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桁高制限のきびしい単純合成箱桁の設計について
-変断面設計の一事例-

九州建設コンサルタント(株)
 専務取締役
佐 藤  力

九州建設コンサルタント(株)
 設計部次長
川 田 修 一

1 はじめに
日田市は,かつて江戸幕府直轄の天領地として布政所がおかれたところである。この面影を残しているのが豆田町で,周辺には咸宜園や慈眼山公園など多くの名所旧跡が点在している。
御幸橋は町の北側を流れている花月川にかかっていたが,河川の改修工事に伴って架け替え改築されることになった。架橋地点付近の堤防と橋梁前後の取り付け道路沿いには旧家屋が密集して地形や環境・景観上から橋梁架け替えによる道路の大幅な嵩上げは許されず,設計に当ってはきびしい桁高の制限をうけた。
そこで最終的に採用された上部工形式は,中央部橋脚上の桁高965mmに対して左右岸橋台上の桁高を280mmとした2径間単純合成鋼箱桁(変断面)となった。
この報告書は,桁高制限のきびしい単純合成鋼箱桁(変断面)設計の一事例として,上部工の概要と設計・制作上の幾つかの問題点を紹介し,今後の類似構造物設計の参考に供する。

2 上部工の概要
 架橋位置   花月川3K600
 道路規格   3種3級
 設計荷重   TL-20
 橋 長    2@32=64m
 有効幅員   車道7.25+歩道3.0=10.25m
 斜 角    右-83°
 縦断勾配   4.3%(おがみ)
 工事費     200,300千円
 主要鋼材  (表ー1)

3 上部工の選定
上部工の選定にあたっては
1)花月川の左右岸堤防は,すでに改修済みで河川堤防および橋梁取り付け道路沿いの家屋も改築済みである。
2)現道はバス路線,通勤・通学路・商店街となっている。
3)花月川の河川計画高水位から現道路面までの余裕高さは1.4mである。
これらの地形・環境条件のもとでは,車輌通行上の縦断視距や堤防上の平面交叉などにも支障がないような形式を配慮することが必要で,数種の上部工形式について試算検討した結果,下記の3橋種が候補となった。
 Ⓐ 単純合成鋼箱桁
 Ⓑ 単純鋼床版桁
 Ⓒ 2径間連続非合成桁
この3タイプの比較を要約すると,Ⓒタイプでは左右橋台上の端部桁高が,要求された桁高制限を満足しない。
また,Ⓑタイプは主桁本数9本とすれば主桁のたわみ量および桁高制限は満足するが,総鋼重量が約250tとなり経済的に不利である。(本文では250toとなっているが,表―1の重量tに合わせた)
その結果,橋面の縦断勾配を4.3%としたⒶタイプが最終案として採用された。(図ー2,3,4参照)

4 設計上の問題点とその対策
1)応力解析
主桁の応力解析は,任意格子理論によって行ったが,数値計算に当っては主桁の高さが280mmから965mmの変断面となっているので,仮定剛度と実剛度,仮定鋼重と実鋼重の誤差は10%以内に収めることを目標に繰返し計算した。
計算された各部の応力度については何も問題はないが,桁端部の中立軸の位置がU.Fℓgの縁端から10 mmとなっている。この数値は応力解析や主桁製作時の誤差を考えると,設計上はかなり冒険的な要因となっている。
2)箱桁内のマンホール(図ー5,6)
主桁の組立てや添接作業などに必要な箱桁内のマンホールは,必要最小限と考えられる350mmとしたが,リブの高さ・スカーラップのサイズと主桁高さの関係から,P1~R4の区間以外には設けられない。本橋ではC´1~R2・C2~C8を密閉構造としたので添接部J1には上下フランジに添接作業用のマンホールを設けた。

3)添接用マンホール(図ー7,8)
添接部J1点上フランジのマンホールは縦リブを切り欠くことになるので,φ500程度のリブ付きマンホールとしマンホール・リブ共に設計断面の一部と考え,主桁添接作業終了後はハイテンボルト締めとしている。
下フランジのマンホールはφ500×600程度の隋円形とし,周囲をリングプレートで補強した。また,これらのマンホールは作業性を考慮して上下同一ケ所に設けている。

4)支点上のハンドホール(図ー9)
橋台側支点の上フランジには,主桁製作時のダイヤフラム・補剛材の溶接作業と架設時の沓のセットボルト取り付け作業用としてφ150程度のハンドホールを設けた。このハンドホールは作業終了後鋼板をかぶせてボルト締めとしている。

5)ダイヤフラム(図ー10,11,12)
桁高の低い橋台側の支点上,C´1~C3区間の密閉内および密閉ケ所のダイヤフラムの取付け工法が設計上もっとも困難と苦心したところである。
支点上のダイヤフラムはハンドホールから,また密閉内はL.Fℓgにスリットを設け,桁製作過程で主桁を反転して埋め込み溶接とした。
密閉するケ所はハンドホールと添接部のマンホールから溶接作業を行った。
3~R6の区間は箱桁内にマンホールが設けられるので通常の桁内溶接作業となる。

5 桁製作上の問題点
箱桁の製作工程は下記のとおりである。
1)上フランジにリブを溶接する。
2)上フランジにダイヤフラムを溶接する。
3)両側のウエブを上フランジとダイヤフラムに溶接する。
4)下フランジにリブを溶接する。
5)主桁を反転して下フランジを溶接する。
6)所定の塗装を施して桁製作を終了する。
この製作工程によるとR4からP1の区間では何ら問題はないが,C3より橋台側の密閉区間では
① スカーラップの溶接埋戻し作業が非常に困難となる。
② 密閉構造のために桁製作終了後に内部塗装ができない。また桁内部は直接外気には触れないが,昼夜の温度差による結露がさけられない。
③ 支点部のダイヤフラム・補剛材の板厚が厚いために溶接ひずみが出やすい構造となった。
 とくに密閉部のダイヤフラムと下フランジの取り付けは,下フランジにスリットを設けて溶接で埋め込むようにしたので溶接ひずみが出やすく,このひずみを如何にして防止するかが製作上の最大のポイントとなる。
④ 構造上FP溶接(完全とけこみ溶接)が多く,密閉部ではフランジに設けたハンドホール・マンホールからの作業性がよくない。
以上のように,極端に桁高を制限した御幸橋の設計,製作上の幾つかの問題点とその対策について簡単に記述した。
この種の構造物では必然的にⓐ使用部材の板厚が厚くなり,また板厚さの違いと溶接熱によって生ずる部材ひずみの防止とその矯正ⓑ密閉内部の取り付け工法とその作業ⓒ作業性を高めるためのマンホール・ハンドホールの位置などが最大の問題点となる。
とくに密閉内のダイヤフラムの取り付け工法とその作業法については,製作工場の機械設備や作業工程を充分に把握した上,設計時点での入念な検討が必要である。

6 あとがき
御幸橋の設計では橋台側桁端部の桁高が非常に低くFP溶接が多い構造形式となった。設計・製作上幾多の問題点が挙げられたが,この報告書ではそのうち主な項目について簡単に記述したので非常に理解し難い文章となった。今後の類似構造物設計に際して参考になれば幸いである。
最後に本紙をまとめるにあたり,資料の提出に御協力いただいた建設省筑後川工事事務所ならびに日本鉄塔(株)の関係者各位には紙面を借りて謝辞を申し上げる。

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