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海上架橋における100年供用のための取り組み
~県道20号線(泡瀬あわせ工区)橋梁整備事業における品質確保~

沖縄県 土木建築部 中部土木事務所
 中城湾港建設現場事務所 主任技師
小 島 健太郎

キーワード:海上架橋、耐久性、コンクリート品質確保

1.はじめに
沖縄県は、亜熱帯性で四方を海に囲まれた高温多湿な環境である。台風の常襲地帯であり、夏~秋季には海水飛沫が強風により内陸部まで運ばれ、塩分濃度の高い状態になる。また、冬季は北寄りの強い季節風が断続的に続くため、一年を通し沿岸、内陸を問わず常に飛来塩分を受ける厳しい塩害環境にある。
平成26年度完成の宮古島と伊良部島を結ぶ伊良部大橋では、これまで県が建設した17の離島架橋での対策も踏まえ、厳しい塩害環境下での100年耐久性のため、塗装鉄筋を併用した最小かぶりの確保や高耐久の材料の使用などの対策を行っている。しかし、いくら高耐久の材料を使用しても、施工時の品質確保が十分でなければ、将来の維持管理に苦慮することが考えられる。
ここでは、県道20号線(泡瀬工区)橋梁整備事業(以下、泡瀬架橋)において、適切な材料(高耐久)の使用とあわせて、施工品質の確保による構造物の耐久性向上を図るためのコンクリート品質確保の取り組みについて報告する。

2.泡瀬架橋の概要
(1)橋梁の概要
泡瀬架橋は、沖縄本島東海岸の沖合に整備される人工島と沖縄本島を結ぶ4車線、橋長810mの海上架橋である。

表-1に橋梁の諸元を、取り組みの対象とした下部工の一般図を図-2及び3に示す。

(2)設計における耐久性向上対策
過酷な塩害環境下での海上架橋となる泡瀬架橋では、塩害対策仕様の塗装PC鋼材や支承等の高耐久な材料の採用のほか、コンクリートは伊良部大橋において沖縄県内の橋梁で初めて採用したフライアッシュコンクリート(以下、FAC)を使用することで、100年供用のための耐久性向上対策を行っている。

①フライアッシュコンクリート
沖縄県では、塩害、アルカリシリカ反応及び温度応力の抑制等を目的に「沖縄県におけるフライアッシュコンクリートの配合及び施工指針」(以下、FAC指針)を策定し、材料面からの耐久性向上を図っている。本橋梁においても、以下のとおり上・下部工にFACを使用している。
上部工[50N/㎟]:細骨材3%代替(砕砂100%)
下部工[30N/㎟]:セメント代替20%+細骨材代替(計100㎏/㎥以内)
②適切な材料の使用
塩害対策として、塩分付着の影響を比較的小さくするため、上部工で箱桁、中空床版桁形式を採用。下部工90㎜、上部工70㎜のかぶり確保を行うとともに、下部工フーチングを除く全箇所でのエポキシ塗装鉄筋の併用、エポキシ樹脂塗装PC鋼材、エポキシ粉体塗装定着具及びゴム支承鋼材の金属溶射による重防食などの使用材料による対策を行っている。

3.コンクリート品質確保の取り組み
泡瀬架橋では、100年供用の実現のため”高耐久の材料を高品質に施工”する事を目的に、コンクリート品質確保の取り組みを試行した。図-5に下部工での取り組みフローを示す。
取り組みにあたっては、山口県の「コンクリート構造物品質確保ガイド」(以下、山口県ガイド)と国土交通省東北地方整備局の「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)」を参考とした。
フローにおける学識者による取り組みの検証・発展については、本取り組みのとりまとめ後、対応することを予定している。

(1)室内配合試験の合同検討
施工時おいては、複数のコンクリート工場(以下、生コン工場)からの出荷が予定される。このため、FACの特性把握と試験手順を共有し、工場毎の品質管理の整合を図ることを目的に、先行する1工場において、複数工区の施工者、生コン工場及び発注者合同で室内配合試験の確認を行った(写真-1)。合同で確認検討することにより、工場毎で行う配合試験での配慮事項を、共通認識とすることができた。

(2)複数工場での合同品質確認試験
下部工の底盤(フーチング)は、打設量が最大約1.600㎥であることから、2~4工場を同時に使用することとなる。しかしながら、複数の生コン工場のFACは、その性状や強度発現が異なることが考えられるため、室内配合試験で確認した各工場のFACを、施工時の出荷と同様に、ミキサーから排出後アジテータ車で運搬し、同一箇所で7社同時に品質確認試験(受入試験・スランプロス試験・圧縮強度試験)及び混合試験を行った(写真-2)。
ここでは、各生コン工場の使用材料や運搬時間(距離)の違いによるスランプロスの程度や、単位水量等の性状が異なる複数工場のコンクリートが混ざった場合の強度発現への影響を確認するため、2工場毎の混合供試体を作成して圧縮強度試験を行った。

(3)事前周知会
今回の取り組みにあたり、工事関係者へ目的、手法及び発注者の品質確保への熱意を伝える事が施工品質の向上に対して最も重要と考え、事前周知会を行うことした。
周知会にあたり、受注者には、下請け作業員や生コン工場、ポンプ車作業員等の実際に施工に携わる多くの関係者に参加してもらうよう依頼した。各工区の最初のロット打設直前に実施した周知会では、取り組みの経緯から、FACを使用する目的と性状、品質確保のための具体的事例の相互理解を意識し、品質確保ための工事関係者と発注者の協働、品質の向上が高耐久につながることを周知した(写真-3)。

(4)施工状況確認及び表層品質評価
施工段階の品質確保のためのシステムとして、前述の参考ガイド等を参考に、打設の準備~養生までの施工状況を監督職員等で確認し、型枠取り外し後(以下、脱型)の表層品質の評価を行い、施工状況と評価結果を工事関係者で共有し、改善事項を次施工に反映することで、自主的に品質向上に取り組むことを目指した。

打設状況確認(施工状況把握チェックシート)
FACを使用する本試行では、山口県ガイドの「施工状況把握チェックシート(コンクリート打ち込み時)」に、FAC指針の「FACチェックシート(生コン製造・出荷・打設・養生)(案)」の必要項目を追加した「泡瀬工区版_施工状況把握チェックシート」(図-6)を作成し、コンクリート標準示方書施工編に示される事項(以下、基本事項)の遵守状況の確認を行った。確認にあたっては、監督職員を含む複数の職員で行った。チェックシートとすることにより、若手技術者による基本事項の把握や受発注者間の相互認識による協働的な対話ができるようになってきた。

②表層品質評価(目視評価シート)
脱型後のコンクリート表層品質評価は、「新設コンクリート革命」(熱血ドボ研(著)岩城氏ら(編集))の「橋台・橋脚・函渠・擁壁などの一般的な構造物を対象とした目視評価シート」に、温度応力ひび割れの項目を追加した「泡瀬工区版_目視評価シート」(図-7)を使用した。目視評価は、できるだけ多くの工事関係者で行い、その場で監督職員等の評価点と施工状況確認の内容を共有し、評価点の低い場合の原因考察等を行った。
これにより、多くの関係者で行うことで、FACを使用していることや基本事項の遵守方法の理解度が不足している作業員がいることも確認できた。また、基本事項の理解度にも起因すると思われる打設班毎の表層品質の違いを双方で確認し、取り組みの目的を理解し改善した後の、次施工での品質の違いも確認できた。

(5)打設状況共有会
複数ロットの打設の場合、1回目の打設ロットの脱型前に次ロットを打設することがある。このように表層品質評価をもとにした次ロットへの改善検討ができない場合は、複数の監督職員等の施工状況把握チェックシートのとりまとめ資料による、基本事項遵守のための推奨、工夫または改善事項の確認共有を行った。
(6)養生状況確認シート
同時期に施工した複数の下部工において、表層品質評価を行う中で、養生に起因する表層品質の違い、特に温度ひび割れの発生程度の差異が確認された。養生方法と表層品質評価の関連を確認するため、コンクリート打設日と脱型日(天気・気温)、脱型前の養生方法及び脱型後の養生方法と養生期間を把握するための「養生方法確認シート」(図-8)を作成し、施工者で記入、提出することとした。

4.表層品質確保のための推奨工法の提案
平成30年度から令和元年度にかけて、下部工10基(壁式橋脚2基、2柱式橋脚8基)で試行した。対象下部工の施工状況と表層品質評価から、泡瀬架橋における基本事項遵守のための推奨工法を検討した。ここで、本推奨工法は、泡瀬架橋におけるもので、構造や環境等の施工条件が異なる場合は、品質確保にあたっての参考工法となると考える。
推奨工法の一例として、図-9に沈みひび割れや表面気泡を抑制するための締固め方法(バイブレーターの挿入方法)を示す。バイブレーターの挿入にあたっては、下層への挿入深さ、打上高さとバイブレーターの振動範囲を把握して管理することが重要であり、泡瀬架橋のようにかぶりが90㎜確保されている場合は、かぶり内にもバイブレーターを挿入し管理を行うことで、表層品質の確保が可能となることなどが確認できた。

5.まとめ
(1)効果
今回の取り組みで、いずれの施工においてもコンクリート打設の品質確保の意識の向上とあわせて表層品質の向上が確認できた。発注者を含む工事関係者から以下の感想が得られた。
✓高品質なコンクリート表層とはどのようなものか確認できた
✓丁寧に作業するだけで品質がよくなることがわかった
✓次の現場では養生方法や気象状況まで考えて対応してみよう
✓他の現場でも教えていいのか
この結果から、多くの関係者で取り組むことで、施工者だけでなく発注者の経験と技術力の向上にも寄与することが確認できた。また、工事関係者全体と品質確保のための取り組みを共有する場を設けることで、施工における発注者と受注者、受注者と作業員、または発注者と作業員の対話が生まれ、次施工への改善に向けての現場の雰囲気がよくなり、施工の変化や取り組み継続の可能性を感じることができた。
このほか、泡瀬架橋では、複数の工区が同時期に施工していることから、同じ品質評価を行うことで、工区間での情報共有と改善方法の検討により、自工区ロット毎ではなく複数工区全体での改善効果が生まれた。

2)課題
泡瀬架橋での取り組みを、受発注者ともに他の施工でも継続していくことが最も重要である。
表層評価においては、複数の評価者の点数を平均してとりまとめたが、同一工区でも打設毎に点数が上がるとは限らなかった。これは、施工条件(躯体ロット・工程・気象)にもよるが、評価者の熟練度の違いから、局所的な状況を全体評価としてしまうといった評価者毎のバラツキが要因となることも考えられた。このため、経験の蓄積が必要であり、受発注者のいずれにおいても、本取り組みを継続することが重要である。

(3)今後の展開
今回の試行では、コンクリート工場から施工に至るすべての工事関係者に、品質確保の取り組みを周知することができたと考える。
今後は、本取り組みの検証を行い、泡瀬架橋以外でも取り組む必要がある。まずは、泡瀬架橋でのコンクリート品質確保の取り組みに、他の監督職員を含む工事関係者等の技術者の参加を広めていきたい。この取り組みよる協働が、すべてのコンクリート構造物の100年供用のための品質確保につながることに期待する。

6.おわりに
コンクリート構造物の品質確保の取り組みは、過酷な環境作用を受ける沖縄県においても必要であると認識されてきた。その中、土木学会「コンクリート構造物の品質確保小委員会」の委員である琉球大学富山准教授に試行の提案を頂いたことが本取り組みの機会となった。現場等においては、品質確保のための工夫や改善策について、同委員会委員の風間氏、沖縄県建設技術センターには多くのご助言を頂いた。
また、施工者、生コンクリート工場をはじめとする工事関係者には真摯な対応と多大なご協力を賜った。ここに感謝の意を表す。

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