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複合構造の現状と今後の発展

工  博      
九州大学教授 工学部
太 田 俊 昭

1 まえがき
鋼とコンクリートを合成した複合構造は,土木分野においてメラン形式のアーチ橋や高橋脚など,橋梁の上・下部構造や地中構造物に採用されてきた。このような複合構造は,従来わが国では鋼構造とコンクリート構造の境界領域に属するとみなされてきたため,両者の特性を生かした設計法や施工法が十分に確立しているとは言いがたい状況にあった。しかしながら,最近,鋼とコンクリートによる複合構造のシステム設計の有利性,合理性が広く着目されるようになり,新しい複合構造材料の開発や,材料特性を有効に利用した構造システムに関する研究が活発に行われるようになってきた。特に諸外国では,このような研究の結実ともいえる新しい橋が本格的に計画,施工され始めており,今後の複合構造は,実用範囲の広い独自の構造領域として確立されるものと思われる。
そこで,本稿では、複合構造の現状と今後の発展について,橋梁に対象をしぼって考察を行うこととする。

2 複合斜張橋
鋼とコンクリートから成る複合構造物を大別すれば,鋼部材とコンクリート部材を組み合わせた混合構造物(mixed structures)と,単一部材の断面が異なる材料で構成された合成構造物(composite structures)とに分けられる。複合斜張橋は前者に属するもので,その代表例に,西ドイツのKurt-Schumacher橋(1972年,主径間287m,図ー1)1)や,Düsseldorf-Flehe橋(1979年,主径間368m,図ー2)2)およびスウェーデンの新Tjörn橋(1981年,主径間366m,図ー3)3)などがある。この混合、システム構造では,控えケーブルの定着アンカーに発生する負反力が軽滅でき,カウンターバランスとしての効用があること,軸圧縮力が支配的なタワーにはコンクリート柱が適しており,その曲げ剛性も大きいので,主桁の振動を抑制できるなどの力学的メリットの他に,他のタイプに比べてコストの軽減ができることなどの特色が挙げられよう。

そこで図ー4のモデル橋を対象にして,複合斜張橋の経済性を論じてみることにする4)。図ー5は,PC桁長(Lpc)と桁全長(L)の比Lpc/LをパラメーターにPC桁と鋼桁の単位重量当たりのコスト比Cpc/Cを変化させて,複合斜張橋と鋼斜張橋の上部工(主桁とケーブル)のコスト比Kcom(複合斜張橋)/K(鋼斜張橋)を算定したものである。この図から,Cpc/Cが0.12程度まではPC斜張橋の上部工コストが,Cpc/Cが0.25程度までは複合斜張橋の上部工コストが,それぞれ鋼斜張橋のそれを下回ることがわかる。

また図ー6は,Cpc/CをパラメーターにLpc/Lを変化させてKcom/Kを算定したものである。Cpc/Cが0.25より大きければ,Lpc/Lの増加に伴って上部工コスト比は単調増加する。しかし,Cpc/Cが0.25より小さい範囲ではLpc/Lの増加に伴って曲線は下限の極値をもつ。例として,Cpc/Cの値を0.15にとれば,Lpc/L≒0.8のときKcom/Kは極小となり,その値は約0.7になることがわかる。
実際には,主塔,下部工の影響などを含めた総合評価が必要であるが,少なくとも以上の結果は,複合斜張橋が最も経済的になる設計領域が存在することを示すものといえる。

次に,主桁と床版を含む床組みを混合形式にして軽量化を図ったMosel橋の例を図ー7に示す6)。また,図ー8は,アメリカ合衆国のオハイオ州のEast Huntington橋に用いられたもので,プレキャストPC桁と鋼横桁とをボルトとスタッドを用いて連結し,せん断力の伝達を図っている6)
この方式により,補剛桁の高さが鋼桁案より小さくでき,建設コストも鋼桁案の約2/3に節減できたと報告されている。この混合構造の最大の課題は,異種部材間の接合(ジョイント)をどうするかという点である。すなわち,力の十分な伝達が可能で,かつ必要な剛性と耐久性をもつジョイント構造の開発ならびにその設計法の確立が不可欠といえよう。

図ー9,10に,それぞれKurt-Schumacher橋や新Tjörn橋で採用されたジョイント構造を示す。
スタッド方式だとせん断力伝達の為,スタッドを密にする必要があり,コンクリートの打設を困難にするなど施工上の問題が生ずると思われる。図ー11は比較用に著者の研究グループが行った各種接合方式の図である7)。その結果の一部を表ー1に示すが,静的耐力に関しては,アンカー筋を用いた方式が良いことがわかる。しかし,これらの方式の最適性については,いまだ基礎的研究データが少なく,その実施例も多くないこともあって議論の余地を残している。このような問題があるにせよ,混合形式の構造は,剛性が大きく,建設、維持費の比較的安いコンクリート構造と,軽量で靱性に富む鋼構造の特徴をシステムとして活用できるので,今後は,斜張橋以外の橋にも幅広く応用されることが予想される。

3 新しい合成橋梁
従来,合成構造形式橋梁としては,合成桁橋や合成床版橋あるいはSRC構造の橋などがあるが,ここでは,今後の応用発展が期待される鋼板とコンクリートの合成構造について考察してみる。
一般に床版や壁高欄などの現場打ちコンクリート作業を伴う橋梁は,その規模の如何にかかわらず,足場や支保工型枠などの施工が必要であり,現場によっては落下物の防護など安全性に関する対策が必要となる。これまで単なる型枠として薄い鉄板を埋め殺して使用したグレーチング床版などの工法があるが,最近では鋼板をコンクリート型枠だけでなく,桁や床版の構造材料として活用し,合成構造としての力学的・経済的合理性を発揮させようとする試みが見受けられる。この場合の特色としては
① 急速施工が可能で,かつ現場工期を大幅に短縮できる。
② 現場施工が簡単かつ安全で,施工管理が容易になる。
③ 桁下作業が省力化でき,安全に作業ができる。
④ 軽量で,桁高を低くすることができる。
⑤ 上述の④の特徴により,下部工や取付道路のコストを節減できる。
⑥ コンクリートの局部的破損による人身事故などの二次災害を防ぐことができる。
⑦ 付属構造物を含めて一括施工できる。
⑧ 鋼板に耐候性鋼板または防蝕鋼板を使用すれば,維持管理費を節減できる。
などがあげられる。この種の合成床版の代表的なものを示せば以下のとおりである。
(a) 鋼製型枠合成床版(図ー12)8)
通常6mm~9mm程度の底部鋼板にスタッドジベルを打ち,鋼横リブを適当な間隔に設置して曲げ剛性を高め,現場打ちのコンクリートで一体化したものである。
(b) プレキャスト合成床版(図ー13)9)
パイプ型のジベルを4.5mm程度の底部鋼板に溶接し,工場で予めプレキャスト床版とし,冬期や打ち替えなど急速施工を必要とする場合に用いられている。
(c) T型鋼のリブ付合成床版(図ー14)10)
T型鋼のリブを底部鋼桁上の主鉄筋方向に併設し,剛性を高めて現場打ちのコンクリートで一体化したものである。本格的な合成床版橋などへ適用するには,リブ方向のせん断抵抗力が不足する。そこで,その改善のため,特殊な突起付T型鋼と膨張コンクリートとの併用が考えられている。
(d) 立体トラス型ジベル付合成床版(図ー15)11)12)
三角形の立体トラス状のジベルを介して上圧縮筋と4.5mm~6mm程度の底部鋼板とを溶接し,これを型枠兼支保工としてコンクリートを現場打設できるようにしたものである。

以上の形式のうち,力学的に見れば,(a),(b)は従来の鋼板とコンクリートジベルによって一体化する合成版の原理をそのまま踏襲したものであるが,(c),(d)は,ジベル抵抗作用に加えて,鉛直方向せん断力を分担できる機能をもたせている。ジベル構造がT形鋼の(c)とトラス構造の(d)を比較すれば,工場における製作性は(c)の方が有利であり,使用鋼材量ならびに現場におけるコンクリート打設時の施工性,品質管理などでは,(d)の方が優っている(たとえば,(d)はトラス状のジベルが線部材であるので,コンクリートのまわりが良くブリージングも少ない)といえよう。一方,建設省九州地方建設局は,床版厚や桁高を低くできる利点などに着目した(d)タイプを応用発展させて,スパン11mの床版橋を試験橋として筑紫野バイパスで完成させている。さらに,他官庁を含めて,合成桁橋の床版に適用する計画が考えられているなど,(d)タイプは,今後,種々の橋梁の新しい構造要素として幅広く活用されることが予想される。
そこで次に,(d)タイプの力学上の特色とその応用例について,九州大学土木工学科橋梁研究室で行った研究成果の一部を紹介することにする。
図ー16は,トラス型ジベル付合成版の曲げ試験を行って得られた荷重―たわみ曲線および荷重―ひずみ曲線を示している。この図から,荷重の増大とともにたわみが線形的に増大する弾性領域を越えた後,大きな塑性流れを生じてたわみが急増しており,その挙動は鉄筋コンクリートよりも鋼材のそれに似ているといえよう。この種の合成版は,以上のような高い靱性を発揮することができるため,耐震性の良い構造部材として,たとえば高橋脚などに活用できると考えられる。

図ー17,18は,トラス型ジベル付コンクリートスラブの供試体とその押し抜きせん断試験の結果である。鋼材量をほぼ同一としたRCスラブの場合の破壊荷重は20tで,急激なパンチングシエアーによる破壊であったが,トラス型ジベル付のスラブの場合は,図ー18に見られるように,破壊荷重は26tと上回り,塑性変形の流れも大きく靱性に富むことがわかる。

図ー19,20は,スタッドジベル(A)とトラス型ジベル(B~E)のせん断力を受けた場合のずれ変形を,二面せん断試験を行って比較した結果を示したものである11)。この実験でも使用鋼材量と溶接量をほぼ同じとしているが,図ー20より,トラス型ジベル(B~E)の方がスタッドジベル(A)より高い強度(耐力)を発揮していることが認められる。

次に,この種の合成版を床版として用いる場合自動車の輪荷重を直接受けるため,疲労破損し易い条件下にあるので,その疲労性状を十分に明らかにしておく必要がある。図ー21は,トラス型ジベル付合成床版の繰り返し曲げ疲労試験の結果を示している12)。この結果から,SS41材を底部鋼板に使用する場合活荷重による応力振幅を800kg/cm2程度以下にすれば良いことがわかる。トラス型ジベルの下側節点に鋼板リブを下弦材としてつけ,これと底部鋼板を連続溶接すれば,疲労性状はより向上すると考えられる。なお,この種の合成床版では,通常のRC床版のようにひびわれによって陥没穴ができたり,コンクリート塊が橋下に落下したりして,二次災害を起こす恐れはない。また損傷RC床版の早期取り替えにおいても,床版厚を薄くして自重を軽減でき,場合によってはプレキャスト化も可能なので,そのメリットがさらに生かされるものと考えられる。

以下に,トラス型ジベル付合成版の特徴を生かした橋梁の応用例を挙げておく。
① 変断面床版活荷重連続鋼合成桁(図ー22)
中間ジョイントを省略できるので,走行性がよく,維持管理上も有利である。また,主桁本数を減らすなど全体鋼重の節減が可能であり,型枠も不要である。

② 合成箱桁橋,合成プレートガーダー橋の床版(図ー23)
主桁鋼重の節減が可能であるとともに,型枠が不要である。

③ 合成トラス橋(図ー24)
全体鋼重の節減が可能であるとともに,型枠が不要である。

④ 合成タワー(図ー25)
タワー鋼重の節減が可能であり,RCタワーに比較して靱性の確保やケーブルアンカーの取付が容易である。

4 あとがき
今日,わが国では,高度経済成長期に建設された橋梁の多くが,部分的補修もしくは全面的架け替えを要する時期に入りつつある。また都市の再開発や河川の拡幅等に伴う既存橋梁の撤去,架け替え工事も増大する傾向にある。このような状況の下で橋梁の形態や,施工,環境条件等は複雑多様化し,厳しいものになりつつある。複合構造はこのような諸制約に耐える大きな可能性と広い設計自由度をその本質としており,土木技術者にとって魅力ある開発,研究対象といえよう。

参考文献
1)Volke,E.:Die Strombrücke im Zuge der Nordbrücke Mannheim-Ludwigshafen(Kurt-Schumacher-Brücke),TeilI,II,Der Stahl-bau,1973.4,5,6.
2)Modemann,J.,Thonnissen,K.:Die Neue Rheinbrücke Düsseldorf-Flehe/Neuss-Vedesheim,Der Bauingenieur,54,1979.1.
3)Kahmann,R.,Koger,E.:Die neue Tjörnbrücke,Bauingenieur,57,1982.
4)大塚久哲,太田俊昭ほか:複合斜張橋の力学特性と経済性,合成構造の活用に関するシンポジウム講演論文集,1986.9
5)若下藤紀,野田行衛:橋梁における合成構造の一例,橋梁と基礎,1982.2
6)Engineering News-Record:Hybrid Girder in Cable-Stay Debut,15th,1984.11.
7)Hino,S.,Ohta,T.et.al.:Mechanical Joints for Composite Construction,12th Congress Reports of IABSE(Vancouver),1984.9.
8)新津敬治,浅島弘光ほか:鋼製型枠合成床版を用いた合成桁の設計施工,橋梁と基礎,1980.11.
9)初沢寿夫:合成プレキャスト床版の実施例と載荷実験,土木技術,25-8,1970.
10)佐藤政勝,石渡正夫:新しい形鋼を用いた合成床版橋の構造特性並びに設計法,第30回構造工学シンボジウム,1984.2.
11)太田俊昭,日野伸一ほか:トラス型ジベルの押し抜きせん断挙動,合成構造の活用に関するシンポジウム講演論文,集1986.9
12)太田俊昭,安田泰二:繰り返し荷重下における立体トラス型ジベルを有する合成床版の力学的挙動,土木学会第41回年次学術講演会概要集,1986.11.

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