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産官学民の総力戦で道路インフラの維持管理を
九州大学 副学長 大学院工学研究院 教授
日野伸一
「最後の警告―今すぐ本格的なメンテナンスの舵を切れ」何とも衝撃的な言葉が飛び出す。これは、平成26 年4 月に国土交通省の社会資本整備審議会道路分科会から出された「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」の冒頭の見出しである。同省の調査によれば、全国70 万橋と言われる道路橋(橋長2m 以上)のうち、建設後50 年以上経過した橋の数は、平成24 年現在で16%であるが、10 年後には40%、20 年後には何と65%に達し、わが国の道路橋の老朽化は着実に進行し深刻な事態を迎えようとしている。さらに、深刻な事実は、これら70 万橋のうち約75%は市町村道であり、都道府県道や補助国道を加え、地方自治体の管理する橋梁は全体の95%近くを占めるということである。財政的にも、人材的にもきわめて厳しい環境にある地方自治体が、国民の暮らしを支える重要な社会インフラを維持管理しなければならないのである。
以上のような道路インフラの老朽化に対して、今日まで国が何もしてこなかった訳では勿論ない。既に10 年以上も前から、ライフサイクルコストを考慮した計画的な道路橋の維持管理を行うことを提言している。そして、平成19 年度からは、地方自治体管理の道路橋の長寿命化対策を推進するため、「長寿命化修繕計画策定事業費補助制度」を時限措置として実施し、現在まで、ほぼ全国の地方自治体において管理する橋の修繕計画の策定が完了していると推測される。
しかし、問題視されるのは、これら各自治体において、修繕計画に基づく管理橋梁の点検・診断・補修に至る維持管理が計画的かつ継続的に自前で実施できるのか、という点である。財政面に加え、技術および人材面においてもきわめて深刻である。全国の町の約50%、村の約70%の自治体において橋梁保全業務に携わる土木技術者が不在という実態がある。
冒頭に紹介した提言では、道路管理者に対して5 年に一度の近接目視による全数監視という厳しい点検を義務化するとともに、産学官の予算・人材・技術のリソースを全て投入し、道路メンテナンス総力戦の体制を構築することを提言している。これに基づき、国土交通省地方整備局、県市町村などの地方自治体やNEXCO など道路管理者から構成される「道路メンテナンス会議」が各県ごとに組織され、地方自治体への支援について取組みが始まったことは、遅すぎるとはいえ、大変結構なことであり、評価したい。しかし、より具体的な実施体制として、道路管理者に加えて、地域の大学・高専などの研究者および民間の橋梁技術者などの有識者を加えた産官学の支援体制を早急に構築することを切望する。国や地方自治体の職員は定期異動により担当が代わるのに対して、地域の大学・高専などの研究者は比較的異動が少なく地域に在住している人が多いため、中長期的に亘って橋梁などのインフラに向き合うチャンスが多い。また、地域に在住する高度な専門知識と豊富な実務経験を有する民間技術者の活用もきわめて重要であると考える。
同時に、少子高齢化し財政的に厳しい中で、これら社会インフラの維持管理に投入しなければならない公共事業費に対する国民・地域住民の理解向上、住民参加による維持管理の推進なども重要である。九州は、各地域において、地域住民の参加による道守活動が活発に展開されており、まさにこれを好例として、日常のモニターとして道路インフラの維持管理に貢献して戴くことができれば幸いです。社会インフラは国民の資産であり、これを適正に活用し維持管理する権利と責任は国民あるいは地域住民にあるといえる。まさしく、これからの社会インフラの維持管理は産官学民の総力戦で取り組んでいく必要がある。

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