一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
熊本地震における国直轄河川管理施設での対応
坂井佑介

キーワード:熊本地震、河川堤防・ダム、災害復旧、堤防調査委員会

1.はじめに
熊本県を震源とし震度7 を記録する地震が平成28年4月14日及び16日に2回発生した。この地震により、熊本県内の国直轄の河川管理施設において様々な変状が発生した。本稿では、その変状の概要とこれまでの復旧工事等の対応について報告する。

2.河川堤防等における対応
2.1 概要
平成28年4月14日21時26分に熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し、熊本県上益城郡益城町で震度7を記録した。この地震直後より、九州地方整備局では、震度5弱以上を記録した国直轄で管理している河川4水系(緑川、白川、菊池川、球磨川)の一次点検を行い、翌15日に早朝より二次点検を行った。この点検の結果、堤防の沈下や堤防天端のひび割れなどの変状を確認した。また同15日には、九州大学、名古屋工業大学、国土交通省国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人土木研究所の専門家による現地調査を実施し、変状のメカニズムや対策工法等に対する技術的指導を頂いた上で、21時30分より緑川水系の3箇所で緊急復旧工事に着手していた。
このような対応のさなか、平成28年4月16日1時25分に再び熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生し、熊本県阿蘇郡西原村、上益城郡益城町で震度7を記録した。この地震を受け、再び震度5弱以上を記録した国直轄で管理している河川12水系(遠賀川、大分川、大野川、番匠川、球磨川、緑川、白川、菊池川、矢部川、筑後川、嘉瀬川、六角川)の点検を行い、同16日の16時までに点検を完了した。この点検の結果、緑川水系で127箇所、白川水系で44箇所、菊池川水系で1箇所において、堤防天端の亀裂や堤体の沈下などの変状を確認している(図-1、2)。
なお、上記の2回の地震以降も震度4以上の余震が繰り返し発生しているため、継続的に点検を実施しているが、新たな変状や変状の拡大は確認されていない。

2.2 変状箇所の復旧
変状箇所の復旧ステップのイメージを図-3に示す。まず地震発生直後より緊急点検及び応急対策を実施し(STEP1)、梅雨期までに亀裂部分を切り返し再盛立てを行う緊急的な復旧工事及び早期警戒避難体制の構築を行い(STEP2)、沈下やはらみ出しが生じた堤防を被災前の機能に戻す本復旧工事を平成29年度梅雨期までに完了する(STEP3)こととした。

以下、復旧ステップに沿った具体的な復旧工事等の対応を記す。STEP1の応急対策として、緑川水系、白川水系、菊池川水系で確認された計172箇所の変状のうち、比較的変状の小さな箇所については、砂充填やセメントミルク注入によるひび割れの補修等を実施した。
STEP2として、堤防の機能が低下していると考えられる比較的変状が大きい緑川水系の11箇所について、事業費7億円の財務承認を得て、4月17日より緊急復旧工事に着手した。緊急復旧工事では、主に亀裂が到達した深さまでの堤体の切り返しを実施している。工事は災害協定締結企業により24時間体制で実施し、夜間の工事においては、九州地整内及び他地整から派遣された災害用照明車13台(九州地方整備局:5台、中国地方整備局:6台、近畿地方整備局:2台)を活用した。また、水防用に備蓄している資材を活用するとともに、迅速な資材運搬のため、通行止めとなった九州自動車道(植木IC ~益城IC)区間について、資材運搬車を緊急車両に指定して通行可能にするなど、早期の緊急復旧工事完了に努めた(図-4)。これらの関係者の努力により5月9日に11箇所の緊急復旧工事を完了した。
その後、STEP3として、詳細な測量や地質調査を行い、堤体の沈下やはらみ出しが確認された箇所について、事業費約74億円をもって、白川水系の12箇所(延長約18km)、緑川水系の40箇所(延長約27km)で本復旧工事を実施することとした(図-5)。現在は、白川水系で8月7日、緑川水系で8月27日より本復旧工事に着手し、平成29年度梅雨期までの完成を目標に工事を進めているところである(写真-1)。

2.3 緑川・白川堤防調査委員会の開催
九州地方整備局では、河川堤防の復旧を進めるにあたり、熊本地震により被害を受けた堤防等の河川管理施設の変状原因の究明を行い、変状状況に応じた堤防復旧工法等を検討することにより、堤防の安全性を高め、もって再度の災害の防止に資することを目的として、緑川・白川堤防調査委員会を開催している(表-1)。これまで、第1回を5月6日、第2回を6月10日、第3回を11月14日に開催した(写真-2)。

第1回では、堤防等の変状の概要とその形態について報告するとともに、本復旧工法の考え方及び今後の地質調査計画、ソフト対策についてご議論いただいた。委員よりいただいた主な意見は以下のとおりである。
<本復旧工法の考え方について>
・「河川構造物の耐震性能照査指針」及び「河川堤防の液状化対策の手引き」の考え方を基本として検討する。
・土堤の変状箇所について、浅い天端亀裂など変状が軽微な箇所に関しては亀裂等が確認された範囲などの部分的な切り返しによる復旧とする、天端の沈下が見られ堤体がゆるむなど変状の程度が大きい箇所に関しては堤体全体の切り返しによる復旧とする、軽微な変状と程度の大きい変状に区分する考え方を整理しておく必要がある。
※このほか、特殊堤の変状箇所、樋管等構造物の変状箇所についても、変状の事象と程度に応じた工法についてご意見を頂いている。
<調査計画について>
・土堤の必要な地質調査の実施に加え、例えば開削調査で地盤の状態を確認し外形の変状との比較を行うことは、土堤の変状区分の考え方の確認やソフト対策のさらなる改善にも有効。
<ソフト対策について>
・変状を如何に早くとらえて適切に対応するかが重要であり、異状の程度によっては緊急的な補修等のハード対策も必要。外見上変状が見られない箇所も注意が必要。

第2回では、熊本地震による外力の分布と堤防等の変状の関係と本復旧の考え方についてご議論頂いた。熊本地震による外力の分布と堤防等の変状の関係については、
・加速度応答スペクトルや最大加速度により、直轄管理区間の大半がレベル2規模地震動相当の地震動を受けた可能性があること
・堤体変状による沈下後の堤防高は、すべての区間で照査外水位を下回っていないこと
・今回の事象は「河川構造物の耐震性能照査指針」に基づき取り組んできた耐震対策の考え方における、レベル2地震動に対する耐震性能を満足する範囲内の変状であったこと
をご確認頂いた上で、熊本地震による外力と変状の整理・分析について、委員より主に下記のご意見を頂いている。
・既存の耐震対策の効果については、対策時に実施した地質調査結果を活用し確認すること。また、築堤の際の側方流動による沈下への対策として矢板を併設している箇所は、それも含めた効果の分析を試みること。
・沈下量やクラック、はらみ出し等の基礎データについては非常に重要であり、適切に整理すること。まずは、東日本大震災後に東北地整で整理された変状形態の6分類(沈下量、クラック深、はらみ出し等)の整理を行うこと。
また、本復旧工法の考え方にとして、施設が地震前と同じ機能を果たすことを目標に、堤防については、
・堤防復旧の際の堤防高さについて、高潮区間は地震前の標高まで戻すこと、自己流区間は広域的な地盤沈下を除く堤体の沈下量を元に戻すことを基本とする。
・堤防に生じたクラックやゆるみ等に対する復旧については、変状の程度に応じた対策を行う。
樋管については、
・本体の損傷の程度や、抜け上がりによる空洞化及び樋管周りのゆるみ域等の有無を確認し、必要な対策を行う。
とする考え方を示した上で、変状の事象と程度に応じた土堤区間、特殊堤区間、樋門・樋管それぞれの概略的な対策工法(案)についてご確認頂いている。

第3回では、開削調査による堤体断面とトレンチ調査による基礎地盤を現地で視察した後、ボーリングや開削調査等を踏まえた本復旧工法、本復旧工事完了後の次期出水期の警戒避難体制の見直しの考え方についてご確認頂いた(写真-3)。また、今後とりまとめる委員会報告書へ反映させるべき内容について、下記のとおりご意見を頂いている。
<本復旧工法について>
・今後の知見のため、堤体全切返し等大規模な対策を行う目安(閾値)の検討過程を、堤体のはらみなどの情報も含め整理し、記録として残す。
・堤体の切返しは、堤体の強度や浸透に対する機能向上があることを記載する。
・液状化層が一部残る堤体半分など部分的に切返す箇所の妥当性について整理する。
・変状の無い又は軽微な箇所も含めたモニタリングについて、対策工と併せて記載する。
<今後のソフト対策について>
・ソフト対策の実施期間について明記していない対策については実施期間を記載する。
・本復旧以外の箇所においては、はらみ出しや沈下等の確認を今後3年間測量でモニタリングを行う提案だが、MMSやドローンの活用、グリーンレーザー測量など、省力化や効率化が可能な新技術の導入も視野に検討する。
・白川の堆積土砂は浚渫を行っているが、そういう前提を踏まえたソフト対策である事が分かるようにとりまとめる。
・堰周りの空洞調査も必要に応じ実施し確認する。

2.4 地震後の出水等への対応
白川水系の上流域である阿蘇地方では、地震により阿蘇大橋地区における大規模な山腹崩壊を始めとして、数多くの土砂災害が発生した。このことから、白川では洪水に備えて、上流から流下し河道内に堆積した土砂や流木の撤去を実施している。特に、6月20日からの大雨では、橋梁等に流木が堆積したため、緊急的な撤去作業を行った(写真-4)。今後も、河川巡視や監視カメラにより堆積土砂や流木の監視を行い、適宜撤去していきたいと考えている。

3.ダムにおける対応
3.1 概要
平成28年4月14日の地震直後より点検を行ったところ、震度4以上で点検対象となった国直轄管理の5箇所のダムで変状は確認されなかったが、平成28年4月16日の地震後の点検で再び7箇所のダムで点検を実施したところ、緑川ダム(熊本県下益城郡美里町)で脇ダム天端舗装のクラックが確認された(写真-5)。このことから、ダム施設の安全性や健全度についてご意見伺うべく、国土交通省国土技術政策研究所、国立研究開発法人土木研究所の専門家による現地調査を実施した。調査の結果、クラックの開きは比較的小さく、また堤体の外観や計測データにも異常は認められないことから、安全性への影響は比較的小さいと考えられる、との所見を頂き、ダム管理に支障がないことが確認された。

3.2 変状箇所の復旧
緑川ダムの脇ダム天端舗装のクラックについては、クラック箇所に石膏水を充填し、表面を防水処理することで緊急的な復旧を行った。その後クラック深さの調査を行い、最深部までを撤去・再構築を行うこととしている。

3.3 立野ダム建設予定地周辺の状況について
現在建設中の立野ダムでは、仮排水路トンネルを施工していたところに熊本地震が発生した。この地震及びその後の出水により、仮排水路トンネルの上流側が土砂埋塞、斜面崩壊による工事用道路の埋没、仮橋の落橋等の施設被害が発生した。一方、地震発生直後からダムサイト及び周辺の調査を行ったところ、ダム本体の建設予定地付近で地表層のはがれ落ち以外に大規模な崩落は発生していないこと、ダム本体の建設予定地直下の地盤を横断するような活断層は確認されていないこと、ダムの基礎岩盤として支障となるような変状は横坑内で確認されていないこと、などを把握した。これらの調査結果から、ダムを建設する上で支障となる情報は得られなかったが、地震の規模が大きかったことを踏まえ、ダムサイト予定地の基礎岩盤の状況等を調査・検討し、技術的な確認・評価を行うことを目的に、立野ダム建設に係る技術委員会を開催した(写真-6)。

委員会は、第1回を7月27日、第2回を8月3日、第3回を8月17日の計3回を開催し、委員会において「熊本地震後も立野ダムの建設に支障となる技術的な課題はなく、立野ダムの建設は技術的に十分可能であると考えられる」等との結論を得ている。この結果を受けて、熊本地震及びその後の出水による施設被害の復旧に全力を挙げ、平成29年度の本体工事の着手を目指すこととしている。

4.おわりに
熊本県では平成24年7月九州北部豪雨災害で甚大な被害が発生しており、激特事業や立野ダム建設などによる災害からの復旧・復興と抜本的な治水対策を進めているところに熊本地震が発生した。度重なる災害を受け、早期の復旧・復興と治水安全度の更なる向上に対する地元からの期待に、九州地方整備局として全力を挙げて取り組む所存である。
4月14日、4月16日の2回の震度7を記録した地震後も、断続的に震度4を超える地震が発生しているが、現在のところ、国直轄の河川管理施設において、本稿に記述した以外の新たな変状や変状の拡大は確認されていない。また、熊本地震発生後、6月20日からの大雨を始めとして、今期出水期中に白川で16回、緑川で36回の洪水時巡視を行っているが、これまで堤防の越水はなく、また漏水等の異常も確認されていない。今後も、堤防の変状等については注意深く監視する必要があるが、ひとまず今出水期を乗り越えられたと考えている。これもひとえに、全力で復旧にあたって頂いた九州地方整備局職員及び設計・施工会社、多大なご支援・ご協力を頂いた国土交通本省、全国の地方整備局等、地方公共団体、地元住民の皆様のご尽力の賜物であり、この紙面を借りて深く感謝申し上げる。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧