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山国川の景観を活かした河川工事
九州地方整備局 宮元洋
1 背 景

山国川は、その源を大分県中津市山国町の英彦山(標高1,200m)に発し、大小の支川を合わせながら、中津平野を貫流して周防灘に注ぐ、幹川流路延長56㎞、流域面積540㎞2の一級河川である。
山国川の中・上流域一帯は「耶馬・日田・英彦山国定公園」、及び大分県の文化財「名勝耶馬溪」に指定されており、河川内のいたるところに存在する奇岩・秀峰と新緑や桜・紅葉などが織りなす景観は、山国川の清らかな流れとも相まって、景勝地「耶馬渓」として名高く、年間170万人近くの観光客が訪れる大分県の代表的な観光地となっている。
このため、河川景観自体が地域活性化の一翼を担う観光資源であるとともに、文化財保護法の適用を受けて景観の保全に努められていることから、河川の改修や管理等において奇岩や樹木等の景観に手を加える場合、厳しく規制されており、文化庁との協議が欠かせない状況となっている。

2 山国川の河川工事における課題

前述のような背景を持つ山国川であるが、河川内の工事、特に補修工事などの小規模な工事では、経済性等の面からコンクリートブロック二次製品等を用いた従来工法に頼らざるを得ない部分も多く、また、自然石を用いた工法でも、火山堆積物を河川が浸食してできた周辺景観となじまないところもあるなど、景観に係る課題が多い。
そのような中、流域内の施工業者によって比較的安価で施工性もよい擬岩工法「岩工房」が開発された。

【競秀峰(青の洞門)付近の景観】

【岩が露頭する河床】

3 工法の特徴

開発された工法は、維持工事等比較的小規模で低予算での施工や、周辺景観に違和感なくとけ込むこと等を前提としたものであり、以下に示す特徴を有している。
1)現場打ちの擬岩構築工法であり、しわ、窪みや亀裂など細部までこだわることができ、周辺景観と合わせやすい。
2)施工にあたって特殊技能工や特殊機材を必要としないため、コストが安く、また、残材等の産業廃棄物も発生しない。
3)仕上がり表面部分を除いたコンクリート部 (ラス網の内側部分)は、無筋コンクリート構造物であり、充分な強度が期待出来る。
4)入念な現地調査(現場付近の地形及び環境調査)による岩の形状や色合い、質感等の把握及び現場全体の修景と擬岩造形の計画に基づく、画像等による完成予想図が作成できるため、完成後の状況をイメージしやすい。

4 施工方法

一般的に行われている擬岩工法のように、自然石から型を取ったりしない当該工法では、以下のような手順により施工を行う。

1)施工手順
① 擬岩造形計画作成:
ⅰ)現地調査
・着工前測量により、平面図、縦横断図を作成するともに、地形・周辺環境・既設構造物・自然条件・岩の性状(形状・色合・質感)及び施工 条件等の調査を行う。
ⅱ)完成予想図の作成
・現地調査から得られた資料により、完成予想図の合成写真(モンタージュ)を作成し、完成イメージの共有化を図る。
ⅲ)施工図の作成
・モンタージュをもとに施工図(擬岩造形平面図・断面図)を作成し、必要があれば擬岩形状の補整を行う。
ⅳ).試験施工の実施
・コンクリートに混入する無機顔料の色合いと擬岩の仕上げ面を確認するため試験施工を行う。
② 差筋アンカー設置:
擬岩造形図をもとに丁張り用の差し筋アンカー(D-13、定着長150㎜)を所定の変化点(10m2当たり12本程度)に設置し、鉄筋及び鉄線等により擬岩の大まかな形状を現地におとす。
③ 骨組み鉄筋設置:
打設計画に従い差筋アンカーにD-13の加工済み鉄筋を溶接し、擬岩の骨組を形成する。
④ ラス網設置:
骨組み鉄筋外面に、ラス網(網径φ2㎜-20㎜目)を設置し、大まかな岩の形状をつくる。
⑤ 造形網(仮型枠)設置:
あらかじめ岩の形状に細工した造形網を設置する。骨組み鉄筋、ラス網とのかぶりは50㎜。網径はφ0.8㎜-5㎜目。なお、造形網はCo打設して2~3時間経過後に撤去し、⑦の工程でより岩らしい加工を行う。
⑥ コンクリート打設:
打設計画に従い無機顔料を混入したコンクリートの打設を行う。バイブレータを使用し、締め固めながら打設する。コンクリート強度18N/㎜、スランプ8cm、最大骨材寸法40㎜、セメントは高炉Bを使用。
⑦ 養生:
打設後2~3時間で⑤(造形網)を撤去し、手作業にて表面の質感等を含め仕上げを行う。なお、養生については、養生マット、養生シートを使用し所定の期間養生を行う。 その他:品質管理に関しては、通常のコンクリートの規格を採用。出来形は法長で管理する。

5 施工状況
1)護岸工根継ぎへの適用

前の写真は、玉石護岸の根入れ部が洗掘を受けたため、根継ぎを行ったものである。景観的に優れていることはもちろん、フラットな部分を設けているため、釣りや水遊びの足場としても活用できる仕上がりとなった。
また、植生の進入を促すため、土砂の溜まる場所として凹凸部分を設けた。


同時に、魚巣(隠れ場)や増水時の避難場としての効果をねらった岩窟を設けるなど、意匠的かつ複雑な形状を創り出し、自然景観との調和がとれた造形ができるのは擬岩工法ならではである。

2)施工後の状況
山国川における擬岩の施工では、形状的には予想以上の出来映えであったが、着色は経年による色落ちを想定した顔料配合が必要であり、色合いを周辺景観になじませることが難しかった。
平成16年度施工から5年を経過した平成20年現在は、色落ちにより色調がやや単調になっているが、全体としては周辺の岩とも馴染んでいる。
平成19年度施工では、前回施工の反省を踏まえ、施工区画を細分化し、色調が単調とならないよう工夫したことにより、さらに自然な景観となった。
また、出水等により若干の損傷が見られたことから、表面硬化剤を添加し表面強度を高めた。

6 課 題

本技術で用いられる材料はごく一般的に使用されている材料であり、他の擬岩工法と比較して安価であるとともに、施工方法も特殊な機械を用いないため、広いヤード等を必要とせず、施工場所を選ばない。また、樹脂等による型枠を使用しないことから、残材も発生せず、環境にも優しい工法である。
このように、優れた特性を持つ工法であるが、その施工における配色や造形は、手作業で行われることから、技術者のセンスによる部分が多く、その出来映えは、事前の入念な調査・計画が重要であるとともに、施主との入念な打ち合わせや試験施工等によるイメージのすり合わせが、重要である。
これらは、施工者の経験と技術及びイメージのずれを生じさせないプレゼン能力が要求されるため、施工のみならず、調査・設計および施主の意向を忠実に再現できる技術者が本技術の要となる。

7 おわりに

本工法は、工事関係者の「景勝地耶馬渓の景観を保全したい」という熱意が、その始まりであり、その熱意や川に対するこだわりが、ただの護岸補修工事を発展させたものである。
今回紹介した擬岩工法「岩工房」は、その知名度が、まだ充分とはいえず、平成20年現在、大分県内の直轄工事における3件の施工実績程度にとどまっている。
しかし最近では、県内はもとより関西、四国、関東方面からの問い合わせも多く本施工法が「耶馬渓」と同じ景勝地において、同じ悩みを抱える工事の福音となることを期待するものである。

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