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特定構造物改築事業『大刀洗水門改築』

国土交通省 九州地方整備局
 筑後川河川事務所 久留米出張所 所長
野 村 真 一

1 筑後川流域の概要と治水の歴史
《流域の概要》
筑後川は,その源を熊本県阿蘇郡瀬の本高原に発し,高峻な山岳地帯を流下して日田市において,くじゅう連山から流れ下る玖珠川を合わせ典型的な山間盆地を形成し,その後,再び峡谷を過ぎ,佐田川,小石原川,巨瀬川,宝満川等多くの支川を合わせ,肥沃な筑紫平野を貫流し,さらに,早津江川を分派して,有明海に注ぐ,幹川流路延長143km,流域面積2,860km2の九州最大の一級河川であり,その流域は,熊本県,大分県,福岡県,佐賀県の4県にまたがっている。

《洪水の歴史》
筑後川の歴史は洪水と治水の歴史である。明治以前の史実に残る一番古い洪水は大同元年(806年)で,「太宰府内で水干,悪疫,田園荒廃のため,筑後の国一ヶ年田粗を免ぜられる」とある。さらに,天正元年(1573年)から明治22年(1889年)に至る316年間に183回の記録がある。
明治以降についても度々洪水が発生し,明治22年7月の佐賀新聞は「小高き山に上り見渡せば,久留米瀬ノ下より千歳川を交えて此の方は森梢家等のみ漸く見えたるも他は漫々たる洪水の漲れるのみ,其の幅5里長さ10里以上に奔流せり」と述べており,その規模の大きさは想像に絶するものである。昭和28年6月には,古今未曾有と称される程の大洪水が発生し,流域内の被災者数は実に54万余人といわれ,死者147人に達する悲惨な大水害であった。
この大水害において,筑後川の中流部に位置する右支川大刀洗川の合流部,大刀洗水門の直下流においても堤防が破堤し,広範囲におよぶ氾濫被害を与えている。

2 大刀洗水門改築の必要性
大刀洗水門改築に至った経緯は大きく3つに区分される。

① 施設の老朽化により管理精度の低下が懸念
この水門は,太平洋戦中の昭和17年に建設され,既に60年以上が経過し,耐用年数とされる50年を大きく超過するとともに,門柱部等のコンクリー卜破損により主鉄筋の腐食等老朽化が深刻化している。

《老朽化状況》
➡鉄筋腐食やひび割れ等が約90箇所発生
➡鉄筋の断面欠損が著しく,鉄筋応力度は既に許容応力をこえており,構造耐力性は限界状態
➡コンクリートのひび割れは22箇所,その幅は0.2mm~2.0mmと大きい
➡コンクリートの剥落及び浮きは,56箇所発生し,鉄筋のかぶり厚さが不足

② 筑後川本川堤防としての機能の確保
大刀洗水門付近は,堤防の高さ及び堤防断面が不足する弱小堤であるとともに,蛇行する河道の水衝部となっており,周辺の一連区間で最も弱小部であることから,大刀洗水門の改築と同時に周辺弱小堤の解消が急務となっている。
《周辺の状況》
➡水門部は周辺の堤防より約1.2mの高低差
➡緊急対策特定区間(久留米市街部)として引堤事業を進めている大杜地区が完成した場合,最も危険な箇所となる

③ 背後地の高度利用と支川大刀洗川改修の効果発現
この水門で筑後川に合流する右支川大刀洗川の流域は,内水常襲地帯であり,これまで幾度となく浸水被害を受けている。
また,この内水域は国道322号の開通により対岸の久留米中心部とのアクセスができたことにより宅地化が進むとともに,久留米市のテクノポリス開発計画により新産業団地が整備されるなど,人ロ・資産ともに増大している。
このため,福岡県により昭和62年度より「局部改良事業」,平成14年度からは「総合河川改修事業」として大刀洗川の改修を進めており,平成18年度の暫定完成を目指しているところであるが,この改修により大刀洗川の流下能力最大のネックとなるのが,本川合流部に位置する本大刀洗水門であり,現水門の流下能力は大刀洗川の計画流量185㎥/sに対して62㎥/sと流下能力不足が顕著であり,水門の改築を行うことにより,大刀洗川改修事業効果の早期発現を図るものである。

3 特定構造物改築事業「大刀洗水門改築」
前述のとおり,現大刀洗水門の老朽化や筑後川本川の治水機能確保,大刀洗川流域の高度利用に伴う治水安全度向上のため,本大刀洗水門の改築を「特定構造物改築事業」とし,平成15年7月に川表の二重式仮締切及び仮橋(堤防天端兼用道路付替えと併用)の設置に着手したところである。
現在,水門本体部のコンクリート打設をほぼ完了(H17年3月末進捗率約73%)しており,今後は支川大刀洗川の改修河道との取付け,旧水門の撤去及び旧河道の閉塞を実施し,平成18年度の事業完成を目標に進捗を図っている。

4 さいごに
この大刀洗水門改築に先立ち,併設される内水排水施設大刀洗排水機場の機能高度化型更新(リファイン)を平成15年度に完了している。
このように,水門・排水機場・支川改修が一体として実施されることにより,支川大刀洗川流域更には,筑後川の中流域の治水安全度が飛躍的に向上し,高度利用が進むこの地域の発展と地域の活性化に寄与するものと期待している。

◎大刀洗川の名前の由来
時は1359年,南朝である菊池武光と北朝の小弐頼尚が,九州最大級ともいえる大原の合戦で死闘を繰り広げていました。南北朝という不安定な混乱の時代にあって,去就判断に苦しみ,めまぐるしい離合集散を繰り返す他の武将とは違い,一貫して南朝を補佐し続けた菊池武光。
日本史に燦然と名を残すこの名将が,自ら抜いた太刀の血を洗い流した川を大刀洗川と称すようになったとのことです。

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