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日豊本線日向地区連続立体交差事業と賑わいのまちづくり

宮崎県 土木部
 都市計画課 課長
藤 村 直 樹

宮崎県 土木部
 都市計画課 主査
清 田 寿 彦

1 はじめに
宮崎県は,西は九州山地,東は太平洋に面し,県土面積の7割以上を森林が占める自然環境の豊かな地域であり,主要な鉄道となるJR日豊本線が南北に縦断しています。
 日向市駅のある中心市街地は,県北の生活文化の交流拠点であるとともに,従来から日向・入郷地域における都市的サービスの提供の場として発展してきた地域です。

日向市の位置図

日向入郷地域の位置関係
(現在,日向市と東郷町は合併し日向市に,北郷村と
西郷村と南郷村は合併し美郷町になっています)

しかしながら,全国的に中心市街地活性化の必要性が叫ばれるように,日向市駅周辺においても,既存大型商業核施設の撤退に加え,郊外への大規模小売店舗の新規立地により,駅前商店街の人通りが少なくなり,その結果,空き店舗率も20%を越えるなど,衰退が進んでいました。
このため,市内中心部の鉄道を高架化する連続立体交差事業とともに,日向市施行の土地区画整理事業と,商業集積に向けた各種の事業とを一体的に行うことにより,駅を中心としたオリジナル都市空間の形成と同時に,まちの賑わいの創出が進められています。

2 日豊本線日向地区連続立体交差事業

事業概要
 事業主体   : 宮崎県
 高架化延長  : 約1.7km
 踏切除却   : 3箇所
 交差道路   : 9箇所
 全体事業費  : 約90億円
 事業期間   : 平成10~20年度

駅周辺の交通渋滞の大幅な解消等,安全で円滑な交通の確保と,線路東西地域の一体的な発展を主目的として,平成10年度に国の補助事業として採択され,都市計画決定や事業認可などの手続きを経て,高架橋・新駅舎工事が完了し,平成18年12月に高架切替が行われました。

日向地区連続立体交差事業の概要図

(1)駅舎等のデザイン
連続立体交差事業を施行していくにあたり,まちづくりのコンセプトや駅周辺の土地区画整理事業と連携した事業展開を行いました。
このため,連続立体交差事業の高架部や駅舎部等について,詳細設計に着手する前の段階から,景観,建築,都市計画の専門家や住民代表等様々な立場の方々からの意見をいただきデザイン計画に反映させるべく,「日向地区都市デザイン会議」(委員長 篠原修 政策研究大学院大学教授)を設置し,景観に配慮したまちづくりを進めて来ました。

日向地区都市デザイン会議の様子

デザインの検討にあたっては,日向・入郷地域の景観や,駅部を含む高架沿線の土地利用,また,高架下の有効な利活用等を踏まえながら,日向・入郷地域の玄関口としてふさわしく,景観に配慮した圏域のシンボルとしての駅舎及び高架橋を目指してきました。
新しくなる駅舎については,地場の耳川流域産杉材による集成材を大屋根梁とキャノピー(庇)に使用しました。
また,高架橋については,単線区間の橋脚を1柱式化し,圧迫感を軽減したデザインとするとともに,高架下空間の利便性を向上させるため,橋脚スパンを10mから15mへと広げることにより,景観デザインと併せて基礎工事費の削減も図っています。

木のぬくもり溢れる駅舎

景観に配慮し,すっきりとした高架橋

(2)駅舎木造化のための取り組み
駅舎に使用する材料については,地域で育んできた文化や県産材の利用促進を考慮し,地域産材100%の集成材を使用することとし,利用のための技術開発も含め,新たな情報発信に取り組みました。

木造大屋根を使った駅舎模型

材質や製作方法など様々な検討が必要だったため,県(都市計画課,木材振興課,木材利用技術センター),日向市,JR九州,学識経験者や建築家,デザイナー,木材関係者が協働し,木造化のための技術的課題解決に取り組みました。
使用にあたっては,木材と鉄の組み合わせによるハイブリット構造体であるため,クリープ試験やジョイント部の破壊試験等,数多くの検討を実施し,安全の確保を行っています。
この他,駅舎内部にも杉をふんだんに使った設計としており,梁制作時の切断により余った材料はベンチやカウンター等に利用する工夫を行っています

破壊試験などの様子

3 日向のまちづくり
(1)駅周辺のまちづくり
日向市では,「まちなかに賑わいと活気があふれるまちづくり」を整備テーマとして,駅周辺の17.6ha区域において土地区画整理を進めており,都市計画道路6路線と東西駅前広場等の整備や土地の高度利用の促進,商店街の再編を図り,賑わいのある中心市街地の創出に取り組んでいます。
西口駅前の商業の核となる街区では,地元商業者による商業集積に向けた各種事業において,共同駐車場やパティオ(中庭広場)などの基盤施設整備や個別協調建替えが行われるなど,利便性や景観に配慮した,うるおいのあるまちなみづくりが進められています。街区の共同駐車場や中庭空間を利用して,日向十五夜寮りや七夕寮りが行われるなど,まちなかに賑わいが戻ってきています。
エリアのなかでも,駅前空間の核として整備予定のイベント広場は,イベント開催時には駅前道路と一体的に使えるように,歩車道縁石段差の解消や移動可能な車止めの設置が行われています。
さらに,地元住民による懇談会等が設置され,住民主体の活動が進展しています。

駅前広場平面

まちの賑わいの様子

また,地元の木を使った統一感のある景観形成を図るなど,まちづくりのコンセプトについて,日向地区都市デザイン会議と各種協議会とで十分な連携が行われてきました。
さらに,地元住民による懇談会等が設置され,住民主体の活動が進展しています。

日向オリジナルのストリートファニチャー

女性懇談会など地元の協議会

(2)将来のまちづくり(まちづくり課外授業)
まちづくりの一環として,子供たちがふるさと日向を再発見し,愛し,誇りを持つきっかけになればとの想いから,県と市及び市教育委員会が主催し,日向市内の小学生を対象に「まちづくり課外授業」を行っています。
講師は,日向地区都市デザイン会議をはじめ,日向のまちづくりに携っていただいている政策研究大学院大学の篠原教授,東京大学の内藤教授,宮崎大学土木環境工学科の出口助教授,吉武助教授や,デザイナーの方々等,多くの方に協力をいただきました。
その中で,地元の杉を使った屋台「移動式夢空間」の製作を行いました。
講師と子供たちが一体になり,杉山の現場見学を経て,屋台の構想と製作に至る,合計8回の授業,50時間にわたる取り組みが評価され,2005年度のグッドデザイン賞(新領域部門)を受賞することが出来ました。完成した「創」「遊」「学」をテーマとした3つの屋台は,現在,まちなかでのイベント等にフルに活用されています。

授業風景

移動式夢空間

4 おわりに
連続立体交差事業が起爆剤となり,日向市のまちづくりは,多岐にわたって発展しながら着実に地元に根付いています。これからもまちの賑わいが継続し,将来の日向を担う子供たちへと繋がっていくことを大いに期待しています。

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