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水質分析値評価システムの運用と活用

国土交通省 九州地方整備局 
 九州技術事務所 調査試験課 課長
古 賀 唯 雄

国土交通省 九州地方整備局 
 九州技術事務所 調査試験課
水質試験係長
高 倉  香

1 はじめに
現在,河川・ダムの事務所においては,毎月採水し分析を行い分析値を九州地方整備局の水質入カシステムに入力している。この定期調査で通常より高い値が出た場合その値が正常値か異常値かの判断とその値に対する考察が必要となる。
考察の1点目は統計手法での確認,今回は「箱ヒゲ図」と呼ばれる手法により,特異値かどうかを判断する方法を提案した。2点目は要因分析,すなわちどういう要因で高くなったか,水域別(順流域,湛水域,感潮域)・水質変化要因別(富栄養化現象,出水,工事濁水等)に想定される一般事項としてまとめた。
この2点を盛り込んだシステムをCDRに入れ各人のパソコンで簡単に正常値か異常値かを判断することができるようになった。
今回,「異常値」とは既往のデータと比較して飛び離れて高い(低い)値を示すデータとした。また,分析所に上記システムのCDRを渡しておけば,早い段階で事務所に特異値を連絡することができ,対応策についての早期対策が可能となる。

2 検討手法
2.1 評価手法の検討
九州の20水系152地点,9項目(pH・DO・BOD・COD・SS・大腸菌群数・T-N・T-P・水温)の水質分析値を対象とした。水質は流域環境の変化により変動するため,統計解析を行う母集団とするデータベースの期間は各水系 1980年(ただし,1980年より遅く分析開始した水系はそれ以降)から2002年までの約20年程度のBOD,COD,SSの変化傾向を解析し,過去の変動状況と比較した結果,1993年から2002年の10年間を母集団とした。
各水系から1地点の代表地点を選び,BODの変遷を概略まとめると,20年前に比べてきれいになっている地点(瀬の下,船小屋,横石,白滝橋,下唐原,天満公園前,俣瀬,斧渕,牟田部),変動の大きい地点(日の出橋,住ノ江橋,代継橋,上杉橋,府内大橋),あまり変化がなくきれいな地点(山鹿,番匠橋),1990年,1993年以降からきれいになった地点(三輪,官人橋,相生橋,高城橋)等に分けられる。
以前よりきれいになった理由は,下水道の普及が一番大きいと考えられる。

2.2 箱ヒゲ図について
箱ヒゲ図はデータのバラッキを視覚的に把握できる図であり,ヒストグラムと比較して複数の母集団の比較ができる特徴がある。前述の母集団を基に河川別水質項目別に箱ヒゲ図を配列し,箱ヒゲ図より飛び離値(極外値)を特異値として×とした。
図ー1に箱ヒゲ図の概念図を示す。

また,その設定手順を下記に示す。

箱ヒゲ図を用いて極外値を抽出するにあたっては内境界点と外境界点の設定が重要である。
今回,1.5hを外側値,3h以上を極外値と設定したが,1hを外側値,2h以上を極外値とする方法もある。水質分析値が正規分布しているとすれば,前者の場合,外側値と極外値は0.7%となる。しかし,水質分析値は中央値より大きいほうにふれることが多く,正規分布に比べ高い方に長く裾を引く形状になる。
このため2hを極外値とすると特異値が非常に多くなりすぎるため,3h以上を極外値とした。

3 検討結果
3.1 箱ヒゲ図による極外値の抽出
箱ヒゲ図の事例として遠賀川のBODを図ー2に示す。図の横軸の右は上流,左は下流で観測地点名の( )書きは支川を表している。
箱が小さくヒゲが短い地点はBODの変動が小さく,箱が大きくヒゲが長い地点は変動が大きいといえる。
極外値は芦屋と日の出橋に多く,伊佐座・皆添橋·高木橋では極外値が検出されていない。

3.2 要因分析結果
特異値が生じる水質現象の要因を水域別(順流域・湛水域・感潮域)に分けその水域でおこるであろう要因(A~Mの13種類)を抽出した。その要因ごとに想定される水質変化事項を文章化し,関連水質項目をまとめてシステムに組み込んだ。これを水質変化要因チェックリストと命名した。この一部を図ー3に示す。

水質分析値は1つの項目毎にみるのではなく,要因を考えるには関連した項目も一緒にみていく必要がある。例えばpH,DOが共に高ければ光合成が考えられ,CODに対してBODが高ければ未処理の生活排水の流入が考えられる。珪素は流域の地質を反映しているので,流量が大きくなればその流域全体の珪素も高くなる。
さらに水質調査地点の個々の水質に影響を与える詳細なデータを盛り込んだ水質カルテを16地点で作成した。この16地点は汚濁の著しい肝属川5地点,遠賀川5地点,中程度の汚濁の筑後川6地点を選定した。
水深・河床勾配・河床材料等の河道形態,流城フレームや近傍の汚濁源等の社会特性,特異値の発生状況・ゴミ・臭気等の水質特性を1枚にまとめ,調査地点近傍の状況写真を1枚として2枚で1組とした。この水質カルテを見ればその地点の水質に関する情報を十分把握することができるものとした。

3.3 水質比による地点別水質特性の検討
抽出された特異値と水質比の比較表として遠賀川中島の例を表ー1に示す。
2002年5月は流量が多く,SSが38と高くなっている。そのためBOD/SSとCOD/SSの値が低い。出水ではCODは大きくなるがBODは汚濁物質が希釈により小さくなるのでBOD/SS=0.05と小さくなっている。
2002年6月は流況が悪く光合成が生じているため,pH,DO,BODが高く,また代かきのためSS,CODが高くなっている。これによりCOD/BOD=1.12と小さくなっている。このように水質比によっても,測定値が示す傾向を把握することができる。

3.4 測定値評価システム
本システムの全体フローを図ー4に示す。

本システムの目的は上記フローの③と④である。
すなわち
(1)月別データの箱ヒゲ図による評価
毎月調査されている水質データについて特異値の評価を行う。各月のデータがどのような位置付けにあるか確認・評価する。
(2)年間データの箱ヒゲ図による評価
1年間または数年間の水質データについて特異値の評価を行う。水質の季別変化や経年変化等にどのような特徴があるのかを確認・評価できる。
初期メニュー画面を図ー5に,箱ヒゲ図による特異値の抽出例を図ー6に示す。

4 活用と展望について
特異値の抽出とその要因も今回のシステムの中で照合できるようになり,水質担当者の職員が分析結果の値が示すその地点の状況について考察できる支援となる。
水質入力は現在地整のシステムに入力しているが,地整のシステムの中に今回作成したシステムを構築できれば,操作はより簡単になり,任意の期間の母集団での特異値抽出が可能となる。

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