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最近の建設技術開発の現状について

建設省大臣官房技術調査官
武 山 光 成

1 21世紀への潮流
戦後の急速な技術革新は,国民生活の向上や,国土基盤の整備などに多大の貢献をしてきた。特に第二次大戦をはさんだ1930~50年代を中心に,コンピューター,原子力などの世紀を代表する巨大な新技術が創出され,社会全般に多大なインパクトを与え,さらにプラスチック,ナイロンなどの新素材やトランジスタなどの開発と相侯って,戦後の世界経済の高度成長をもたらしてきた。
その後,1970年代の石油危機の時期には,省エネルギー,省資源に対応する技術の開発が急務とされたが,今日では,エレクトロニクス,バイオテクノロジー,新素材,新エネルギーなどの先端技術分野において技術革新が進みつつあり,建設技術の分野においても,こうした先端技術などをベースとして大幅なレベルの向上が予想される。
21世紀にむけてのわが国の社会・経済は,高齢化,成熟化,国際化等の新しい潮流の中で,急速な技術革新を基盤として大きな歴史的な転換期を迎えている。
我が国の老人(65歳以上)人口比率は1985年の10%強から2000年には16%強となり,欧米諸国を大幅に上回るスピードで高齢化が進展し,同時に労働力人口も急速に高齢化が進むと考えられる。建設労働者の高齢化に伴ない,将来優良な労働力の確保や技能水準の維持が困難になってくる可能性も想定され,これに対応した技術開発が求められている。
我が国の社会・経済の成熟化に伴う変化は,経済的には経済のソフト化・サービス化ということである。これは,単に第3次産業の増加にとどまらず,建設業を含む第2次産業においても,研究開発・企画・販売といったソフト・サービス部門の拡大がみられる。また,成熟化に伴う社会的な変化は,国民の価値感の多様化ということであり成熟化,多様化した建設ニーズに対応するための創造的な技術開発の必要性が高まっており,構造物の品質・性能の改善や工期の短縮等だけでなく自然および環境の保全に配慮した建設工事をも求められている。
さらに,21世紀は国際化の時代となり,ヒト・モノ・カネ・情報のすべての分野において世界との結びつきが一層深まり,全国全地域にわたって直接世界と日本が結ばれるようになると考えられる。そして,建設輸出の増大に伴って,中進国や発展途上国への建設技術移転の要請が強まっており,また,原材料・エネルギーの大半を海外に依存している我が国では建設分野においても,省資源・省エネルギーの技術開発が求められている。
我が国は世界第二の経済大国であり,国民所得や消費水準は欧米先進諸国並みとなったが,住宅・社会資本の整備は,欧米先進諸国と比べてまだまだ立ち遅れており,依然としてキャッチアップの途上にある。したがって,社会資本の整備に対する国民のニーズは質的にも依然として極めて強いものがある。特に,国民の価値感の多様化,高度化に対応した良質な住宅・社会資本ストックの形成が強く求められている。このような国民のニーズに応えていくため,今後とも住宅・社会資本分野への投資活動が積極的に行われることが重要であるが,そのためには,従来にもまして事業の効率性を確保することが現在の社会・経済情勢下で特に重要な課題となっている。
また,我が国の建設産業はGNPの約2割に相当する重要な産業分野であり,我が国の活力ある経済社会を維持発展させていくためには,建設産業の振興を図ることが重要である。加えて,建設事業における労働災害の発生状況に鑑み安全性の向上も重要な課題となっている。
科学技術研究調査(昭和61年,総務庁)によれば,売上高に対する研究費比率は全産業の2.3%に比べて建設業では0.5%とかなり低い水準にとどまっている現状を踏まえ,今後建設事業の効率化と建設産業の振興を図るためには,建設分野における技術研究開発を一層推進していく必要がある。

2 技術開発の動向
我が国の科学技術の今後の展開を考える際の参考として,科学技術庁が5~6年ごとに実施している技術予測の結果が利用できる。
最新のものでは,昭和62年9月に第4回目の調査結果が公表されており,これは西歴2015年までの30年間の種々の技術的課題について,その重要度や予想される実現時期等に関するアンケート調査である。アンケートは各分野の産,学,官等各界の専門家約3,000人を対象として,総数で1,071課題を設定し,調査はデルファイ法によって行い2回のアンケートにより意見を収れんさせる方式により実施されている。
主要事項についての実現時期を整理した未来技術年表から,広い意味で建設関係技術に関わるものを抜き出して表にまとめた。
都市・建築分野では,ハイテク機器を活用した防災システムの確立や実用化等のさまざまな災害に対する予防法の確立に関する課題がかなり重要視されており,資源の有効利用に関連した課題も重要度が高い。また,構造物のハードそのものに対する意見が少なく,道路交通管制システム・地域予知防災システム・水の総合管理システム・災害防止のシステム等の計画し,施工し,管理して行くといったトータルシステムとしての建設技術の確立の重要性を示唆しているものと言える。
実現時期についてみると,ほとんどは1996~2005年に実現すると予測されている。実現時期の早い課題は住宅建築関連,情報通信技術関連,新素材や耐久性の向上関連課題等といった高い社会のニーズや市場と近接関係にあるものである。
研究開発推進の方法,主体については,全般的に国・地方公共団体と民間との連携のもとに,自主技術開発の推進が期待されている。
また,民間における技術開発の意向調査として昭和60年8月に建設省の技術調査室が行った建設専門工事業の約600社に対するアンケート調査(複数回答)から,今後,重点的に技術開発すべきであると考えられている分野をみると,エレクトロニクスの導入による施工・管理の合理化,構造物の耐久性向上を上げた会社が60%を超え,40~50%の会社が必要と答えた分野には,廃棄物の利用化・空間の高度利用化・自然災害の防止・都市環境の改善・エネルギー効率の向上があり,ここでも総合技術としてのあり方が求められていることがわかる。

3 建設技術研究開発の基本的方向
建設省では,建設省に係る技術開発に関して,技術開発の基本的方向,重要技術開発課題,官民共同の技術開発体制のあり方等について広く各界の有識者の意見を聴取し,建設技術関係施策に反映させるため,昭和45年に「建設技術開発会議」を設置し,当該会議における審議に基づき計画的な研究開発を推進している。
この会議では,これまで建設技術研究開発五箇年計画の策定,総合技術開発プロジェクト制度の創設等,多くの技術研究開発に関する重要な施策を決めてきており,昭和58年に建設省の技術研究開発の今後ほぼ10年間における基本的方向を示した「建設技術研究開発の長期的方向」をとりまとめている。ここでは,国土建設の基本的目標として,
 ① 国民生活の安全の確保
 ② 快適な居住空間の形成
 ③ 経済・社会の活力を維持・充実するための国土基盤の形成
の3つを挙げ,さらに,地形・地質・気象,人口,資源・エネルギーといった自然的制約要因や,高齢化,環境問題,都市化といった社会情勢に伴う制約要因への対応を配慮しつつ,建設技術研究開発の長期的方向を,
 ① 国土の保全・安全・防災
 ② 空間領域の高度利用と拡大
 ③ 資源・エネルギーの有効利用
 ④ 社会資本の効果的な維持管理
 ⑤ 建設事業の生産性向上
 ⑥ 居住環境の改善整備
 ⑦ 環境の保全・調和・創造
 ⑧ 交通体系の総合的整備・合理化
 ⑨ 国土の情報の高度化
 ⑩ 国際協力への寄与
の10テーマについて定めている。
また,他産業に比べて建設事業は技術革新の立ち遅れが指摘されており,昭和59年に建設大臣の私的懇談会(総合懇談会及びニューメデイア,メカトロニクス,レーザー,バイオテクノロジ一,新素材,施工技術の6つの個別技術懇談会より構成)を設置し,各界の有識者に先端技術の活用をはじめとした建設分野における技術革新をテーマに幅広く意見を聴取している。
「先端技術の活用懇談会」において示された建設分野における先端技術活用の基本的考え方を受けて,これらの研究開発に積極的に取り組むとともに,技術革新や社会・経済情勢の変化に応じて新たな研究課題についても検討を行い,研究開発を推進していくこととしている。

さらに,従来,宇宙,海洋及び地中での活動はその広大なスペースと豊富な資源・エネルギーにもかかわらず,ごく限られた部分においてのみ行われてきたが,最近,内外において,各種のビッグプロジェクトが立案されるなど,ニューフロンティア開発推進の機運が急速に高まりつつある。
このため,建設分野においても,ニューフロンティア開発を推進し,それにより得られる空間・施設,材料・技術等を建設行政,建設事業に活用するという観点から,建設大臣の私的懇談会「建設省ニューフロンティア懇談会」を設置し,学識経験者や産業界の専門家に,ニューフロンティア開発の方向と可能性,建設分野の役割等について意向を伺っている。そして,昭和62年に報告がなされており,宇宙,海洋,地中の3分野に共通の課題として,
 ① 環境との調和
 ② 計画体系の整備
 ③ 法体系の整備
 ④ 基礎的な研究の推進
 ⑤ 技術開発の推進
 ⑥ 国際協力の推進
の6つを挙げている。今後,これら懇談会の結果を踏まえ,ニューフロンティア分野へ積極的に対応していきたいと考えている。

4 産・学・官の連携による建設技術開発
国民の高度化,多様化するニーズに応えつつ,効率的な住宅・社会資本整備を図るために必要な建設技術の研究開発を進めるにあたって,従来の範ちゅうを越えた学際的,業際的な分野の技術開発を進める必要性が高まっている。
このため,産・学・官がその保有する技術の特質等を十分に生かし,有機的に連携を保ちながら研究開発を進めていく必要がある。
建設技術開発の各種制度を表と図にまとめた。

(1)総合技術開発プロジェクト
総合技術開発プロジェクトは,建設技術に関する重要な研究開発課題のうち,特に緊急性が高く,かつ,その研究開発の対象が多数の領域にわたる課題について,行政部局が計画推進の主体となり,大学,民間等との密接な協力のもとに,総合的かつ,組織的に研究を実施する制度である。
研究開発期間は通常5箇年であるが,昭和60年度から行われているコンクリートの耐久性向上技術の開発のように,社会的な緊急性の高さから,3箇年計画で進められているものもある。実際の研究開発は建設省の試験研究機関等である土木研究所,建築研究所,国土地理院が主体となって推進され,研究形態としては直轄研究,委託研究,共同研究とに分類される。委託研究は主に(財)国土開発技術研究センターに研究委託されており,委託先に委員会や研究テーマに応じた部会,分科会などが設置され,ここに大学,民間等の数多くの有識者の参加を得て委託研究が推進されている。
共同研究は建設省の共同研究実施規程に基づいて実施されているが,その規程が昭和60年度に一部改正され,民間の個別企業との共同研究など柔軟な運用が可能となっている。このため総プロの研究開発の実施に当たっても,民間の技術力と活力とを大いに活用し,多様化・高度化する研究課題への対応と具体的な研究開発成果を得るため,共同研究を積極的に行っていくこととしている。
総プロの研究成果は,最終年度に全体の報告書として取りまとめられ,関係各方面に配布するとともに,通常,研究終了の翌年度の秋頃に研究成果の発表会を開催している。建設行政においても,総プロ第1号となった新耐震設計法の開発の研究成果が新たな耐震構造設計大系を生み出し,昭和55年の建築基準法令の耐震規程の抜本改正等に結実したこと,あるいは現在実施中のコンクリートの耐久性向上技術の開発の中間成果等をもとに昭和61年6月,コンクリート中の塩化物総量規制基準とアルカリ骨材反応暫定対策に係わる建設省通達が出されたこと等に見られるように,広く活用を図ることとしている。
昭和47年度に制度が創設されて以来,昭和61年度までに18課題が終了し,昭和62年度は新規3課題を含め8課題について研究開発を実施する。

(2)官民連帯共同研究
建設分野において必要とされる技術は,最近多岐にわたっており,他分野で開発された技術やアイデアを必要とする研究が増え,その際,民間のもつ資力・能力・情報の活用が期待されている。
従来の共同研究においては,主に総合技術開発プロジェクトなど建設省が主体となって研究を実施していることから,行政ニーズが高い課題が選定されてきた。一方,民間企業等の側では,革新的な技術やアイデアを持っていながら住宅・社会資本整備のニーズの見極めが困難であったり,開発リスクが大きな負担になったりする場合があり,建設省との共同研究に対する要望が強い。このため,建設省と民間企業等との共同研究を前提に官民のプロポーザルをすりあわせて研究課題の発掘を行い,そのうち行政ニーズも強く重要なものを選定し,建設省の試験研究機関等と民間企業等が連帯して共同研究を実施する官民連帯共同研究を昭和61年度から実施している。共同研究の実施に必要な経費のうち建設省の分担に係る経費については,建設省において予算措置を行う。
対象とする研究は,基本的には,共同研究制度の一定の要件に該当する研究を対象とする。原則として民間企業等のプロポーザルを尊重することとし,また,基礎的研究によって生じた技術のシーズを実用化に結びつけるような,どちらかと言えば応用研究に該当するような研究を対象としている。研究期間は概ね3年とする。
手続き等は,民間企業等からの研究課題の提案については,研究所等が指定する機関が随時受け付けるほか,関連する協会,団体等へのあっせん依頼により募集し,建設省内に設けている建設技術研究協議会で決定することとしている。
共同研究者の募集,共同研究協定の締結,研究成果や特許等の取り扱い等については,共同研究制度に従うこととしている。
昭和61年度に制度が創設され,昭和62年度は新規2課題を含め4課題について研究開発を実施する。

(3)建設技術評価制度
複雑,多様化する建設行政にあって,社会資本の整備その他の施策を円滑かつ効率的に推進していくためには,その基礎となる建設技術の研究開発をさらに強力に推進し,その成果を積極的に活用していく必要がある。
しかしながら,従来,公共的性格の強い建設事業の分野においては,その財源が公共費用であること,新技術導入による経済効果の算定が容易でないこと,新技術導入に起因する失敗が容認され難いこと等の理由から新技術の導入に慎重を期す傾向が見受けられる。
そこで,建設事業に新技術の成果を迅速に導入するために,新技術を適正に評価し,その普及を図るシステムとして,昭和53年度に建設技術評価制度が創設された。
国が行政ニーズに基づき決定した開発課題について,民間が行った建設技術に関する研究開発成果に対し,国が適正な評価を行い,その結果を公表することにより,新技術の積極的な活用を図るとともに民間における研究開発の一層の促進を図っているところである。
本制度により評価された技術については,官報で公表されるとともに,地方建設局,都道府県,関係公団等に通知され,それぞれの建設分野において活用され,建設事業の効率化,円滑化に寄与しているところである。
また一方,民間の本制度に対する関心,期待も高まってきており,評価要望課題並びに研究申請者の数も,年々増加してきているところである。
制度の創設以来,昭和61年度までに34課題を評価し,昭和62年度は4課題について評価を実施する。

(4)民間開発建設技術審査。証明制度
一方,民間において自主的に開発された建設技術の活用を図っていく上において,その技術の内容,特性,適用条件等を適確に把握し,その所在を幅広く把握することも重要である。
このため,昭和62年度より民間開発建設技術を客観的に審査し,その結果を広く周知する制度を発足させたところである。審査機関として,建設技術水準の向上に資する公益法人等で建設大臣の認定を受けた者を予定しており,民間の活用により本制度の推進を図ることとしている。対象となる民間開発建設技術は,国土計画,地方計画,都市計画,土地の測量,河川,砂防,海岸,道路,建築,下水道その他建設省所管に係る事項について,計画,工事の設計・施工・管理の方法あるいは機械・設備,工事材料等に関するものである。
この制度の中で,民間より申請のあった新技術に対し,審査機関は,その汎用性,有意性等を判断し,申請の受け付けを決定するとともに,受け付けた場合は,その技術の内容,開発水準等について詳細に審査を行い,その結果について審査・証明書を民間に対して交付する。
本制度は,建設技術評価制度が,予算の制約上,課題が年間4課題程度と限られているため,民間からの要望に十分応えられない状況にあることから,これを補完するものと位置付けている。
民間開発建設技術審査・証明制度の発足により民間が独自の発想で開発した新技術を把握・確認し,その結果を周知することにより,民間の技術開発意欲の高まりを期待している。
(5)技術活用パイロット事業
新たに開発された技術を積極的に活用していくとともに,技術の現場適用性,効率性,経済性等を高めるために,従来,個別的に試験施工として実施してきているが,積算上の問題もありその実施例は少ない。今後,これら,建設省単独,官民共同あるいは民間において研究開発が進められてきた優良な新技術の建設事業への積極的な導入に,先導的な役割を果すため,昭和62年度より技術活用パイロット事業を発足させた。
本事業において,建設工事の現場ニーズに基づき,新しい工法等を建設省の直轄事業の実現場において試行することにより,現場適応性,効率性,安全性,経済性等を検証することにより,新技術の活用を図り,もって建設技術水準の向上と効率的な事業執行に資するとともに民間建設技術開発の振興に資することとしている。
このため,建設省の各地方建設局において,新技術への取り組みのための体制を整備することとしている。即ち,技術活用パイロット事業で試行する新技術の事前審査や事業実施結果の総合評価等を行う技術審査委員会を設置し,施工調査等を工事事務所及び技術事務所が共同して実施すること等としている。
また,試行する新技術の採用に当っては,発注者が採用する工法等を指定する場合と発注者が民間からの提案(プロポーザル)をうけて工法等を選択する場合を考えている。
これにより,より一層良質の工事目的物完成のための民間の技術力の結集及びその活用を図ることとしている。
(6) 共同開発
地方建設局において民間等との技術協力体制の導入などが望まれていることから,昭和61年に地方建設局における共同開発について建設本省から各地建に基本方針が示されている。

5 おわりに
我が国においては戦後の30年代以降に社会基盤施設に対して多額な投資が行われてきた。しかしその整備水準は未だに欧米諸国に比べて大きく立ち遅れており,都市部,地方部を問わず,その整備に寄せる期待は大きい。
また,時代の進展と共に,これら各種の施設空間の多様な利用が求められるようになってきたことから,その整備を進めるに際しては計画,施工,管理のすべての分野においてハード面のみならず,ソフト面をも含めた総合的な技術体系の確立が必要となっている。
特に,限られた予算の中で各方面からの期待に応えていくためには,効率的な整備手法の確立が急務であり,これに対応した建設技術の開発が建設技術者に求められている。そのためには,産・学・官の協力体制の確立,先端技術の活用・導入等を積極的に推進してまいりたい。

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