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道路橋(RC橋)の劣化度調査

建設省宮崎工事事務所
 工務第二課長
佐 保 信 幸

建設省宮崎工事事務所
 建設監督官
北 原  毅

建設省宮崎工事事務所
 工務第二課
諏訪薗 和 彦

1 はじめに
近年における車両の大型化,交通量の増大などが道路橋に与える影響は著しく,劣化損傷が次第に顕在化しつつある。このような状況下で,既設コンクリート橋の供用に対する健全度評価の重要性が認識され,劣化・損傷とその原因ならびにそれらに起因する橋梁諸機能への影響に関するデータは収集されてきてはいるが,健全度評価のための判断基準は確立された段階には至っていないのが現状である。
本報告は,コンクリート橋の健全度の評価システムを作成するための基礎資料を得ることを目的として実施した,橋齢53年の「鵜の木橋」の材齢的劣化度調査試験,静的載荷試験および動的試験から得られた結果を取りまとめたものである。

2 「鵜の木橋」の概要
調査対象の「鵜の木橋」は,昭和13年1月竣工(橋齢53年)の主桁3本を有する8径間鉄筋コンクリートゲルバーT桁橋であり,本橋の概要は図ー1・図ー2および表ー1に示すとおりである。

3 ひびわれ調査
図ー3および図ー4に,目視観察によって得られた第3径間(P~Pの主桁並びに床版のひびわれ発生状況を示す。3本の主桁のひびわれ発生状況にはほとんど相違はなく,曲げひびわれがほとんどである。また,部分的に引張鉄筋に沿ったひびわれも生じている。ひびわれ間隔は密な部分で20~30cmであり,ひびわれ幅の大部分は0.20mm~0.25mmで,局部的に最大幅0.40 mmが生じていた。
床版には,主鉄筋および配力鉄筋方向の2方向に格子状にひびわれが生じている。ひびわれ幅は平均0.20mm,最大0.40mmでひびわれ間隔は平均的には30cm程度である。主桁と横桁で区切られた各パネルのひびわれ密度は4.5~7.5m/m2である。
ひびわれ状況に基づく本橋の損傷度を文献1)のランクで評価すると,主桁・床版ともに「ランク3~4」に相当すると判断できる。

4 材料試験
本橋が河口から約200mの感潮領域に位置していることや,主鉄筋に沿ったひびわれも認められたことから,コンクリートの中性化ならびに塩害が予測されたので強度や弾性係数の測定に加えて,コンクリートの中性化試験や含有塩分量の分析ならびに配合推定試験等を行った。
① コンクリートコアの圧縮試験から得られた圧縮強度は平均203kgf/cm2,弾性係数(E1/3)は平均2.16×105kgf/cm2であり,複合法2)からの推定圧縮強度は平均225 kgf/cm2であった。圧縮強度に対応する弾性係数を土木学会のコンクリート標準示方書3)に規定された値(2.3×105kgf/cm2)と比較すればやや小さめではあるが,通常の値であると考えられる。
② 主鉄筋(10φ32)の引張試験からは,それぞれ平均で弾性係数Es=1.99×106 kgf/cm2,降伏強度は2.552 kgf/cm2の値が得られた。よって,主鉄筋はSR24に相当する材質を有しているものと判断できる。
③ 中性化試験の結果,中性化深さは平均的には2.2 cmであったが,最大5.6cmに達する断面もあり,主鉄筋のかぶりが5cmであることを考えると,局部的には主鉄筋位置まで中性化が進行していることになる。
④ コンクリート中の塩分量の分析は,主鉄筋のかぶりコンクリートをはつりとった試料を用いて行った。分析の結果,全塩分量は平均0.335%とかなり高い値であった。このような過大な塩分量によって,スターラップには部分的にかなりの腐食が進行し,断面が半減しているものも見受けられたが,主鉄筋には錆による断面欠損はさほど認められなかった。
⑤ コンクリートの配合推定試験からは,単位セメント量252kg/m3,単位骨材量1,893kg/m3,単位水量163 kg/m3という通常の配合推定結果が得られた。

5 静的載荷試験
第3径間を測定区間とし,試験車を用いて高欄有りと高欄無しの2つの場合について試験を行った。試験車は高欄有りでは,A1車(前輪:6.31tf,後輪:14.34tf)とA2車(前輪:4.27tf,後輪:15.62tf)の2台を使用し,片側偏載荷にはA1車を用いた。高欄無しでは,B1車(前輪:6.36tf,後輪:13.26tf)とB2車(前輪:7.26tf,後輪:19.56tf)の2台を使用し,片側偏載荷にはB1車を用い,中央単載荷にはB2車を用いた。図ー5は3主桁の径間中央点のたわみを示したものである。なお,高欄無しでは並列載荷は危険なため行わなかった。

① 高欄有りの場合のたわみについてみると,上・下流偏載荷になるたわみはほぼ対称となっておりこれらを合成した値と中央並列載荷の場合を比較すれば,よく一致している。また,並列載荷における各主桁のたわみはほぼ同一となっていることから,荷重は各桁にほぼ均等に分配されていると思われる。
② 高欄無しの場合でも,偏載荷によるたわみは対称となっており,この場合でも荷重分配は均等であると思われ,2つの偏載荷の合成値は中央並列載荷の結果とみなせる。そこで,高欄無しの合成値と高欄有りとの比較により,高欄無しの剛性は,高欄有りの70%程度になっていることがわかる。

6 起振機による振動試験
起振機による鉛直振動試験を行い,図ー1に示す測点での加速度や既存の曲げひびわれの開きを測定した。3次固有振動数までの共振曲線を図一6に示す。図ー6の(a)(b)は高欄無しと高欄有りの場合の結果である。

加振力P=250f2(kgf,f:加振周波数)のカウンターウェイトを用いた場合の結果を図ー6は示している。両図より表ー2に示すような固有振動数が得られた。同表中の(2),(4)の解析解は後述するように,静的載荷試験とコンクリートコアの圧縮試験により本橋の剛性低下を推定し,これを用いて得られたものであり解析解は実測値(1),(3)とよく一致している。

高欄の有無の固有振動数を比較すると,高欄撤去により15%程度の振動数の低下となっている。この低下は,高欄撤去による前述の剛正低下70%に対応するものである。なお,剛性が低下すれば減衰定数hは増大するが、本実験でも高欄有でh=2.5%,高欄無しでh=5.0%が得られており,高欄の与える影響は大きいものとなっている。
また,第3径間中央部の主桁底部の既存曲げひびわれ幅の開きは,1次固有振動時で最大0.06mm程度であった。

7 剛性の評価
静的載荷試験の結果に示されるように,本橋の各主桁間の荷重分配はほぼ均等となっているので,本橋の剛性の解明には3主桁を一体化した単一はりモデルが使用できるものと思われる。よって,橋全体を64分割(各径間を8分割)した棒要素によるマトリックス解析を行った。

図ー7(a)は,静的試験における第3径間の中央単載荷(高欄無し)による橋軸方向のたわみを示したものである。中央点の実測のたわみは,3.83mm(○印)であり,解析解(実線)は3.48mmである。解析に際しては,はりの幅および高さが変化する変断面とし,かつ全断面を有効とした。コンクリートの弾性係数はコアの圧縮試験から得られた2.16×105kgf/cm2の値を使用した。主桁にはひびわれが発生していることから,各要素の剛性を低下させなければならないが,同低下が10%の時に解析解(点線)と実測値が一致した。この時固有振動数も表ー2の(3),(4)にみられるように,解析解と実測値がよく一致していることから,剛性が10%低下しているという評価が妥当であろう。
次に,高欄無しでは前述のように本橋の剛性は70%に低下するので,高欄への寄与率は30%とみなすことができる。
また,固有振動数は剛性の平方根に比例するため,高欄撤去により固有振動数は約85%(0.71/2)に低下することとなる。これは前述の固有振動数15%の低下と一致する。ちなみに,表ー2の(1)の85%の値を(5)に示すが,(3)とよく一致している。
図ー7(b)は,静的試験における第3径間の中央並列載荷時(高欄有り)のたわみを示したものである。中央点のたわみは3.83mm(○印)となっており,これに対して全断面有効とした解析解(実線)は4.70mmである。そこで,先の剛性低下率10%と高欄寄与率30%を用いて各要素の剛性を修正して解析したところ,中央点のたわみは3.82mmとなりほぼ実測値と一致した。この時の固有振動数も表ー2の(1),(2)のように1~3次まで実測値とよく一致した。
これらのことを併せ考えれば,桁の剛性低下率と高欄の剛性への寄与率はほぼ妥当に評価されたといえる。

8 耐荷力評価について
文献1)には,4種類の曲げ耐荷力算定方法が提示されているが,本橋の場合は荷重分配効果を考慮して死荷重および活荷重による曲げモーメントを求め,L-20に対する曲げ破壊安全率γmを算定した。
その結果を簡易計算法による算定結果と比較して表ー3に示す。橋に必要なL-20の破壊安全率をβ=2.5として,活荷重の破壊安全度に着目した耐荷率αm(=γm/β)が1.0以上となるのは簡易計算法による耳桁だけであり,荷重分配を考慮した場合,耐荷率は耳桁,中桁とも大差なく,約0.8程度であり,L-20に対して曲げ耐荷力がやや不足していると思われる。

せん断破懐安全率γsについて検討した結果を表ー4に示す。なお,せん断耐荷力は,文献3)に規定された棒部材の設計せん断耐力とし,死荷重および活荷重によるせん断力は,荷重分配を考慮して算出している。γsの値はγmに比べて大きく,せん断に対しては十分安全であると思われる。

9 まとめ
橋齢53年のRCゲルバー橋のひびわれ調査,材料試験,静的および動的試験を行い,本橋の剛性と耐荷力について検討した結果を以下に示す。
① 主桁や床版のひびわれ幅は,最大0.4mm程度であり,床版のひびわれ密度も4.5~7.5m/m2にも逹しているなど,損傷度は主桁・床版とも「ランク3~4」に相当する。
② 中性化深さは最大5.6cmに達し,また塩分量も0.3%以上であった。引張鉄筋には錆による断面欠損はさほど認められなかったが,スターラップ筋では部分的にかなり腐食が進行し,断面が半減しているのもみられた。
③ 主桁の剛性低下率は約10%であった。ひびわれ発生状況,中性化深さおよび塩分量の状況からみれば,この剛性低下率は小さめの感があるが,静的・動的試験により妥当なものと評価できる。
④ 高欄の本橋剛性への寄与率は30%であることが静的・動的試験により確認された。
⑤ L-20に対する耐荷力を推定した結果,本橋はせん断に対しては安全であるが,曲げ耐荷力がやや不足すると思われる。
以上のようなことが実験結果より認められた。最後に,本調査に際しては,宮崎大学工学部中沢助教授の御指導と御協力をいただいた。ここに記して感謝の意を表します。

参考文献
1)建設省土木研究所:コンクリート橋の耐荷力に関する調査研究,土木研究所資料,第1228号 1977.2
2)日本建築学会:コンクリート強度推定のための非破壊試験方法マニュアル 1983.
3)土木学会:昭和61年度制定,コンクリート標準示方書・設計編 1986.

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