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耶馬溪ダム水質保全設備(噴水設備)について

建設省九州地方建設局
 山国川ダム堰統合管理事務所
 管理第二課長
林  保 夫

1 まえがき
耶馬溪ダムは,山国川総合開発の一環として,特定多目的ダム法に基づき一級河川山国川水系山移川に,洪水調節,流水の正常な機能の維持,水道・工業用水の供給ならびに発電を目的として建設された多目的ダムである(写真ー1)。

本ダムでは,昭和60年4月の運用開始から断続的に富栄養化現象に伴うアオコ等が発生しており,異臭障害や景観障害の一因となっている。
このため,ダム貯水池の水質保全対策として,効果的な対策手法に取り組んでいるところであるが,その一つとして設置した噴水設備について概要を報告するものである(写真ー2)。

2 現状と対策
ダムサイト左岸直上流の湾入部付近は,夏期の南東・南南東からの風により,表層水がダム堤体と湖岸に吹き寄せられ停滞しやすい水域となっている。
このため,この水域では局所的に,また,断続的にアオコ等が発生し易い傾向にある。
また,この周辺はダム見学者等の拠点施設であるダム展望広場にも接していることもあり,異臭・景観障害の防止に向けて,早急な対策が必要であった。
これにより,局所的な水質保全対策工法として実績のある噴水設備の「藻類細胞の活性抑制効果」を利用し,この水域のアオコ等の濃い目視濃度の解消と異臭発生を防止し,水辺環境の保全を図るものとした。

3 目的と機能
噴水設備による植物性プランクトンの活性抑制効果については,主として
① 噴水のポンプ加圧,インペラの攪拌によるプランクトン細胞の損傷,不活性化
② 噴水の降水滴の水たたきによるプランクトンの増殖環境の抑制
③ 噴水による光遮断,表層水温低下による増殖環境の抑制
などがあげられる。
ポンプ加圧によるプランクトン細胞数の変化と噴水が水面を叩く影響・効果を(図ー1・図ー2)に示す。
先ず加圧による効果では
0.3~0.5Mpa(3~5kgf/cm2)で5秒間の加圧により,ミクロキステスの場合32%,パンドリナの場合97%,フォルミディウムの場合28~58%と,加圧を加えない対象区の培養後の細胞数に対して減少が見られた。
耶馬溪ダムの場合,水の華としてミクロキステス,パンドリナ,異臭味としてフォルミディウムの発生が見られている。

次に水叩きによる効果では
1,000mm/hr相当の吐出水の水叩きによる効果を見ると,1時間の撒水により対象区の細胞数の38%の減少を示している。
以上の結果から,これらの機能を十分に発揮させるため,表層水をポンプで吸い込み,半球状に降らせる構造とした。
また,必要に応じて表層より深い所の低温水を吸い込むことのできる選択取水装置とした。

4 規模と範囲
噴水設備の規模を決定する条件としては
① 対象となる植物プランクトンの2倍増殖日数は,増殖実験・現地調査結果から4日間とする。
② 対象水域は,表層水の吹き寄せ停滞域である,ダムサイト左岸直上流部の直径150mの水域とする。
③ 対象水深は,耶馬溪ダムの表層水厚とし,3mとする。
以上の条件から,1日8時間稼働としたときの必要噴射水量は,毎分20m3となった。
次に,散水範囲の検討として
直接散水する範囲は広い方が効果も大きいが,広く設定するとポンプ動力が大きくなり,運転経費が増大すること等に加え,以下の理由により散水径は50mとする。
① 径50m散水に必要なノズルの根元圧は,40~50mAq程度であり,ポンプの機種の選定幅が広い。
② 羽車・ノズルともに通過粒径が15~20mm以上であり,閉塞の可能性が低い。
③ 噴射水量が毎分20m3程度あれば,散水範囲は50m程度が妥当であり,これ以上になると散水飛沫が分散し風の影響を受けやすい。

5 台船の形状(図ー3)
台船の形状としては,方形・八角形・円形等が考えられるが,製作加工面・維持管理面・景観性等を総合的に判断し,八角形が最適と決定した。

6 拡散ノズル
噴射水量毎分20m3を拡散するためにジェットノズル36本を配置した。
  上部………噴射距離25.0m×18本
  中間………  〃  17.5m×12本
  下部………  〃  10.0m× 6本

7 設置位置
表層水が吹き寄せられ,停滞しやすい水域とし,ダム堤体と湖岸を直径150mの外周となす中心点付近に設置した(図ー4,写真ー3)。

8 効果と課題
耶馬溪ダムの貯水池内における局所的な水質保全対策の一つとして,平成6年3月に完成し1年経過したところである。
平成6年は,噴水稼働早々異状渇水と云う状況にあって,耶馬溪ダムにおいても利水放流等により,貯水率は40%近くまで低下した。
これにより,貯水量・滞留条件・水温・日照時間等から,アオコの発生しやすい状況となったが異状発生は見られなかった。
これが即,全て噴水設備による効果と云えるものではないにしても
 ◦流域からの栄養塩類の流れ込みの程度
 ◦貯水池内水質の状況と変化
 ◦貯留水の滞留条件
 ◦水温・日照時間
等について整理し,渇水時の貴重なデータとして解析するものである。
さらに,平成7年3月に完成した曝気循環装置との組み合せ稼働による相乗効果等も含めて,今後追跡調査を実施しながら,より効率よく,より効果的に耶馬溪ダムの水質・水辺環境の保全に向けて運用していくものである。

9 あとがき
噴水設備の概要報告にあたり,完成後まだ間もないこともあり,初期の目的・機能に対して,実際の運用においてどれ程の効果があったかについて,十分報告できなかった点はご了承頂きたい。
本報告がこれから検討される方々の参考になれば幸いである。

参考文献
㈶ダム水源地環境整備センター:ポンプ加圧による効果と水叩きによる効果の実験

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