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横竹ダムの拡張レヤー工法による建設と基礎処理について
一300t大型クローラクレーンによる堤体打設と
延長897mのリムトンネル施工一

佐賀県西部地区ダム建設事務所
 工務第二課長
片 倉 輝久雄

はじめに
横竹ダムは,二級河川塩田川水系吉田川の佐賀県藤津郡嬉野町吉田地内に治水ダムとして建設中の重力式コンクリートダムであり,塩田川治水事業の一環をなすものである。(図ー1)

ダム本体建設工事は平成6年10月に着工し,堤体コンクリートは平成7年12月に打設を開始した。
主打設設備として,全国で初めて吊り能力300tという大型クローラクレーンを採用し,拡張レヤー工法で打設を行い,平成10年3月に堤体積176,000m3のコンクリート打設を完了した。(写真ー1)
当ダムの基礎岩盤は,新生代第三紀鮮新世の安山岩類であるが,左右岸リム部に多数の高角度開口性亀裂が上下流方向に発達し,地下水位も地山深部まで低い水位が続くという透水性の高い岩盤であった。
そのため,カーテン,リム部を含む止水ラインは全延長825mと広い範囲に渡り,ボーリング・グラウチングの総施工延長は139,000m,リムトンネルの延長が897mにもなるという大規模な基礎処理となった。
現在はこの基礎処理工事も終り,平成13年10月より試験湛水を再開し,漏水やダムの挙動について計測中である。
ここでは,吊り能力300tという大型クローラクレーンを使用した拡張レヤー工法による堤体打設と総施工延長が139,000mにも達する基礎処理について,概要を報告する。

1 事業の概要
塩田川は長崎県境の多良山系に,その源を発し,有明海に注ぐ流域面積128㎢,流路延長26㎞の2級河川である。当河川は従来より出水の度に沿川市町村,特に塩田町や有明町に多大な被害を及ぼし,その都度地域住民からは早急な治水対策が望まれていた。(図ー2,3,4)

1.1 横竹ダムの目的
(1)洪水調節
ダム地点に於ける計画高水流量235m3/sのうち210m3/sを調節し,吉田川,塩田川沿川地域の水害を防除する。
(2)流水の正常な機能の維持
当該流域は近年,度重なる渇水に深刻な影響を受けており,下流既得用水の補給等,流水の正常な機能の維持と増進を図る。(図ー5)

1.2 横竹ダムの諸元
表ー1に横竹ダムの諸元を示す。図ー6にダム平面図,図ー7にダム下流面図,図ー8にダム標準断面図をそれぞれ示す。

2 ダムサイトの地形,地質
2.1 地形
ダムサイト周辺の地形は壮年期の急峻な地形を呈し,構成する地質を反映して特異な急崖,先鋒が発達している。
右岸の標高200m付近は,屋根幅が薄くなっている。また,左岸の標高200~240mはやせ屋根となっている。
河床幅は約70mでやや開析された平底谷形状を呈し,両岸の斜面は右岸が約60゜左岸は約35゜の勾配になっている。

2.2 地質
ダムサイト周辺の構成地質は,新生代第三紀の芦屋層群(杵島層群)佐里砂岩層を基盤岩とし,これを覆って新生代第三紀鮮新世~第四紀更新世の豊肥火山岩類が広く分布している。
吉田川安山岩類は,安山岩自破砕溶岩を主体とし,内部に帯状あるいはレンズ状に安山岩溶岩が残置しており,溶岩流(フローユニット)の方向性を示している。
自破砕溶岩は,全体としては密実であるが,冷却亀裂やクリープによると考えられる高角度開口性亀裂が上下流方向に分布し,20Lu以上の高透水性を示している。(写真ー2)

安山岩溶岩は不規則な網目状の亀裂が発達している。凝灰角礫岩は,右岸尾根部にU字谷状に数m~20m程度の厚さで存在し,その上位に上部吉田川安山岩類,早ノ瀬川火砕岩類が覆っている。
ダムの支持岩盤は,下部吉田川安山岩の自破砕溶岩,安山岩溶岩からなり,十分な強度を有している。
ダムサイトの透水性は,右岸尾根部において高い透水性を示しており,地下水位は河床部より右岸深部の方が低くなっている。
以上から,当ダムでは右岸リム部に於ける止水対策が重要な課題となった。

3 施工概要
3.1 ダム建設工程
カーテングラウチングやリムグラウチングは,一般的には本体コンクリート打設と同時期に行う事が多いが,当ダムではパイロット孔とテストグラウチングを先行させ,グラウチング計画の見直しを行ったので,堤体の打設完了後に本格的なグラウチングの施工となった。

3.2 転流工
転流工の対象流量は,年超過確率1/1の流量である36m3/s とした。
一次転流方式としては,河床部が広いことから,経済性,施工性に優れる開渠方式とした。転流工のうち,土工部分は布製型枠コンクリートによる三面張り構造とし,基礎掘削面上は架台上にコルゲートフリューム幅4m・高さ2mを設置した。(写真ー3)
二次転流は,堤内仮排水路方式とし,堤内仮排水路の打設が完了した後,H8年6月に行った。

3.3 基礎掘削工
基礎掘削は,左岸側6ブロックに一次転流工が有るため,左岸側の掘削を先行し,一次転流後,右岸側,河床・減勢工部の順で行った。
仕上げ掘削は,ピックおよび人力等により厚さ50㎝を掘削除去する事を基本としたが,試験的にツインヘッダーを用いて自破砕安山岩の切削を行った。(写真ー4)自破砕安山岩は圧縮強度200~500kgf/㎠程度で,凹凸も少なく平滑に仕上げる事が出来た。また,仕上げ面の下部岩盤を損傷させたり,緩めたりする事も無く良好であった。
安山岩溶岩は不規則な網目状の亀裂が発達しており,掘削後1週間程度で風化し,礫状に破砕されるので,左右岸の堤敷斜面部はモルタル吹付により保護するものとした。

3.4 ダム用仮設備
コンクリート用骨材は,ダムサイト上流3.5㎞の春日地区山腹の原石山に於いて,玄武岩を爆砕し,貯水池内の骨材製造設備まで10tダンプトラックで運搬した。
骨材製造設備は,月最大打設量から150t/Hの生産能力を持つものとし,堤体上流400mの貯水池内に設置した。(写真ー5)
濁水処理設備は,機械脱水処理方式とし,処理能力はダムサイト用で150t/H,骨材プラント用で300t/Hとした。また,渇水期には吉田川の河川水量が非常に少なくなることから,処理水槽600m3を設け,処理水を循環使用した。

4 大型クローラクレーンによる堤体打設
4.1 堤体コンクリート打設工法
当ダムのコンクリート打設は,佐賀県で初めての拡張レヤー工法(ELCM)を採用した。なお,民家が近接している等の理由から,昼間の一方施工に規制されたため,1日当たりの最大打設量は735m3となった。
打設量等の関係で拡張できない部分については,最大リフト差1リフトとして,先行ブロックを1つおきに打設,次に後行ブロックを打設して面状となる方法を採用した。(以下,この方法をレベルレヤー工法という。)
堤体下位標高部21m区間は打設量の制限から打設高h=0.75mのレベルレヤー工法とした。(写真ー6)中標高部19.5m区間はh=0.75mで2ブロック拡張のELCM工法で打設した。(写真ー7)

堤頂部付近は,常用洪水吐やピヤー,越流部等の構造物が多いので,張出し足場や型枠,鉄筋等の作業量が多く,打設日間隔が延びるため,拡張する事は望ましくない。作業量を平準化し連日打設できるよう,上部16.5m区間はh=1.5mのレベルレヤー工法で施工した。
ELCM工法の特徴は次のとおりである。
① コンクリートは従来のCmax=150mm,スランプ3±1㎝程度とし,内部振動機にて締め固める。
② 上下流方向はレヤー方式で,ダム軸方向は数ブロックを1区画として同時打設する。
③ 横継目は振動目地切機で打設直後に造成。
④ 面状工法であるので打設面が広く,作業性安全性の面で有利である。

4.2 大型クローラクレーン打設
(1)打設設備概要
当ダムは河床部が広く,U型形状のダムであるので,主打設設備として,自走することによりカバーエリアが広くとれる汎用型の300tクローラクレーンを選定した。(写真ー8)
堤体積100,000m3以上のダムでのクローラクレーン打設,しかも300tという大型クレーンによる打設は,いずれも全国で例を見ない初めての試みである。
主打設設備のエリアから外れる減勢工,堤体両袖部においては補助設備として100tクローラクレーンを使用することにした。
クレーンの走行路は,全体の仮設計画の配置から上流側が有利であったので,ダム軸上流20mの位置にダム軸に平行に設置した。設置高は20年確率の洪水位より高くなるように決定し,重力式擁壁と補強盛土の上に鉄筋コンクリートの連続梁を設け走行路とした。

(2)作業性とサイクルタイム
クローラクレーンの作業性は,荷卸し地点での横振れも少なく,位置合わせが良好である。また,コンクリート放出時のバケットの急上昇(リバウンド)も小さく安全である。一方,作業半径が大きい場合,ブームを倒したまま旋回すると遠心力が大きくなり危険性が増すので,ブームを起こして旋回する必要があり,作業効率は悪くなる。

(3)クローラクレーン打設の特徴
主打設設備として,クローラクレーンの特徴は以下のとおりである。
〈長所〉
① 自走式であることから,カバーエリアを広くとれる。
② 打設ブロックの最適打設位置(クレーン位置)の選択に自由度がある。
③ 25t程度の重量物を堤体上に吊り込むことができ重機類の搬出入やプレキャスト化等の合理化施工に有利である。
④ クレーンの据付,撤去が容易である。
⑤ 自然地山の堀削が必要でなく,環境保全に対して優位である。
⑥ 地形,ダム規模等の条件によっては,他の打設設備よりも安価となる。
〈短所〉
① クレーン運転手が荷卸し位置を直接視準できないブラインド運転が大部分を占める。
② 汎用型のクレーンであるため,巻索,起伏索共にドラムに多重巻となっている。したがって,ワイヤーが擦れて損傷が著しいので,ワイヤーの交換が多い。
③ 上流配置の場合,洪水対策が必要である。
④ クレーン本体の転倒に対して,充分な対策が必要である。
なお,当ダムではブラインド運転に対する安全対策として,クレーンブームに3台のテレビカメラ,クレーン運転室にモニターテレビを設置し,多角度からの映像で安全運転に配慮した。(写真ー9)

(4)打設実績
コンクリート打設実績は下記のとおりで,はぼ計画どおりの打設結果となった。

5 基礎処理
5.1 基礎処理の概要
地質調査の結果,左右岸リム部では,フローユニット単位で冷却亀裂や不整合面付近でのクリープによると考えられる高角度の開口亀裂が地山深部まで上下流方向に分布し,20Lu以上の高透水性を示すことが確認された。
基礎岩盤の浸透流の性状は,亀裂の開口度からノンダルシー流として取り扱うべきで,浸透路となる部分は全てグラウチングにより遮断する必要が有ると判断された。
また,亀裂が高角度で開口部が部分的であるため,孔間隔を狭くしなければ注入効果が現れにくいという事がテストグラウチングでわかった。
地下水位は,右岸リム部の深部で現河床面より約20mも下がっており,当該地盤の特異性を示している。
これらの結果から,止水ライン延長825m,平均深度80m,グラウチング総延長が121,500mと広範で高密度なグラウチングが計画された。
施工に際しては,基礎処理費のコスト縮減,合理的効率的改良を目的に,計画の見直しを行った。
まずパイロット孔を12m間隔で全域で先行施工し,詳細な地質,透水性の状況を把握した。
次に,左岸リム部,右岸リム部の上下段トンネルの各々2カ所,計6カ所で先行グラウチングを実施して,改良効果の確認,合理的注入仕様の再検討を行った。

5.2 コンソリデーショングラウチング
(1)孔配置
河床部は概ね新鮮で亀裂の少ないCM級岩盤が露出したので,標準的な配置として5m×5m格子で,孔長5mとした。
左右岸の袖部斜面部では,高角度亀裂の多い岩盤であることから,5m×5m格子の中間に1孔追加した配置とした。削孔方向は亀裂にクロスするよう掘削面にほぼ垂直方向とし,孔長は5mとした。
なお,改良目標値は5Luとした。
(2)施工方法
カバーコンクリート(3m以上)からの施工とし,削孔はロータリーボーリングマシンを使用した。

5.3 2段リムトンネルからの施工
右岸リム部ではグラウチングの奥行きがダム高の約6倍(約350m),平均深度で約80mの広範な止水範囲が必要となり,また,深部に高透水部が点在することから,確実なグラウチング施工が望まれた。
このため,グラウト孔の孔曲がりの抑制,トンネル内の施工効率,施工精度を考慮し,3.5m×3.5mの内空を有する上下2段のグラウトトンネルによる分割施工を採用した。(写真ー10)

おわりに
従来,堤体コンクリートの主打設設備として汎用型のクローラクレーンを使用する事例としては,ほとんどが100,000m3以下の小規模なダムの場合であり,かつ吊り能力が200t以下のクローラクレーンであった。
しかし,当ダムで300t吊りのクローラクレーンを使用し,順調な打設を行った実績から,今後は地形等の条件さえ許せば200,000m3クラスのダムの場合での採用も十分に可能になったものと思われる。
また,基礎処理工については,まず始めに全てに渡りパイロット孔を先行施工し,併せて先行グラウチングにより計画の見直しを行いながら,かつ一般孔の施工実績を逐次分析してフィードバックすることによって,より経済的で効率的なグラウチングを施工することができたと考える。
この経験を今後のダムづくりに活かせれば,大いにコスト縮減に結びつけることが出来るものと思われる。

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