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平成元年度技術士試験をかえりみて
(建設部門出題傾向と解答例)

日本技術士会九州地方技術士センター
受験対策委員会専門委員
総     括     矢 野 友 厚
土質および基礎     野 林 輝 生
鋼構造およびコンクリート   是 石 俊 文
河川砂防および海岸   中 島 義 明
道     路     久保田 信 一

平成元年度技術士第2次試験の筆記試験は,昨年8月23日および24日に福岡市ほか6カ所の試験場で実施され,筆記試験合格者に対する面接口頭試験は昨年12月2日から15日までの間に東京で実施された。技術士試験の指定試験機関である㈳日本技術士会の発表では,元年度の技術士第2次試験の受験申込者総数は13,169名で,四年連続して10,000名の大台を越え,10年前の昭和54年度の,5,173名に対し実に2.5倍強,合格者総数もまた技術士制度創設以来の最大数1,345名に達したと報じている。(なお,平成2年度の受験申込者総数は13,869名に達し,うち福岡試験場での受験申込者数は1,274名である。)
建設部門の受験申込者総数は7,673名で,このうち筆記試験受験者数は4,298名,最終合格者数は685名で,合格率は筆記試験受験者数に対して15.9%,受験申込者総数に対して8.9%で,国家資格として評価が高まるなか,これまでどおり試験合格は相当に厳しく狭き門であることを示している。
同年度の筆記試験ならびに面接口頭試験の試験科目と設問傾向には,科目の発電土木が電力土木と名称を変えたほか殆んど変化はなく,具体例をあげてその概要を記述すると次のとおりである。
まず,筆記試験選択科目Ⅰ-1(午前9時~12時の3時間で解答記述)の問題は,受験者がこれまでに体験してきた技術士に相応しい業務をいくつか具体的に示させ,その業務における技術的問題点と,それに対して受験者が採った技術的解決策を具体的に記述させ,その業務の技術的特色を明らかにさせる仕組としている。このⅠ-1の問題は,建設部門の10種類の専門科目の全てにおいて,この10年余,問題設問文章の文言に殆んど変化が見られず,次に示す一例(河川・砂防および海岸Ⅰ-1問題全文)に見られるような設問形式を毎年踏襲し続けている。

選択科目(9-4)河川砂防および海岸  9~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,直接体験した業務のうち,技術士としての業務に最もふさわしいと思われるもの1例を挙げて,下記3項目について述べよ。
(1) その業務の技術的内容
(2) あなたが果した役割
(3) 技術的な評価および今後の課題

次に,筆記試験選択科目Ⅰ-2(午後1時~5時の間に,Ⅱの問題と一緒に出題)の問題は,各選択専門科目ごとに,各専門技術分野における最近の技術動向をふまえ,専門的事項について解答論述させるもので,設問内容は本稿末尾に,土質および基礎,鋼構造およびコンクリート,河川砂防および海岸,道路の4科目についてそれぞれ一例を示したように,比較的各技術分野の基礎的技術にかかわるものが主体となっている。
Ⅰ-2の問題と一緒に出題させる筆記試験必須科目,Ⅱの問題は建設部門全体に共通する事項で,例年2題出題し,いずれか1題を解答させる方式で,平成元年度の問題は次のとおりである。

必須問題(9)建設一般  1~5時
Ⅱ 次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記して4枚以内にまとめよ。)
Ⅱ-1 国際化が進展している我が国において,建設部門の取り組むべき課題を挙げ,それについてあなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2 建設部門における人材と労働力不足の現状を述べ,今後の方策についてあなたの意見を述べよ。

以上のⅠ-1,Ⅰ-2,Ⅱの3科目の問題のうち,Ⅰ-1は前述のとおり問題設問文章が事実上固定化されているので,予定答案をあらかじめ作成し,完全に丸暗記して試験にのぞむことが可能であり,3時間の解答時間で制限文字数一杯の解答を書くのが普通である。しかし,Ⅰ-2およびⅡの午後からの科目問題に対しては,受験者自身の筆記速度を考慮し,各問題に対しバランスのとれた時間配分を行うことが肝要で,本稿末尾の解答例に付記しているような留意が必要である。
筆記試験合格者に対して行われる面接口頭試験における試問事項にも,これまでと異なった傾向は殆んど認められず,元年度試験においても設問項目は次の3項目に分類要約できるようである。
Ⅰ 受験者の技術的体験を主眼とする経歴の内容と応用能力を問う。
Ⅱ 必須科目および選択科目に関する,技術士として必要な専門知識と見識を問う。
Ⅲ 技術士としての適格性および一般的知識を問う。
以上が平成元年度技術士試験の概要と出題傾向であるが,以下に同年度筆記試験選択科目の4問を選定し,当受験対策委員会の技術士に解答の執筆をもとめ,模範解答例として参考のため例示する。
当技術士センター受験対策委員会は,例年技術士試験受験者のための総合受験対策講座を継続的に実施し,九州地域受験者の受験対策に役立ってきており,技術士資格取得を目ざす技術者は気軽に当センターに相談されるようお奨めする。

土質および基礎  平成元年Ⅰ-2-11(C)
下図に示すように,市街地の軟弱性土層において建築物を建設するために,道路の高架橋に近接して土留めオープンカット工法による掘削(よこ30m,たて70m,深さ16m)を行う計画がある。以下の設問に答えよ。
(1) 施工に伴う問題点とその対策について述べよ。
(2) (1)の対策を実施する場合,調査,設計,施工上の留意点について述べよ。

1 施工に伴う問題点とその対策
(1) 土留オープンカット工法による基礎地盤の根切り掘削を行う場合,土留壁の剛性の程度および支保形式等によっては土留壁の変形は避けられず,周辺地盤および構造物への影響は必至である。
特に,図ー1に示す高架橋のような道路構造物に対しては致命的となる可能性が大きい。その対策として,できるだけ剛性の高い土留壁,および土留形式を選定する必要がある。また周辺構造物の重要度の如何によっては地盤改良によるしゃ断防護工を設けることも考慮する必要がある。

さらに根切掘削に際しては,土留支保工,周辺構造物,周辺地盤等の計測による情報化施工の実施が不可欠である。
(2) 比較的透水性の高い土留壁を使用した場合,地下水の土留壁内への流入に伴う周辺地盤の地下水位の低下は避けられない。このような地下水位の低下はシルト質粘土層の圧密沈下を促進することになり,粘土層中に存在する杭基礎にNF(ネガティブフリクション)を生じさせ,杭基礎の沈下,ひいては杭基礎の破壊をも招くことになる。この対策として,周辺構造物のNFに対する耐力評価を行うとともに,できるだけ透水性の小さい土留壁を採用して地下水の土留壁内流入による地下水位の低下を防止する必要がある。また周辺構造物の重要度の如何によっては地盤改良によるNFの低下を図る必要もあろう。
(3) 粘土層下部に砂礫層が介在し,かつ地下水位が比較的高いことから,この砂礫層が被圧地下水帯となって根切掘削時にヒービングを生じさせて掘削地盤の安定性を著しく阻害し,土留壁全体の崩壊に至り,ひいては高架橋杭基礎の変位を生じさせる可能性がある。対策として,ヒービングに対する詳細な調査を行って土留壁の根入を検討し,場合によっては根切地盤の地盤改良も考慮する必要がある。

2 対策に対する調査,設計,施工上の留意事項
(1) 土留壁および土留形式の選定にあたっての留意事項について列挙すると次のとおりである。
① 土留壁の応力および反力について検討するだけでなく,土留壁の変形・地盤の変形・影響範囲等について充分に検討する必要がある。
② 工法の選定にあたっては,土留壁全体のもつ強度や剛性が充分に生かされるような計画を行う必要があり,かつ安全性・コストの面からも検討する必要がある。資源の有効利用という観点から,土留壁としての地下連続壁の本体構造物への利用や,補助工法の活用も必要である。
③ 土留壁の設計計画時の予測値は実測値と異なる場合が多いため,必要に応じて計測管理を行い情報化施工を実施することが極めて重要である。
(2) ヒービング防止対策における留意事項について列挙すると次のとおりである。
① 対策工法の選定にあたっては,詳細な地質調査および土質調査を実施し,ヒービングに対する充分な検討を行う。
② 土留壁の根入長を検討するとともに,併せて根切地盤の地盤改良についても検討を行う。
③ 根切地盤の安定を高めるために,根切幅を小区分に分割した分割施工を考慮する必要もある。
④ 被圧水によるヒービングの可能性が大きい場合,被圧水頭を低下させるために減圧井戸を設ける。

鋼構造およびコンクリート  Ⅰ-2-14(D)
問 題
「コンクリート用混和材の種類を挙げ,それぞれの特長を活かした効果的な活用方法と使用上の留意点を述べよ」
(800字詰2枚以内)

主な混和材としては,ポゾラン活性が利用できるもの(フライアッシュ・シリカフォーム),主として潜在水硬性が利用できるもの(高炉スラグ微粉末),硬化過程において膨張を起こさせるもの,その他がある。
1. フライアッシュは石炭火力発電所の微粉炭燃焼ボイラーで発生する石炭灰を電気集塵器で捕集したものである。化学成分としてSiO2を55~61%程度含有するので,長期にわたるポゾラン反応により長期強度を増進させ得るほか,球形粒状のため流動性が改善できる。したがって,単位水量の低減,ワーカビリチーの改善,水和熱による温度上昇の低減,水密性の改善などの効果が期待されるので,マスコンクリートに利用するのが望ましい。また,アルカリ骨材反応に対する抑制対策の一つとしてフライアッシュの混和も推奨されている。なお,近年一部の地域を除いては,良質のフライアッシュを大量に継続して入手することが困難なので,その品質ならびに供給可能量を確認しておかなければならない。
2. シリカフォームはフェロシリコンやシリコンメタルの製造時に発生する廃ガスを集塵することによって得られる。化学成分の80%以上がSiO2,平均粒径が0.1μm,比較面積が200,000cm2/gという超微粒子である。したがって,セメントの一部と置換えた場合,所要のスランプを得るのに必要な単位水量は,置換率が増大する程増大させねばならない。この単位水量の増大を防止するには高性能減水剤との併用が不可欠である。シリカフォームの混和によって,セメントペーストの細孔容積は著しく小さくなり緻密となる。その効果は蒸気養生あるいはオートクレーブ養生の場合顕著で,置換率30%でオートクレーブ養生した場合の圧縮強度は,無混入の場合の約1.5倍の1,400kg/cm2が得られている。こうした特性を活かして,コンクリート2次製品への活用が進みつつある。
なおシリカフォームには,まだ品質の規格がないので,使用に当っては十分な調査試験を行ない品質と使用法とを検討しなければならない。
3. 高炉スラグ微粉末は高炉における副産物である溶融スラグを多量の水あるいは空気によって,高温状態から一気に急冷した後,微粉砕して調整したものである。高炉スラグ微粉末は,わが国では1910(明治43)年から高炉セメント原料として利用されて来たが,土木学会は1986年に混和材としての品質規格を定めた。高炉スラグ微粉末を混和する目的は,主としてマスコンクリートにおける水和熱の発生速度の抑制や長期強度の増進,また硫酸塩や海水環境におけるコンクリートの化学抵抗性の向上,アルカリ骨材反応の抑制などである。これらの目的のためには置換率を30~70%の範囲とするのが原則である。高炉スラグ微粉末は普通セメントと共に用いるのが一般的であり,所期の目的を達成するためには,その活性化指数を把握して置換率を選定するとともに,特に初期材令において湿潤と温度とを十分与えるなどの入念な養生が重要である。
4. 膨張材は水和反応により主としてエトリンガイトと呼ばれる針状結晶または水酸化カルシウムの結晶を生成し,その結晶の力でモルタルまたはコンクリートを膨張させるものである。現場打ちコンクリートの用途としては,乾燥収縮補償によるひびわれ低減用として,建築工事の壁・スラブなどに用いられるほか,地下ピット・貯水槽・プールなどの水理構造物への活用例が多い。プレキャストコンクリートの用途としては,膨張材を積極的に利用してケミカルプレストレスを導入した遠心力鉄筋コンクリート管・ボックスカルバート・プレキャスト床版などがある。膨張材を使用した場合は,特に初期における十分な養生が不可欠である。
5. その他として着色材・高強度用混和材・ポリマー・増量材などがある。

河川砂防および海岸  平成元年Ⅰ-2-4(B)
超過洪水に対応した防災計画について論ぜよ。
(800字詰2枚以内)

わが国においては,地形・地質・気象などの自然条件から,災害を受け易い環境にあるうえに,河川の洪水氾濫区域に人口・資産が集中し,社会・経済活動の枢要を占めるという社会的要因からも,計画規模を超える洪水に対する防災計画が必要となってきている。
従前の治水事業では,一定限度規模の計画高水を対象とし,その氾濫被害の防止・軽減に必要な計画(河道および流域の保水・遊水機能などによる洪水処理)を策定して,これに基づき河川工事を実施してきた。しかしながら,洪水は自然現象である降雨に起因するものである以上,計画を上回る大規模な洪水が発生する可能性は常に存在しており,また一方,大都市における人口,資産の集中は水害のダメージポテンシャルを増大させ,水害によって,ひとたび壊滅的な被害が発生した場合には,わが国全体の社会・経済活動に致命的な影響を与えることが懸念されている。
このような自然的・社会的条件のもとにおいて,社会・経済の中枢機能が集中した大都市圏では,河川堤防の破堤による壊滅的な被害の発生はもはや許されない事態となってきており,計画規模を上回り,堤防を越水する恐れがあるような洪水すなわち超過洪水に対する防災対策として,次のような施策を推進していく必要があると思われる。
<高規格堤防ならびに耐越水堤防の整備>
大都市においては,河川の持つ景観的・文化的価値や高度な土地利用の観点などから,多目的・多機能な都市空間として利用できる高規格堤防の整備を推進し,水辺空間として総合的にその効果を発現できるよう施策の拡充を図るべきである。また,高規格堤防は,再開発のための区画整理や,膨大な量の盛土を必要とすることなどから,全川に適用することには実質的に無理な面もあると思われるので,高規格堤防の実現が困難な場所においては越水に対して堤体を強化した耐越水堤防の整備を進めていく必要がある。
<洪水越水時の水防体制および避難・警戒体制の整備強化>
洪水越水時の水防体制を強化するとともに,住民の避難・誘導および水防活動のための防災道路網の整備を図る必要がある。
<越水による氾濫被害を最小限にとどめるための保全施設の整備>
防災道路を兼用した二線堤や輪中堤の整備・保全を図り,氾濫被害を最小限にとどめるためのこれらの施設を整備拡充していくとともに,ガス・水道・電気・下水道・電話など住民にとっての重要なライフラインの安全対策を図る必要がある。
以上ここに記述した超過洪水対策は,「洪水を軽減」するという対応策であり,堤防の破堤を防止することによる破堤被害の防止と,越水による流域内の被害を最小限にとどめるための施策・施設の整備の必要性について記述したものであり,このような超過洪水対策は従前の総合治水対策の基本姿勢の延長線上に位置づけられて,これからの治水事業が推進されるべきものと考えられる。

道 路  平成元年Ⅰ-2-1
最近の交通事故の増加に鑑み,道路の計画設計,管理の観点から交通安全対策について述べよ。
(800字詰3枚以内)

1 まえがき
昭和45年制定の“交通安全対策基本法”に基づく諸政策を実施された効果として減少傾向にあった道路交通事故は,同54年を底に再び増加へと転じ,元号を平成と変えて後“交通事故非常事態宣言”が発令されるまでに至り,益々深刻度を強めていく情勢下にある。
以下,道路整備の基本的視点につづき,道路の計画・設計・管理の観点からの交通安全対策について述べる。

2 道路整備の基本的視点
公共交通施設であると同時に公共空間施設としても重要な道路における交通事故多発は,交通渋滞・交通公害とともに大きく社会問題化しており交通安全への実効的な対策を樹てることが国民的ニーズとなってきた。
わが国の道路整備は,安定成長期以来沿道環境保全に力点をおいて進められてきたが,その整備率は他の先進諸外国に比べ極めて低い水準にある。道路整備は,陸上交通施設の一端として国民生活の最大利益を求めて展開するのがその目的である。今後は特に,多様化増大する交通需要を安全円滑に処理しつつ,国土全体の長期的基盤の形成や,豊かで創造的な地域社会の形成を図り,もって安全快適な生活基盤の充実へ向けた交通問題の解消に努めることを基本的視点としていかねばならない。

3 道路の交通安全対策
(1)道路計画からみた安全対策
道路整備計画の内容は,その対象とする道路網や道路の性格・規模・位置等多面的な検討からなる。道路および道路交通の実態とその問題点を十分把握し,整備需要を的確に予測したうえでの長期的展望に基づく事業計画の樹立を不可欠とする。
すなわち国の経済や国土総合開発に関する長期計画に対応し,市町村道から高規格道路に至る道路網を適正な道路空間への創生に配慮しつつ,計画的効率的に整備する必要がある。もって都市部をはじめとする交通問題の解消と予防を図り,事故発生を抑制する円滑な交通量配分策実施に資していかねばならない。
次に,沿道の環境問題に対応した計画を併せて施す必要がある。都市内通過交通を排除するバイパス・環状道路の整備や環境施設帯,樹々帯設置のほか,沿道を自動車交通に適応した土地利用へ誘導するための沿道との一体的整備といわれる総合的計画を進めねばならない。
また,道路の質の向上を図る必要がある。具体的には道路空間の確保であって,自動車と歩行者という全道路利用者へのゆとりある安全円滑な供用に貢献し,かつ都市空間である道路機能を向上させるため,十分な幅員を有するような質の高い整備計画が求められる。更に事故原因データーを設計に反映させる指針類の作成が望まれる。
(2)道路設計からみた安全対策
道路計画を具体的に実現する設計の段階では,道路構造についての配慮が安全対策の主体となる。道路の構造は,道路法第29条に「地形・地質・気象や交通の状況に応じ,安全且つ円滑に交通を確保できるもの」とされ,同法第30条を受けた道路構造令で一般的技術的基準が規定されている。
某県警の事故発生データーによれば,交差点,曲線区間,沿道大型施設や大店舗入口での衝突事故がワースト3といわれ,この交差点事故の例では変則交差点が最多である。交差点では皮肉にも,緑化植樹や防護施設が視野障害となる事故誘発も多く,設計者の盲点ともいわれる。交差点設計に際しては,交通制御方法に適合する交差点形状・間隔・視距等にも多面的に配慮された交通容量増大策と安全性向上策に十分留意した検討が望まれる。
次いで肝要な事項は道路線形である。上記事故発生データーでは,長い直線区間に続く曲線部で事故多発しており,わが国初期の高速道路で指摘された傾向に一般道路でも共通化してきた。長い直線区間に大半径の曲線を設けたり,小半径曲線に緩和曲線を挿入する等の運転者に余裕を与えるような,一方では事故誘発・交通容量低下・時間走行経費損失や建設費・維持管理費増大にも配慮の行届いた十分な検討内容が不可欠とされなければならない。
更には“道路構造令を満たせば事足れり”との設計思想を一歩進めて,交通安全性追求という姿勢を保ち,供用後の維持管理面にも加味した設計手法が必要であろう。
(3)道路管理からみた安全対策
安全教育・法的規制・施設整備という交通安全対策の中で,最も直接的な効果が期待できるのは安全施設整備による安全環境の創出である。安全対策の基本として事故多発地点を中心に実施されてきた交通信号・交通規制や交差点の改良,路面表示・標識の設置,および歩車分離を目的とする歩道設置等が,飛躍的な整備推進を求められる対象である。道路混雑への対応が厳しい状況のもとでは,安全施設整備の投資効率の追求にかなう技術の開発と事故防止に適する自動車の改善とが不可欠でもある。
更に交通安全確保のためには,落石危険箇所の防災対策,橋梁等の耐震性向上を図る震災対策や踏切道改良等一層の整備推進が欠かせない。加えて道路の維持管理と整合した交通安全行政の一元化,安全対策に関する総合的調整機能の高揚や,長期的施設整備計画に基づく安全対策の実施が重要であらねばならない

4 あとがき
近年,国民生活水準の急速な高まりとニーズの多様化・高度化とに伴ない,道路環境保全から一歩進んで,ゆとりや潤いのある安全快適といった道路の質の向上を望む声が増大している。道路の瑕疵を起因とする交通事故については,道路管理者の責任を求める訴訟判決の傾向も強まっている。
以上のような観点から,道路技術者に対する課題が益々増大していくであろう。

お問い合わせは,九州地方技術士センターまで

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