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熊本地震により被災した阿蘇長陽大橋の復旧

国土交通省 九州地方整備局
熊本復興事務所 副所長
今 村 隆 浩

キーワード:平成28 年熊本地震、道路復旧、阿蘇長陽大橋

1.背景と概要
平成28 年4 月に発生した熊本地震では、震度7 を観測する地震が2 回発生し、多くのインフラ施設が被災した。道路橋においては、崩落した阿蘇大橋をはじめとして、多数の橋梁が通行止めとなり、被災地域の交通網に大きな影響を与えた。
本稿で主に対象とする阿蘇長陽大橋(写真- 1)は、橋長L=276m で中空橋脚を有するPC4 径間連続ラーメン箱桁橋で、熊本市内と南阿蘇村を繋ぐ路線の一つである村道栃の木~立野線に架かる橋梁である。地震による損傷は甚大で、架替えによる復旧も考えられたが、調査・分析を詳細に実施した結果、補修による復旧が可能と判断した。

2.被災状況
被災直後の阿蘇長陽大橋は、橋梁前後の取付け道路の被災により、車によるアクセスが困難な状況であった。よって、UAV や橋梁点検装置による画像解析、ロープアクセスによる損傷調査を実施した。損傷概要を図- 1 に示す。

写真- 2(a)(b) に示すようにA1 橋台では周辺および前面の斜面崩壊とともに沈下が発生した。また、背面取付け道路も沈下し、路面が波打った状態であったため地質調査を実施した。その結果、支持層とそれ以深の広範囲で岩盤ゆるみを確認した。
A2 橋台は、支承の損傷が著しく、パラペットに全幅にわたる水平ひび割れを確認した。伸縮装置も損傷しており、橋台が橋軸直角方向に約20㎝移動していた。周辺の地質調査の結果より、橋台支持地盤のゆるみも確認した。
P1 ~ P3 橋脚では、局所的なひび割れが基部や中間部に多数確認され、特にP3 橋脚が顕著であった。P3 橋脚外面の損傷状況を写真- 2(c) に示す。橋脚は全て中空断面のコンクリート橋脚であるため、橋脚に設けられていた既存の孔を活用し、橋脚内部へカメラを挿入して内面ひび割れ調査を実施した。調査結果より、P3 橋脚の内側にもひび割れが発生していることを確認した。上部工は、ひび割れが両側の側径間に集中して確認された(図- 1 内写真)。また、幅の大きなひび割れに対しては、内面より超音波を用いたひび割れ深さ調査を実施して、ひび割れが貫通していないことを確認した。なお、橋梁周辺は斜面崩落などで地形が改変されていたため、3 次元GPS レーザー測量も実施し、地震後の地形を把握した。
以降では、これらの損傷の復旧設計とその施工について報告する。

3.被災状況を踏まえた復旧設計
3.1 A1橋台の再構築
A1 橋台は前面斜面の崩落に加え、背面も通行不可能な状態で側方の斜面も大規模な崩落が発生していた。このため、A1 橋台背面のアプローチ部は、崩落斜面から離れる方向へ線形を変更することで不安定な地盤を避けることとした。また、A1 橋台前面の斜面にはアンカー工、鉄筋挿入工、吹付法枠、枠内モルタル吹付を施すことで、岩塊の抜け落ちを防止し橋台前面の安全性を長期的に確保できるようにした。
A1 橋台の再構築にあたっては、再度、地震等により斜面崩落が生じても、全体として沈下しにくい構造となるようRC5 径間連続ラーメン構造を採用した。図- 2 にA1 橋台の復旧概要を示す。

3.2 A 2 橋台の再構築
A2 橋台は、本体の損傷や変状は補修による対応も検討したが、支持岩盤のゆるみが懸念されたため地質調査を行い、支持層を改めて確認し、A2 橋台を再構築することとした。図- 3 にA2橋台の復旧概要を示す。
また、再構築時はA1 側と異なり側径間が長く建設時に支保工施工区間であったこと、さらに復元設計の結果、施工性、地形・地質条件から、仮受けを設置することとした。

3.3 P3橋脚貫通ひび割れの補修
P3 橋脚の貫通ひび割れへの対策は、せん断剛性を回復するため、内空をコンクリートによって充填することとした。コンクリート充填に伴う重量の増加による基礎への影響については、安定計算により許容値内におさまることを確認した。
コンクリートの充填においては、充填コンクリートの硬化過程における収縮によって既設構造とのすき間が生じることで一体化に至らず、せん断抵抗が確保できないことも懸念されたため、既設構造と充填コンクリートとの間にアンカー筋を配置することで一体化することとした。配筋区間は、貫通ひび割れが発生している範囲のみとして、鉄筋径と本数を決定した。配筋図を図- 4 に示す。

4.設計のまとめ
復旧設計の概要を図- 5 に示す。また、主な設計内容と配慮事項をまとめると以下のとおりである。
1.A1 橋台は、周辺の斜面変状を掘削・撤去し、安定した地盤を支持層とした上で、前面の斜面崩落が仮に再度発生しても沈下が生じにくくなるようにラーメン構造で再構築した。
2.A2 橋台は、A1 橋台ほどの斜面変状はなかったが、安定した板状節理の地盤を支持層とし、震災前と同形式で支持層を下げて再構築した。
3 P3 橋脚の貫通ひび割れ対策は、中空部をコンクリート充填して、せん断剛性を回復することとした。充填コンクリートと既設構造との一体化は、貫通ひび割れ範囲の内面にアンカー筋を配置した。

5.早期開通と品質確保を実現した復旧工事
5.1 復旧工事概要と工程
開通までに実施した補修を図- 6、実施工程を図- 7 に示す。上部工の補修、吊り足場の解体および橋脚足場の組立は開通後の施工条件を考慮し開通までに完了させた。

5.2 施工条件
阿蘇長陽大橋までのアクセスは、栃の木側から一方向のみ可能であったが(写真- 3)、戸下大橋架替え工事、橋脚補強工事、法面対策工事、阿蘇長陽大橋A2 橋台再構築工事を同時期に行う必要があった。さらに、昼間に大型重機・機材での不安定な斜面の対策も行う必要があり、時間帯規制をかけ工事用道路を使用しながら昼夜間で作業を行った。規制を行うにあたり、工程会議等により関係者で情報共有を図るとともに業者間の施工内容や作業場所を調整し、早期供用を図った。

5.3 橋台の再構築
A1 は既存の橋台を撤去後、RC5 径間連続ラーメン構造で再構築した(写真- 4)。A2 は仮受架台を設置後(写真- 5)、橋体荷重の受け換えを行い、震災前と同形式で再構築した。
橋台の再構築にあたっては、まず不安定な土砂を撤去し、入念に支持層を確認した上で行った。

5.4 橋脚の補強
P3 橋脚は段落とし部に貫通ひび割れが発生しており、せん断剛性を回復するために中空橋脚内部を高流動コンクリートで充填した。下床版に開口を設置する前に、ダブリング処理を炭素繊維シートで行った。高流動コンクリートは、材料が確実に確保できると想定された増粘剤系の高流動コンクリートを使用した。貫通ひび割れ部には鉄筋を配置し(写真- 6)、コンクリートの打設はA2 背面から約100m の水平配管を行い、コンクリートポンプを使用し、材料分離に注意を払い打ち込み高さを極力小さくした(写真- 7)。打設は1 リフト約8.5m、2 リフトから18 リフトは水和熱の低減と点検孔の設置を考慮し約1.2 mとした。
安全面では、内部の酸素濃度や有害ガスの存在の程度が不明なため、橋脚中空部への搬入孔を設置した段階で酸素、硫化水素、可燃性ガス、一酸化炭素の濃度測定を行った結果、酸素濃度、有毒ガスともに問題ない状態であった。
P2、P3 橋脚の外面は、現在炭素繊維シート巻き立てにより補修を行っている。

5.5 支承の取替
支承の取替は作業空間が課題であった。上部工と下部工の工程を調整することにより、アンカーボルトを含めた支承の設置に必要な作業空間を確保しつつ施工を行った。A1 側は橋台沈下により片持ち構造となっていたため、下部工の再構築完了後所定の荷重までジャッキアップを行い、支承の設置を行った。レアー部はジャッキアップ後に型枠を組立て、無収縮モルタルにて充填を行った。既設主桁底面との肌すきが懸念されたため、充填状況が確認できるように透明型枠を使用し充填状況を確認しながら施工を行った(写真- 8)。

5.6 上部工のひび割れ補修
足場は、ユニット式吊足場であるクイックデッキを採用した(写真- 9)。組立・解体は安全性、施工性が向上し、写真- 10 に示すようにフラットな床上での作業となるため、上部工の炭素繊維接着工の施工性が向上し、解体後の後施工アンカー部の施工箇所数の低減により従来工法に比べ工程は約70 日短縮され、開通前の8 月16 日に吊り足場の解体を完了することができた。
上部工の補修は、ひび割れ注入、断面修復を行った後、炭素繊維シート接着工による補修を行った。表面仕上げは、紫外線対策、美観対策を考慮しエポキシ樹脂系中塗り材を塗布後、アクリル樹脂系上塗り材を塗布した(写真- 11)。

6.工事のまとめ
以上、復旧工事について述べた。工事では以下の成果が得られた。
1.錯綜する他工事との緻密な調整により、阿蘇長陽大橋のみならず、戸下大橋や斜面を含む村道全体の早期供用を実現できた。
2.構造系が変化する橋台の再構築では、仮受の設置などにより、既設構造への影響を少なくし、再構築することができた。
3.P3 橋脚の貫通ひび割れ対策は、中空部の充填コンクリートによる熱影響や液圧などの影響に配慮して材料とリフト量を調整して、目標性能を確保した。
4.上部工のひび割れ対策については、ひび割れ注入、断面修復の実施後、炭素繊維シート接着を行い、被災前の性能を確保した。
5.上部工の炭素繊維接着工法では、吊り材の少ない足場の採用などにより、施工性の向上を図ることができた。

7.おわりに
本橋は、ここに記載した設計と施工により、平成29 年8 月27 日(日)に供用を開始したが、現在も恒久復旧に向けた工事を継続している。
 なお、これらの実施にあたっては、国土技術政策総合研究所や土木研究所ならび設計コンサルタントや施工業者等の関係者が一体となって早期復旧に努めてきた結果である。

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