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県道八女香春線合瀬耳納(おうぜみのう)トンネル(仮称)の
脆弱区間に対する取組みについて(中間報告)
髙橋大吉

キーワード:合瀬耳納トンネル(仮称)、低強度地山、前方探査

1.はじめに
主要地方道八女香春線は、福岡県八女市の一般国道442号を起点とし、同県田川郡香春町の一般国道322号に至る延長約80㎞の幹線道路である。本路線は、福岡県南部の筑後地域と同県北部の北九州を南北に連絡する道路であり、それぞれの地域の交流や活性化に重要な路線となっている。また、緊急輸送道路としても位置付けられている(図-1)。

しかし、八女市からうきは市にかけての合瀬耳納峠付近は、狭隘、急カーブ等が多く交通の難所となっており、大雨時の土砂災害や冬季の積雪及び路面凍結による通行規制時には、非常に大きな迂回を強いられている。
これらの課題を解消するため、合瀬耳納トンネル(仮称)を計画し、現在、八女市側(1 工区:L = 1,348m)と、うきは市側(2 工区:L = 1,268m)に分けて両坑口から施工中である。
今回は、うきは市側の当初想定されなかった低強度地山の出現による変状に対し原因と対策工の報告、及びDRISS による脆弱区間の前方探査の有効性について紹介する。

2.事業概要
(1)計画諸元
・トンネル延長   L = 2,616m
・道路規格   第3 種第4 級
・設計速度   V = 40km/h
・幅員   W= 5.5m(8.5m)
・内空断面   A= 44.6㎡

(2)工事概要

3.地質概要
事前調査の結果、本トンネルの地質は、合瀬耳納峠付近を境に南北で異なり、八女市側には主に凝灰角礫岩(写真- 1)から構成される火山岩類が分布し、うきは市側には三郡変成岩と称される結晶片岩類が分布していると想定された(図-3)。三郡変成岩は砂質片岩(写真-2)を主体とし、珪質片岩・泥質片岩の薄層を挟む。
八女市側の凝灰角礫岩においては、強度4.0N/㎜2程度の軟岩地山であり、うきは市側の砂質片岩では160 N/㎜2を超える硬岩地山となっている。また、坑口部は急峻な地形であり、トンネル全線にわたり土被りが120 ~ 230mと大きいことが特徴である。

4.設計概要
(1)設計時の支保パターン
設計時の支保パターンと延長を表- 2 に示す。八女市側の凝灰角礫岩部は、事前調査による弾性波速度では高い値を示すものの、①礫部の混入による影響と想定されること、②ボーリング結果が部分的に変質・軟質化している地山性状を示していることを考慮し、基本となる支保パターンをCⅡ-b とした。
うきは市側の砂質片岩部の支保パターンは、ボーリングコアよりCⅠと判定されたが、片理面からの潜在亀裂が発破により解放される傾向がある岩種のため、片岩地山における他のトンネルの施工実績を参考に、CⅠとCⅡ-b の支保パターンに分けて決定した。泥質片岩部及び砂質・泥質片岩互層部の支保パターンは、弾性波速度の結果やボーリングコアの亀裂が多いためCⅡ-b とした。
破砕部の支保パターンは、亀裂に沿った岩塊の剥落が予想され補助工法を組み合わせたDⅠ-bパターンとし、両坑口部はDⅢパターンとした。

(2)断層部の補助工法
事前調査結果から14 の脆弱帯(断層)が想定されており、ボーリングコアの状況により脆弱帯が連続している箇所には小口径長尺鋼管先受工、連続していない箇所には注入式フォアポーリング工を行うこととした。また、うきは市側坑口には長尺鋼管先受工を計画した。

5.低強度地山区間における対策
平成26年7月末より両坑口からトンネル掘削を開始した。八女市側(1工区)については、ほぼ当初設計と同様の地山性状を示したが、硬質な砂質片岩が出現すると想定していたうきは市側(2工区)は、想定していなかった多亀裂で粘土を介在した砂質片岩及び低強度泥質片岩が出現し、鋼製支保工の変位や天端崩落が生じた。これらの変状に対して、段階的な変状対策工を実施し掘削を進めた。今回は変状が生じた箇所の内、代表的な2箇所について原因及び対策工を紹介する。

(1)TD150m及び180m地点(TD:坑口からの距離)
①地質性状
同地点における地質性状は、湧水も少なく砂質片岩が主体であり岩自体は硬質であったが、亀裂が多く粘土を介在しているため切羽地山の自立性は悪い状態であった。TD150m地点では、設計どおりCⅡ-b の支保パターンであったが、TD180m地点では、補助工法として小口径長尺鋼管先受工を行い、支保パターンをDⅠ-b に変更して施工していた。

②変状状況
TD150m付近では、上半支保工建込み後、4基手前の下半掘削時に切羽に向かって左側の肩からSLにかけて内空側へ約200㎜の押し出しが生じた。また、TD180m付近では、上半掘削完了後、7基手前の支保工の右側の肩から下半において、吹付にクラックが生じ、ロックボルト及び鋼製支保工に約150㎜の変位が確認された(写真-3)。変位発生区間は、各々10m程度であった。

③ 発生原因
変位発生区間における切羽面では湧水も少なくスレーキングも認められないことから、油圧式削岩機を用いて切羽側方部断面外の確認を行った。その結果、TD150m付近では左側壁部から6m、TD180m付近では右側壁部から15m以上の粘土を介在する砂質片岩が確認された。また、破砕箇所で針貫入試験を実施し、地山強度比Gn(=一軸圧縮強度/ 単位体積重量×土被り厚)を算出したところGn=0.3となり、地山の押し出し性が大きいと判断した。
以上のような状況から、当該区間の変状は、掘削に伴う後方への緩みの影響により、断面外の側方部に厚く存在する粘土が周辺地盤を支持できず塑性地圧を生じたことが原因であると考えた。

④ 対策工
今回の変状区間の対策として、まず変状発生区間の補強を実施し、安全性を確認した上で切羽再開に必要な対策を検討した。
変状区間の補強として、鋼製支保工の側方変位を収束させるため断面外に確認された粘土を改良する必要があった。対策工としては、地山が脆弱であるためにロックボルトの効果に加えて定着材注入による地山改良効果を期待し、後注入型のロックボルトの採用を検討したが、①粘土に対して削孔水を用いると地山を乱しかえって変位を増大させる可能性がある、②孔壁の自立が難しい等の理由から、削孔水を用いない後注入型の自穿孔ロックボルトを採用することとした。
次に、切羽進行に伴う後方への緩みの影響を最小限にする為、吹付インバートによる早期仮閉合を実施し、変位を抑制することとした。対策工図を図-4に示す。
これらの対策により変位は収束し、切羽進行に伴う異常変位も生じなかった。

(2)TD445m からTD460m 区間
①地質性状
TD445m付近の地質性状は、青褐色から黒褐色の泥質片岩が出現し、掘削時の肌落ちも多く見られた。切羽広範囲に30リットル/分程度の湧水もあるため切羽地山の自立性は乏しく、補助工法としてTD445m地点からは小口径長尺鋼管先受工を行い、TD460m地点では更に長尺鏡ボルトを追加し、支保パターンをDⅡとして施工していた。

②変状状況
TD450m地点で、天端上方及び前方~後方の広範囲にわたってφ 50㎜以下の砂礫状土砂の崩落が発生した(写真-4)

油圧式削岩機により切羽上部を調査した結果、図-5に示すような空洞が発見され、その下には崩落によると思われる堆積土が存在していることが分かった。
更に切羽再開後、TD460m地点で天端上方約5mの抜け落ちが発生した。また、直近の鋼製支保工において内空側へ最大204㎜の変位が生じた。

③発生原因
TD450m地点の天端崩落の原因としては、掘削断面と崩落した砂礫層の間に脆弱な泥質片岩があり、この層の小崩壊により、砂礫層がトンネル坑内に流入したものと推定される。砂礫層は、トンネル掘削外周部にあり予測困難な地層であった。また、生じた空洞には土砂が堆積しており、周辺地山が緩みを伴い崩落したものと考えられる(図-6)。

TD460m地点の抜け落ちの原因としては、切羽前面に人力でも掘削可能な低強度地山が出現したため、切羽鏡面で天端部の荷重を支持できず、鏡面及び天端の崩落が生じたものと考えられる。鏡面及び天端には、補助工法を実施していたが、広く分布している泥質片岩層に粘土が厚く介在し、浸透性が悪いため、掘削面近傍の応力解放範囲(5 ~ 6m程度)にしか補助工法の注入が十分行き渡らず、先端部の改良が不十分となったと考えられる。

④対策工
まず、TD450m付近の対策として、空洞の拡大を防止するためエアモルタルによる空洞充填を行った。その後、砂礫状土砂の流出で生じた緩み領域の改良の為、切羽上部及び後方に注入ボルトによる地山改良工を実施した。改良完了後、天端及び鏡面に補助工法を施工し、切羽前方の安定性を確保した上で掘削を再開した。
次に、TD460m付近の対策として、鏡面及び天端の崩落対策を検討した。鏡面対策としては、補助工法の先端部の改良不良を防ぐため、シフト長を9mから6mへ短縮するダブルラップ方式を採用することとした(図-7)。
天端崩落対策工としては、打設鋼管と天端との離隔を最小限に保つため、鋼管打設角度に合せて鋼製支保工の上げ越し量を増加させていく拡幅方式を採用した(図-7)。シフト長は標準の9mとした。

また、切羽進行に伴う後方の変位抑制として、インバート掘削完了後に吹付インバートによる早期仮閉合を行った後、5m 程度のスパンで本インバート打設を行った。この低強度の区間は約60m続き、施工に3ヶ月を要することとなったが、DRISS等により地質性状を見極めつつ対策を工夫、選択することで、変状を抑制しながら掘削作業を進めることができた。

6.脆弱区間の切羽前方探査
今回の対策工法を検討するにあたり、前方の状況を的確に把握する必要があった。そのため、切羽前方探査としてDRISS を実施した。DRISSは、ドリルジャンボを用いて、1回あたり最大30m程度を削孔し、穿孔エネルギー、穿孔速度、打撃圧等を計測し、地質及び地下水の状況を把握するものである。各切羽面での地質性状が一様でないため、調査箇所は左側、天端、右側の3箇所とした。
まず、切羽観察による切羽評価点と実施支保パターンを比較した。この結果、切羽評価点が30点以下の場合DⅠパターン、30 ~ 35 点でDⅠ又はCⅡパターン、35点以上でCⅡパターンとなっていた。次に、切羽評価点の結果とDRISSにより得られた穿孔エネルギーの平均値の相関を調べた(図-8)

この結果から、DRISSによる穿孔エネルギー値と支保パターンについて比較すると、以下の傾向が見られた。
① 250J/㎝3以下が連続する場合、DⅠパターン
② 250 ~ 350 J/㎝3が連続する場合、切羽状況によりDⅠ又はCⅡパターン
③ 350 J/㎝3以上が連続する場合、CⅡパターン
更に、穿孔エネルギーが連続的に200J/㎝3以下を示し、かつ泥質片岩主体であればDⅡパターン、100J/㎝3以下が連続する場合、補助工法の要否を検討した。
図-9に、TD450 ~ 470mまでの天端で実施したDRISSによる穿孔エネルギー及び切羽評価点を示す。横軸は探査深度、縦軸は穿孔エネルギー及び切羽評価点である。切羽評価点は10点以下と非常に低い値で推移しているのに対し、穿孔エネルギー値は大きく変動しており、部分的にはCⅡパターンの判断基準である350 J/㎝3 以上となっている箇所もある。しかし、いずれも連続性がなく振れ幅が大きいため、地質の状況にばらつきがあり亀裂が多いことが判断できる。特に、穿孔エネルギーが100J/㎝3 以下を示しているTD453 ~ 455m、TD460m付近では、実際の施工においても5.(2)で述べたような脆弱化した地質性状であった。
このようにDRISSの結果から、実際の地質性状の傾向をある程度把握することができると考え、調査結果を先に記した①~③の3段階に分類し、掘削前に確認を行いながら作業を進めることで、落盤等の危険防止を図った。また、DRISSによるボーリング孔は水抜き孔としての効果もあった。
一方、DRISSによる探査の課題としては、①ドリルジャンボでビット径65㎜の穿孔を行う調査のため、調査範囲が限られ本トンネルのように地質性状が各切羽で複雑な場合、3箇所程度調査を行わなければならないこと、②前述したような掘削断面外に脆弱な土質がある場合は、確認が難しいこと、③一回の調査可能範囲が30m程度であることなどがある。
このため、DRISSによる探査と併せて日常の切羽観察などを慎重に行い、今後も細心の注意を払いながら施工を進める必要がある。

7.おわりに
現在(平成27年12月)、両坑口からトンネルを鋭意掘削中であるが、今後は更に土被りが大きくなり脆弱な区間も出現することが想定されるため、慎重な施工が必要になると思われる。安全面に配慮しながら、一日でも早い完成を目指していきたい。
今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報の提供を頂いた戸田・福田・時里JV の工事関係者や合瀬耳納トンネル切羽検討委員会の中川浩二先生をはじめ各委員の皆様に感謝の意を表します。

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