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縦貫道全通に向けて最後の難関を克服
九州自動車道加久藤トンネル

日本道路公団福岡建設局
 技術第一課課長代理
古 輪 一 明

日本道路公団福岡建設局
 人吉工事事務所人吉工事長
松 尾 吉 記

1 はじめに
九州自動車道人吉~えびの間(延長22.3km)は,本州と九州を結ぶ高速ネットワークの背骨にあたる縦貫自動車道の青森から鹿児島・宮崎までの約2,150kmの最後の区間で,加久藤トンネルは,この区間で唯一のトンネルである。
加久藤トンネルは熊本・宮崎両県の県境に位置し,霧島連山を中心とする加久藤カルデラの北壁にあたる外輪山(標高700m前後)を,計画高約330mでほぼ南北に貫く延長6,255mの長大トンネルである(図ー1)

加久藤トンネルが完成すると,日本の高速道路としては,関越・恵那山・肥後トンネルについで四番目に長いトンネルとなる。
また,将来下り線となる位置にパイロット坑を先行掘削して,本坑施工のための地質調査・湧水確認などを行っている。
本坑工事はNATMによる上半先進ベンチカット工法で,平成2年4月に南北両側から掘削を開始し,平成5年11月25日(施工期間3年8か月)に貫通したが,多くの破砕帯を有し,脆弱化した岩や地下水が豊富に涵養された地層であったため,大湧水・崩落・地山変状などにみまわれ,工事は困難を極めた。
本文は,本坑の大湧水・地山変状に対する事前対策および換気立坑の施工について述べるものである。

2 トンネルの概要
加久藤トンネルは,図ー2に示すように本坑延長6,255m,パイロット坑延長6,231mで,両坑を16箇所の避難連絡坑で結んでいる。
また,宮崎県側に電気集塵機坑1箇所,熊本県側に換気立坑(延長274m)および換気立坑に連結する換気横坑・電気室を施工した。

3 地質概要
トンネル付近の地質構成は,トンネルの北側半分が堆積岩類の四万十累層群と呼ばれる7千万~1億年前の砂岩・粘板岩で,南側が,えびの層群と呼ばれる約3百万年前の安山岩・凝灰角礫岩からなり,四万十累層群を基盤として,その上部にえびの層群と肥薩火山岩類の火山噴出岩類が覆っている(図ー3)。
地質構成や周辺等の湧水状況から判断すると,肥薩火山岩類中には地下水が豊富に涵養されており,トンネル掘削時には多量の湧水が予想され,学識経験者と専門技術者で構成する「加久藤トンネル施工法に関する検討委員会」を組織し,技術的検討を行いながらトンネル掘削を進めた。

4 大量湧水の区間事前対策
先行するパイロット坑において,えびの市側坑ロより1,600m以奥の約80m区間で1t/分以上の湧水が連続し,最大湧水量は12t/分に及んだ。
これらの湧水は地質変化部特有の変質した軟弱な地山を次々と崩壊させ,施工は困難を極めた。
さらに湧水区間に追従する形で出現した膨脹性を示す軟弱な凝灰角礫岩では,流出崩壊と同時に路盤を泥濘化し,計測による内空変位は100mmを越えるという異常値を記録した。
パイロット坑では,このような事態に対応するため、湧水区間ではNATMから矢板工法へ変更し,多くの補助工法を併用して無事に通過した。
パイロット坑での施工実績より,湧水量・区間長・地質構造のいずれをとっても本坑施工に重大な影響を与えると考えられ,本坑掘削に先立ち事前の湧水対策を実施した。
(1)対策工の基本計画
確実な事前対策により掘削時の安全を確保し,全体工程・工費に影響の大きい本坑掘削作業の中断を最小限に抑えることを目的として,地下水位低下工法(水抜きボーリング)と止水工法(薬液注入)を併用することとした。
対策工の中心となる止水薬液注入を合理的に行うために,先行対策による確実な地下水位低下,および本坑湧水区間を把握するための十分な調査が必要であることを踏まえて,対策工の比較検討を行い基本計画を下記の3段階で行うこととした。
  ① パイロット坑からの本坑上部への水抜きボーリング
  ② 水抜き導坑の掘削(水抜き兼作業横坑)
  ③ 止水薬液注入
(2)対策工の経緯と概要
① パイロット坑からの本坑上部への水抜きボーリング
多数のボーリングを施工する期間中,パイロッ卜坑の掘削作業は中断することとなるが,本坑切羽が湧水区間に到達するまでは2~3か月の水抜きボーリング期間が見込め,かなりの地下水位低下が期待できること,また,ボーリングの削孔データおよび湧水量により,本坑での湧水区間・地質状況がある程度把握できること,などの大きな利点があるため実施した。
ボーリングは,当初10m間隔で8本計画したが,湧水量が非常に多いため(1孔当たり5~10t/分)随時追加し,最終的には,110m間に21本,最大湧水量は61t/分と予想をはるかに上回る膨大な量となった(写真ー1)。

② 水抜き導坑の掘削(水抜き兼作業横坑)
水抜きボーリングからの湧水量は2か月を経過した時点でも23t/分と多量であったため,さらに水抜き効果を拡大するため水抜き導坑を掘削した。
掘削断面は,坑内より調査・水抜きボーリング・薬液注入ができるようにパイロット坑と同一断面(約17m2)とし,水抜き効果を高めるため,湧水区間は矢板工法を採用することとした。
ここでの最大湧水量は4.5t/分であったが,その湧水位置をパイロット坑および水抜きボーリングの湧水位置と対比することにより,湧水分布状況を把握することができた(図ー4)。

③ 止水薬液注入
注入区間は,本坑切羽からの調査ボーリングの結果および先行対策の湧水分布を活かしL=56mと決定した。
施工法は,ボーリング機械の削孔能力の限界である50mまでは切羽より注入し,それより奥6mは水抜き導坑の先端より注入し,注入範囲は,注入ゾーンと支保圧力および単位長さ当たりの湧水量との関係より,トンネル中心から2~3Rをとるときに最も効果的に支保圧力を低減でき,トンネル内に流入する湧水量も止水できると判断されたため,本坑掘削による地山の緩みが発生することなどを考慮にいれて,2.5R(13.5m)に決定した。
また,注入材料は湧水地山への注入であるため,ゲルタイムの調整ができ,浸透性・信頼性に優れ,実績の多いLW(3号水ガラス+セメント)を採用し,注入管理フローに従い注入を行い,注入率5%で計画した(図ー5)。

(3)対策工の結果
以上の事前湧水対策により,本坑掘削の湧水区間を無事通過することができ,また,心配された本坑掘削の中断も2か月(対策期間6.5か月)に抑えることができた。

5 火山軟岩地山の施工
一般に軟岩は,その特性に起因した問題点を潜在的にはらんでいることが多い。
本トンネルは,えびの市側坑口より1,700m付近から火山軟岩と呼ばれるえびの層群の凝灰角礫岩が分布しており,地山の崩壊や押し出し(膨圧)が懸念されていた。
先行するパイロット坑では,土圧による掘削断面の縮小や吹付けコンクリートの剥離,鋼製支保工の変伏などの具体的事象が生じ,新パターンの採用や増しロックボルト,ストラット補強などを余儀なくされた。
この状況を踏まえ,地山条件に合致した支保パターンを適用するため,本坑施工に先立ち,パイロット坑の計測データからの解析などを基に新パターンを設定した。
掘削開始後は,切羽などの観察と計測を行いながら施工を進め,計測データを用い,最終変位量を予測して変形余裕量の適合や施工後の支保の妥当性を検討し,切羽などの観察と施工状況と併せて,補強対策やその後の施工に反映させた。
具体的には,切羽観察・計測結果から,
  (1)地山状況,地山の挙動形態
  (2)支保部材の応力状態
  (3)膨脹性判定指標での地圧の性質
などの地山特性を踏まえ,支保パターンを変更追加した。
観察・計測により前方地山に生じる現象・変形形態を予測し,さらに,パイロット坑の同位置での地山特性と合わせて,適切な支保パターンを適用した。
しかしながら,複雑なトンネルの挙動を的確に把握することは困難な場合が多く,施工過程においては,最大日変位量が100mmを越える箇所もあり,重回帰分析による最終変位量の予測が変形余裕量に収まらないため,上・下半の仮閉合を行うとともに,変状の著しい一次支保をウレタン注入により補強し安定させた。
また,切羽が不安定なため,リングカット掘削・鏡吹付けコンクリートを基本として,状況に応じた補助工法を併用した。
主な補助工法は表ー1のとおりであるが,このように地山条件に応じた支保の適用と効果的な補助工法を併用して,無事,火山軟岩地山を通過することができた。

6 換気立坑の施工
(1)立坑の施工法検討
立坑付近の地質は,事前調査の結果,上部より肥薩火山岩類,えびの層群および四万十累層群が分布しており,層境では不良地質が予想され,数枚の滞水層も確認されていた。
このため立坑の掘削工法を選定するにあたり,導坑先進切拡げ工法(クライマ一方式,レイズボーラ一方式),全断面堀下り工法(在来工法,NATM)などについて比較検討し,地質の対応性,施工性,安全性の面から全断面爆破堀下がりの在来工法(ショートステップ工法)を採用し,湧水対策として水抜きボーリングを先行実施し,施工中の湧水は下部導坑に排出することとした。
(2)水抜きボーリングの施工
水抜きボーリングは,換気立坑の成否を握る重要なポイントであり,施工精度を向上させるために,5~50mごとに孔曲がり測定を行い慎重に掘進した結果,下部導坑で立坑センターから90cmであった。
(3)立坑上部止水注入工
ボーリング結果より,立坑上部施工時に近傍の沢水を引き込み,側壁の崩壊を引き起こす恐れがあるため,GL-45mまで2回にわけて止水注入を実施した。
事前の試験施工の結果,無機系溶液タイプの注入材を使用し,2ショット方式ステップアップ注入とした(図ー6)。

(4)坑口部の施工
坑口部はGL-5mまでで,換気塔の基礎となるもので,設計は開削工法にて構築する予定であったが,上部注入ゾーンを壊さないように直掘りとし,土留めはH-150の鋼製支保工を建て込み,一次覆工厚95cmの鉄筋コンクリート構造になっている。
(5)立坑本体部の施工
① 施工概要
立坑上部(GL-20m)の施工完了後,巻き上げ機・櫓設備・スカフォードなどの掘削設備を設置し,本体部の掘削は,平成5年1月末に着手,同年8月末に完了した。
また,湧水量は最終的に全体で0.5t/分程度であり,その大部分がえびの層群のGL-100m前後からであった。
本体部は,ショートステップ工法で施工し,各パターンとも掘削径φ7.5m,一次覆工厚40cmである。
掘削は,坑外より5ブーム空圧シャフトジャンボをキブル巻き上げ機にて吊り降ろし,スカフォードの下にセットし80~140孔を削孔した後,装薬結線を行い,スカフォードを孔底より20~30m程度離し発破を行った。
ずり出しは,スカフォードに取り付けてあるシャフトマッカー(0.35m3)にて行い,3.5m3のずりキブルで坑外に搬出し,所定の高さまでずりを取った後,人力で敷き均し鋼製セントルをセットした。
一次覆工は,生コン工場より運搬したコンクリートを1.5m3のコンクリートキブルにて搬入し,スカフォード上の回転シュートにて打設した。

② 湧水処理
一次覆工の背面には,フィルターマット(300×50)を縦方向に4系列設置したが,一次覆工自体に止水処置を施していないため,その打継ぎ目より湧水が生じた。
初めは少量でも,掘削とともに湧水量は増大し水をかぶりながらの作業となり,作業効率の低下をきたした。
このため打継ぎ目にウォーターリングを設け,1箇所に集水し作業環境の向上を図り,また,二次覆工打設前には,メンテナンス上の問題よりコルゲートタイプの防水シートを施工した。
水抜きボーリングの排水管には,種々の理由でスリットは設けなかったが,施工性の面から言えば,湧水処理に費やす時間を多少でも軽減すべく,スリット付の排水管を設置すべきである。
(6)二次覆工
二次覆工は,掘削および立坑底部取り合い部の覆工が終わった後,スリップフォーム工法にて坑底より坑口に向かって打設した。
スリップフォーム工法は,コンクリート打設と鉄筋組み立てが連続的に行われ,また,全ての作業が作業床上で行われるので高い安全性が保障される。
(7)立坑施工後の考察
当初,不良地質と大量湧水のため,相当な難工事を予想していたが,事前の対策と的確なる対応により大きなトラブルもなく工事を完成した。
立坑の施工において成否の鍵を握るのは湧水の処理の方法であり,今回,水抜きボーリングの成功が順調なる施工につながったと思われる。
今後,さらなる施工能力の向上を行う際は,サイクルの約50%を占めるずり出し作業における巻き上げ機の能力やスピード・ずり積み機の選定等の検討を行う必要がある。
また,依然として解明されていない立坑掘削における地山挙動,それに対応する支保の大きさなどについても,今後検討していく必要がある。

7 おわりに
大量湧水を伴う崩落による3~4か月余りの切羽のストップをはじめ,度々の地山崩落や異常変位など,幾多の困難を克服してのトンネル貫通であり,工事関係者の感激もひとしおであった。
また,本トンネルの設計・施工に関する種々のご指導をいただいた委員会等の委員各位および諸先輩の方々に心から感謝の意を表したい。
本トンネルを含む九州自動車道人吉~えびの間が開通すると,日本列島の大動脈が完成することになり,鹿児島・宮崎両県のみならず,九州全域の産業・経済の発展と文化活動などの活性化に大きく寄与することが期待されている。

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