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地域文化との調和、景観、親水性、
自然との共生に配慮した床止工の復旧について
~災害関連事業による二級河川広渡川郷之原床止工の復旧~

宮崎県 県土整備部 工事検査課
 工事検査専門員
(前 宮崎県 県土整備部 
日南土木事務所 工務課長)
上 山 孝 英

1 概 要
(1) 施工位置
広渡川は宮崎県宮崎市の南部、鰐塚山を源とし北郷町、日南市を流れ日向灘に注ぐ流路延長約44㎞、流域面積約330㎞2の二級河川である。
施工箇所の郷之原床止工は河口より約15.9㎞の地点に位置している。(図-1、図-2)

図-1

図-2

(2) 被災時の状況
本箇所は平成15年5月13日から14日にかけての豪雨による出水で床止工の基礎部が洗掘を受け、水叩き部の流出、基礎部の空洞化等の被害を受けたもので、公共土木施設災害復旧の災害関連事業で緩傾斜床止工にて採択された箇所である。(写真-1)

写真-1 被災状況

(3) 周辺地域の特徴
床止工直下流右岸には北郷町立北郷小学校があり、直上流右岸には北郷町施工による水と土「ふれあい公園」が整備されている。また、その上流左岸には温泉施設を有した蜂の巣キャンプ場があり、上流右岸にはテニスコートや遊具施設などを有した蜂の巣公園が整備されている。(写真-2)
これらのことからキャンプ、水遊びや散策など普段から頻繁に人々が水辺を利用している環境である。
今回、復旧を行った郷之原床止工もこれらの施設と一体となっており地域のシンボルとなる施設に位置づけられている。

写真-2

(4) 床止工付近の利用状況
床止工下流の水際は水深も浅く、よどみなどもあることから子供たちの格好の水遊び場所となっている。また、隣接した水と土「ふれあい公園」周辺の護岸は、水際への近づきやすさと生態系への配慮として緩傾斜の空石張で整備されており、園内にはじゃぶじゃぶ池、遊歩道、用水路を利用したせせらぎ水路、水車小屋などがあって散策路として利用されている。(写真-3)

写真-3

(5)「弁甲流し」について

写真-4 飫肥城址

江戸時代の広渡川流域は飫肥(おび)藩伊東家五万一千石の領地であり、藩政時代は温暖多雨な気候による杉の生産が盛んに行われ、「飫肥杉」として関西地方に出荷された藩の重要な財源であった。油分が多く腐りにくい飫肥杉は江戸時代には主として造船用の「弁甲材」として利用され、現在でも上流部の山々は造林されてきた美しい杉で覆われている。(写真-5)

写真-5 飫肥杉

この弁甲材は、車両による陸上運搬が行われる前は切り出された木材で筏を組み、広渡川を下って河口の油津港まで運搬されていた。これをこの地域では「弁甲流し」といい現在でも地域の文化の一つとして語りつがれている。ちなみに写真-6は広渡川河口から油津港まで弁甲材を運搬するため、江戸時代に人力で開削された運河(堀川運河)である。
この勇壮な弁甲流しの流れをくみ、地元北郷中学校では昭和58年より毎年6月から7月にかけて筏くだり大会を実施している。郷之原床止工はこの筏くだり大会の経路の途中に位置しているため、地域文化との調和を図り、景観、親水性、自然との共生に配慮した床止工を公共土木施設災害復旧事業、災害関連事業で施工する計画を行った。

写真-6 弁甲流しと堀川運河

計画に当たっては全国防災協会の災害復旧工法検討委員会による学識経験者や地元自治体、有識者等のご意見をうかがいながら工法を決定した。

写真-7 工法検討委員会現地調査

2 構造の検討
景観への配慮に先立ち、まず治水上の観点から平面構造の検討を行った。
現状の河道は上流域より床止工付近までが左岸側に湾曲しており右岸側が水衝部となっている。このため右岸側の河床は低下傾向にあり、根固め工により保護されている。逆に左岸側の河床は堆砂域となっている。また、 左岸側の護岸は岩着基礎であり右岸側からすると安定した傾向にあった。
これらの事柄を踏まえ流向を変化させるために床止工の平面形状に緩い曲線を描くこととした。(図-3)

図-3 平面図

縦断構造については本体床止め工を3段に分割し、下流の護床工を計画河床より深めにすることにより遡上する魚を魚道へと導けるよう検討した。

図-4 縦断図

3 景観への配慮
次に景観へ配慮した点について、以下のとおり記す。
① 曲線的な平面形状
先に治水上の観点から平面形状を曲線としたことについては、景観上の効果も期待している。
平面形状を緩い曲線とすることで床止工の3段階の落差の法線を下流側に膨らませることにより、施設の自然豊かな景観となじみを良くするとともに見る場所によって落ち水の表情が変化する豊かな景観を演出することを狙いとしている。
② 多段落差
既設の傾斜型タイプの床止めを基本としながら、かつての落差工に見られた水しぶきの風景を残すために床止工の全落差を50cm毎の3段に分割する形状とした。また、表面の仕上げとして落ち水部には御影石を加工し水切り石として据え、滑らかな水しぶきを演出するとともに滑水部には現地の川原の石を張って下流へのなじみを配慮した。
③ 魚道といかだ通し
歴史的に林業の盛んな当地域ではかって切り出した弁甲材を筏で運搬するために堰などの河川横断工作物には筏通しが設置されていた。この筏通しをイメージした魚道を中央よりやや右岸側の澪筋に設置することとした。魚道の対象魚種はオイカワ、カワムツ、ヨシノボリ、ヤマメ、アユ、ボウズハゼ、ウナギなどである。なお床止工の勾配は1/11の緩傾斜であり、通常は河道の全幅で魚類の遡上を可能としている。
④ 水辺へのアクセス
右岸取り付け護岸部には上流のふれあい公園等と連携をはかり人の流れを考慮して階段、テラス、スロープ等の施設を整備した。
⑤ 環境護岸
左岸取り付け護岸には右岸側から眺める際に圧迫感をやわらげるため、ステップや斜路を設けるとともに緑化を図ることが可能な護岸工を採用した。
⑥ 自然石を用いた護床工
下流護床工については計画河床よりも深めに設置し、護床工天端には川原石を埋め込み自然な川原に近づけるようにした。

4 終わりに
以上の点を考慮して設計・施工を行い平成19年の1月にすべての工事が無事完成した。(写真-8)

写真-8

写真-9は昨年の6月に行われた筏くだり大会の状況の写真である。魚道において筏くだりを行う中学生とそれを見守る多くの人々でにぎわい大会を盛り上げたが、地域の歴史的文化財である「弁甲流し」の伝統の継承に配慮した土木施設としても地域に愛されているところである。

写真-9

最後に今回の施設の復旧に際しご指導、ご協力をいただいた方々に深くお礼を申し上げるとともに、当施設が治水上の効果を発揮しつつ、今後も水に親しむ施設として末永く多くの人々に利用され地域のシンボル的な存在となることを祈念して筆を置く。

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