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遠賀川特定構造物改築事業(中間堰)の完成報告

国土交通省 九州地方整備局
遠賀川河川事務所 工務課長
藤 岡 慎 介

キーワード:特定構造物改築事業、大臣特認、完成式典

1.はじめに
福岡県北部に位置する遠賀川流域では、平成11 年6 月、平成13 年6 月、平成15 年7 月、平成21 年7 月の豪雨で中・上流域にて大きな水害が発生した。
このため、床上浸水対策特別緊急事業等により改修を進めてきたが、更なる治水安全度の向上を目指すためには、川幅が狭く流下能力上の阻害箇所であり、昭和4 年に建設され老朽化が進む新日鐵用水堰(以下、中間堰という)の改築が必要と判断された。抜本的な対策として堰の改築とあわせて上下流の川底や両岸の掘削を行う特定構造物改築事業として平成21 年度に事業着手した。
事業着手後、様々な課題があったが、10 年の月日を経てこれまで約90 年間活躍した堰の撤去がこの度終わったことから、平成31 年3 月をもって事業が完了した。
本事業の工事概要については、No.63 号の九州技報(2018.9)で概要及び現状報告をしているところであるが、本稿では前回報告内容も含め完成した状況を報告する。

2.特定構造物改築事業の概要と課題
(1)事業の概要と解決すべき課題
本事業としての主な工事内容は、以下の3 つであった。
・工事期間中も取水利用を確保するため、約100m 上流に新たに堰を新築
・河川整備目標にあわせた河床・河岸の掘削
・従前の堰の撤去

事業を実施するにあたり、建設コストの課題や維持管理面などの懸念があったが、他に例が無い工夫や取り組みを実施し課題を解決してきた。大きな課題は以下の3 点である。
1)設置位置の特性からの課題
・コスト・維持管理の懸念
・土砂堆積によるゲート操作の懸念
2)施工中に発生した不測な事態への対応
3)世界文化遺産との調和に配慮

3.課題への対応状況
(1)設置位置の特性を踏まえた設計
中間堰下流は、遠賀川河口堰の湛水区間に位置するため、下流側が常時湛水する特性がある。更に、川幅が139m の大規模なゲート構造となることから、日常点検及び緊急時の対応が可能な構造とすることが課題であった。

1)維持管理が可能でかつ確実な操作・従前の設計と同等の機能を有する構造にできるか
■第一ステップ
河川管理施設等構造令(以下、構造令という)に基づき設計した場合、当該施設ではゲート1門が36m の4 径間となる。堰の上下流は湛水域のためゲートや油圧シリンダの取り替えなどメンテナンスの際は大規模なクレーンが必要となるため、高水敷に大型クレーンを据えて対応することとなるが交換位置までの距離や重量を想定すると現実的には困難な状況であることが想像された。
このため、ゲートに関しては基本的に交換が不要となるよう部材をステンレス製とすることで回避したが、油圧シリンダの交換は避けられない。
この課題に対しては、シリンダ交換を念頭において当初の構造設計の段階で、ゲートに近接した位置での仮設管理橋設置を可能な状態とすることで対応することとした。また、日常点検については、堰構造下部に監査廊を設置し、横断的な点検を可能とした。
しかし、高さ3.6m の起伏ゲートを動作するには12t を超える大きな油圧シリンダを設置する必要があり、建設コストや維持管理を考えると、できる限り規模を縮小することが重要となった。

■第二ステップ
いかにゲートや油圧シリンダの規模を縮小するかを検討した結果、径間長を短くすることでゲート及び動力の油圧シリンダの規模を小さくすることが考えられた。
しかし、径間長を短くすることで洪水時の流木等の捕捉が懸念されたことから模型実験を実施した。
流木等の捕捉を極力抑え、洪水流を安全に流下させる構造とするために、堰柱の前面(上流側)を傾斜化することで、流木の捕捉を低減させる構造とした。

模型実験による検証結果を経て、これにより、経間長を緩和して堰柱を特殊構造(傾斜化)とすることにより構造令の規定に基づくものと同等以上の効力があることが確認できた。

■最終ステップ
模型実験での検証結果を踏まえ、施設可動部の径間長を緩和することについては、構造令第73 条第4 号「大臣特認制度」を活用し決定した。
以上のとおり、洪水時の安全な流下操作はもちろんのこと、大規模な起伏ゲートを日常及び緊急時におけるメンテナンスが迅速に可能な構造とすることができた。

2)堰下流の土砂堆積を考慮しゲート操作を確実に可能な構造にできるか
堰下流側は下流河口堰の湛水域であるため、ゲート下流側の土砂堆積が懸念されており、起伏ゲートが確実に動作可能となる構造とすることが重要であった。

土砂堆積に対する対策方法としては、主に3案あげられた。
 1.浚渫船、仮締め切りによる土砂撤去
 2.ブロワ、ポンプ等による圧送強制排砂
 3.ゲート越流水を利用した排砂
1 及び2 の方法では、初期及び維持管理費用の増大などの観点で課題があった。
本堰では、コスト・メンテナンス性の観点から、構造に工夫を施すことにより流下水の力を活用した排砂(掃流)を行う対策を検討した。工夫した構造は、「ゲートに背面板の設置」「ゲート敷部のスロープ化」である。
模型実験を行い、起伏ゲートの完全倒伏・起立操作が確保できるとともに、課題であったゲート下流の土砂堆積を抑制することが可能であることが確認できた。

(2)施工中に発生した不測事態への対応
堰本体の工事を平成22 年より着手し、右岸側より施工していたところ、平成24 年11 月末に、堰本体部の不同沈下が確認されるという、不測事態が発生した。
このため急遽、沈下要因の分析・検討や沈下要因を踏まえた対策工の検討が必要となり、工事の一部を一時的に中断したうえで、学識者等で構成する「中間堰技術検討委員会(以下、検討委員会という)」を平成25 年1 月に設置した。
検討委員会は、中間報告会を含め合計4 回の議論・検討を経て、平成27 年1 月に検討会としての見解をとりまとめて頂いた。

1)沈下要因の分析
地質調査や試験により、支持岩盤の地質構成が複雑で、地盤強度特性、変形特性が大きくばらつくなど、支持層岩盤の地盤特性が一様ではないことなどが要因と考えられた。

2)対策の実施
検討委員会での対策工検討を踏まえ、平成26年2 月~ 4 月支持層岩盤までの「増し杭」による対策工を実施した。
対策工を実施後、モニタリングを行っているが、その後の不同沈下は確認されていない。

(3)世界文化遺産との調和に配慮
中間堰から取水された水の行き先は遠賀川水源地ポンプ室であり、水源地ポンプ室は平成27 年7 月に世界文化遺産に登録された施設である。
その水源地ポンプ室に隣接して、中間堰の操作室や予備ゲート庫などを設置する必要があり、景観に配慮する必要があった。
歴史的な資産との調和にも配慮した景観づくりを目指すため、九州工業大学と共同で中間堰操作室・上屋の景観検討を実施した。
特徴としては、水源地ポンプ室の外壁はイギリス積みと呼ばれるレンガで構成されている。
イギリス積みとは、レンガを長手方向だけで積む段と小口の方向だけで積む段を一段おきに積む方式である。
このように景観上特徴的な構成であるため、操作室のデザインとしてはそのレンガ積みの比率を参考にして、窓や出入り口の幅などを決定し世界文化遺産との調和のとれた施設設計を行った。

4.完成状況
度重なる災害を受けていた遠賀川では、懸案となっていた中間堰の改築は地域の悲願であった。大規模な堰の改築であり前述のとおり様々な課題もあったが、地元の皆様をはじめ、学識者・建設業関係者等のご協力により、10 年の月日を経て平成31 年3 月事業が完了した。

5.完成式典
令和元年5 月25 日、中間堰右岸の高水敷きにおいて「遠賀川水系遠賀川中間堰完成式典」を執り行った。
完成式は、国土交通省九州地方整備局・遠賀川改修期成同盟会・日本製鉄(株)の主催とし、国会議員、流域首長、地元関係者に出席していただきアトラクション協力(高校生・保育園児)など含め総勢約200 名の参加をいただいた。
九州地方整備局長の式辞、来賓の方々から祝辞をいただいた後に、事業者を代表して水管理・国土保全局治水課長、地元を代表して中間市長より挨拶、最後に遠賀川改修期成同盟会会長の直方市長より感謝の言葉をいただいた。
その後、完成を祈念し、将来を担う地元中間市の保育園児たちがそれぞれの夢や希望描いた風船をくす玉開披とともにとばした。数多くの風船はまっ青な大空へ羽ばたき、参加者の笑顔のなか完成式典は終了した。

6.おわりに
昨年の平成30 年7 月豪雨には、5つの観測所で洪水を安全に流すことができる水位である計画高水位を超え、10 の観測所において観測史上最高水位を記録した。
このようなことからも、現在河道掘削を緊急的に実施しており、中間堰の完成とあわせて更に河道掘削を促進させることで、河川水位の低減効果を発揮させ、流域の治水安全度の向上を目指している。

更に、平成31 年3 月には中間堰周辺の遠賀川中間地区かわまちづくり計画が登録され、遠賀川とまちを繋ぐことにより、遠賀川の魅力を感じられる空間づくりにもこれから本格的に取り組んでいくところである。
遠賀川河川事務所としましては、引き続き「居心地のいい安らぎと愛着のある遠賀川」を目指していく方針である。
最後に改めて、この大規模かつ難しい事業を実施するにあたり、様々な視点からの設計や施工・配慮を駆使し、遠賀川の長年の懸案であった大規模改築事業が完了を迎えることができた。
これも、地元の皆様をはじめ、学識者・建設業関係者の皆様等の多大なるご理解とご協力の賜であり、この紙面をお借りして感謝申し上げる。

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