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西表トンネルの設計と施工

沖縄県八重山土木事務所
土木第一課主任
伊野波 盛 哲

1 まえがき
日本の最西南端の八重山群島の中にある西表島。西表島は沖縄県では沖縄本島に次ぐ大きな島であり,面積は約284km2
ここに西表島唯一の県道で海岸線沿いを半周し,島の経済,生活を支える重要な幹線道路である県道白浜南風見線がある。
しかし,西表島西部の白浜と美田良間の現況道路は幅員が狭く,道路の傷みも進んでおり,加えて豪雨や台風時にはたびたび崖崩れのため通行が不能となるので,早急な改善が求められていた(写真-1)。
ところが,地形は急峻であり,現道を改良するには大規模な切土や盛土が必要であり,自然環境の保全は非常に困難であった。
そこで貴重な自然を守りながら道路を改良するにはトンネルによる方法が最良と考えられ,交通安全上,および産業経済上の地域の要求に応える計画となった(図-1)。

2 工事概要
位置:沖縄県八重山郡竹富町白浜一美田良地内
事業年次:昭和63年度~平成4年度
トンネル延長:675m
道路規格:3種4級
設計速度:40km/h
幅員構成:車道6m 歩道1.5m
施工方法:上部半断面先進NATM工法
総事業費:約2,161百万円

3 施工地点の自然
西表島は河口に広がるマングローブの林,山間からの豊富な水を集めて流れ落ちるマリュウドの滝,カンピレーの滝などすばらしい自然景観に恵まれている(写真-2)。
植物では,板のように根を張るサキシマスオウの木,天然記念物である星立のヤエヤマヤシ群落が繁茂している(写真-3)。
その他にも西表島を分布の北限とするめずらしい植物など,西表島ならではの特徴を持った植物が繁茂している。
また,動物では西表島に繁殖の地をおく世界的に有名な西表ヤマネコ,天然記念物であるセマルハコガメや多くのカンムリワシが生息している。
自然環境に恵まれた西表島には西表国立公園があり,年々多くの人々が観光に訪れている魅力のある島である。
ついては,本区間の道路改良においては,自然環境の保全を図りながら改良することが特に要求された。

4 西表トンネルの計画
西表トンネルの位置は,西表島西部に当たり,山地部は標高106mの赤崎を中心とした緩やかな山容を呈する地形で亜熱帯特有のジャングルが形成されている。
地形的な特徴として,西表島西部では海岸線の入り江河川における大局的な伸直方向が北西~東南方向であり,これはこの地方の地質的弱線に沿うものと考えられている。
西表トンネル区間に分布する地質は,今から約200万年前の新第三紀中新生に形成された八重山層群西表表層で,砂岩と頁岩の互層からなっており,ほぼ水平に分布している。全体に亀裂は少なく,良好で軟岩に属する岩石であり,断層や破砕帯等は認められていない(図-2)。
全般に地質は良好で湧水量も少ない見込みであることが予想された。

トンネルの計画地は美田良川と白浜海岸とに挟まれた山地部にあり,土被り厚50~80mで南北に貫通する。
工事は白浜側から美田良側に向けて着手され,施工方法は地山が本来持っている支持力を有効に活用する工法であるNATMによっている。
ナトムではまず,所定の断面を掘削したあと,速やかに吹付コンクリートを施工し掘削面の凹凸をなくし,局部的な応力集中を防止する。
つぎに岩盤自体の支持力をさらに効果的にするため,ロックボルトを施工する。ロックボルトは地山の安定化を図り,その支保効果によって岩盤にアーチを形づくり,地山そのものに支保工の役目を果たさせる。
トンネルの断面は地質状況によりDⅢa,DⅠ,CⅡ,CⅠの断面にわけて吹付コンクリートの厚さ,ロックボルトの長さと,打ち込み間隔,鋼製支保工の間隔やインバートの施工を変えて計画した(図-3)。
ナトム工法では通常,覆工は予測が困難な問題に対する安全性の確保,内装としての役割のために行われ,その施工時期は支保工の各種計測結果から,変位が収束した時期に行われる。
事業は昭和63年度より始められ,平成3年3月9日,地元の熱い期待のなかで安全祈願祭が執り行われ,工事が始まった。

5 施工中に生じた課題
施工はほぼ順調に推移し,当初予想されたとおり湧水は少なかった。風化により生じた岩盤の亀裂から少々の水がみられる程度がほとんどであった。当初,最も心配されたのは西表島炭坑の坑道にあたらないかということであったが,トンネルの計画地では炭層がトンネルの計画縦断よりかなり上で確認されており,また,坑道もその程度の高さであった。幸いにも,トンネル掘削にあたって炭坑の坑道は見いだされず,影響はなく,事なきを得た。
しかし,予想していない問題が生じた。西表群発地震である。トンネルの掘削当初から発生し震度は3を記録した。地震は断続的に発生し,事故の発生が懸念された。しかし,地震による事故・崩落等は発生せず,けが人もなく,幸運であった。
西表群発地震はトンネル工事完了後に震度5を記録し,現在ではおさまってきているようだが,まだ完全には終息せず,いまだ,ときおり発生している状況である。
一般にトンネルは坑口を除いて地震には強いといわれているが,結果は,そのようである。現在,トンネルに地震による被害は確認されていない。
適用断面については弾性波探査による推定で設計され,当初計画では標準断面のDⅢa,DⅠ,CⅡ,CⅠ断面の組み合わせの予定であった。CⅠ断面については切り羽からの肌落ちがないことが要件であったが,掘削が進んでも依然,岩盤は良くならなかった。切り羽天場付近からの肌落ちがあり,CⅠ断面の適用は困難であったので,CⅡ断面を適用することとなった。随時,観察を行い岩盤が良くなるか変化を調査したが,依然として変化は認められず,結局,CⅠ断面の採用は見送られ,CⅠ断面部分はCⅡ断面によって施工することになった。また,地震の影響を考慮すれば,作業員の安全のため,先受け支保工のあるCⅡ断面が適切だったと考えられる。
また,平成3年度は干ばつが島を襲った年でもあった。掘削の用水は付近の河川水を利用し,事なきを得たが,水道は断水し,現場作業員の入浴にも支障をきたすことがあった。風呂にもはいられず,地震のある現場で工事に従事した作業員の方々に感謝申し上げたい。
さて,仕上げの段階で気になるのは坑門工の仕上げである。言うまでもないが,西表島は亜熱帯原生林が90%を占め,まさに秘境と呼ぶにふさわしい島である。この自然ゆたかな島に似つかわしい顔を計画したいものである。人によって色々と意見はあると思うが,私はのっぺりとしたコンクリートの打ち放しよりは自然石に近いほうがまだよいのではないかと思っている。
坑門工は化粧型枠による粗面仕上げとし,ワンポイントとして「西表やまねこ」,竹富町の鳥の「アカショウビン」,「ヤエヤマヤシ」をデザインし,周囲の景観との調和を考慮している。
また,「西表トンネル」の名称は一般公募によって募集され名称検討委員会によって決定したものである。

6 開通式
平成5年1月20日,県内外から大勢の人々が参加して開通式が盛大に行われた。
開通式はあいにくの雨であったが,トンネル周辺の住民の方々も多数おいでくださり,降りしきる雨の中,盛大に祝っていただき,関係者の喜びもひとしおであった。
通り初めでは地元のアイデイアにより,白両側から祖納の獅子舞を先頭に白浜小中学校の児童生徒による鼓笛隊が進み,美田良側で祖納,千立婦人会の節祭ガーリーが迎える形で行われ,すばらしいものであった。

7 むすび
周囲の景観を生かし,環境を保全しながら工事を進めた西表トンネルの完成は地元住民の生活に計り知れない利便をもたらすのみならず,交通の安全や西表島の観光を始めとする諸産業の振興や文化の向上に及ぼす効果は計り知れないものがあると期待をあつめている。
最後に,離島における大型工事で障害が多々あったが,関係各機関,地元各位の御助力と御協力があり,無事,完成することができた。この場を借りて深く御礼申し上げたい。

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