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金城ダムの計画と施工について
(貯水池計画と周辺整備)

沖縄県南部土木事務所
ダム建設現場事務所主幹
真喜志  弘

1 まえがき
金城ダムは,二級河川安里川治水計画の一環として沖縄県那覇市金城町地先に建設中の治水ダムで,堤高19m,堤頂長120m,堤体積12.8万m3,総貯水容量51万m3の重力式コンクリートダムである。
本流域は県都那覇市を抱えており,出水期にはしばしば洪水による被害が発生している。水不足は毎年のように起っており,河川の正常な機能が著しく阻害されている。そのため当ダムは,洪水調節と既得用水の補給を行って流水の正常な機能の維持と増進をはかることを目的としている。
当ダムは,昭和52年度より予備調査を始め平成元年3月末に上部貯水池工事に着手し,現在当貯水池工事を鋭意進めている段階である。また,ダム本体および下部貯水池は,今後追って着手する予定である。
本報告は,金城ダム計画上の大きな特徴の一つである貯水池計画と歴史的地域であるための周辺整備計画について,施工の現況を取り入れながら概要を報告するものである。

2 金城ダムの概要
(1)ダムの諸元
ダムおよび貯水池の諸元を表ー1に示す。

(2)地形・地質の概要
当地点は図ー1に示すように那覇市の東部に位置し,標高75~130mにかけて広く発達した琉球石灰岩台地と基盤の泥岩を浸食して開いた緩い谷地形を呈している。

ダムサイトおよび貯水池周辺の地質は,新第三紀の島尻層群与那原層泥岩を主体とし,砂岩を挟有する軟質な地層で,これを不整合で覆う第四紀更新世の琉球石灰岩と完新世の現河床堆積物,崖錐堆積物から構成されている。
図ー2は,金城ダム周辺地質模式断面図を示す。

3 貯水池計画
当ダム貯水池計画は,現況の地形をそのまま利用して必要容量を確保することはほとんど不可能に近いため,現地形を掘削して必要容量を確保する事にした。また,貯水池掘削計画の確定には,周辺の地物,いわゆる右岸下流側の住宅,右岸側の市道,左岸の墓地群,貯水池中間にある文化財,上流側の公共事業所等があり,貯水池計画の制約となっていた。これらの制約条件を検討したところ下記のように取扱うこととした。
<右岸下流の住宅および市道>
 右岸下流の住宅に影響しない範囲でダム軸およびダム天端高を設定し,市道をこれに取り付ける。
<左岸の墓地群>
墓地群に影響させない。
<文化財>
現位置で保存する。
<上流の公共事業所用地>
事業所の事業遂行上許容できる範囲とする。
貯水池の外周の範囲は,前記の点に留意し確定した。
次にこの範囲内において島尻泥岩の地質上の特異性と市街地に近接しながら,沖縄県の代表的史跡である首里城跡に接し,貯水池計画の中央にある県指定文化財石畳と石橋が横断している事等に留意しながら掘削斜面の勾配および景観について検討を行った。
本ダムサイトおよび貯水池周辺の島尻泥岩について,もう少し触れてみると,乾燥密度1.5~1.7g/cm3,含水比21~31%,間隙比0.6~0.8,土研式針貫入強度0.55~0.65gkf/㎜,一軸圧縮強度10~30kgf/cm2,粘着力2.5~5gkf/cm2,内部摩擦角23°~35°のような特性を示し,ナイフ等で容易に削れるものである。
また,島尻泥岩はモンモリロナイトの含有量(26%程度)が多く鏡肌を伴う割れ目が比較的発達しており,乾湿の繰り返しを受けると劣化して著しく強度が低下する地質である。
島尻泥岩は,前述のような特性があるため,貯水池掘削計画に際し掘削斜面の勾配と斜面安定工法並びに施工方法選定上のことに特に留意する必要があった。
掘削斜面の断面勾配構成を列記すると,
1)崖錐堆積物や基盤岩強風化部で貯水位の影響のない区域は,長期的に植生が安定的に着床できるよう緩やかな勾配を選定し,1:1.7とする。
2)基盤岩の中風化ないし強風化部で洪水時に湛水される区域は,波浪により浸蝕されないような表面保護を行う必要があるが,このような保護工を長期的に保持できる程度の勾配とし1:1.4とする。
3)常時湛水される区域は,長大斜面の要となる部分であり,掘削に伴う応力解放や地下水位の低下により地山が劣化しないよう,および湛水面下での補修が困難であることを考慮し地中連続壁を設けることとした。
このような断面勾配で掘削し,貯水池計画の中央にある文化財の下流(下部貯水池)で不足する容量を文化財の上流(上部貯水池)で確保することとした。また,掘削斜面には施工時および長期的な安定を図る必要があるため,アンカー工を設けている。図ー3,図ー4,図ー5は貯水池容量配分図,貯水位一容量曲線図,上部貯水池断面図を示す。

次に貯水池中央部にある文化財について紹介すると,当文化財は,県指定有形文化財で石橋と取付道路からなっている。橋は,硫球石灰岩の切石によるアーチ橋で,橋面が3段の階段状となっていて,中央アーチ上部がわずかに高くなっている。大きさは,長さ13.18 m,巾5.20m,勾欄は他の石橋に見られるような彫刻等の華やかな意匠は無く,板状の切石を据えただけの簡素なものである。川床に張石を施して恒久的な管理に留意している点が特徴とされている。また,取付道路は首里城から王朝の別邸であり国指定名勝である識名園を結ぶ琉球王朝時代の道の一つで,路面を石灰岩の小石で敷きつめた巾約2.6mの石畳道である。傾斜地にあって,優美な弧線をもって勾配を調節し,斜めから橋に取り付けられている。
さらに,本ダム計画地の北側には,琉球王朝の象徴である首里城跡があり,現在,国営沖縄記念公園首里城地区として復元されつつある。また,首里城周辺には,国指定14件,県指定38件,市指定12件の歴史的資産と自然が豊かに残されている。

金城ダムは,このような背景の中に位置しているため,その建設にあたっては周辺環境と調和した整備を図る事が必要となってきている。
このため,本ダム周辺整備基本計画を策定するにあたり,学識経験者による検討委員会を設置し,自然・社会条件を踏まえ,種々な事例を参考にして御指導を頂きながら検討を進めてきた。
その骨子としては,現在整備が進められている首里城とそこから識名園まで至る『歴史の道』石畳道において重要な構成要素であるヒジ川橋,石畳道を保全するとともにこれを核としてダム周辺全体に『水』と『緑』と『石造』を展開することにより,周辺に整備されつつある琉球王朝の歴史的環境に調和したダム環境を創出し,沖縄の自然と歴史と文化を体験する場としての整備を行うこととしている。図ー6は,金城ダムと周辺文化財との位置模式図を示す。

4 施工の現況
金城ダムの上部貯水池工事は,平成元年3月末に着手し,その主な工種は,転流工,掘削工,法面工,地中連続壁工,連絡水路工等である。
当貯水池周辺においても,前述した島尻泥岩が基盤岩となっているため,岩盤の劣化を極力少なくするよう下記の点に留意して掘削している。
〔法面工部の掘削〕
◦法面に設ける小段盤を施工基盤にして数ブロックに分割して行い,法面保護工およびアンカー工と併進する。
◦掘削後アンカー工を設置していない断面ケ所は,その下盤の法面掘削を行わない。
〔地中連壁部の掘削〕
◦各段のアンカー工を掘削地盤面からじかに施工できるまで掘削したら,アンカー工を施工する。
◦当該段のアンカー工を設置してない断面ケ所では,その下盤の地中壁直前の掘削を行わない。
法面掘削標準施工フローは,図ー7のサイクルで作業を行っている。前述のとおり島尻泥岩は,露出時間が長くなると劣化がいちじるしくなる特性があるため,法面整形後ただちに法面保護シートをし適度の散水をしてモルタル吹付までの間泥岩の劣化防止に努めた。次にアンカー工の施工は,掘削でも述べたように法面の劣化を防止する観点から掘削後できる限り早めにアンカー工を施工するよう,斜面部では法面工を追いかけて行っている。アンカー施工フローを図ー8に示す。

当貯水池におけるアンカーとその施工方法の特徴は,島尻泥岩のせん断強さ(2.5~3.0kgf/cm2)が小さいため,アンカ一定着部先端を拡孔した形になっていることと,削孔によって発生するスライム泥水の排除のために孔内洗浄の方法を試験により比較したところ,通常ストレート孔で行われているエアーリフト外返し方式よりもストレーナー洗浄とエアー+水リフト内返し方式の方が拡孔孔においては,スライム排出効果がより高い事が判明したため,当方式を採用し,拡孔型アンカーの施工を行っている。図ー9は拡孔内洗浄の模式図を示す。

当貯水池工は,地質上の特性により法面部がほとんど4m格子の法枠で覆われた長大斜面となるため,このままの状態では,緑の喪失となり,周辺の自然景観を著しく損なうものとなる。このため法面部に客土し植栽することにより,コンクリート法枠を可能な限り緑で覆い景観をよくする工夫が必要である。
法面の植栽による修景方法は,コンクリート法枠山側に土留壁をし,客土を厚くとることにより高中木程度の植栽を行い,ダム周辺の豊かな緑と調和する修景を行う。図ー10は法面修景断面を示す。樹種については,在来種を基調とし,その選定は現在検討中である。写真一4は,試験施工したものである。

また,貯水池をとりまく管理用通路,法面小段等も中央の歴史的道路であるヒジ川橋および石畳道と調和しながら修景し,県民がダム周辺を憩いの場として有効に利用できるよう細部について検討中である。

5 あとがき
金城ダムは,島尻泥岩という特異な地質を基盤岩としているため,設計.施工の面で幾多の難しい問題があり,その対策について種々検討がなされ,平成元年3月末に上部貯水池の着手となったが,平成2年度末までに法面部が概成し,現在地中連続壁部の施工に移っている。また文化財『石畳道』の下を横断する連絡水路もこれからでありダム周辺の整備と併進させながら今後も施工管理に十分注意し,早期に完成させたいと考えている。

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