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“水”について 佐賀から世界へ情報発進
~第3回世界水フォーラムに向けた佐賀水会議~

佐賀県 鳥栖土木事務所
 副所長
江 口 隆 陽

1 はじめに
昨年3月14,15の両日,「第3回世界水フォーラム」のプレ会議となる「佐賀水会議」が,佐賀市を中心に開催されました。
この佐賀及び世界の水会議を通して,世界の水・日本(佐賀)の水といったグローバルとローカルの間に横たわる水問題の新しい局面などを紹介させて頂きます。

2 会議の概要
「世界水フォーラム」は3年に一度開催されるもので,第1回は1997年にモロッコ,第2回はオランダで開催されており,第3回が昨年3月16日から23日までの8日間,琵琶湖や淀川流域の水を利用する京都滋賀大阪で開催されました。
「佐賀水会議」では歴史的に水との関わりの深い佐賀で市民研究者,行政機関の総勢1,000名が2つのテーマについて議論をしました。
まず,“低平地の水環境に関するフォーラムin佐賀”のテーマでは,国交省,農水省,佐賀大学(低平地研究センター),県を中心とした取り組みの集大成として,佐賀における水問題が総括されました。さらに佐賀あるいは世界の低平地の水に関する課題が解決される事を期待して,【低平地の水環境宣言】が採択されました。
もう一つの“自然エネルギーを用いた海水淡水化”のテーマでは,佐賀大学(海洋エネルギー研究センター),県を中心として,慢性的な水不足に悩むパラオ共和国をはじめ太平洋島しょ国の政府代表や研究者が参加した国際会議となりました。
10ヶ国の政府代表による円卓会議での成果については,【佐賀宣言】として,全参加国間で調印採択されました。なお,採択に先立ち,伊万里市に新設された佐賀大学海洋エネルギー研究センターを見学しました。
そして【低平地の水宣言】と【佐賀宣言】を京都,滋賀の世界水フォーラムの分科会において報告,発表し,世界に情報発信しました。

3 日本からみた世界の水
(1)世界の【水】問題
宇宙から見た地球は青色の惑星であり,表面の60%が水面です。だから水の豊富な惑星ともいえますが,水は地域的な偏在性が高く,水不足,水質汚濁,洪水といった問題が途上国を中心に,世界の各地で発生しています。
また水に起因する食糧難や伝染病の発生など,水問題に悩む地域は拡大し,中には国際紛争にまで至っている地域もあります。さらに,これらの地域における急激な人口の増加と都市への集中が,問題をより深刻にしています。
水問題に対する国際的な関心も急激に高まってきており,国連の持続可能開発委員会は【21世紀の最大の問題は水資源問題になる】と指摘しています。

① 水危機を招く人口増加
2000年に60億人を突破した世界人口はその後も増え続け,2025年には約80億人に達すると予測されます。

② 地球の水資源
水の惑星といわれる地球だが,14億立方キロメートルある水の97.5%以上が海水であり,淡水は残りの2.5%しかない。しかも,その大半は氷や地下水として存在するため,人間が容易に使える水は全体のわずか約0.01%にしか過ぎない。
そのわずかの水のうち,世界中の人々は約35,700億トン/年(河川水8割,地下水2割)を農業用水に約7割,工業用水に約2割,生活用水に約1割利用している。
 (数値出典)「WMO」資料
※参考:筑後川の年間流量  36.4億トン
    嘉瀬川の年間流量  3.8億トン
    有明海の平均水量 430億トン

(2)世界の水を使う日本
世界が直面している水の問題は,日本にとっても無縁ではありません。
食料の自給率が40%に満たない日本は,大量の水を使って作られる穀物や肉類などの農畜産物を世界中から輸入しています。他にも大量の水を使って作られた工業製品,木材なども輸入しています。つまり,様々なものを輸入することは,世界から大量の水を輸入していると言えるのです。
日本の経済や社会は,目に見えない大量の水の輸入によって成り立っているので,世界の水を守ることは,私達日本の暮らしを守ることでもあるのです。
※参考:食料自給率・・・日本40%,イギリス70%,ドイツ100%,フランス120%,アメリカ140%。
  (出典):日本の水資源
例えば,穀物(麦,とうもろこし等)1トンを作るのに,水1,000トンが必要ですが,肉類1トンを作るのに,水7,000トンが必要です。
 (出典):日本の統計2001資料

(3)水に恵まれた日本
一般に日本では,水や空気,光はあまりにも身近すぎてその有り難さに対する意識が薄いようです。
経済の成長や都市化の進展など,社会・経済の変化に伴って,水利用のシステムが着実に整備され,『水道の蛇口をひねればいつでも手に入れる事が出来るもの』と思われています。これは,幾世代にもわたり水源地域を守り育ててきた多くの人々の努力の賜なのです。
だから水を利用するに当たっては日頃から感謝の気持ちを忘れずに大切に利用することが肝要です。
※参考:佐賀県における一人当たり使用量···313ℓ/日(東京都…370ℓ/日)
・アメリカの平均…596ℓ/日(ニューヨーク州…618ℓ/日)
・フランスの平均…215ℓ/日(パリ…350ℓ/日)
・アフリカの平均…63ℓ/日
・アジアの平均…132ℓ/日
  (出典):日本の水資源

(4) “水を買う” “水を輸入する”時代
近年日々の生活に直結している飲料水について,水の安全性への不安・味への不満を反映してミネラルウォーター等水の質に対する要求が高くなっています。
☆ミネラルウォーターの生産量と輸入量の変化
 昭和61年8万kℓ ⇒ 平成13年124万kℓ(15.5倍)
☆浄水器出荷台数の変化
 平成元年40万台 ⇒ 平成13年210万台(5.3倍)
・世界のミネラルウォーターの生産840億ℓ, 1兆ドル産業,石油産業の40%
☆価格比較(1ℓ)
 水道水1円以下,ガソリン90円,ミネラルウォーター100円
  (出典):日本の水資源

4 佐賀水会議
(1)“自然エネルギーを用いた海水淡水化”について
世界で偏在する水問題や地球上限られた水資源,一方世界の水を大量に使用する日本である。だからこそ21世紀の緊急な課題である水問題の解決に向けて,世界的に持続可能な水資源の確保が求められています。
佐賀水会議では,その有効な解決策の一つとして,再生可能である自然エネルギーを用いた海水淡水化技術の利用が議論されました。
佐賀大学で進められている海洋温度差発電(OTEC)は,石油や石炭,原子力を用いず,太陽エネルギーと海水を利用する手法であります。
これは地球に優しい新技術と言えます。海の表面付近と水深600~1,000mの水温の差は約20度あります。

※参考:温度差のエネルギー=温度を1度上げるのと430mの落差を使って得られるエネルギーは同じ

この温度差を利用するのがOTECなのです。アンモニアに水を加えた液体を表層の海水で温め蒸発させ,その蒸気でタービンを回し発電します。タービンを出た蒸気は、深海から汲み上げた冷海水で冷やし,再び液体に戻します。
これを繰り返すことで海水に蓄えられた‘太陽エネルギー’を利用出来るシステムです。さらに発電によって得られた電力を利用して海水淡水化やリチウム回収,水素製造など複合的な利用も期待できます。

※参考:リチウム=日本では産出されないのでアメリカ,チリから輸入。リチウムは火成岩や鉱泉の成分として地表広く分布する。鉱物界に広範に存在する元素である。しかし,リチウムの存在量は地球上ではナトリウムの500分の1と微量。リチウムはすべての金属の中で一番軽く水に浮く。
☆リチウムの用途…電池の使用が一番であり,電圧が高く蓄積エネルギーも高い。他に強化ガラス, (医薬)うつ病治療薬。
☆リチウムの単価…リチウム(コバルト酸リチウム)は800円/kg ⇒ 電池1個あたりリチウム使用量は12g
  金=1,262,000円/kg,銀=186,100円/kg,銅=250円/kg

OTECシステムを利用した佐賀大学独自の海水淡水化法は,スプレーフラッシュと呼ぶ方式です。真空ポンプで約0.05気圧にしたシステムに,霧状にした海水をスプレーで吹き込みます。
低圧化で水の沸騰温度は20~30度まで下がり,霧になると表面積が広くなるため,短時間で蒸発し,塩分の抜けた淡水の蒸気になります。それを高効率のプレート型凝縮器に送り,低温の海水で冷やして淡水を得ます。

※参考:日本での淡水化プラントは144,296トン/日。
・福岡都市圏で平成11年度から平成17年度を目途に50,000トン/日の国内最大規模の施設が建設中。

パラオを始め太平洋の小さな島国は自前のエネルギー資源を持たず飲料水不足にも悩んでおり,環境を守りながらこれらの問題を解決出来るOTECに期待しています。
石油など化石燃料に依存する現状が続けば,地球温暖化の影響で,海面が上昇します。
ツバルという国は美しい海に浮かび観光が大きな産業ですが,近年の異常気象で海温が上昇し,珊瑚礁が被害を受け,国自体が水没の危機に瀕しています。
佐賀・世界水会議においては,12ヶ国及び地域の太平洋諸国のエネルギー及び水不足の現状と国際社会への協力をアピールしました。

(2)“低平地の水環境フォーラム”について
佐賀は,佐賀平野に張り巡らされたクリークでも分かるように歴史的に自然条件を生かした治水,利水に知恵を絞ってきました。
また,有明海の干満の差を利用した淡水取水技術‘アオ取水’という独自の水管理があります。低平地は水が集まる場所であり,多様で豊かな水辺空間が形成されております。
そんな日本を代表する低平地の佐賀で水利用,洪水防御,生態系,暮らしなどの観点から‘水’について発表されまた議論されました。
参加団体は,学校や市民団体,企業,行政機関など69グループの報告・スピーチとポスターによるアピールがなされました。
各団体はフォーラムの場を通して,集い,お互いを知り,低平地・佐賀の水環境について活発に議論されました。
そして,水が限りある資源であることを深く認識し,水資源の維持確保や水環境の保全に努め,より安心して暮らせる社会の実現を目指し,さらには佐賀平野の自然と共生出来る水環境を守るため,真摯に取り組むことを誓って‘低平地の水宣言’を発表されました。
その中から幾つかを紹介します。
・縫ノ池湧水会…40年ぶりに湧水が復活し,水環境に対する意識も高まる縫ノ池(白石町)。子供達もおいしそうに水を飲んでいました。
・天山酒造…悲惨な水害体験記憶を後世に残すべく,貴重な写真を展示し熱のこもった説明をされました。まさに恐怖を語る写真でした。
・有明の海を守るふれあいの会…キーワードは川がご縁の‘命の交流’。人と人!山から川,海へ!ホタルからムツゴロウまで!様々な活動をされています。
・水みちマップ実行委員会…2千kmある佐賀市のクリークをみんなで調べ,清らかな水,美しい水辺と水の循環を目指されています。
・若楠小学校…総合的学習で自分たちが住む川のゴミ,水の汚れ,生き物を調べ元気に分かりやすく説明されました。

5 おわりに
今回の水会議を通して,佐賀といった一つの地域から世界各地に至る水事情について,問題の多様性を知ることが出来ました。
今後は歴史的に優れた水環境・水利用の評価・伝承を行い,また産官学がパートナーシップに基づき弾力的,柔軟に水問題を解決していく事が,肝要であると思います。

★水のこぼれ話(日本の水とヨーロッパの水)
水は雨や雪が地上や地下の岩盤などに浸透していく間に岩石などに含まれている鉱物を溶かし込んでいきます。そして,長い時間をかけて湧き水として噴き出してくるのです。地中の鉱物が溶けて含まれるミネラルの配分によって,軟水と硬水に分けられます。

※参考:水の硬さを科学的に算出した数値は硬度と呼ばれ,ミネラルの主成分であるカルシウムとマグネシウムの量を測定したもの。1ℓ中100mg以下が軟水,200mg以上が硬水である。

日本の地下水は,地下に留まっている期間が短く,地中のミネラル分の影響が少ないため軟水が多い。逆にヨーロッパなどの大陸の水は,石灰岩が多い上に,地下の滞留期間が長いために,ミネラルが多く溶け硬水となっています。
ヨーロッパでは,硬度200~300以上という水もあり,軟水に慣れている日本人はこの水を飲むとお腹を壊してしまいます。また硬水が影響し,石鹸がほとんど泡立たないのです。
この水の違いは料理にも反映されています。硬水が多いヨーロッパと軟水が多い日本では,おのずと料理方法が変わってきます。
例えば,日本料理では古くから水を使って煮物,汁物,ゆでものといった料理が多いのです。フランス料理では水を使うよりも,蒸すとか油で炒めたり牛乳やワインを加えて煮たりする料理が多くなります。
このように水の違いは食生活の違い,ひいては文化の違いにまで密接に関わっています。

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