一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
新石垣空港における空洞対策工について
渡嘉敷亘

キーワード:空洞対策工、空港機能確保、アーチ防護工

1.はじめに

石垣島は、沖縄本島那覇市の南西約410kmの東シナ海に位置し、沖縄県内では沖縄本島、西表島に次ぐ3番目に大きな島で八重山圏域(石垣市、竹富町、与那国町)の政治、経済、教育、交通の中心地となっている(図-1)。

現在の石垣空港は、那覇、宮古、与那国間の県内路線の他、東京、大阪、名古屋、福岡の本土路線や台湾から不定期チャーターの国際路線運航があるなど、八重山圏域の基幹空港である。
平成20年度の利用実績では、乗降客数184万人、取扱貨物量15,527トンで、全国の地方管理空港の中で、神戸空港についで2位、着陸回数では1位と非常に利用度の高い空港である。
しかしながら、現在の石垣空港は、滑走路が1,500mのままジェット化されているため、一部の路線では重量制限等を行って運航しており、非効率的な航空輸送だけでなく、利便性においても不便を来たし、農林水産業及び観光産業の発展に障害となっている。
また、現空港の周辺は市街化が進み、航空機騒音問題が及ぼす住環境や教育環境への悪影響が重大な問題となっている。これらの課題を解消するとともに、今後とも増大が見込まれる航空需要に対し、八重山圏域の振興発展を図るため、中型ジェット機が就航可能な2,000m滑走路を有する新空港の早期開港が望まれている(表-1)。

建設位置選定にあたっては、紆余曲折あったが、平成17年12月に現建設位置に飛行場設置及び航空灯火の設置許可を受け平成18年10月に試験施工等を実施、平成19年度より本格的な造成工事に着手した。
新石垣空港事業地周辺状況図を図-2に、整備計画平面図を図-3に示す。用地造成は全体で約650万m3の切り盛りを行う計画となっており、事業地の中で土工量のバランスをとる計画となっている。現在は造成工事、滑走路・誘導路・エプロン舗装工事、進入灯橋梁工事、航空灯火工事等を実施している。また、環境保全対策として、赤土等流出防止対策をはじめ、小型コウモリ類、貴重動植物等の保全対策を行っている。

2.地下空洞への対処について
2.1 想定される懸念と対策(空洞対策の必要性)

新石垣空港建設地の地下には、地下水が流れ、小型コウモリ類が生息するA洞~E洞の空洞が存在することが明らかになっており、その空洞上部に最大で15mを越える高盛土が施工されることや、滑走路直下に空洞が位置することから、盛土荷重や航空機荷重による空洞への影響によって航空機の安全就航への影響が懸念された。
そこでこれまでに実施した地質調査、電気探査、空洞内部の観察調査等に基づく空洞影響検討(解析)を行ったところ、常時あるいは地震時に空洞が崩壊する可能性のある箇所が存在することが判明した。このことから、空港機能確保のため滑走路陥没の危険を排除する空洞対策が不可欠となった。

2.2 空洞対策対象箇所の検討について
2.2.1  検討方針
対策における基本方針は「地震時における空港機能の確保」であるが、新石垣空港では環境アセス時に国土交通大臣意見として「(常時において)空洞を可能な限り保全すること」が示されたため空洞対策については空洞防護工を基本とし検討することとした。

2.2.2  検討対象位置
新石垣空港は八重山地方の防災拠点となることから、地震直後に非計器着陸に必要な滑走路及び着陸帯Ⅰ(非計器用着陸帯、滑走路中心線から75m以内)の機能を確保する必要がある。したがって、本対策の対象を滑走路及び着陸帯Ⅰとし、その範囲に影響を及ぼす可能性のあるA1洞窟、E洞窟について検討した。ここで、図-4に空洞と滑走路の位置関係概念図を、図-5に対策検討箇所における空洞の位置図を示す。

2.2.3  検討方法
図-6に空洞対策検討フローを示す。
まず、空洞調査結果に基づく空洞の形状や土被り、空洞上部の地質構成、盛土厚に着目した空洞のゾーン区分を行った。
(ゾーン区分については図-5を参照)
つづいて、ゾーン区分毎に無対策時の空洞への影響検討・安全性の評価を行った。

① 常時・地震時におけるFEM応力変形解析
常時においては、空洞に働く増加応力(重機荷重・盛土荷重・航空機荷重)を考慮した弾塑性解析により空洞の工学的安全性を評価した。
また、地震時にはレベル1・レベル2地震動により空洞の工学的安全性を動的解析により評価した。ここで、二次元FEM応力変形解析の概念図を図-7に示す。

② 空洞内の目視観察・圧縮強度試験
地質・土質工学的観点からの目視観察により、洞壁の地質条件、割れ目の分布状況や落盤の状況についての記録を行った。またシュミットハンマーを用いて空洞内部における岩盤強度の状況についても確認した。これらの指標のもとでその安定度を表-2に示す判断基準からクラス分けを行った。

③ 空洞の土被りと内空幅による相対的安定性
空洞の土被り、内空幅が空洞の安定性に関係していることは過去の実験で明らかにされており、空洞が比較的安定である条件は、琉球石灰岩の厚さ(Zc)が厚く、空洞の幅(Bc)が小さいことである。よって、空洞断面図から各ゾーンのZc/Bcを求め、その値が比較的大きければ相対的に安定していると評価した。
これら①~③の評価をもとに決定した対策実施箇所を図-8に示す。

2.3 空洞対策構造形式の検討について
2.3.1 第1次選定
盛土荷重に起因する空洞崩落による基本施設への影響を排除する対策工としては、表-3のような工法が挙げられ、本対策においては施工地への適応性、施工の適用性、環境面への影響などを総合的に判断し「上載荷重を受ける工法」及び「上載荷重を軽減する工法」を1次選定した。

2.3.2 第2次選定
第2次選定では空洞のゾーン毎に計画盛土高によって生じる構造的制約も勘案しながら、適切な構造形式を決定する。基本的な構造案は、第1次選定の「上載荷重を受ける工法」から
・ ボックスカルバート案
・ アーチ案
・ アーチカルバート案
・ スラブ案
とし、複合的な対策工として「上載荷重を軽減する工法」軽量盛土の適用を検討するものとする。
表-4に計画盛土高Hに応じたゾーン別構造適用一覧表を示す。盛土高が6.0m以下のゾーンについては構造的高さを満足していない3案は不適となる。

つぎに、計画盛土高別に分類したグループ毎に最適工法を検討した結果を表-5、表-6に示す。

表に示すとおり、それぞれの経済性・構造性・施工性などを総合評価し、計画盛土高が約6.0m以上である1グループ・2グループについてはアーチ案を、盛土高が約6.0m以下の3グループにおいてはスラブ案を採用することとした。
図-9に最終的な計画平面図を、図-10に標準断面図を示す。

3.おわりに
3.1 整備の状況
平成21年度末に空洞対策工の整備を完了し、平成22年度は空洞対策工上部の盛土工及び滑走路舗装工の実施を予定しており、平成25年3月の開港に向けて重点的な工程管理を行っているところである。

3.2 今後の課題

今回実施した空洞対策工については、基本的な構造が橋梁やトンネルと同様であり、かつ滑走路直下に設置される構造物であることから、非常に重要度が高い施設である。また、空洞対策工に異常が生じた場合には復旧することが非常に困難であると考えられることから、適切な監視が行えるようモニタリングや供用後の日常点検・定期点検を実施することとした。
モニタリングは空洞対策工本体の挙動を把握することとし、構造物の内空変位を測定するための定点を設置し、レーザー距離計を用いて計測することとしている。これにより、①造成工事中の空洞対策工の変形、②供用後の航空機荷重による空洞対策工の変形を確認することができ、さらに観測を継続していくことで今後の維持管理に必要な点検記録データとして活用できるものと考えている。
これまでの土木構造物の管理は、安全性や供用性などに支障をきたす可能性のあることが明確になってから補修・補強を行うことが多かった。しかし、本構造物については滑走路直下に設置されることやその機能面から考えても大掛かりな改修が困難なため、アセットマネジメントを導入した維持管理水準の設定や中長期管理計画の策定が求められるものと思われる。今後は点検、調査、評価及び判定、補強工事、追跡調査、更なる評価判定と、全体を通じてPDCA(Plan、Do、Check、Action)のサイクルが成り立つよう体系的な維持管理体制を構築していきたいと考えている。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧