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有明海軟弱地盤改良の設計とDJM工法

建設省筑後川工事事務所
副所長
井 上 弘 武

1 まえがき
有明海は,面積1,700km2,海岸延長540kmの内海である。この海湾の特徴は,湾奥では6mにも達する干満差と,この地方特有の「潟土」と呼ばれる軟弱な粘性土で構成されている地盤である。この沿岸は干潮時には4~6km沖まで干潟ができる遠浅海岸でノリ養殖場としても名高い。昭和35年有明海岸は,高潮対策の一環として直轄保全区域(L=26.2km)に編入され,嘉瀬川より西(L=12.1km)を武雄工事,東(L=14.1km)を当事務所で整備している。
この海岸堤防築造にあたって,軟弱地盤のもつ特性から現況堤防の再嵩上げは,急速施工で高盛土を実施すると地盤の変形やすべり破壊が生じるため地盤改良工法を採用する必要がある。ここでは,当事務所で施工し良好な成果を得ている改良工法の一つであるDJM(粉体噴射撹拌工法)について設計及び施工例を紹介するものである。

2 有明沿岸の土質特性
潮汐の影響により土の微粒子は沖合へ又海岸へと流動し繰返しながら干潟が徐々に発達し含水比の高いいわゆる軟弱地盤を生成する。この粘性土を「有明粘土」と呼びその層厚は15~20mに及び工事施工上,種々の配慮を必要とする原因を作っている。土質的な特性は,自然含水比が100%を超える場合が多く,自然状態でも流動化しやすい特性を示している。また,堤防等の安定を検討する場合に用いる地盤の粘着力C(tf/m2)は,一軸圧縮強度qu(kgf/cm2)の1/2にほぼ等しく,正規圧密の海成粘土である。その強さは図ー1に示すように東与賀海岸で東京湾の約1/2程度しかない。

3 有明海岸事業
(1)海岸堤防の現況と背後地
昭和35年度に直轄工事施工区域の告示がなされ,その後の事業促進により,一部を残し堤防高TP+6.0mで概成している。
海岸提の背後地は,図ー2のとおり計画高潮位(+5.02m)以下の低平地帯が12kmに及び,ここに,佐賀市を中心に,2市14町約35万人が生活しているうえ,台風の常襲地帯である。

(2)堤防計画
計画は,伊勢湾台風規模として表ー1の条件により前面堤TP+7.50m(側面堤TP+6.10m)としその断面は,図ー3のとおりである。

4 軟弱地盤対策工法の選定
対策工には,多くの種類があり,それぞれの特徴を有し,主眼とする効果も異なる。対策工は築堤時や構造物施工時にすべり破損に対する安定性が得られない,あるいは施工後に大きな沈下が残留して問題となることが明らかである場合に用いられるものである。対策工の選定の考え方を図ー4に示す。

5 粉体噴射撹拌工法(DJM:Dry Jet Mixing)
(1)工法の原理
本工法は,建設省総合技術開発プロジェクトの「新地盤改良技術の開発」の一環として開発され56年度実用化されたものである。これは,改良材(石灰・セメントなど)を圧縮空気により,粉体のまま撹拌翼の付け根部分から翼の回転によって軟弱地盤中に噴射させるものである。
さらに軟弱土と改良材を化学的に反応させて短時間に安定した固結土を形成する新しい深層混合処理工法の一つである。図ー5に工法の原理を示す。その後の事業促進により,一部を残し堤防高TP+6.0mで概成している。

(2)工法の特長
① 土質と改良目的に応じて粉粒体の改良材を自由に選択できる。
② スラリーに比べ混合量が少なくて済み,地盤の盛上りがきわめて少ない。
③ 撹拌効率がよく,品質のばらつきが少ない。
④ 改良材が全面に均等散布されるので効率がよく経済的な設計施工が可能である。
⑤ 所要の改良強度が広範囲に任意設定でき改良効果が短時間で得られる。
⑥ 安全で,施工現場がきれい。水を全く使用しないため信頼度の高い施工管理ができる。
⑦ 自動記録で確認しコントロールが容易。

(3)機種の選定
改良機本体は,次の4機種があり現場状況に応じ選定する。

6 地盤改良の設計・施工
(1)調 査
① 事前調査…土質条件を設定するための調査。
原位置試験
サウンディング…標準貫入試験N値
コーンテスト…コーンテストqc,土層の構成支持層の確認(軟弱層の深さ)
土質試験:土の物理的,力学的,化学的性質の試験,室内配合試験(混合比,圧縮強度など)
② 現場施工時:室内配合試験(改良材の種類,混合比の決定)
③ 事後調査:地盤改良の結果が設計を満足しているかどうか。
 (a) 改良盤全体の評価確認…動態観測
 (b) 改良柱体の断面全体に対する品質確認…柱体上での平板載荷試験や堀起し改良体に対する実大載荷試験
 (c) チェックボーリングなどによる改良効果の確認…コアー採取による一軸圧縮試験等のサウンディング
◦一般的に(c)の方法が多く,本工事も適用,その割合は概ね1,000m2に1本と考えた。(図ー6)

(2)設計理論
① 条件一支持形式は支持地盤(砂層)に着底。
   ー改良断面は杭式改良。
② 改良率 ap=(1/4×π×1.02)/(1.2×1.3)= 0.5034 ≒ 50%改良
③ 地盤改良の考え方:複合地盤

④ 改良幅の考え方
改良体をケーソンと考え(ケーソン設計理論を一部採用)安定性,変位,転倒,滑動,支持力について検討し決定する。(図ー7)

(3)設計例(戊申搦地区堤防安定検討)
設計条件
 上載荷重=堤防天端q=1.0/m2
 改良体の高さ=天端1.0m下端ー14.60m
以上の検討事項につき安全率を満足する改良巾を試算した結果,転倒条件からNo.1における改良必要幅は7.0m,No.2においては4.9mが心要となった。(表ー3)

(4)施工例
① 工事概要
・工事名:戊申搦堤防(その2)工事
・工 期:昭和61年3月29日~7月10日
・場 所:佐賀市西与賀町大字高太郎地先
・内 容:地盤改良,改良長12.4m → 38本,14.6m → 630本,延9,669.2m
・コスト:3,800円/m3(改良体部分1m3当り)
② 施工機
改良機本体(DJM2090),改良材吹込装置,コンプレッサー,全重量80t,2軸式:クローラータイプ,改良深度Max30m,撹拌翼径1,000mm,撹拌軸トルク2,520kgf/m,回転速度32rpm(図ー8,9)
③ 設計
改良地盤設計強度:qu=4kgf/cm2以上,現場目標強度10tf/m2
改良打設の位置:波除工前面
改 良 幅:4.90m φ1,000mm
改良幅深度:砂層基盤まで14.4~15.6m
改良幅深度,圧送量:自記記録計で管理
改 良 材:高炉セメントB種 85kg/m3
④ 特記事項
室内配合試験:
施工前に85kg/m3前後3ケース行い,結果から現場強度は1/3~1/5を期待して決定する。
掘 進:
50m以下はサイクルタイム変更なし。但し,改良厚の変更は行う。
チェックボーリング:
改良本体の強度及び物理的性質を調査する。改良本体までφ86mm,それ以降66mm,深度=砂質土及び砂を50cm貫入
⑤ 積算例

(5)検討課題と留意点
① 安定計算は,改良範囲全体をケーソンとみなしているが未改良部があることから実際の動きがケーソンのような剛体としての動きとなるか,その調査又は試験法の確立。
② 設計条件は改良体全体を同一強度とし,改良部分と未改良部分の面積比(複合地盤)によって50%改良としているが,その妥当性。
③ 安定計算方法として円弧すべり計算法の妥当性と採用の可否。

7 あとがき
構造物を軟弱地盤上に構築するにはすべり破壊に対する安全性,圧密等による沈下,干満潮位による残留水圧等考慮し,現場条件や構造物の条件によって工法が選定される。設計上の検討課題を含め更に今後の研究が待たれる。

附.工事経過写真

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