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東九州自動車道のストック効果について
小林秀典

キーワード:東九州自動車道、ストック効果

1.はじめに
東九州自動車道は、北九州市を起点に大分県、宮崎県を経て鹿児島市に至る延長約436㎞の高速自動車国道です。昭和60年度に事業化された延岡南道路を皮切りにNEXCO西日本及び九州地方整備局により順次整備が進められ、平成2年2月の延岡南道路の開通から平成27年3月の佐伯~蒲江間(20.4㎞)まで通算344㎞、全線のうち約78.9%の区間が開通しました。
この間、東九州自動車道の整備は高速交通ネットワークの空白地帯と揶揄された東九州地域に移動時間の短縮や公共投資による経済効果をもたらしただけでなく、様々な変化と成長をもたらしました。

本稿では、東九州自動車道が九州地方にもたらした整備効果のうち、ストック効果に着目して紹介します。

2.社会資本整備の効果
東九州自動車道のようないわゆる社会資本の整備効果については、一般的にフロー効果とストック効果の二つに区別されます。
フロー効果は、公共投資により生産、雇用及び消費等の経済活動が派生的に創出され、短期的に経済全体が拡大する効果のことです。ストック効果は、社会資本が整備され、それらが機能することによって継続的に得られる効果のことであり、経済活動における効率性・生産性の向上が図られたり、国民生活における衛生環境の改善、防災力の向上、快適性やゆとりが創出されたりする効果のことです。
公共事業の効果を論ずる場合、これまでは景気の下支え効果としてフロー効果に注目される場面が多くありましたが、これからは社会資本が本来持つ効果を発揮することにより新たな投資、成長を呼び込む効果、いわゆるストック効果に着目する視点が重要となります。

3.直接効果と間接効果
社会資本整備のうち道路整備に関するストック効果については、直接効果と間接効果に区分することができます。
直接効果とは、第三者を経ずに直接道路利用者に即時に発生する効果のことです。具体的には、走行時間の短縮、走行経費の節約・燃料の節約、交通事故の減少といった費用便益分析で計上されるものであり、さらに定時性の確保や運転者の疲労軽減、走行快適性の増大等が挙げられます。
また、間接効果とは直接効果を経由して時間的経過を経て広く社会一般に発生する効果であり、直接効果以外の全ての効果のことです。具体的には、雇用の拡大、家計所得の増加、税収の増加、地域開発の誘導、交流人口の拡大等の経済活動へ及ぼす効果であり、また、衛生環境の改善、災害安全性の向上、快適性やゆとりの創出など国民生活の質の向上に資する効果です。
従来、私たちが道路のストック効果について考えるとき、直接効果のみにとどまっている事例が多く見られます。しかし、景気・経済の再生が大きな課題となっている現在、民間投資を喚起する間接効果に重点を置いた効果把握に努める必要があります。

4.東九州自動車道の直接効果
平成27年3月の佐伯~蒲江間(20.4㎞)の開通は単純に両IC間を繋ぐというだけでなく、大分県と宮崎県が高速道路で直接繋がるという道路利用者の移動圏域に劇的な変化をもたらすものと期待されています。
ここでは、具体的に同区間の開通が周辺高速道路ネットワークにどのような影響を与えたのか、ストック効果のうち直接効果を把握することにより確認します。

1)主要都市間距離と時間短縮効果
東九州自動車道のストック効果のうち直接効果を把握するため、東九州地域の主要都市間において東九州自動車道が未整備であった昭和63年当時と平成27年3月現在との所要時間を比較します。
表-1のとおり大分市(47.8万人)~佐伯市(7.7万人)間の所要時間は整備前で約2時間5分に対し、整備後は約50分となり約60%短縮されています。また、佐伯市~延岡市(12.7万人)間の所要時間は整備前で約1時間35分に対し、整備後は約1時間となり約37%短縮されています。この結果、大分市~佐伯市間、また、佐伯市~延岡市間は約1時間で相互に往来できる日常生活圏が形成されました。

次に、大分市~延岡市間の所要時間は整備前で約3時間に対し、整備後は約1時間30分となり約50%短縮されています。また、延岡市~宮崎市(40.3万人)間の所要時間は整備前で約2時間30分に対し、整備後は約1時間25分となり約43%短縮されています。
さらに、大分市~宮崎市間の所要時間は整備前で約5時間25分に対し、整備後は約2時間50分となり約48%短縮されています。この結果、大分市~宮崎市間は約3時間で相互に往来できる日帰り交通圏が形成されました(図-2)。

5.東九州自動車道の間接効果
上述のとおり同区間の開通が宮崎・大分県間の時間距離を大きく減少させ、日常生活圏や日帰り交通圏を拡大させたことが確認できました。
ここでは、時間距離の減少が道路利用者の移動圏域に劇的な変化をもたらすことについて、ストック効果のうち間接効果を把握することにより確認します。

1) 交通量の変化
①開通1ヶ月後の交通量
佐伯~蒲江間の開通1ヶ月後の平均交通量については、佐伯~佐伯堅田間が7,400台/日、佐伯堅田~蒲江間が8,400台/日と確認されました。
また、これにあわせて近隣区間の平均交通量については、津久見~佐伯間が10,100台/日で対前年比26%増となっており、北浦~須美江間が6,600台/日で対前年比136%増となっています。
この近隣区間における平均交通量の大きな増加は、ミッシングリンクの解消によりネットワーク効果が顕在化したことが一因と推察されます。

②GW期間中の交通量
佐伯~蒲江間のGW期間中(平成27年5月3日~6日)の平均交通量については、佐伯~佐伯堅田間が17,900台/日、佐伯堅田~蒲江間が19,200台/日と確認されました。
また、これにあわせて近隣区間の平均交通量については、津久見~佐伯間が19,900台/日で対前年比45%増となっており、北浦~須美江間が16,300台/日で対前年比130%増となっています。
開通1ヶ月後と同様にGW期間中についても、近隣区間における平均交通量が大きく増加しており、こちらも同様の理由と推察されます。

2) GW期間中の観光に着目したストック効果
平成27 年のGW期間中における東九州自動車道の観光に関するストック効果に着目し、その結果を整理します。
①東九州自動車道沿線の観光客の増加
大分県・宮崎県内の東九州自動車道沿線の主要観光施設等18 施設の入り込み客数が同道路の開通前と比較して約1割増加しました。来場した観光客に対して「今回の旅行を計画したきっかけは?」というアンケート調査を実施したところ、約7割の方々から「同道路の開通が理由の一つ」という回答を得ました(図-3)

②観光圏域の拡大(大分県:うみたまご)
大分市の大分マリーンパレス水族館「うみたまご」では、東九州自動車道の開通前と比較して県外からの観光客の割合が76%から85%に上昇しました。特に宮崎県からの観光客割合が6%と大きく増加しています(図-4、写真-1)。

③観光圏域の広域化(宮崎県:高千穂峡)
宮崎県西臼杵郡高千穂町にある国の名勝・天然記念物高千穂峡では、東九州自動車道の開通前と比較して九州外からの観光客の割合が8%から22%に大きく上昇しました。特に、四国地方(2%増)、中国地方(5%増)、関西地方(4%増)からの観光客の増加が顕著となっています(図-5、写真-2)。

④新たな観光ルートの開拓
GW期間の特徴的な変化として、愛媛県と大分県を結ぶフェリーの乗用車利用台数が東九州自動車道の開通前と比較して約2 割増加したことが挙げられます。これは、東九州自動車道の開通が高速道路とフェリー航路の連携により、九州本島内にとどまらず四国地方まで含めた広域的な交通ネットワークを形成し、GW期間中だけでも2つの観光ツアーが企画されるなど、新たな観光ルートの開拓に繋がったことが一因と推察されます(写真-3、図-6,7)。

⑤道の駅における観光消費額の増加
東九州自動車道の沿線にある「道の駅」において、東九州自動車道の開通前と比較して観光客1人あたりの観光消費額が約1割増加しています(図-8,9)

3)企業立地に着目した効果
東九州自動車道の開通延長の増加に伴い、延岡市では過去5年間(平成21年~平成25年)で31件の企業が立地し、新たに約590人の雇用が発生しました(図- 10,11)。

6.景気マインド向上に向けた情報発信
上述のとおり東九州自動車道の今回の開通は、平成2年2月以来の開通区間と一体となって私たちの暮らしや経済活動等に様々なストック効果をもたらしています。
一方、従来私たちが道路整備の効果として調査・検討して情報発信してきた内容はストック効果の中でも時間短縮効果等の直接効果が大半を占めており、経済活動や生活の質の向上に資する間接効果については情報発信が十分とは言い難い状況です。
しかし、景気・経済の再生が大きな課題となっている現在、道路整備のストック効果のうち特に間接効果については、各地域における経済活動や生活の質の向上の成功事例として積極的に広報し、地域の方々や各企業と情報共有することにより、新たな投資、成長を呼び込むことが重要な取り組みとなっています。
従来、私たちは主に納税者としての国民や用地等を提供いただく関係者としての国民に対して情報発信することにより、事業執行の円滑化や道路の質の向上に取り組んできました。しかし、今後は情報発信の対象として企業や投資家も取り入れて、民間投資を喚起することを目的とした情報発信も求められます。
その具体的な取り組みが道路整備による経済活動等の向上の成功事例としてのストック効果に関する情報発信であり、従来取り組んできた毎年度の「予算を踏まえた道路事業の開通見通し」の公表と一体となって民間投資を喚起し、今後の九州地方の発展と成長に寄与するものと期待されます。

7.おわりに
今回の開通で約344㎞、約78.9%が完成した東九州自動車道ですが、一方で約92㎞、21.1%が未整備という状況であり、九州の高規格幹線道路全体を考えれば約278㎞の区間が未整備のままです。
今後、この未整備区間の整備を進めるにあたっては、従来の情報発信にとどまらず、現在の道路整備の目的として民間投資を喚起することが重要視されていることを十分に認識したうえで取り組むことが求められます。つまり、上述のような開通済み区間のストック効果や整備中区間の開通見通し等を積極的に情報発信することにより、企業や自治体と歩調を合わせた道路整備が重要となりますので、私も道路整備に関わる一員としてその実現にむけて積極的に取り組んで参ります。
最後に、本稿を執筆するに当たり、ご協力いただいたすべての関係者の皆さまへ深い感謝の意を表します。
資料
 1)内閣府「日本の社会資本2012」
  2)出所:一般財団法人計量計画研究所

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