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性能規定化された舗装の技術甚準類

独立行政法人 土木研究所
基礎道路技術研究グループ(舗装)
 上席研究員
吉 田  武

はじめに
平成13年に性能規定スタイルの舗装の技術基準類の体系が整った。4月に道路構造令が改正され,アスファルト・コンクリート舗装及びセメント・コンクリート舗装が車道及び側帯の舗装の標準でなくなった。6月に国土交通省令が制定され,疲労破壊輪数,塑性変形輪数,平たん性,必要に応じ浸透水量を満足すれば,舗装の材料,施工方法が問われないこととなった。
同時に,都市・地域整備局長,道路局長通知により,舗装の設計期間,舗装計画交通量,舗装の性能指標及びその値を道路管理者が定めることとされた。また,所要の疲労破壊輪数(耐久性)を有するものとしてアスファルト舗装要綱の断面及びセメントコンクリート舗装要綱の断面が例示される一方で,地域材料,リサイクル材料の使用を推進することとされた。
これらを補完する形で参考図書が刊行され,設計の信頼性の概念を導入することで,同じ交通量であっても,道路の重要性等に応じ,舗装構成(耐久性)を変える考え方等これまでになかった新たな概念も示された。
なお,ここでいう舗装の技術基準類及び参考図書とは,表ー1に示すものである。
本稿では,これら技術基準類及び参考図書の意義と概要について紹介する。

1 技術基準類の意義
今般,舗装の構造の基準を性能規定化し設計方法等の自由度を高めることにより,コストの縮減や,新技術の導入を促進することを目的として,道路構造令が改正された。また,舗装の構造が有すべき具体的な性能については,新たに制定された「車道及び側帯の舗装の構造の基準に関する省令」において規定された。
これらの政省令の施行にあわせ,舗装の設計及び施工に必要な技術基準として,「舗装の構造に関する技術基準」(以下,「技術基準」という。)が定められ,国土交通省都市・地域整備局長,道路局長より「舗装の構造に関する技術基準について」として,各道路管理者あて通知された。
技術基準は,省令の施行通達として具体的な運用方法について定めているほか,省令の適用対象外である車道及び側帯以外の舗装についても視野に入れるとともに,大規模な修繕を行う場合にあっても当該基準によるよう配慮を求めているなど,舗装の構造に関する一般的技術的基準として位置付けられている。
政令,省令及び技術基準の規定内容を図ー1に,技術基準のねらいを図ー2に示す。

2 技術基準類の概要
(1)設計
舗装の設計にあたっては,道路管理者が,舗装の設計期間,舗装計画交通量,舗装の性能指標及びその値を定めることとされている。
① 舗装の設計期間
舗装の設計期間は,舗装の構造全体に,疲労破壊によるひび割れが発生するまでの期間を定めるものである。当該舗装の施工及び管理にかかる費用,施工時の道路の交通及び地域への影響,路上工事等の計画等を総合的に勘案して,道路管理者が定めるものとされている。

② 舗装計画交通量
舗装計画交通量は,舗装の設計の基礎とするために定める大型の自動車の1車線あたりの日交通量である。1方向2車線以下の道路においては当該道路の大型の自動車の方向別の日交通量のすべてが1車線を通過するものとして,一方向3車線以上の道路においては,各車線の大型の自動車の交通の分布状況を勘案して,大型の自動車の方向別の日交通量の70%以上が1車線を通過するものとして算定するものとされている。

③ 舗装の性能指標
舗装の性能指標は,舗装の性能を示す指標であり,その値は原則として施工直後の値とするものとされている。ただし,施工直後の値だけでは性能の確認が不十分である場合においては,必要に応じ,供用後一定期間を経た時点の値を定めることができるものとされている。
車道及び側帯の舗装の必須の性能指標は,疲労破壊輪数,塑性変形輪数及び平たん性とされている。疲労破壊輪数は,疲労破壊に対する耐久力として舗装構造全体の性能を表すものであり,大型車交通量と49kN換算輪数との間に一定の相関関係があることを用いて,舗装計画交通量と舗装の設計期間からその値を定めるものされている(表ー2)。

塑性変形輪数は,わだち掘れに対する抵抗力として舗装の表層の性能を表すものであり,道路の種級区分と舗装計画交通量からその値を定めるとされている(表ー3)。

平たん性は,路面の縦断方向の平たんの度合いを表すものであり,これまでの施工実績等から,一律2.4mm以下とするものとされている。なお,これらの性能指標の具体の基準値は,省令においても規定されている。
一方,必須の性能指標以外に,雨天時の自動車の高速走行時におけるハイドロプレーニング現象の発生防止等の観点から,必要に応じて,性能指標に雨水等の浸透能力を表す浸透水量を追加し,道路の種級区分からその値を定めるものとされている(表ー4)。

なお,この性能指標の具体の基準値は,省令においても規定されている。
さらに,この他にも,技術基準においては,必要に応じて,すべり抵抗,耐骨材飛散,耐摩耗,騒音の発生の減少等の観点から舗装の性能指標を追加するものとされている。

(2)施工
技術基準には,舗装の施工についての考え方についても盛り込まれており,舗装の施工にあたっては,環境への影響の少ない施工方法,工期が短い等道路の交通への影響の少ない施工方法等を積極的に採用し,広域的な環境の保全,道路利用者及び地域への影響の緩和に努めるものとされている。

(3)性能の確認
省令では,性能指標の具体的な確認方法については規定されておらず,これについては技術基準において示されている。設計時に定めた舗装の性能指標の値は,舗装の施工直後に確認するものとし,供用後一定期間を経た時点の値を定めた場合においては,その時点で確認するものとされている。
また,性能の確認については,海外での事例も含めて,これまでの舗装の実績から,経験的にその性能が確認されている断面等については,疲労破壊輪数,塑性変形輪数の測定を免除することとされており,現場に大きな混乱を与えないよう配慮されている。

3 参考図書の意義及び概要
技術基準は,行政行為に基づくものであり,道路管理者はその規定によらなければならない。しかし,技術基準には,道路管理者が定めることとしていながら,その具体的方法については限定せず道路管理者の裁量に委ねているものがある。したがって,道路管理者は,技術基準の規定を満足するために,さまざまな事項を自己責任において決定することとなる。
舗装設計施工指針(以下,「指針」という。)は,技術基準の定める内容を適切かつ効率的に実施するため,舗装関係者の理解と判断を支援する実務的なガイドラインとして位置付けられる。このため,道路管理者が行うべき舗装の設計期間,舗装計画交通量,舗装の性能指標及びその値の設定の方法,舗装の新設または改築,維持,修繕の判定及び施工時における発注者と受注者の役割分担等について,政令,省令及び技術基準などとの整合を取りながら具体的に示している。
舗装施工便覧(以下,「便覧」という。)は,指針に記述された計画,設計および施工の技術のうち,施工に関する技術について,実績のある舗装用材料の性状および施工方法などを示したものである。
すなわち,便覧は,日常業務の参考に資するために,文献,資料等をとりまとめたもので,仕様書をはじめとする設計図書により舗装各層の仕様が明らかとなった後の具体的な施工の技術の例について示したものである。
指針及び便覧の記述内容を図ー2に示す。

4 性能規定の導入と発注
(1)性能規定と発注形態
舗装整備事業の効率を向上させるために,舗装の設計方法,施工方法を限定せず,所要の性能を実現できる技術に関し幅広く検討を行い採用できる方式,すなわち性能規定発注が低騒音舗装等で導入されつつある。
今回,新たに性能規定化された技術基準が制定され,道路管理者は必要な性能指標とその値を決定することとなる。さらに,設計と施工の自由度が増大したことで,性能の確認ができるものであれば,新技術や実績のない技術を導入することが可能となった。これにより,性能規定発注がさらに普及していくことが期待されている。技術基準の規定「舗装の性能指標の値は,施工直後の値だけでは性能の確認が不十分である場合においては,必要に応じ,供用後一定期間を経た時点の値を定めることができるものとする」も,性能確認の回数を増やすことで新技術等の導入の促進を図るためのものである。なお,性能が確認されている舗装の仕様に基づいて発注することも可能であり,技術基準にも別表ー1「疲労破壊輪数の基準に適合するアスファルト・コンクリート舗装」と別表ー2「疲労破壊輪数の基準に適合するセメント・コンクリート舗装」が用意されている。しかし,新技術等の導入を促進することでコスト縮減及び事業の効率を向上させるという技術基準の理念を踏まえ,可能な限り性能規定発注を行うことが望ましい。なお,ここで言う新技術とは,例えば,アスファルト・コンクリート舗装やセメント・コンクリー卜舗装に用いる材料・施工方法に関する技術にとどまらず,アスファルト・コンクリート舗装やセメント・コンクリート舗装に代わる新工法を含む幅広い技術を指している。
舗装工事は道路の新設・改築のように舗装構造全体を施工するものから,維持・修繕のように舗装の一部を施工するものまで様々である。さらに,発注において舗装に求められる性能も様々である。性能規定発注と一言で言っても,道路管理者が定めるすべての性能についで性能規定発注する場合と,同じ発注の中で一部の性能についで性能規定発注し,その他の性能については性能確認された仕様に基づいて発注する場合(例えば,路面騒音値のみを性能規定発注し,疲労破壊輪数で代表される舗装構成については仕様に基づいて発注する場合)がある。
さらに,ある性能指標について性能規定発注する場合でも,設計から施工までのすべてを受注者の裁量に委ねるケースや,設計は発注者が行い,その中で材料のみを受注者の裁量に委ねるケースなど多くのバリエーションが想定される。
発注にあたっては,これらのことを勘案して最適な方法を選択する必要がある。
従前の仕様規定と幅のある性能規定の概念を図ー3に示す。

(2)発注における性能の確認方法
舗装には,路面の性能(例えば,平たん性,浸透水量),表層の性能(例えば,塑性変形輪数),構造の性能(例えば,疲労破壊輪数)等多岐にわたる性能がある。また,性能の確認方法には,性能指標の値を直接確認するものと,出来形と品質を確認(性能の確認された舗装の仕様を再現していることを確認)することでその舗装の性能を間接的に確認するものとがある(表ー5)。
いずれの確認方法を用いるにしても,発注者が設定する性能指標の施工直後の値を目標として舗装を設計することになる。舗装の設計は,経験に基づく方法でも理論に基づく方法でもよく,また設計を行う者は,発注者であっても受注者であってもよい。

舗装工事のプロセスにおける設計の主体と性能の確認方法の組み合わせの例を図ー4に示す(ただし,平たん性や路面騒音値は性能指標で確認し,疲労破壊輪数は出来形と品質で確認するように,同じ発注の中でも性能により確認方法が異なる場合もある)。

おわりに
これら性能規定スタイルの舗装の技術基準類の体系化の一連の動きをこれまでに何度か行われてきた舗装要綱の改訂と同様にとらえると進むべき方向を見誤る。作業(設計,施工)の手順や方針が変わったのでなく,もっと根本的な舗装整備の考え方が変わったのである。今後の展開として,これまでにない新しい材料,施工方法の採用が促進されることになる。例えば,アスファルト・コンクリート舗装あるいはセメント・コンクリート舗装以外の舗装(例えば,ブロック系,樹脂系)の採用,アスファルト・コンクリート舗装であっても,これまでとは異なる材料を用いた舗装あるいは異なる設計を行った(舗装構成の異なる)舗装(すなわち,舗装要綱の舗装とは別の舗装)の採用が考えられる。
今後の課題として,車道及び側帯の舗装の性能指標の追加(例えば,すべり抵抗値,路面騒音値,耐骨材飛散,耐摩耗),自転車道等及び歩道の舗装の性能指標の追加,ならびに管理水準を表す性能指標の設定についての必要なデータの収集が残された。これらは,省令あるいは技術基準に取り入れて画一的な遵守事項とするほどには一般化されていなかったものであり,個別の発注において省令に定められていない性能に着目すること,あるいは個別の舗装管理において具体的な管理目標(水準)を定めることを妨げるものではない。性能規定化の趣旨からいえば,多様な指標を用いた性能規定発注および具体的な管理目標に基づく舗装管理は推進されるべきである。
このように,今後は舗装の性能の設定が極めて重要になる。技術基準においても「舗装の設計前に,道路の存する地域の地質及び気象の状況,道路の交通状況,沿道の土地利用の状況等を勘案して,当該舗装の性能指標及びその値を定める」ことが規定されている。舗装の性能を考える場合,舗装すなわち路面に求められる性能は多種であり,そのレベルも多様であることを認識するところからスタートする必要がある。すなわち,路面には安全な交通の確保,円滑な交通の確保,快適な交通の確保ならびに環境の保全と改善という機能があり,個別の舗装に求められる性能とその水準は,当該道路の状況,交通の状況ならびに沿道の状況により様々であるということを認識しなければならない(図ー5)。求められているのは適材適所の舗装であり,計画者としての道路管理者の責任は大きい。
最後に,本稿で紹介した参考図書をとりまとめた社団法人日本道路協会舗装委員会(委員長:矢野善章 元九州地方建設局長)は,舗装に関連する技術体系を見直し,舗装技術が将来にわたって継承され,発展していく環境の整備を進めている。また,舗装技術に関連する技術的課題と行政的課題を検討するために舗装委員会内に平成9年度から平成12年度にかけて設置された基本問題小委員会(小委員長:矢野善章)における検討の成果が技術基準類のベースとなっている。

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