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都市計画道路浦上川線の整備効果と
浦上川線北伸区間の必要性について
池田寛章

キーワード:都市計画道路、地域高規格道路、整備効果

1.浦上川線について
1.1 浦上川線の概要
長崎市は「鶴の港」と呼ばれる長崎港を中心としたすり鉢状の地形を有し、そこに市街地が広がる斜面都市である。人口約44万人を有し、県人口の約3分の1が集中している。自動車交通は、そのすり鉢状の地形の底地を南北に走る国道202号、206号(以下、国道という)に集中しており、慢性的な渋滞を引き起こしていた。
都市計画道路浦上川線(以下、浦上川線という)は、交通渋滞の緩和を目的として、昭和50年に都市計画決定し、また、平成6年には地域間の交流促進、連携強化を担う地域高規格道路長崎幹線道路の一部としても位置づけられた。浦上川線の延長は、長崎市松山町から元船町までの約3,250mで、平成22年11月21日に全区間の供用を開始した。

2.浦上川線の整備効果
2.1 並行路線の交通量の減少、渋滞の緩和
開通後、浦上川線の交通量は2.3 万台/ 日となった。これに伴い、浦上川線に並行する国道の交通量が約19%、並行する市道稲佐町若草町線(以下、並行市道という)の交通量が約17%減少した(図-3参照)。また、アンケートの結果、国道では朝の通勤時間帯の渋滞が緩和され、国道が走りやすくなったとの県民の声が多く寄せられている。

2.2 所要時間の短縮
前述のとおり交通量の減少により、ピーク時所要時間が短縮された。国道においては松山町交差点から大波止交差点まで約15分を要していたが、浦上川線を利用することで所要時間が約9分となり、約6分の短縮効果があった。あわせて並行市道においても約7分の短縮効果があった。

2.3 利便性の向上
浦上川線を利用する各事業者へもアンケート調査を実施した。主な回答を表-1に示す。
長崎市中央消防署より、救急搬送の向上が県民の安全・安心向上に寄与しているとの声が寄せられた。路線バス事業者からはバス運行の定時性が向上したこと、物流業者からは配送時間の正確性の向上に効果があったとの声が寄せられている。

一般ドライバーからは、浦上川線の整備により目的地への到達時間が短縮されたという回答が多く寄せられ、県民の皆様にも整備効果を実感していただけている。
さらにタクシー事業者からは、観光時間が増やせたという回答が寄せられており、観光面への波及効果も確認できた。長崎県では「明治日本の産業革命遺産」が平成27年7月に世界文化遺産に登録され、さらには「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」も平成28年度の世界文化遺産登録を目指していることから、観光面での浦上川線の活用は益々その価値が高まるものと期待している。

3.浦上川線の供用後における課題
3.1 浦上川線の開通に伴う道路混雑
浦上川線の開通に伴い、道路混雑等が発生していると感じる交差点についてアンケート調査を実施した。結果として、下の川橋交差点で混雑が発生しているという回答が39%に上り、他と比べ突出した回答であった。下の川橋交差点は浦上川線と国道が接続する箇所である。開通後、浦上川線から当該交差点へ流入する交通量が約1.6倍に増加したことが混雑の要因と考えられる。
時間短縮効果を期待される浦上川線であるが、混雑が発生している状態では、その機能を十分発揮しているとは言いがたい。従って、下の川橋交差点を含む道路混雑を解消し、地域高規格道路として移動時間の短縮と定時性の向上を図ることが今後の課題と言える。

4.浦上川線北伸区間の必要性に対する考察
4.1 浦上川線北伸区間の概要
浦上川線北伸区間は、浦上川線と西彼杵道路を接続する道路として計画されており、浦上川線と同じく長崎南北幹線道路の一部である(図-5参照)。

4.2 ネットワークの接続
県北地域に位置する佐世保市は長崎県内第二位の人口を有する都市である。県では長崎市・佐世保市1時間圏の実現を目標としており、地域高規格道路の長崎南北幹線道路と西彼杵道路のネットワークがその役割を担う計画である。
図-5において長崎市側の整備に着目すると、長崎南北幹線道路においては浦上川線の整備が終わり、西彼杵道路では時津工区等が事業に着手している。その両者を接続する浦上川線北伸区間は現時点で未着手であることから、このままでは浦上川線と時津工区がネットワークとしてミッシングリンクとなってしまう。地域高規格道路として本来の機能を発現させるため、1日も早い浦上川線北伸区間の事業着手が必要である。

4.3 浦上川線北伸区間と並行する道路における渋滞の緩和
長崎県内の一般道路における「地域の主要渋滞個所」として、国土交通省より135箇所が公表されている。その内、浦上川線北伸区間と並行する国道に18箇所が存在し、長崎県内の約13%を占めている。
この区間の国道は、長崎市中心部とそのベッドタウンである長与町、時津町を結節する側面がある。あわせて県北地域へのアクセスとしても利用されることから、通過交通が多く混在している。
浦上川線北伸区間が整備されれば、長崎市内から北部方面へ通過する交通とそれ以外が分離され、結果として国道の交通混雑緩和が期待される。

4.4 並行路線における事故の発生件数
長崎県警察より「長崎県の交通事故多発交差点(平成25年)」が公表されている。上位30交差点のうち、浦上川線北伸区間と並行する区間だけで9交差点が挙がっており、事故発生は合計で64件にも上る(表ー2参照)。
浦上川線北伸区間は地域高規格道路であり、交差点の数は国道と比較して大幅に減少する計画である。国道から浦上川線北伸区間へ交通を誘導し交通量を減少させることで、国道の交通事故抑制の効果が期待される。

4.5 地域間の連携による効果
地域高規格道路のネットワークの完成により県内の移動時間の短縮と定時性の向上が期待され、特に救急医療における効果が期待される。
緊急車両が通る南北方向の幹線道路は国道以外の選択肢がほとんどなく、万が一国道が通行止めとなるような事故が発生した場合、浦上川線北伸区間が代替ルートとして期待できる。同じように大災害発生時に、避難経路としての国道が被災すれば交通マヒに陥る危険性がある。リダンダンシーの確保のため、浦上川線北伸区間の整備を行い、複数の避難経路を確保することは防災の面でも重要な意義があると考える。
また、平成28 年度に世界文化遺産登録を目指している「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の構成資産が県下各地にあり、浦上川線北伸区間を含む長崎南北幹線道路と西彼杵道路の利用でこれらの観光がスムーズに行えると期待される。あわせて、九州新幹線西九州ルートと連携し、より短い移動時間で観光できることは、来訪者への満足に繋がるものと期待している。

4.6 北伸区間整備の課題
浦上川線北伸区間は市街地を通過することから、周辺環境への影響を最小限にすることが課題である。また、他の地域高規格道路と同じく、橋梁やトンネルなどの大規模構造物が必要となることや、市街地内を通過するために支障物件が多くなることが想定され、最適なルートで整備を行うことが重要な課題である。

4.7 まとめ
浦上川線の整備により様々な効果がもたらされたが、長崎南北幹線道路のうち一部のみの完成ということで、その効果が全て発揮されているとは言い難い。浦上川線に続き、浦上川線北伸区間の整備を行うことで、さらなる効果を発現させることができると考えられることから、一日も早い事業着手に向け一層尽力していきたい。

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