一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
寺内ダム貯水池におけるフェンスのプランクトン制御効果

建設省九州地方建設局
 河川部河川管理課長
荒 川  詔

建設省筑後川工事事務所
 開発調査課長
田 嶋 良 一

西日本技術開発㈱環境部
 計画課課長
井 芹  寧

1 はじめに
近年,環境問題に対する国民の関心の高まりとともに,良好な水環境の創出への期待がますます高まっているが,多くのダム貯水池では依然として水質汚濁の傾向を示している。
寺内ダム貯水池は,昭和53年の湛水開始以来水道水へのカビ臭障害や濾過障害,あるいはアオコ等が発生し,平成2年度から建設省においてダム貯水池水質保全事業(クリーンアップレイク事業)を進めている。
当事業ではこれまでに,リン吸着材施設,クレソンによる水耕浄化施設等を実施してきたが,特に平成5年度末は,貯水池内対策の一つである植物プランクトンの発生抑制を目的として,流入水制御フェンスを設置し,平成6年度はその効果について,追跡調査および解析を実施したので報告するものである。

2 寺内ダムの概要
寺内ダムは,福岡県甘木市荷原の筑後川水系佐田川の上流に位置し,洪水調節,流水の正常な機能の維持,灌漑用水の補給および水道用水の供給を目的として,建設された多目的ダムであり水資源開発公団が,昭和53年6月から運用を開始している。
周辺には,「あまぎ水の文化村」が整備され,水をテーマに寺内ダム貯水池と一体化した親水公園として,多くの市民に利用されている。
寺内ダムの諸元を表ー1に示す。

3 フェンスの概要
フェンスは厚さ1mmのポリエステル製の不透水性のシートで,上部にはフロート,下部にはウェイトとしてリンクチェーンを取り付け,水深5mまでを遮蔽する構造とした。なお,遮蔽水深はプランクトン生産層の分画を目的として,寺内ダムの平均的透明度の2倍程度の水深に設定した。
構造図を図ー2に示す。
各フェンスは,Cフェンスが106m,Dフェンスが146mの長さとなっている。各フェンスの期待される機能を図ー3に示す。
なお,フェンスC~D間はプランクトンが増殖可能な滞留時間を考慮して決定した。
平成6年2月末に設置し運用を開始したが,過去に例のない大渇水となり貯水位が低下したため,Cフェンスは6月29日にDフェンスは7月23日に撤去を余儀なくされた。

4 調査内容
調査は,フェンス設置期間にあたる平成6年3月4日~6月24日の間,原則として週1回の頻度で実施した。調査地点はCフェンス上流水域,C~Dフェンス間,利水取水口のあるダムサイト地点の計3地点とし,各地点において水深0.5m,2.0m,4.0m,6.0mで採水を行った(図ー4)。なお,調査項目は水温,濁度,透明度,リン成分,窒素成分,クロロフィルa,植物プランクトン組成とした。

5 調査結果
5.1 貯水池表層の水質
貯水池表層の水質の推移図を図ー5に示す。その概要は次に示すとおりである。

(1)水温
貯水池内では3月下旬から4月上旬にかけて水温が上昇し,この期間に水温躍層が発達した。5月に入るとフェンスによる分画層(0.1~4m)の水温がより上昇し,流入河川水より数度高い温度となり,フェンス下層(6~10m水深平均値)水温が流入河川水と同等のレベルとなった。
このような時期は,貯水池内にもぐり込んだ流入水はフェンスより下方に流動することになり,プランクトンが存在する表層には,流入水による栄養塩供給が起きにくい状況となっているものと考えられる。
(2)透明度
透明度は3月から4月にかけて,平年の春先と同じく低下傾向が認められた。その後,平年値はさらに悪化し1m前後になるところが,本年は水温躍層の発達とともに値が上昇し改善が認められた。フェンス分画層水温と流入水の水温が最大となる5月末に,透明度3m以上となるなど,長期的に透明度が上昇し,例年にない良好な状況となった。
(3)全リン(T-P)
全リンはフェンス上流が出水による濁水の影響を受けるため,他水域と比較して変動が大きく高濃度で推移した。4月14~27日の結果では,出水直後の14日にフェンス上流で上昇し0.07mg/ℓに達した。下流のフェンス間ではやや遅れて上昇が認められ,27日に最大で0.05mg/ℓを示した。一方ダムサイトの平年値は,0.1mg/ℓに達するピークが見られることも多いが,本年は低濃度で安定し,カビ臭の発生限界値(0.02mg/ℓ)前後の値となった。
(4)全窒素(T-N)
全窒素は全リン同様,フェンス上流部が高濃度で推移したが,フェンス間及びダムサイトは変動が少なくほぼ同様な値で推移した。この両水域とも,フェンス設置前後の全窒素濃度は約1.0mg/ℓであったが,徐々に減少し6月24日には0.7mg/ℓに改善された。
出水後の変動は全リンと異なる挙動を示し,出水直後の4月14日は大きな増加は認められず,遅れて21日に懸濁態の窒素成分の増加により最大の1.6mg/ℓに達した。これは,クロロフィルaも同時に増加が認められたことから,出水時に供給された栄養塩を吸収し増殖した植物プランクトンの影響と考えられる。
(5)クロロフィルa(植物プランクトンの量を表す指標の一つ)
フェンス上下流の濃度差が非常に大きく,フェンス上流およびフェンス間では,出水後の流入河川水による栄養塩供給後,プランクトンが増殖し急増を示すのに対して,ダムサイトは出水の影響もほとんど無く低濃度で安定していた。水温成層後は0.01mg/ℓ以下を推移し,4月27日は0.0028mg/ℓまで減少し,フェンス上流の約1/20の値となった。
この時期の富栄養化度はフェンス上流およびフェンス間は富栄養化レベル,ダムサイト水域は貧栄養から中栄養レベルに維持された。5月中旬以降はフェンス上流部のクロロフィルa濃度が減少し,6月はフェンス間と同様な値となり,ダムサイトとの差が小さくなった。これは貯水位の低下によりこれらの水域の貯留量が減少し,滞留時間が短くなったことが一因と考えられる。
5.2 水質鉛直分布
水質鉛直分布調査結果を図ー6に示す。成層前の3月4日は各地点とも水深0.5mから6mまで大きな変化はなかった。プランクトン増殖時期にあたる4月27日は,フェンス上流およびフェンス間がプランクトンの増殖に伴い,表層の濃度が増加したのに対し,ダムサイトは3月と比較して大きな変化もなく,低濃度で維持された。
6月16日も良好な状態であるが,水深6mでクロロフィルaがやや増加を示し,フェンス下方の栄養塩を利用してプランクトンが増殖している可能性が考えられる。

5.3 植物プランクトン
植物プランクトンの細胞数の推移図を図ー7に示す。各地点とも藍藻類と珪藻類が出現プランクトンの多くを占めた。フェンス上流およびフェンス間は,4月の出水に伴う栄養塩供給により,藍藻のPhormidiumや珪藻のFragilariaなどの増殖が起き,4月21日に現存量が最大値を示した。その後,減少し5月27日以降6月16日まで現存量が非常に少なくなった。
水温が上昇し,流入水温が貯水池表層の水温と近づいた6月24日に藍藻のMicrocystisの増殖が起きたが,7月にはいると速やかに減少し問題とはならなかった。ダムサイトは上流域でプランクトンが増大した4月21日に逆に現存量が減少し,それ以降低レベルで安定しており,フェンスの効果が顕著に現れた。

6 フェンスによる効果
フェンス設置による富栄養化防止効果の評価を行うため,今回の調査結果と平均値(昭和59年~平成5年)との比較を行った。
表層(0.1m)における各地点の全リンおよびクロロフィルaの月別の比較を図ー8に示す。平年は,全リンが4月~6月にかけて急激に増加するのに対して,今回は4月が出水の影響で平年より高濃度となるが,その後は増加率が低くなるか減少を示し,平年より良好な状況となって,フェンス設置による効果が認められる。
特にダムサイトはほとんど増加せず安定しており,6月においては平年の半分以下の値となっている。クロロフィルaについても,減少,安定化が示されている。以上のようにフェンスは,プランクトンの増殖の抑制,特にダムサイト側の水域の改善効果が大きいのが特徴となっている。

フェンスの富栄養化防止効果をまとめると,一つ目は栄養塩供給源となる流入水の流動制御効果と,二つ目はダム貯水池生産層の分画効果で成り立っている。
一つ目の流入水流動制御効果は,
① 流入水潜り込み水深の拡大によるプランクトンに対する栄養塩供給の抑制。
二つ目の生産層分画効果は,
① 増殖に適した上流部へのプランクトンの移動・集積の抑制。
② 上流部で増殖したプランクトンの下流域への移動・拡散抑制。
③ 表層のプランクトンおよび懸濁態栄養塩の沈降促進などが総合的に働き,貯水池のプランクトン生産量を低下させ,富栄養化の進行を抑えるものと推察される。
特に,フェンスの設置により出水などの攪乱から,水温成層を長期にわたって保護することで表水層厚が増大し,二次的に潜り込み水深の拡大を促進する作用が大きく影響しているものと考えられる。また,より表水層の拡大を促進し,栄養塩を有光層(生産層)に再浮上させないためにも,下部取水との併用が効果的と考えられる。

7 おわりに
今回の調査により,フェンスの設置により優れた富栄養化防止効果があることが確認された。
しかしながら,平成6年は過去に例のない大渇水のため,予定のフェンス調査が春季のみに限られたこと。栄養塩の供給にかかわる流入水の流動制御状況が明確にできなかったことなどから,今後これらの不足点を補う調査,検証を行い,フェンスによる富栄養化防止効果の機構を明らかにし,経済性が高く,汎用性のある富栄養化防止対策としての手法(フェンスの設置位置,遮蔽水深等)の確立を目指す方針である。
最後に本報文を作成するにあたり,御指導をいただいた関係各位に深く感謝の意を表する次第である。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧