一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
犬鳴ダム建設事業の経過

福岡県土木部犬鳴ダム建設事務所
工務課主任技師
荒 殿  宏

1 はじめに
犬鳴ダムは,福岡市の北東約20km,県道主要地方道福岡・直方線の犬鳴峠の北東約2kmに位置し,犬鳴川に建設する犬鳴川総合開発事業の一環をなす多目的ダムである。犬鳴川は,西山(標高645m)に源を発し,若宮町,宮田町を経て直方市に至り,遠賀川と合流する流路延長約23km,流域面積163km2の一級河川である。
当ダムは,昭和43年度から予備調査を開始し,昭和47年度多目的ダム建設事業として採択され,昭和63年6月本体工事に着工,平成3年11月にコンクリート打設を完了し,平成4年12月1日から試験湛水を開始した。平成7年3月で事業完了予定である。
本文は,犬鳴ダム建設事業の計画から,施工,試験湛水に至るまでの経過について,周辺整備を含めて,その概要を述べるものである。

2 事業計画
(1)犬鳴ダムの概要
犬鳴ダムは,遠賀川水系犬鳴川総合開発事業のとして,高さ76.5m,総貯水容量500万m3,有効貯水容量485万m3で,洪水調節,流水の正常な機能の維持および都市用水の供給の目的のため有効に運用される。
(2)ダムおよび貯水池の諸元(表ー2)

(3)洪水調節計画
犬鳴川は,洪水のたびに甚大な被害を受けており,特に昭和28年6月の梅雨前線による豪雨のため,数ケ所にわたって破堤越流し,各地区に多大な被害をもたらした。これらの被害を防ぐために,治水対策として洪水調節を行うものである。
基本高水流量は,河川の重要度,河川の開発度から勘案し1/100確率年とし,雨量は計画2日雨量480mmとし,貯留関数により流出解析を行った。その結果,基準点における基本高水流量は690m3/sとし,これを犬鳴ダムによって調節し,洪水調節後の基本高水流量を650m3/sとした。
洪水調節方法は自然調節方式とし,ダム地点における計画高水流量100m3/sのうち70m3/sの洪水調節を行い,30m3/s(最大35m3/s)を放流するものである。これに要する洪水調節容量は137.5万m3となり,約20%の余裕を見込んで,洪水調節容量は165万m3とする。

(4)流水の正常な機能の維持
犬鳴川からの灌漑用水は,流域面積約1,784haに及ぶが,昭和35,36,41,42年としばしば干ばつに悩まされているので,これに対する渇水補給を行うものである。
現況の既得用水に対して,昭和30年から49年までの20年間の補給計画を行い,渇水第2位(昭和36年)を計画渇水年として補給することとして,それに要する容量は210万m3とする。
(5)都市用水の供給
上水道計画は,将来の需要量計算により宮田町に3,500m3/日,若宮町に1,500m3/日を供給する。また,工業用水計画は,水需要計算により宮田団地などに16,130m3/日を供給するものである。
これに要する容量は,昭和30年から49年までの20年間の第2位(昭和36年)を計画渇水年として,110万m3とする。
(6)総貯水容量
有効貯水容量は485万m3とし,これに流域の状況および近傍ダムの実績等を考慮し,比推砂量を250m3/km2/年として推砂容量15万m3を確保し,総貯水容量は500万m3とする。

3 ダムサイトの概要
ダムサイトは,南流する犬鳴川が大きく蛇行し,東流に変化する狭窄部に位置する。ダムサイト周辺はV字谷をなし,左右岸の斜面傾斜は45°~60°と急斜面である。
ダムサイト周辺の基礎岩は,三群変成岩類の塊状の緑色片岩を主体とし,一部これに貫入する変ハンレイ岩があり,これらを覆って未固結な段丘堆積物,崖錐堆積物および現河床堆積物が分布する。

4 施 工
(1)骨材採取製造設備
当ダムの骨材は,ダムサイト上流約1.6kmの原石山から採取する。8mのベンチカット工法により採取した原石は11tダンプトラックにより骨材プラント(1次破砕機)まで運搬する。
骨材製造設備は,ダムサイト上流約900m地点に1次プラント,それより300m下流に2次,3次および製砂の各プラントを配置し,1次プラントは乾式,2次以降は湿式とした。ここに排土スクリーンを設置して,岩に付着している粘土分を取り除いた。
次に,ロッドミルで製砂後,スクリュークラッシファイヤーで分級後,水辺スクリーンを設置したことで,最終砂の表面水量を6%に押えることができた。また,粗骨材を再水洗スクリーンに通すことにより,表面水量の一定化を図ることができた。

(2)コンクリート配合
コンクリートの示方配合は,骨材試験および試験練りの結果,下表のように決定した。なお,セメントはスラグ量50%の高炉セメントB種,混和剤はサンフローR,ポゾリスNo.8を使用した。

(3)コンクリート打設設備
当ダムでは,上流トレッスル走行式タワークレーンでコンクリート打設を行い,タワークレーン1台で堤体の全打設をカバーした。
走行式タワークレーンは,ダムの打設設備としては実績のある固定式のタワークレーン(9.5t×75m)の下部に走行架台と駆動装置を取りつけ,改良したものである。走行速度は,20m/minで40~60m3/hの打設能力がある。このクレーンに自動化されたトランスファーカーやバケット受台車を組み合わせ,ダム建設におけるコンクリートの生産から運搬,打設までの工程にかかわる作業を,すべて自動化した。
この打設システムを採用した利点として,コンクリートの放出時のリバウンドがほとんどなかったため,品質上,安全上好ましかったことや,クレーンの運転席が高所にあるため,吊り桁の状態を最後まで運転手が視認できたことなどが挙げられる。また,コンクリート打設設備のすべてを貯水池内に納めたことにより,環境保全上も好ましい工法であった。

(4)基礎処理
a)コンソリデーショングラウチング
孔配置については,掘削面の岩盤が亀裂性岩盤であり,透水性は概ね2~10Luである。よって,過去の実績から,5.0m格子の中央に2次孔を配置したパターンで施工した。孔長については,掘削面および高角度の断層を考慮し,掘削面から純かぶり5m程度確保するため,鉛直方向に対し10mとした。2次孔施工後,最終規定孔で改良目標値5Lu,規定セメント量30kg/mを満足した場合に完了とした。
b)カーテン・リムグラウチング
孔配置については,岩盤性状,ダム基礎の透水性およびグラウチングテスト結果等より孔間隔を1.5m,上・下流間隔を0.5mとし,後列は追加孔とし千鳥型とした。孔長については,改良目標2Luに達しない範囲およびサーチャージ水位と地下水位が交わる範囲を目安とした。チェック孔が,改良目標値2Luに対する非超過確率85%に達した場合を完了とした。

5 試験湛水
(1)試験湛水の概要
平成4年12月1日に,堤内仮排水路へ締切ゲートを降ろし,試験湛水を開始した。当ダムの試験湛水計画は,次の通りである。
① 平成4年12月1日,EL158.0mから水位を上昇させ,12月中旬に最低水位EL178.0mに到達する。ダム本体および貯水池の状況を点検,各種試験および調査測定を実施し,安全を確認するため2日間水位を維持する。
② 12月中旬から1m/日の水位上昇を限度に水位を上昇させ,平成5年4月下旬にEL208.9mに到達する。
③ 6月上旬から8月中旬までの洪水期間は,最低水位EL178.0mまで1m/日を限度に水位を下降させ,水位を維持する。
④ 8月中旬から9月下旬までは,旬別の計画対象雨量390mm/2日の降雨があっても経験水位を上回らないEL190.6mに水位を維持する。
⑤ 10月上旬から再び水位を上昇させ,平成6年4月中旬に常時満水位EL217.2mに到達し,水位を7日間維持する。
⑥ 4月中旬から水位を上昇させ,5月中旬にEL220.2mに到達する。
⑦ 洪水期間に経験水位を上回らないことを原則に水位を維持する。
⑧ 平成7年3月中旬にサーチャージ水位EL225.5mに到達し,2日間水位を維持し安全を確認した後,1m/日の水位下降を限度に水位を下降させる。
⑨ 3月下旬に常時満水位に到達し,2日間水位を維持し,試験湛水を完了する予定である。
(2)試験湛水における監視体制
湛水期間中は,堤体内およびダムサイト周辺部を1回/日巡視を行う。また,管理用計測計器で揚圧力・漏水量・コンクリート温度・ダムのたわみ・ダム基礎岩盤の変位量等を測定する。

6 周辺整備
(1)周辺整備の概要
当ダムの建設により,ダム湖(司書ししょうみと名付けられた)という新しい空間が創出された。この空間と当ダムの特徴である下記の3点を考慮して,周辺整備を行った。
① 幹線道路(県道主要地方道福岡・直方線)からアプローチしやすい。
② ダム奥には,御別館跡地・製鉄所跡地等の史跡がある。
③ ダム本体と犬鳴大橋,周辺の渓谷,森林といった極めて特徴あるランドマークが形成されている。
(2)周辺整備の方針
整備する施設面積の大小,施設内容,観光対象の有無等により,機能を下記の3種類に分類した。
a)展望園地
ダムや周辺の風景を楽しみ,休息や観覧を主体とした機能の施設で,人が集まりやすく景観の良い場所である。施設の内容は,展望広場,便益施設,駐車場,ダム資料館等である。
b)多目的園地
若宮町はもとより,福岡市,北九州市等の周辺市町村住民の利用を想定し,1ha程度の規模の広場である。施設の内容は,教育(野外学習・遠足),観光(ダム見学・史跡めぐり),レジャー(魚釣り・ピクニック)等のできるものである。
c)修景園地
ダム周回道路建設により創出される空間を,休息地として利用するとともに,法面等に景観を考慮した植栽を施工した。

7 あとがき
本文は,犬鳴ダム建設事業の経過についてその概要を述べたものであるが,資料の不足と拙文のため理解しにくいものになったかもしれない。関係者の方々に少しでも参考になれば幸いである。
現在,犬鳴ダムは試験湛水中で,日々観測を行っている。平成7年3月で,事業は完了予定であるが,犬鳴ダムが地域住民に,貢献していくことを期待する所存である。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧