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幅広フーチングケーソンの開発について

国土交通省 九州地方整備局
 下関港湾空港技術調査事務所
 先任建設管理官
梅 崎 康 浩

国土交通省 九州地方整備局
 下関港湾空港技術調査事務所
 技官
南 野 能 克

1 はじめに
近年,船舶の大型化によって大水深岸壁の必要性が高くなり,港湾はより沖合空間に展開しているが,これに伴い大水深海域における防波堤整備が必要となっている。
大水深で比較的静穏な海域において,従来のRCケーソンを用いた防波堤では.ケーソン設置水深を深くすれば,滑動には十分な余裕があるものの,転倒又は基礎の支持力の安定を確保するために広い堤体幅が必要となる。一方,設置水深を浅くすれば基礎捨石マウンドが著しく大きな断面となる。何れも経済性に乏しく建設費の縮減が困難な状況であり,経済性に優れた新形式のケーソンの開発が望まれている。
以上の点に鑑み,大水深で比較的静穏な海域の防波堤に適した新形式のケーソン構造として「幅広フーチングケーソン」を開発した。
本報告では,幅広フーチングケーソンの構造特性の紹介とその特徴であるフーチングの実務的な部材設計手法並びに水理模型実験結果による波力算定法の提案を行い,最後に本構造の実海城への適用性について検討を行う。

2 幅広フーチングケーソンの構造特性
幅広フーチングケーソンの構造は,以下に示す基本的な考えに基づいて開発している。
(1)大水深で比較的静穏な海域において,通常のRCケーソンで設計を行うと滑動に十分余裕のある大断面の防波堤となる(図ー1(a))。
(2)滑動には余裕があることから堤体幅を狭くすると,転倒モーメントと底面反力が増大する(図ー1(b))。
(3)転倒モーメントと底面反力を軽減させるためフーチングを延長する(図ー1(c))。
この場合,フーチング付根部に大きな曲げモーメントとせん断力が発生するため,RC構造のフーチングでは,実績等から1.5m以上に延長することができない。そこで,鋼・コンクリート合成版、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)部材を組み合わせたハイブリッドケーソンが開発されている(図ー2)。
ハイブリッドケーソンは,優れた強度特性とじん性を有する構造であり,5m程度のフーチング長の実績がある。しかし,大水深で比較的静穏な海域においては,さらにフーチングを延長することにより経済性を追求できるが,従来型のハイブリッドケーソンでは,フーチング付根部に大きな曲げモーメントおよびせん断力が作用するため,構造上の制約からさらなる延長は難しい。
(4)そこで,フーチングのさらなる延長を可能とするため,フーチング部にバットレスと梁を配置する(図ー1(d)),この構造を幅広フーチングケーソンと呼び詳細を図ー3に示す。
図ー3からわかるように,フーチング部に高い耐力を期待できるSRC構造のバットレスを設けてフーチングを大きく張り出すとともに,RC構造のフーチング版をSRC構造の小梁で支持していることが大きな特徴である。このような構造にすることで,フーチング版厚を薄く抑えることが可能である。

3 幅広フーチングケーソンの設計法
通常のRCケーソンやハイブリッドケーソンの設計法については,既に基準類1),2)に示されており,幅広フーチングケーソンについても基本的にはこれらに準拠して設計することができる。
しかし,波圧の算定については,現行のケーソンと幅広フーチングケーソンとでは,算定上の前提条件が大きく異なっているため,そのまま適用するには無理がある。なぜなら現行の算定法は,フーチング部分に働く波力を無視して計算していることや幅広フーチングケーソンが設置される大水深の重複波領域においては,沖向き波力が岸向き波力より大きくなるなど,通常とは逆の結果になる可能性があるからである。そこで,大水深領域を想定した二次元水理模型実験を行い,現行の波力算定法の適合性について検討を行う。
また.フーチングを有するケーソンのフーチング部は,通常,梁として設計しているが,幅広フーチングケーソンでは,フーチング上にバットレスや梁を入れていることから,梁として取扱うことが困難である。従って,本構造の設計に適切と考えられる合理的で簡便な設計法を検討し,妥当性をFEM解析より確認する。

(1)波力算定法の検討
通常の波力算定では,岸向き波力時の波力の算定式として「合田式」,沖向き時の波力の算定式として「壁面に波の谷がある時の波力算定式」を標準としている1)。しかし水深に対する波高比が小さく,明らかに重複波的波力が作用すると考えられるときは,重複波理論式を用いても良いこととなっている1)。そこで,水理模型実験から得られる波圧分布と上述の3式から得られる波圧を比較する。
実験から得られた波圧分布を3式から得られた波圧分布と共に図ー4に示す。なお,便宜上「合田式」「壁面に波の谷がある時の波力算定式」,「重複波理論」をそれぞれ(Goda)(Trougf)(Theoyr)と記述している。
図を見ると,岸向き波力時は,直立部前面の波圧分布は理論と同様に静水面にピークを有し,下方に向かうにつれて小さくなる形状であり,実験値と理論は良く一致している。沖向き波力時は,圧力測定点が少ないため負圧の最大値やその発生深度等の詳細は不明であるが,実験値と理論は良く一致している。

次に,実験から得られた滑動合成力を3式から得られた滑動合成力と共に図ー5に示す。
横軸に水深波長比,縦軸には滑動合成力の実験値(Fc(exp.))と計算値(Fc(cal.))の比を示し,上段は岸向き波力時下段は沖向き波力時である。
図を見ると,重複波理論については,実験値と計算値の比が1にほぼ等しく,岸向き時及び沖向き波力時ともに適合性が高いことがわかる。
以上のことから,幅広フーチングケーソンの波力算定に重複波理論を用いれば,ほぼ妥当な結果を与えることがわかった。

(2)フーチング部の設計法の検討
① 設計法の提案
図ー3のフーチング部を取り出し,図ー6(a)のようにモデル化する。さらに図ー6(b)のように梁によって区切られた2枚の版とみなし,3辺固定1辺単純支持,2辺固定2辺単純支持の版としてモデル化する。図ー6(b)のモデル化が妥当であれば既に計算数表が用意されているため1),実務で簡便に必要版厚を決定することができる。

② FEM解析による検証
図ー6(a),(b)の2ケースについてFEM解析を行った。y方向の応力分布図を図ー7に示す。図ー7を見ると,解析モデル1,2ともにσyの分布傾向が良く一致しており梁の境界条件を単純支持とし,底版を2辺固定2辺単純支持版及び3辺固定1辺単純支持版として設計することは妥当であると考えられる。

4 適用性の検討
現在計画中のB港の防波堤に幅広フーチングケーソンを適用した場合の試設計を行った。B港防波堤の位置図を図ー8,設計条件を表ー1に示す。
図ー8からわかるように,防波堤の設計対象部分は沖側に張り出しているため設置水深が深い。さらに設計波が3.2m程度(堤前波)と比較的小さく,幅広フーチングケーソン構造に適した現地条件と考えられる。

本防波堤の構造に,幅広フーチングケーソンを想定して試設計を行った結果,最も経済的な断面はケーソンの設置水深-17.0m,フーチング幅6.0mとなり,その標準断面図を図ー9に示す。なお,全く同じ条件で標準的なRCケーソンで設計した場合の標準断面図を図ー10に示す。
図ー9と図ー10は同スケールで描いているが,RCケーソンの場合は,基礎捨石マウンドが著しく大きくなることがわかる。また,両者の概算工費を試算すると,本海域の防波堤に幅広フーチングケーソンを用いた場合,通常のRCケーソンに比べ約4割のコスト縮減を図れることがわかった。

5 まとめ
本報告では,大水深で比較的静穏な海域に防波堤を設置する場合に,経済性に優れた新形式のケーソン構造として「幅広フーチングケーソン」を提案した。さらにその特徴であるフーチングの実務的な部材設計手法並びに水理模型実験結果による波力算定法の提案を行い,最後に本構造の実海域への適用性について検討を行った。
本報告をまとめると以下のようになる。

(1)波力は,有限振幅重複波理論により算定できる。
(2)フーチング部は,小梁によって区切られた3辺固定1辺単純支持,2辺固定2辺単純支持の2枚の版と見なし,一般的にケーソンの設計に用いる計算数表を用いることにより設計を行える。
(3)B港防波堤で試設計を行った結果,試算では既設計断面に比べ約4割のコスト縮減が可能であり,本構造の有用性を確認した。

参考文献
1)港湾の施設の技術上の基準・同解説,㈳日本港湾協会,1999.4
2)ハイブリッドケーソン設計マニュアル,㈶沿岸開発技術研究センター,1999.6

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