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藤波ダムの被圧地下水対策について

福岡県土木部河川開発課
 主任技師
平 川 忠 敬

1 はじめに
ダム設計においては,流域の地形地質条件がダム毎に違うため個々の条件に応じた設計方法を検討する必要があります。現在,建設省所管の完成ダムが約360あるなかで,良好なダムサイトは,年々少なくなりつつあると言われています。このため新たな技術的課題を有する場合も多くなり,私達は,これらの課題を解決して建設を進めていく必要があります。
藤波ダムは,筑後川左支川巨瀬川に洪水調節を目的として福岡県が建設中のダムです。ダム位置を図ー1に,ダム諸元を表ー1に示します。本ダムは,調査の過程で,ダム基礎部に被圧地下水層を確認していましたが,約1km離れた隣沢のダム(以後Aダムと記述)の湛水の影響を受け,被圧地下水位が,更に14m程度上昇することが確認されました。このためダム工事に伴うパイピングの影響を考慮し,地下水の流動機構を解明するとともに,ダム建設に際して必要な対策を検討しました。本報告は,この検討結果について報告するものです。

2 地質調査概要
(1)地質構造
調査結果にもとづく藤波ダムーAダム間の地質概念図を図ー2に,地質層序と各地質の特徴を表ー2に示します。
両ダム間で30Lu以上の高透水性を示す地質は,Mg層とTb1層間に挟在するAP層であり,AP層自体は,Tb2層を挟みAP2層とAP1層に分かれます。またAP層は,一部で露頭するものの,Mg層に覆われ,尾根部全体に連続して分布しています。
藤波ダムサイトにおいては,AP1層が難透水性のMg層とTb1風化軟質部に挟まれ,舌端状に分布しています。

(2)被圧地下水頭分布
図ー2に示すとおり,地下水頭は,隣ダムの貯水位に応じて変動しています。Aダム側で動水勾配を有し,藤波ダム側では,被圧状態で水平に近く分布します。
P層は,Aダム貯水面の上で露頭することから貯留水は,Aダム側の広い範囲のTb層の亀裂を介して流入し,藤波ダムサイト側に移るに従い,難透水性のTb2とTb1層に挟まれた形で被圧していると考えられます。藤波ダムサイト側では,難透水性のMg層とTb1風化軟質部に遮断されて被圧していると考えられます。さらに藤波ダム側で水頭が水平分布となり,広域的にも湧水の発生が確認されていないことから地下水は,AP1層内において流速を持たずタンク状に封じ込められていると考えられます。
(3)漏水量調査
Aダムが流入放流量ともにゼロとなる機会があり測定した結果,貯水池全体の漏水量は0.04m3/sでした。AP1層の分布範囲が,尾根部全域に分布することを考慮すると難透水材料で囲まれているため全体として僅かに浸透する程度の流出であると考えられます。
(4)被圧地下水変動調査
図ー3にAダムの貯水位と地質別地下水位変動の関係を示します。AP1層の地下水が,距離とは無関係に同標高で応答することが解ります。Mg層,Tb層の地下水は,AP1層付近にあるボーリングを除いて貯水位の影響をほとんど受けていません。またAダムの貯水位の変動は,藤波ダムサイトで50%程度の影響を受け,EL110m~EL124mの変動となります。

(5)排水試験
P1層内の排水量を最大500ℓ/minとすると,水位変動はAダム付近まで影響することが解りました。このときAP1層の帯水量を考慮すると実流速は,ダルシー則の適用値内にあり,透水係数は,10-2cm/s~10-3cm/sオーダーであると推定されます。
(6)地質調査結果のまとめ
以上から被圧地下水の性状は,次のとおりです。
① 藤波ダム基礎に内包されている被圧地下水は,AP1層内のみに分布し,藤波ダム右岸部においてタンク状に封じ込められている。
② AP1層は,難透水性の地質で囲まれているため,わずかに浸透することはあるものの,ほとんど流速がない。
③ AP1層内は,層流状態の流動と考えられ,透水係数は,10-2~10-3cm/sオーダーとなる。
④ Aダム水位変動値の影響は,50%程度で,藤波ダムサイトでは,EL110m~EL124mとなる。

3 被圧地下水対策
(1)被圧地下水対策のポイント
被圧地下水層は,AP1層のみに限定されますが,帯水量および透水性が非常に大きいことから,掘削時のパイピングは,人為的操作の難しい問題となる可能性があります。よって被圧地下水対策については,AP1層分布を考慮したダム基礎掘削時の対応について検討しました。
(2)パイピング対策設計値
ダム基礎掘削時において最も危険となる箇所は,AP1層が舌端伏に上昇した最上部です。このため最上部から地表面における安全性確保に着目し,被圧水頭,動水勾配,浸透流速の面でMg層のパイピング耐性を検討しました。Mg層は,最大被圧時においてパイピングの発生がみられなかったことから現状の安全率をF≧1として検討しました。
① 被圧水頭
図ー4に示すモデルに基づき地盤の持ち上げ(ヒービング)について検討します。
現状の地盤自重+せん断力と揚圧力のつりあいは,
(rt・t+rd・d)L+Su・t≧rw・H・Lとなり,調査結果からSu≧0.18tf/m2となります。
ダム基礎掘削後においては,
Rt・t・L+Su・t≧rw・h・L
となり,掘削標高89mとすると,許容被圧水頭は,h≦18m,EL83+18=EL101mとなります。

② 動水勾配
g層の限界動水勾配(ic)と作用動水勾配(i)について検討します。現況はic≧i=h/tとなり,ic ≧2.6となります。掘削後においては,t=6mから許容被圧水頭は,h≦15m,EL89+15=EL104mとなります。また,被圧水頭を低減させず,AP1層をMg層程度の透水性に改良可能とすると改良標高Xは,
ic =2.6=(EL124m-XELm)/(EL124m-XELm)からX=EL67mとなり,コア敷から22m間の透水性改良の処理を行えばよいことになります。
③ 浸透流速
ジャスティンの限界流速値(Vc)と実流速の比により検討します。対象粒径をd=1µmとし,自然地盤を安全係数4として割り引くとVc=0.082cm/sとなります。実流速では
Va=(1+e)/e×V=5.33×10-4cm
よりFs=Vc/Va=153となります。
④ 設計値
以上から掘削時のパイピングに対する安全確保に必要な条件は,被圧水頭を現状より18m下げEL101mとするか,22mまで面的に止水処理する必要があります。またダム施工時においては,コア材盛立時に浸透水を排除し,コア材の締固めおよび含水比調整に影響がないようにする必要があります。

(3)地下水対策工の比較検討
地下水位を現状から基礎掘削標高EL89mまで低下させる方法としては,揚水案であるデイープウェル案とグラウト案等が考えられます。
デイープウェル案は,揚水ポンプにより強制的に地下水位を下げる方法であり,水位低下効果が最も大きく合理的ですが,施工期間中の孔壁保持に課題が残るとともに,積極的な排水が周辺に影響を与える恐れがあります。
グラウト案は,AP1層が舌端状に分布していること,地下水の流速が小さいことから,カーテングラウトにより遮水し,次に河床部のAP1層最上部をブランケットグラウトにより改良する方法です。遮水によるため周辺に影響を与えない利点がありますが,確実なグラウト効果を確認する必要があります。
以上を比較した結果,対策工の効果が盛立までの長期間を必要とするため,周辺への影響を配慮し,第一に遮水案であるグラウト案を採用し,排水処理は補完的な方法としました。

(4)地下水対策工の設計
図ー5は,グラウト案の解析モデルおよび検討ケースです。
カーテングラウト位置および河床部処理深度の検討結果を図ー6に示します。被圧水頭の評価位置はMg層直下のEL83mとしています。
解析結果よりカーテングラウトの効果が最も大きいのは,河床部に近い55m地点となります。55 m地点は,AP1層がネック状に狭くなる地点であるため浸透流の抑制効果が大きく,95m,185m地点は,カーテンの下を迂回する浸透流速が増加するために抑制効果が小さいと考えられます。施工条件的には被圧地下水にグラウトを行うため高圧注入が必要と考えられますが,55mより近くなるとMg層の上載加重が小さくなりグラウト圧が制限されるとともに,自破砕状AP1層の出現があるため孔壁の保持が難しくなることからグラウト位置は55m付近に限られると考えられます。
河床部処理深度については,6~20m間で効果が大きいことから,処理厚さは,20m程度が目安となります。また,上記の条件における動水勾配,実流速はそれぞれi=1.3,4×10-4cmとなり設計値を満足しています。
以上から対策効果は,次となります。
 水位低下設計値
  パイピング対策  EL 101.0m
  基礎掘削標高    EL  89.0m
 対策前        EL 124.0m
 グラウト処理後    EL 100.3m
更にグラウト処理後は,パイピング対策値を満足しますが,ダム基礎掘削標高より依然10m高い水頭であるため,施工中に湧水が発生する場合は,ウェルポイント等による部分的な揚水により対処するものとします。

(5)被圧地下水対策工
解析結果を元にグラウト計画を図ー7に示します。カーテングラウトは,延長を短くするために,コア敷部を囲むように配置しています。止水範囲は,AP1層を中心に,接触部のMg層を10m,グラウトベースのTb1層を40mカバーしています。河床部処理工は,層厚が薄く,未~低固結状態であるため孔壁保持,注入効果を考慮し2重管式ダブルパッカーグラウチングとしています。

4 まとめ
藤波ダムの課題の一つは,ダム基礎部にある被圧地下水圧対策です。本検討の結果,ダムサイトのAP1層をグラウトにより遮水することでダム建設が可能となることが解りました。本ダムは,同時にグラウトテストを行い,本計画が実行可能であることを確認しています。今後は,施工時において更に効果的なグラウト方法を検討する予定です。
最後に本検討にご指導ご協力頂いた建設省開発課,建設省土木研究所,財団法人ダム技術センター,株式会社八千代エンジニヤリングのみなさまに厚く感謝するしだいです。

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