパイプアーチ部材に生じる応力やアーチクラウン部の変位量は,強制水平変位量が設計水平変位量であれば設計時の想定応力状態となることが実験により確認されている。よって本作業によりアーチ部材に生じる応力は強制水平変位量を管理することで管理した。
管理方法:フラットジャッキの圧力を導入し,いずれかの箇所において所定の変位量の達した後,各アーチスプリンギング毎に所定の変位量に達するようにフラットジャッキの圧力による調整を繰り返した。

(3)突き上げ作業時
管理項目:突き上げ力を管理項目とした。
管理方法:設計突き上げ力を目標値として,各フラットジャッキ直近の圧力メータにより管理した。圧力導入後から橋面上走行車両による変動で徐々に変化するので,初期導入時から約30分経過後に確認,調整を行った。

7 最後に
本工事に採用された鋼鉄鋼製パイプアーチによる既設橋梁の補強工事」は前例がなく,その施工に当たっては前述のように事前の既設橋の応力・振動測定や施工時のフラットジャッキによる応力導入時の各種測定の実施による設計手法の検証が行われた。同時に管理方法の検証・作成が行われた。また施工後に応力・振動測定等の各種実橋試験が実施された。
前例のない施工方法であったので,各施工段階の現場での細かい試行錯誤がかなりあったが,全体として比較的スムーズに施工が行えたと思われる。
施工後の現場を改めて眺めると,従来の補強工事の持つ無骨さとは異なった柔らかい桁下空間が新しく創造された思いがした。
この空間の利用方法が期待される。

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