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竹田水害緊急治水ダム建設事業について
大分県 大平敬二
1 はじめに

 稲葉ダムは、大野川上流域に位置し、竹田市街地に流入する大野川支川稲葉川の中流部に建設中の洪水調節、一部既得取水及び河川環境の保全(正常流量確保)を目的とした治水ダムである。
このダムは、昭和57年7月、平成2年7月の梅雨前線による集中豪雨により、竹田市街地を中心に豊肥地区に甚大な被害をもたらしたことから、平成3年度に建設省の補助事業である竹田水害緊急治水ダム建設事業として採択されたものである。
平成19年4月に堤体工が完成し、現在は表面遮水工事を施工中で平成22年度末の完成を予定している。


稲 葉 ダ ム  平成20年3月 撮影

2 ダム諸元

   形  式
   堤  高
   堤 頂 長
   堤 体 積
   ダム天端標高
   調整方式
   集水面積
   湛水面積
   総貯水容量
   有効貯水容量
   洪水調節容量
   不特定容量
   堆砂容量
   設計洪水位
   サーチャージ水位
   常時満水位
   最低水位

重力式コンクリートダム
56.0m
233.5m
223,000m3
標高462.0m
自然調節
53.8㎞2
0.48㎞2
7,270,000m3
6,190,000m3
5,640,000m3
550,000m3
1,080,000m3
標高460.9m
標高455.3m
標高437.8m
標高434.0m

3 地 質

稲葉ダム周辺の地質は、阿蘇、くじゅうの火山を起源とする火砕流地帯の複雑な地質からなっており、このような地質条件の地域に計画されるダムは、全国的にみてもあまり事例がない。
図-1に稲葉ダムの模式地質層序を示す。最下層は朝地変成岩(Aj)の基層で、その上に、約90~80万年前に猪牟田カルデラから噴出・堆積した今市火砕流(I) 、約30万年~8万年前に4回の大きな火山活動に伴い噴出・堆積した阿蘇火砕流(A1~A4)、九重系の宮城火砕流(Km)が分布している。また、これらの火砕流間には火山灰や軽石層等の堆積物、最上部には泥流堆積物や降下火山灰等のより新しい時代の堆積物が分布している。
溶結凝灰岩は、溶結度の違いにより非・弱・中・強溶結凝灰岩の4つの岩層に区分され、今市、Aso1、Aso4火砕流は、中~強溶結凝灰岩からなり、硬く透水性が高いという特徴がある。一方、Aso2、Aso3火砕流堆積物は非~弱溶結凝灰岩からなり、やや軟質で透水性が低いという特徴がある。また、宮城や阿蘇火砕流の一部であるシラス状の軽石凝灰角礫岩(非溶結)や火砕流間の堆積物(未固結)は、軟質で浸透破壊抵抗性が小さいことも大きな特徴の一つである。
また、貯水池末端にのみ分布する朝地変成岩類の輝岩と呼ばれる密度3.0g/㎝3の硬い石は、堤体コンクリートの骨材に使用している。


図-1 稲葉ダム模式地質層序

4 特 徴

このように特異な地質構造の上に建設中の稲葉ダムは、様々な新技術等を導入して課題を克服している。


1)造成アバットメント工法
造成アバットメント工法は図-2の鳥瞰図及びダム軸岩級区分図に示すとおり、ダム堤体の左右岸において、堤体の重さに耐えられない地層が法面中間部に存在するため、法面下部と上部の堅固な層により支持し、全体で支える人工岩盤にすることで、軟弱層のコンクリートの置き換えや掘削量の軽減を図りコスト縮減を図っている。



図-2 造成アバットメント工法

2)貯水池内の表面遮水工法
① コンクリートフェーシング
貯水池の左右岸傾斜部は図-3に示すとおり、コンクリートフェーシングによる遮水構造としている。背後の岩盤を1割勾配で掘削後、岩盤スケッチを行い応力計算により配筋を決定している。
1枚のパネル(コンクリートフェーシング)は、縦断方向に12m、法長12.7m、厚さ下段1.0m、上段0.5mとなっており、縦横断方向に隣接するパネルとは止水板で遮水している。


図-3 コンクリートフェーシング

② アスファルトフェーシング
貯水池右岸上段緩斜面については、常時満水面とほぼ同じ高さであるため、サーチャージ水位時の水圧は河床部と比較すると半減することから、経済性及び施工性を考慮し、トランジション(RC40による路盤)0.4m、アスファルト0.21m、その上に現地発生材で表面保護を1.0m施工する。
トランジション(T=0.4m)は、アスファルトと基盤との緩衝材としての機能とを併せ持つ。
アスファルト(T=0.21m)は、1×10-8㎝/secの透水性を確保する遮水機能を有している。また、アスファルトの劣化防止のため、表面を現場発生土で保護する。


図-4 アスファルトフェーシング

③ 土質ブランケット
河床部はCSGを0.5m、遮水材であるコア材を1.0m、その上に現地発生材で表面保護を1.5m施工する。CSGは基盤面の不陸整正及び遮水を目的とする。
コア材は1×10-5㎝/secの透水性を確保する遮水機能を有している。
表面保護は、コア材の流出防止のため施工する。


図-5 土質ブランケット

3)CSG工法
稲葉ダム建設におけるCSG工法の採用例は、転流水路基礎工、コンクリートフェーシング背面の鞍部CSG、河床部CSGであり、目的、施工の時期、母材の種類、混合方法等を表-1に示す。

表-1 CSG工法

① 転流水路基礎工CSG
CSG工法は稲葉ダムにおいて、当初、転流水路の基礎としてH13、H14に採用したが、その当時はCSGプラントもなく、使用量も少量であったため、河床砂礫を使用しスケルトンバックホウによる混合であった。

② コンクリートフェーシング背面鞍部CSG
H18には移動式破砕機の普及やCSGプラントの改良により、品質が確保されるようになった。
図-6に示すように、コンクリートフェーシングの背面盛土としての強度を有する必要があることから、現地発生材を有効利用し併せて浸透破壊防止を図っている。


図-6コンクリートフェーシング背面鞍部CSG

③ 河床部CSG
河床部CSGは、4 2)③土質ブランケットで述べたように、河床部の遮水を担う土質ブランケットの下に施工し、基盤面の不陸整正を行うとともにコア材の流出を防止しをするため、1×10-4㎝/secの透水性を確保する遮水機能を有している。

5 おわりに

稲葉ダムは、平成15年3月に本体工事に着工し、翌年11月にコンクリートの初打設を行い、昨年の4月19日に打設が完了した。現在、平成22年度の完成を目指して、貯水池対策工を急いで施工している。
本工事において、最小限の投資で最大限の効果を発揮するため、これまでに蓄積された多くの技術や課題を克服するための新技術を駆使し、今後ともライフサイクルコストも含めたコスト縮減に努めて行く考えである。
最後に、本事業の立ち上げから現在に至るまで、多大なるご協力を賜りました関係各位の皆様方に深く感謝するとともに、更なるご指導、ご鞭撻をお願いし、事例紹介を終わります。


 注 1:CSG(Cemented Sand and Gravel)工法とは、河床砂礫や掘削土砂などの
 現地発生材に少量のセメントと水を添加・混合し、材料の強度増加を図るものです。
 建設費の削減や環境への影響負荷を軽減することを目的とした新しい技術である。

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