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遠賀川流域リーダーサミット開催
~より美しい遠賀川を次世代へ、初の宣言文~
河崎信子

キーワード:河川環境、流域宣言、官民連携

1.はじめに

平成24年1月22日(日)、福岡県飯塚市で開催された「第3回 I LOVE遠賀川流域リーダーサミット(以下、流域リーダーサミットと略す。)」において、遠賀川流域の全22 市町村長、福岡県知事、遠賀川河川事務所長が壇上に揃い、“水源の山々から海までつながり響きあう生命いのちを育てる”などとした3ヵ条の「遠賀川流域宣言」を行いました(写真1)。
流域の全首長たちが初めて一堂に会し、清流復活へ向けての連携を宣言したことは、長い歴史をもつ遠賀川にとって、新たなページを刻む大きな一歩となりました。
本文は、長く遠賀川の水環境に携り、宣言文のとりまとめに係わった筆者が、遠賀川流域宣言へ至った背景を踏まえて、その模様をご報告するものです。


2.遠賀川の水環境

福岡県嘉麻市馬見山に源を発し、福岡県のほぼ
中央を北に向かって流れる遠賀川は、響灘に注ぐ幹線流路延長61㎞、流域面積1,026㎢の一級河川です(図1)。その流域は古くから大陸文化が根を下ろし、明治以後の日本の近代化を支えた石炭産業など、古くから人々の生活・文化と深い結びつきがあります。

一時期、石炭産業の洗炭排水により「黒い川」の時期もありましたが、近年では濁りも解消して生態系も回復し、身近な自然として沿川住民が安らぎ集う水辺空間となっています。また遠賀川の水は水道水として、流域内のみならず、北九州市、福岡都市圏へも供給されており、まさに生命の川となっています。
しかし、流域内の高い人口密度や生活排水対策の遅れ等から、毎年発表される九州の一級河川の水質ランキングでは常にワースト上位を占めており、河川への投棄ゴミの多さも相まって、遠賀川の水環境改善は、流域住民の強い願いとなっています。


3.流域リーダーサミットのはじまり

遠賀川流域には、河川に係わる約80の住民団体があり、河川美化など様々な活動が行われています。さらに各団体間のネットワークも進んでおり、流域全体を視野に入れた広域的な活動も盛んです。
一方、行政では国や県、流域自治体など関係機関からなる遠賀川水系水質汚濁防止連絡協議会(以下、水濁協と略す。)が昭和51 年から組織され、水環境改善への取り組みがなされていますが、各々自治体の水環境改善への意識や取組状況はかなりバラツキがあります。
そこで、遠賀川の水環境問題の解決には、流域自治体間の連携、住民との協働が必要との考えから、NPO法人遠賀川流域住民の会(窪山邦彦理事長)と国土交通省遠賀川河川事務所が主催となって、平成20年1月、住民団体の活動発表や流域の首長たちによるパネルディスカッションを主とする流域リーダーサミットが初めて開催されました。


4.流域リーダーサミットの経過とその成果

平成20 年1月、北九州市で開催された第1回流域リーダーサミットでは、大雨時に下流へ大量に流出する河川のゴミ問題について活発に議論されました(写真2)。

この議論を踏まえて、翌年度より水濁協を中心に流域自治体、住民が協働して「春の遠賀川一斉清掃」の実施が始まりました。初回の一斉清掃に約1万5千人が参加、約55tのゴミが回収され、以後毎年、梅雨時期前に実施されています。
2年後の平成22年1月、直方市で第2回流域リーダーサミットが開催され、水質やゴミ問題の解決には、流域自治体連携強化の為に共通の取り決めが必要ではないかという提言がなされました。これを受けて、水濁協を中心に議論を重ね、共通の取り決めとして「遠賀川流域宣言」を行うこととなり、約1年をかけて“遠賀川は流域22市町村の共有財産であることを認識し、より美しい川として次の世代へ引き継ぐ”をコンセプトとする宣言文案をとりまとめました。


5.第3回流域リーダーサミット開催

そして、今年1月22日の日曜日、今にも雪が落ちてきそうな肌寒い日でしたが、会場となったイイヅカコスモスコモン中ホールは立ち見も出るほどの500人を超える熱心な参加者で一杯となりました(写真3)。

第1部の流域住民団体の活動発表では、住民団体の4グループが「河川敷の葦を刈り堆肥にして、米や菜作りに活用する取り組み(嘉穂水辺の楽校周辺の環境を守る会 安部和義氏)」、「源流の竹林を整備し竹炭を作り、河川浄化に活用する取り組み(福岡県立嘉穂総合高校 大隈城山校)」、「堀川に五平太舟を浮かべ、堀川の再生に取り組む活動(堀川再生の会・五平太 中村恭子氏)」、「アカウミガメの保存活動の取り組み(岡垣ウミガメ倶楽部 濱田 孝氏)」など、源流の山から海までの日頃の活動状況を発表し、その熱心な取り組みに会場から大きな拍手がわきました(写真4)。

第2部の流域リーダーによるパネルディスカッションでは、I LOVE遠賀川実行委員長である曽根靖史コーディネーターのもと、北九州市、飯塚市、嘉麻市、芦屋町、小竹町、大任町の6首長たちと国、県の河川管理者がパネラーとして参加し、河川との関わりや取組みなどについて各々説明した後、遠賀川の自然再生にむけて、 子ども達の環境教育の必要性や活動団体への財政支援検討などについて意見を述べ合いました(写真5)。

第3部の遠賀川流域宣言では、流域の22 市町村長、小川県知事、遠賀川河川事務所長が揃って壇上に上がり、“ 母なる遠賀川をより美しい川として次世代へ引き継ぐ” とした「遠賀川流域宣言」を赤池中学校の生徒たちが力強く読み上げた後(写真6)、連携に向けて固く手を繋ぎ合わせました。

あいさつに立った小川福岡県知事は「貴重な共有財産である遠賀川を次世代へしっかり伝えてゆけるよう行政や民間が一体となって努力してゆこう。」と呼びかけました(写真7)


6.おわりに

筆者は、遠賀川流域で生まれ育ち、昭和初期か
ら始まった「黒い川」を知る最後の世代です。昭和50年代に入って川の水が澄んできた頃には、既に高度成長期の生活排水等に汚れた川になっており、筆者を含め流域の人々は長きにわたって、「清流、遠賀川」を知りません。
しかし、その後の行政や住民などの様々な努力により、現在ではアユも遡上するほど遠賀川の水質も改善し、多くの人たちが水辺に集い、楽しめるような川になりました。
今後、さらに遠賀川の水環境が改善し、子供たちが川の中で遊び、泳げるような川になったら、どんなに素敵で素晴らしいことでしょう。
“礼節”という美しい日本語があります。
この遠賀川流域宣言を契機として、“ 深い感謝の心をもって、遠賀川に礼をつくす” ことを心し、実行に移せば、おのずと「清流、遠賀川」が実現し、郷土の誇れる川になるのでないかと大いなる希望を抱いています。
技術士(総合技術監理部門、建設部門)筑豊地域研究会会員


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