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球磨川(球磨村渡)の導流堤施工における
景観に対する工夫について
山代高典

キーワード:導流堤、景観、自然石

1.はじめに
今回工事を行った球磨村渡地区は人吉盆地最下流端の山間狭窄部入口に位置しており、球磨川流域内でも特に浸水被害が多発している地区であることから、浸水被害軽減対策として導流堤による対策を行ったところである。
また、当該地区は鮎釣り場として有名かつ舟下りやラフティングのコースであり、河川内に人が入る機会が多い場所であることから、河道内に設置する導流堤は、観光資源球磨川の一部として景観、生物への配慮が必要となる。

今回、平成26 年3 月に完成に至った導流堤の施工における取り組みについて報告する。

2.浸水被害と改修上の課題
当該地区は熊本県が管理する支川小川が球磨川に合流する場所に位置しており、度重なる家屋浸水被害に見舞われている。
浸水被害の要因としては、球磨川本川の水位上昇に伴って小川への背水による小川無堤部からの外水はん濫、また渡地区を取り囲む山地部からの雨水流入、及び地区外の雨水を運んでくる農業用水路等による内水被害が相まって発生していると考えられる。近年で最も大きな被害をもたらした平成17 年9 月出水における浸水区域と被害要因を図-1に示す。
支川の堤防整備にあたっては、管理者である熊本県が鋭意改修を進めているところであるが、合流点の無堤部においては、桁下高の低い国道219 号橋梁及びJR 橋梁の嵩上げが伴い、長い期間を要することから、できるだけ短期的に効果が発現できる対策を検討する必要があった。

3.導流堤計画
支川小川の水位上昇を促している要因としては、小川合流地点で球磨川の河幅が大きく膨らんでいることから球磨川本川の流速が低下する河道形状であること、また小川は球磨川本川にほぼ直角に合流する地形であるため洪水が流下しにくいことなどが考えられる。
従って、球磨川及び小川合流部における洪水流の円滑化を図ることで、水位低減対策を講じることが可能と考えられた。検討の結果、この方策として、導流堤設置を行うことが最も効果的であるとされている。

4.導流堤の設計
導流堤の諸元設定にあたっては、効果を適正に評価できる手法として水理模型実験が実施された。
複数のケースにより実験を重ねた結果、支川小川の水位低減効果及び球磨川本川上下流・対岸への影響を考慮して、「導流堤長L= 150m、導流堤高T.P.+94.5m(地盤から約8m)」が最も適していると判断された。これによる水位低減効果は、近年最も大きな被害をもたらしたH17.9 出水相当の水量において、合流地点で約1m である。
なお、この水理模型の製作・実験にあたっては熊本高等専門学校と協働で実施したほか、球磨村議会議員及び渡地区地元住民を対象に公開模型実験を行い、合意形成のツールとして活用されている。

5.導流堤の構造と景観
導流堤の形状は、図-3、4のとおりである。
護岸材料は、当該箇所が様々な粒径の転石からなる河川敷であり、また周囲の住宅の塀も石積みとなっており、この風景との調和を目指し自然石を使用している。
導流堤の周囲には同じく自然石を連結した根固工を設置し、さらに水際に変化を持たせるため、現地発生の石材により水制工を配置している。

6.導流堤の施工における取り組み
導流堤の施工において、より良い景観を目指した現場での取り組みについて紹介する。

6.1 石材の選定
今回使用した石材は熊本県宇土産のものを使用しているが、選定にあたっては近隣の産地でコストと風合いを比較している。
風合いは年月が経つと変化するため、実際にその石材を使用した場所で確認を行い、導流堤の将来的な風合いを見越して選定を行った。

6.2 仕上げイメージの共有
出来映えで重要となる自然石の積み方について、発注図面の中で施工要領図として施工手順や石積みの禁手など留意点について記載したほか、さらに着手前の段階で積み方の注意事項や、事例の写真による参考イメージの資料を作成し、現場代理人や施工者とイメージの共有を図っている。資料を図-5、6に示す。
特に意識したのが角の通りを良くすること、表面をなるべく平坦に仕上げること、隙間からコンクリートを見せないことであり、良い仕上げとすることができた。

6.3 部分模型の作製
仕上がりが図面でイメージしづらい所は部分模型を作成し、形状を確認している。
写真-6は既設堤防との取付部の模型だが、勾配や横断方向の角度が異なる施設との取付であったため、端止工の形状や、滑らかに擦り付いているかを確認するため作成した。取付部は特に被災を受けやすい所でもあるので、水が乱れないよう滑らかにすることを心掛けた。
また写真-8は導流堤先端部の模型だが、法線が曲がりながら勾配が変化する形状であり、施工に苦労した所である。模型により形状をイメージし易くするとともに、丁張りを密に設置することで対応を行った。

7 今後のモニタリング
導流堤の設置により、洪水時の川の流れが変わり、河道が変化することが考えられる。
水理模型実験(移動床モデル)において、概ねの洗堀傾向、堆積傾向の場所についての検討は行っているが、完全には把握できていない。
このため、今後の河道変化についてモニタリングが必要となる。
特に舟下りや鮎釣りへの影響に大きくかかわる瀬の位置や澪筋の変化や、既設堤防に影響を与えるような洗堀や河床低下の状況について、定期・定点的な観測が必要と考える。
また、導流堤の水位低減効果についても、実洪水において検証を行う予定である。

8.おわりに
今回、より良い景観を目指し、様々な取り組みや丁寧な施工を行い、球磨川初の導流堤の完成に至った。
また、設計から1 年7 ヶ月で完成に至り、早期に効果を発現することができた。これは、設計段階の公開模型実験などによる合意形成への取り組みや、施工段階における地域や河川利用者に対する丁寧な取り組みの結果、事業が円滑に進んだことも大きかったと考えている。
今後、導流堤が球磨川の名所となり、また十分な治水効果を発揮することを期待する。

<工事概要>
工事名:渡地区付属施設工事
発注者:国土交通省九州地方整備局 八代河川国道事務所
設計者:パシフィックコンサルタンツ株式会社
水理模型実験(協働):熊本高等専門学校
施工者:三和建設株式会社
施工場所:熊本県球磨郡球磨村渡地先
工事工期:平成25 年6 月~平成26 年3 月

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