一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
筑後川河口域の土砂動態調査について
島元尚徳

キーワード:有明海の底質の泥化、筑後川河口域、土砂管理、土砂動態、有明海・八代海総合調査評価委員会報告

1.はじめに

筑後川は流域面積2,860㎞2、幹川流路延長143㎞であり、有明海へ流入する一級河川の年間総流出量の約40%を占める河川である。「有明海・八代海総合調査評価委員会報告」では有明海の環境変化として、「河川を通じた陸域からの土砂供給の減少による底質の細粒化」が指摘され、筑後川から有明海への砂の供給を考えると感潮域の低水路河床の構成材料を把握し又、洪水時の河床材料の挙動について検討する必要があると考えられる。
本調査では、筑後川流域の土砂移動の動態や質・量について把握する目的で、筑後大堰(河口から23㎞地点)までの感潮区間における洪水流の水位縦断の時間変化の観測と河床材料、河床形状調査を行い、河口部付近における洪水流下形態と砂の移動、河床材料、特に砂の存在分布を明らかにした。
本稿では、筑後川感潮域における洪水流と土砂移動について、調査した結果を報告する。

2.調査の概要

図-1に調査位置図、図-2に調査実施日を示す。

1)河川縦断水位の連続調査

筑後川河口より23㎞付近まで概ね2㎞毎に水位計を設置し、観測時間間隔5分で水位観測を行った。

2)洪水前後における河床形状・堆積構造の調査
①柱状コアサンプリング
出水期前に筑後川河口から23㎞付近まで概ね2㎞ごとに流心付近で、直径約10㎝、長さ約2mのアクリル製のサンプラーを用い河床の土砂を採取し、密度、含水比、粒度を調査した。
筑後川0㎞、4㎞、10㎞、14㎞地点では堆積構造の変化を把握するために出水後にも同様の調査を行った。
②底質探査
堆積構造の河川横断方向、深度方向把握のために、出水期前に3周波(高周波:200kHz、低周波:3.5kHz、5.0kHz)の超音波を用いた底質探査を筑後川0㎞、4㎞、10㎞、14㎞、20㎞地点で実施した。堆積構造の変化を把握するため出水後にも筑後川0㎞、4㎞、10㎞、14㎞地点において同様の調査を行った。
③河床波の状況の調査
筑後川4㎞付近は、平成20年の調査で河床表面に砂が存在している事が確認されており、洪水による河床波の発達状況を把握する事を目的に、筑後川4㎞~5㎞の約1㎞区間で、平成21年洪水後にマルチビーム測量を行った。

3)洪水時の河床低下実態調査

洪水時の河床低下実態を把握するために筑後川本川4㎞付近、14㎞付近に掃流センサー(河床が洪水時に掃流されるタイミングが記録できる構造)と最大洗掘深を調査する為の埋設リングを設置し河床低下の実態について調査を行った。

3.調査結果
1)河川縦断水位の連続調査

平成21年6月29日~7月1日に瀬ノ下水位観測所(25k400m)でピーク流量約3,800m3/s(6/30 8:10)と平成21年7月24日~26日約3,650m3/s(7/25 11:50)、出水が発生した。 図-3にそれぞれの洪水の流量水位ハイドログラフを示す。それぞれの洪水のピーク付近で干潮時と満潮時にほぼ重なる出水であった。

図-4に、7月24日~26日の洪水の水面勾配を干潮時と満潮時で整理したものを示す。干潮時には流量の大きさに伴い水面勾配が大きくなっているのが特徴であり、二つのピーク流量時の坂口床固(17k300m)から下流の水面勾配は満潮時に約1/9,000、干潮時に約1/3,700となる。これより筑後川下流域の洪水時の水理現象は、有明海の潮位変化に著しく影響していることが明らかになった。

2)洪水前後における河床形状・堆積構造調査
①柱状コアサンプリング
図-5にコアサンプル分析結果を示す。筑後川
本川0~6㎞は、数㎝~10㎝程度の粘性土または粘性土混じり砂をはさむものの河床から40~100㎝は砂、8㎞は河床から約2m砂混じり粘性土が堆積している。また10~17㎞は河床から約15~100㎝に含水比の高い粘性土、その下層に砂や粘性土混じり砂が堆積しており、18~23㎞では河床から約35~45㎝は主に砂が堆積し、河床面には含水比の高い粘性土の堆積はなかった。8㎞は砂混じり粘性土が中心であったため、派川諸富川1k200m地点で調査した結果、河床から40㎝程度に砂質礫及び粗砂の堆積が確認できた。
一方、早津江川(0~6㎞)と海域の澪筋については、含水比の高い粘性土が主に堆積するものの、海域の澪筋については、筑後川の河口に近いところでは上層に砂が確認された。

②底質探査結果
筑後川本川0㎞、4㎞、10㎞、14㎞、20㎞地点の調査結果を図-6に示す。

筑後川本川0㎞付近は、部分的に河床に薄い粘性土があるが、その下に砂が厚さ約1m、横断方向に約600m 程度、筑後川本川4㎞地点は、河床から厚さ約1m、横断方向に約360m 程度、筑後川本川10㎞付近は、河床から10~40㎝には含水比の高い粘性土が堆積するものの、その下に約数10㎝~1m程度の砂が横断方向に約150m程度堆積している。筑後川本川14㎞地点は、左岸側の流心を中心に表層の含水比の高い厚さ約15㎝の粘性土下に30~40㎝の厚さで横断方向に約100mにわたり砂層が存在することがわかった。また、筑後川本川20㎞付近は、薄い粘性土の下に厚さ1m程度の砂が横断方向に約170m堆積している。以上のことから、筑後川の低水路河床の構成材料については以下のようにまとめることができる。
これまで筑後大堰から下流では、低水路河床の
構成材料、特に砂層の厚さと分布に着目した現地での調査研究は十分行われてこなかった。このため、平常時に見られる河岸際の河床の高い部分のガタ土が低水路の河床にも堆積していると考えられることが多かった。今回の柱状コアサンプリング、底質探査法を用いた詳細な現地調査によって、低水路河床には明確な厚さをもった砂層が存在し、特に筑後川本川0~6㎞、18~22㎞の区間では、全川幅において厚い砂層がみられること、その他の区間の河床においても、表層の含水比の高い粘性土(洪水時には流送されるガタ土)の下には、比較的厚い砂層が存在することが確認された。
平成21年出水前後における河床変動と砂の移動について、筑後川4㎞、10.2㎞地点における出水前後の柱状コアサンプリング結果を図-7に示す。採取された柱状コアサンプリングより、河床横断形状及び河床材料構成の変化が見られ、洪水時の河床は、表層の砂等が洗堀、堆積しながら、上流から砂等が供給され移動しながら、変動していると推定される。

3)河床波調査

筑後川河口域における洪水時の河床波の発達状況を把握することを目的に洪水後にマルチビーム測量を行った結果を図-8に示す。洪水時には、波長約200m、波高約1.0~1.5mの河床波が確認され、このような河床波をとりながら砂が移動し、有明海に流出していると考えられる。

4)洪水時の河床低下実態調査

埋設リング調査結果を図-9に示す。6月洪水では設置時の河床高から20㎝程度洗掘され洪水終了後にはそこから70㎝程度河床が堆積している。7月洪水では再設置時河床高から45㎝程度洗掘され、洪水後には65㎝堆積している、調査結果から洪水時にはいったん河床が低下しその後土砂が堆積していることが推定される。

4.まとめ

筑後川の河口部では有明海の大きな潮位変動によりガタ土が河床に堆積しているため河道内の砂の存在量や有明海への砂の流出量は少ないと考えられてきた。今回の調査では筑後川の河口部付近に河床材料や水面形の時間的変化を観測することで以下のことが確認された。
  1. 洪水時の縦断勾配は、干潮時と満潮時で大きく異なることが確認された。
  2. →筑後川の洪水時の水理現象は有明海の潮位変化が著しく影響していることが明らかとなった。
  3. 低水路河床には明確な厚さをもった砂層が存在することが確認された。
  4. 洪水前後における河床横断形状及び河床材料構成の変化から、断面内にある砂の厚さや表面標高が変化していることが確認された。
  5. →洪水時に砂が移動していることが推定される。
  6. 河口付近では、広い範囲で連続する河床波が観測された。
  7. →砂が存在し、かつ移動していることが考え
    られる。

今後は、得られた調査結果を基に洪水流と河床変動を一体とした平面2次元非定常洪水河床変動モデルにより、有明海への砂の移動について定量的に明らかにする予定である。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧