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鉄道を跨ぐ徳益高架橋上部工の施工について
橋本和浩

キーワード:有明海沿岸道路、鋼橋上部工、送り出し架設

1.はじめに
有明海沿岸道路は、有明海沿岸地域の「陸海空の広域交通ネットワーク」を形成する自動車専用道路である。平成20 年3 月の初開通以降、現在までに福岡県内の約7 割にあたる19.3㎞が開通している。
本稿では、平成29 年9 月16 日の開通を目指して整備を進めている徳益IC ~柳川西IC 間の徳益高架橋(P36-P39)の上部工架設における施工上の工夫と安全対策について報告する。

2.工事概要
工事名: 福岡208 号 徳益高架橋上部工事(P36-P39)工事
発注者: 国土交通省九州地方整備局
受注者: 三井・名村特定建設工事共同企業体
工  期: 平成26 年9 月6 日~平成29 年1 月31 日
工事内容: 形式 鋼3 径間連続鋼床版箱桁橋
        橋長 312m(78m+130m+104m)
        幅員 10.15m
        鋼重 1,624t

3.送り出し設備
3.1 送り出しヤード・軌条設備
P36-P37 間の送り出しヤードを設置にするにあたり、重機の設置範囲にクリークがあり、移動制限が発生するため仮桟橋(写真- 1)を設置した。また上空には高圧送電線があるため、ブーム長の調整及び平面的な立ち入り禁止明示した。軌条設備は本橋は1BOX ではあるが、断面が大きいため4 条とし、軌条桁(H-900)の上に軌条レール(50㎏)を使用(写真- 2)。

3.2 推進設備
推進設備は, 後方台車に推進用ジャッキとして700KN 水平ジャッキ(ストローク1,700㎜)4台配置(写真- 3)。西鉄上の送り出し時は時間短縮のため8 台(500KN ストローク1,400㎜ -4台, ストローク1050㎜ -4 台) を配置して前後推進とした。また推進力の不足分を補うため、B2ベント及びB3 ベントに駆動式シンクロジャッキを配置した(写真- 4)。手延機到達前は後方台車の反力が抜けた時の浮き上がり防止として主桁下フランジにクランプジャッキを設置した。逸走防止対策はレールクランプジャッキと併用して前方台車前方にワイヤストランドを使用して逸走防止とした(写真- 5)。

3.3 手延機・連結構
本橋の主桁断面は桁高H=3.8m(幅3.9m)を有するため4 分割されたブロックを現地で組立1断面を構築する鋼床版箱桁であり、一般的な鋼床版箱桁橋と単位重量が異なるため、架設途中での断面が大きい。検討の結果、手延機使用枚数を3面とし、通常より大断面のものを採用し、手延機の長さは65m で対応. 連結構は2 段階(箱桁6分割+ 鈑桁仕様)とした(写真- 6)。また手延機先端には、送り出し時の先端たわみ処理用として鉛直ジャッキ(能力500KN ストローク1,050㎜)を取付、時間短縮を図った(写真- 7)。

4.送り出し架設
4.1 西鉄線上手前までの送り出し
P36-P37 間のヤードで主桁(6 分割。側床版含む)を組立し、P36 橋脚に向かって上り1% 勾配で送り出しを行った。西鉄線上手前までの送り出しは、6 回(手延機1 回, 主桁送り出し5 回)に分けて送り出しを行った。図- 4 にステップ図を示す。

4.2 西鉄線上送り出し準備
西鉄線上の送り出しは, き電停止内の作業時間(1:20 ~ 3:45)に送り出しする制約があった。時間内に完了させるために以下の対策を行い送り出しを行った。
 (1)水平ジャッキの盛替え時間を短縮する為前後推進
 (2)B2、B3 ベント上のエンドレス装置を駆動式に変更
 (3)方向調整のジャッキを手動から電動ポンプに変更
 (4)全ての添接部に乗越樹脂プレート(磁石付)取付(写真- 8)
 (5)各操作部ジャッキオペレータを1 名から2名へ増員

各ジャッキに連動動作を確認するため、当日昼前に西鉄担当職員立会いのもと試験引き(4.0m)を行い問題のないことを確認して、夜間に備えた。2 日前に起きた熊本地震の影響から施工するしないの判断を躊躇していたが、架設桁を片持ち状態で存置する方が危険であると判断し、予定どおりの施工となった。施工前(0:00)に最終打ち合わせを行い、スタート時間を少しでも早くし、なんらかのトラブルが発生しても、時間内に完了できる体制をとった。

4.3 西鉄線上送り出し架設
初日は作業開始を西鉄担当者に起電停止を確認し、1:10 に送り出しをスタートした。ジャッキの連動、作用反力も順調ではあったが、当初より懸念事項であった桁の方向調整(滑り装置上で50㎜ずれるごとに方向調整)に手間どり、前方方台車の開放が15 分遅れになった。本橋は直線桁ではあったが、一度ずれ始めるとどうしてもそちらに荷重が移行していくため、早ければ4mから5m ごとに方向調整を余儀なくされた。前方台車の開放にも手間どり残りの送り出し(約25.0m)も約65 分を残すのみとなった。後半の送り出しも方向調整に苦戦しながらの送り出しになったが、順調にいけば、予定時間内には完了できる予定だった、しかし最後の5m ほどのところで推進設備の不具合が発生。最終的には後方のみの推進設備で送り出しした為、盛替え時間も大幅に要した。熊本地震の余震も真っ最中であったため、不安定状態(手延機先端到達がしない)は絶対に避けるべく、西鉄担当職員との交渉を重ねて、営業線の送電開始リミットぎりぎりの送り出し完了となった。主桁本体の剛度が強かったため、今回手延機先端にたわみがほぼなかったのが幸いし、手延機先端到達イコール完了となった。
到達後も後日、3 回に分けて手延機を撤去しながら送り出しを電停止後(145 分内)に行い、西鉄線上送り出し架設を完了させた(写真-9)。西鉄線上送り出しステップを図- 5 に示す。

4.4 送り出し時の管理
送り出し時は集中管理室を設け、以下の項目をパソコンにて一元管理しながら施工した。
 (1)送り出し桁の平面位置・GPS受信機を桁上に設置して計測
 (2)送り出し量
    ・主桁後方をレーザー距離計で管理
 (3)送り装置の作用反力
    ・ジャッキ反力をLAN ケーブルにて送信
 (4)送り装置の作業状況
    ・各送り装置にWEB カメラを設置
 (5)送り出し設備の沈下量
    ・トータルステーションで自動追尾

5.主桁降下
5.1 降下装置選定
主桁降下も西鉄上を跨いだ施工になるため、時間制約(1:20 ~ 3:45)、及び施工日数の制約(線路上での作業は2 日間連続後は、その後2 日間施工できない)があるため、大ストーロクを有した降下装置(以降スーパーリフト)を採用した。通常サンドル降下との比較を表- 1 に示す。

・スーパーリフト能力
(1)B2・B3 ベント 各2 台計4 台
   1 段目定格出力:3,450KN ストローク:2,530㎜
   2 段目定格出力:2,460KN ストローク:2,630㎜
   3 段目定格出力:1,290KN ストローク:2,640㎜
                 合計ストローク:7,800㎜

(2)B4・B5 ベント 各2 台計4 台
   1 段目定格出力:3,450KN ストローク:1,740㎜
   2 段目定格出力:1,990KN ストローク:1,830㎜
   3 段目定格出力:1,080KN ストローク:1,830㎜
                 合計ストローク:5,400㎜

5.2 降下装置盛替え据付
降下装置の盛替え要領を図- 6 に示す。スーパーリフトの据付精度が厳しい(据付時の水平度0.1% 以内, 反力導入後は0.3%以内)のと、桁下空間が狭いため、作業は困難を極めたが、約10日にて全てのジャッキを盛変え据付完了した( 写真- 10)。

5.3 主桁降下
主桁降下量は2.4m のため、以下の工程で施工を行った。
 1 日目:夜間(1:20 ~ 3:45)主桁降下2,050㎜
 2 日目:昼間(8:00 ~ 17:00)主桁位置調整 夜間(1:20 ~ 3:45)主桁降下350㎜

当初の降下速度は100m/min で600㎜ずつ降下して、仮受サンドルを撤去する方法で計画したが、ジャッキ動作をその都度止めると反力の再整及び機械の故障につながり時間超過する恐れがあった。検討の結果ジャッキ動作を止めずにサンドルを撤去できる速度30㎜ /min にした。
桁の振れ止めとして、P37 橋脚上に橋軸方向、各ベント上は橋軸直角方向のラッシング設備を設けた。図- 7 に示す。

主桁降下の管理として、ジャッキのストローク・変位・反力)モニターにて一元管理した(写真-11)。主桁降下状況を写真- 12 に示す。

6.おわりに
本工事は西鉄線営業線上を跨ぐため、送り出し及び主桁降下作業は時間制限内(145 分)での施工が必須であった。詳細に設備及び施工条件の検討をして現場着手したつもりであったが、いざ現場へ乗り込むと狭隘なヤード条件に加え、障害物が多く点在した為、施工は困難を極めた。また西鉄線上送り出し2 日前に熊本地震、主桁降下1 ヶ月前には神戸落橋事故等があったため、追加の安全対策を検討(桁仮固定など)を重ね、作業員との入念な打ち合わせを行い、より慎重に作業を進めた。この結果、この厳しい制約条件の中で無事故・無災害で完了できた。
最後に執筆にあたり、貴重な資料や情報の提供を頂いた施工業者である三井造船鉄構エンジニアリング株式会社並びに株式会社名村造船所の工事関係者の皆様に感謝の意を表します。

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