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矢部川水系星野川柳原(やなばる)地区の斜面崩壊対策について
中島忠
坂本二俊

キーワード:斜面崩壊、河道閉塞、危機管理体制、地すべり対策工

1.はじめに
平成24年7月14日、「九州北部豪雨」により福岡県八女市星野村柳原地区において、長さ約275m、幅約230m、崩壊土砂90万m3の規模と推定される大規模な斜面崩壊が発生し、崩壊土砂により星野川の一部が閉塞され、上流域に水深約5mのせき止め湖が形成された(写真-1,2)。

被災後、崩壊斜面の監視やせき止め湖の水位観測等を福岡県にて実施していたが、崩壊斜面の増破や土壌の移動、出水によるせき止め湖の決壊の危険性が高まったことから、福岡県知事からの要請を踏まえ、平成24年10月に国の直轄砂防事業として採択され、平成24年12月より対策工事に着手した(図-1)。
本稿では矢部川水系星野川柳原地区の大規模斜面崩壊について、危機管理体制や対策工等について報告する。

2.斜面崩壊の発生機構
以下に柳原地区における斜面崩壊の発生機構について述べる。
①元来、地質年代の古い脆弱な中古生層の三郡変成岩類が分布していた。
②このような地盤には、過去の地殻変動や地震などにより、いくつかの弱線が形成されていた。
③地形・空中写真判読、ボーリングコアの破砕状況により、過去にも地すべり滑動が発生していたものと評価された。
④過去に無いほどの豪雨(連続雨量416㎜、時間雨量96㎜)が発生し、大量の地下水が地すべりブロック内に流入することで、地すべり面に作用する間隙水圧が上昇し、大規模な斜面崩壊が発生した(図-2)。

3.対策工事中における危機管理の対応
1)地すべり監視体制
確実な斜面変動の把握や危機管理のために、崩壊地の滑落や亀裂に設置した地盤伸縮計やレーザー距離計、河川水位計、雨量計を用いた動態観測を24時間リアルタイムで自動計測し、変動が生じた場合はアラームメールを自治体、施工業者を含めた関係者に自動配信し、速やかに対応ができる体制を構築して施工を進めた(写真-3)。

アラームメール配信の地盤伸縮計の警報基準値は警戒レベル10㎜/日(避難準備)、避難レベル4㎜/時(避難開始)と設定したが、幸いにも対策工事中において基準値を超える変動は生じなかった。
更に地盤伸縮計等の計器による地すべり監視に加え、各施工箇所毎に光波測距儀を用いた観測点を定期的に測定し、局所的な斜面の変状傾向等を常に把握しながら、対策工作業時の安全確保に努めた。

2)地すべり観測体制
地すべり機構解明や対策工の効果確認のために、地質調査ボーリング孔を利用して、孔内傾斜計を地中部に設置し、すべり面の調査を実施した。地すべり地内外に設置した23箇所を1~2回/月の頻度で継続観測を実施し、当該地すべりの挙動把握を行った(図-3)。

4.対策工の実施
1)対策工の概要
斜面崩壊により河道閉塞が発生している現地において、降雨時に再度災害発生の危険性が高まることから、次期出水期までに行う緊急対策工事とその後の恒久対策工事の段階施工を行うことで、再度の崩壊・河道閉塞の防止を図った(図-4)。
また、地すべり頭部の排土工や河道部の土砂掘削にあたっては、すべり全体の安全率の低下を招かないように各対策工の施工順序を決め、安全率のチェックを常に行いながら工事を進めた。
各対策工の規格・数量は以下のとおり。
■頭部排土工(V=7.0 万m3
■アンカー工
  頭部(n=295基)、河川部(n=168基)
■地下水排除工
 ・集水井工(φ 3500㎜ n=4 基)
 ・集水ボーリング
  (φ 90㎜ 計80本 延べ5,745m)
 ・排水ボーリング
  (φ 135・146㎜ 計6本 延べ411m)
 ・横ボーリング工
  頭部(φ 90㎜ 計41本 延べ2,505m)
  河川部(φ 90㎜ 計26本 延べ520m)
■抑止杭工
(φ750㎜ t=23㎜ L=22~30m n=52本)
■河道掘削工(V=6.0万m3

2)緊急対策工事(H24.12月~ H25.5月)
星野川の湛水状況を解消するため、地すべりブロック頭部において荷重低減のための排土工を先行して行い、その後に河道内の堆積土砂を掘削し、湛水状況を解消させた暫定断面を確保した(暫定河道)。また、地すべりの原因となる地表水を地すべり地内に入れない、且つブロック内の地下水を上昇させないよう、排水パイプで斜面からの地表水を河川まで流下させる仮排水工と地すべりブロック中腹部両側に横ボーリング工を実施した。
暫定河道を確保するための堆積土砂(河道内)の掘削に着手できたのが3月末からであり、出水期前の5月中に完成させる必要があったため、実質2ヶ月と工程が非常に厳しかったことから、仮設護岸は別ヤードで製作可能なユニット式のカゴ護岸を採用して現場での詰め石の作業を無くし工期短縮を図った。また、仮排水路の排水管を埋設したことにより、河床を施工ヤードとして有効に活用したため、緊急対策工事を停滞なく行うことができた(写真.4,5)

3)恒久対策工事(H25.6月~ H27.3月)
地下水排除工として集水井工・集水ボーリング、頭部排土工、切土法面にアンカー工、及び抑止杭工を実施した。更に河川の必要断面を確保するための河道掘削工、河川部の切土法面に対してもアンカー工を実施した。
集水井工は立坑の傾斜を日々測定、確認しながらの施工となったが、特に事前の調査データ等から地盤変位の恐れがある集水井では、施工に先立ちパイプひずみ計を近接箇所に設置し、監視体制の強化を図った(写真-6,7)。

頭部排土工の実施にあたっては、後背すべりを誘発しないように、土木研究所の助言を受けながら排土の効果とリスクを十分検討した上で掘削形状・範囲を決定した(写真-8)。
アンカー工では既設のアンカー荷重計に自動観測計器を設置し、アンカー緊張力を監視することにより、対策工施工中の安全性を確認すると共に対策工の効果も同時に確認できた(写真-9)。

抑止杭の継手には機械式継手(リングジョイント)を採用して、大口径(φ750㎜)で肉厚(23㎜)の鋼管杭の品質確保、工期短縮及び施工管理の簡略化を図った(写真-10)。

5.対策工の効果確認と現在の状況
地すべり発生直後から地表及び地中地盤の変状観測を、地盤伸縮計や孔内傾斜計等を用いて継続的に実施してきた。対策工前には降雨と連動した動きが一部の観測箇所において観測されていたが、対策工完了後は問題となるような動きは観測されておらず、新たな段差や亀裂等の地すべり性の変状発生や異常も無く、安定した状態となっていることを確認した。
現在は平成26 年3月に直轄砂防事業による対策工事が完成し、平成27年3月31日付けで福岡県に施設の引き継ぎを行い、福岡県による維持管理の中で、変状観測も継続して実施されている。

6.斜面崩壊対策完成式の開催
平成27年3月8日に一連の対策工事が完成したことから,工事に御協力いただいた皆様への感謝と地域の方々への報告のために「矢部川水系星野川直轄砂防事業 斜面崩壊対策完成式」を開催した。
完成式は、地権者の方を含む地元関係者、矢部川改修期成同盟会 古賀誠顧問をはじめ、県議会議員、市議会議員、星野小学校児童、工事関係者等を招待し、九州地方整備局筑後川河川事務所と福岡県、八女市の共催で行った(写真- 11)。

式典は、八女市星野総合保険福祉センターそよかぜにおいて行い、オープニングアトラクションとして地元の伝統芸能である星野太鼓を星野小学校の児童が披露し、式典に華を添えて頂いた(写真- 12)。

式典終了後は場所を斜面崩壊対策箇所に移し、くす玉開披及び桜の植樹を行い、最後に地域を代表して地元星野一区の梶原秀喜区長より、関係者へお礼の言葉が述べられた(写真- 13)。

7.おわりに
大規模な斜面崩壊直後という非常に厳しい現場条件下での対策事業が、無事故で完成することができた。これも一重に地域の方々の多大なる御協力と、施工業者や調査・設計業者※1)との協同、更には本省砂防課並びに国総研のご指導の賜であり、関係者の皆様には心から感謝申し上げます。

※1)施工業者、調査・設計業者一覧
  ・㈱大藪組、成央建設㈱、堤工業㈱、㈱廣瀬組、
  日本地研㈱、井樋建設㈱、濱崎建設㈱、
  日鉄鉱コンサルタント㈱、大福コンサルタント㈱

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