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寄藻川における環境保全対策と
新たな希少種の発見についての報告

大分県 土木建築部 河川課長
安 部 輝 夫

九州建設コンサルタント㈱
環境調査部 環境課
矢 野 香 織

1 はじめに
干潟は,外海から遮蔽された波浪の少ない内湾や河川の河口域に発達し,潮の干満によって冠水と干出をくり返す,いわゆる潮間帯といわれる領城である(和田,2000)。干潟は,生物生息機能,水質浄化機能,生物生産機能,親水機能など様々な機能を有しており,その価値は計り知れない。(海の自然再生ワーキンググループ,2003)

2 寄藻川の概要
寄藻川は,その源を大分県宇佐市雲ヶ岳に発し,北流した後宇佐神宮境内を経て橋津で日足川を,岩崎の北で向野川を合わせ,さらに松崎川,田笛川を合わせ周防灘に注ぐ幹川流路延長約17km,流域面積約80㎢の二級河川である。河口域には,広大なヨシ原を有する干潟が形成され,景観的に優れているだけでなく,オカミミガイ類・ヘナタリ類などいわゆる「希少種」とよばれる生物が多数生息している生物学的にも非常に価値のある河川である。本報告では,寄藻川において大分県宇佐土木事務所が現在まで特に希少種に対して実施した環境保全対策と,新たな希少種の発見その生息状況について報告する。

3 環境保全対策について
寄藻川河川改修(築堤.掘削)に伴い,干潟の約3.9haが影響を受けると考えられ,その干潟には31種の特定種が確認された。これらの希少種(貝類)を保護・保全するために学識経験者のアドバイスを受け①河川改修計画の変更,②特定種(貝類)の移植及び③モニタリング,④環境保全対策水路の設置による生息地の造成を実施した。以下にその概要を述べる。

① 河川改修計画の変更
河川改修全体計画の中で河床掘削が計画されていたが,治水上,当面支障がない区間については,現状のまま保全することとした。そのことにより,寄藻川本川右岸寄藻大橋上流のセンベイアワモチ生息地と浮殿小橋上下流のクリイロコミミガイの生息地が保全された。

②特定種等の移植
移植は,河川改修計画の変更が不可能な区間について学識経験者の指導を受けながら,種別に生息地の環境条件を調査し,その条件に類似した場所に移植を行った。(図ー6モニタリング調査位置に放流)
貝類の移植は,オカミミガイ・シマヘナタリガイ・クロヘナタリガイを主体に地城住民やボランティアの方々の協力を得て行った。

③モニタリング
本調査におけるモニタリングは,工事で影響を受ける範囲内の貝類を捕獲・移植し,その生息状況(個体数確認)を把握することを目的としている。固定したコドラート内の生息数をカウントし,生息数の増減により,貝類等の生息状況を把握する方法を採用した。モニタリングの主な対象としては,オカミミガイ・クロヘナタリ・シマヘナタリ・フトヘナタリとした。モニタリング結果を総合的に判断すると,移植地点における貝類の生息状況はきわめて良好であり,現在のところ,移植先の個体数の増加による目だった生物洵汰等は見受けられない。モニタリングは,下記に示す9地点において平成14年~平成16年9月現在,9回実施している。平成15年度末までの調査結果を表4ー1,4ー2に示す。

〈モニタリング地点(下図ー4参照)〉
地点 1 寄藻川右岸干潟 0k/425前
   2    〃  0k/500前
   3 寄漠川左岸千潟 0k/400前
   4 浮殿小橋下流左岸 No.1の干潟及び法尻
   5     〃     No.2の  〃  
   6 浮殿小橋下流右岸干潟
   7 松崎川合流点上流右岸
   8 松崎川合流点上流左岸
   9 瓦の下のモニタリング

④ 環境保全対策水路について
寄藻川右岸寄藻大橋下流0k300~1k100の区間は,堤防の嵩上げなどにより約2660㎡の干潟が消失する。それに伴いそこに生息するクロヘナタリ・シマヘナタリ・オカミミガイ等希少種の生息域が縮小される。そこで,改修で消失する干潟を再生するために平成14年から寄漠大橋右岸下流に環境保全対策水路の設置に取りかかった。計画にあたっては,希少な貝類の生息環境に配慮し,クロヘナタリガイ・シマヘナタリガイ・オカミミガイがそれぞれ生息可能な地盤高となる様に工夫するともに,ヨシの再生を促すため平成15年6月に1294株,平成16年6月には700株ヨシの移植を実施した。現在は,少しづつではあるが自然が再生されつつあり,数年後には希少な貝類が生息出来る環境が再生できるものと予測され,捕獲・移植した貝類を再移植する予定である。移植後のヨシの生育状況,水路内の生物のモニタリングを平成16年9月現在,5回実施している。次頁図ー5に,水路の簡略図を,図ー6~9に水路の変遷を紹介する。

4 希少種の発見について
寄藻川保全対策業務を実施中に平成15年6月に寄藻大橋下流左岸において希少な甲殻類.アリアケガニCleistostoma.dilatatumが確認された。本種は,周防灘や瀬戸内海では初記録種となる。その後水槽内での定期的な観察により,抱卵個体、交尾の様子,ゾエア幼生などを確認し.明らかに繁殖個体群が形成されていることが判明した(三浦他,2004)。そのために,寄藻川での分布状況の把握を平成15年度は分布域調査,コドラートによる定量調査(1回)を実施し,平成16年度にはコドラートによる定量調査を行い,その結果,生息面積73,000㎡(干潟総面積の14%)推定個体数33万個体が生息するものと推定された。

改修計画に将来計画を実施する場合には,アリアケガニの生息調査の結果をもとに保全対策を考えていくことが必要である。図ー12~15に,飼育水槽下における本種の繁殖行動の記録を載せる。

5 終わりに
寄藻川の環境保全対策は,地域の方からの情報で河川改修区間に希少種が生息していることが分かり,地域の方々のボランティアによる協力と学識経験者のアドバイスにより,希少な貝類の生息地の保全・再生と移植を行った。さらに,その中で希少種のアリアケガニの生息が確認された。今後は,これらのことを踏まえ,自然豊かな川づくりを目指していきたい。

<謝辞>
本報告を執筆するにあたり,大分県宇佐土木事務所様,アリアケガニについてご指導していただいた宮崎大学三浦知之教授,鹿児島大学佐藤正典助教授松尾敏生様,貝類についてご指導していただいた濱田保様,他多数の方々に心より感謝申し上げます。

参考文献
逸見泰久,1994:干潟入門「和白干潟の生きものたち」.海鳥社,福岡
逸見泰久,1994:福岡県の希少野生生物一福岡県レッドデータブック2001一 p.423.
  福岡県総務部県民情報広報課,福岡
環境庁編1998:第5回自然環境保全調査海辺調査生物多様性センタ-,山梨.
三浦知之・矢野香織・松尾敏夫・佐藤正典,2004:大分県宇佐市寄藻川に生息するアリアケガニ個体群の発見Cancer(日本甲殻類学会誌,)13:19-23.
大分県宇佐土木事務所,2002:平成13年度統河委第6-6号調査委託寄藻川流域河川環境関連調査業務(環境調査編)報告書平成14年3月,大分.
大分県宇佐土木事務所,2003:平成14年度統河二委第6-11号設計委託寄藻川環境保全対策実施設計報告書平成14年11月.大分.
大分県宇佐土木事務所,2003:平成14年度統河委第5-6号設計委託環境保全対策実施計画検討報告書平成15年3月,大分.
大分県宇佐土木事務所,2004:平成15年度統河委第5-2号調査委託寄漠川環境保全対策業務報告書平成16年3月,大分.
大分県宇佐土木事務所,2004:平成15年度統河委第5-3号調査委託寄藻川アリアケガニ生息状況調査報告書平成16年3月,大分.
佐藤正典(編),2000:「有明海の生き物たち」干潟・河口域の生物多様性.海滸舎,東京.
佐賀県希少野生生物調査検討会,2001:佐賀県の絶滅のおそれのある野生動植物一レッドデータブックさが一p.445.佐賀県快適環境づくり推進協議会.佐賀県.
和田恵次,2000:「干潟の自然史」一砂と泥に生きる動物たち 生態学ライブラリー11.京都大学学術出版会,京都.
和田恵次,1996:WWF Japan Science Report Vol.3 December 1996特集:日本における干潟海岸と底に生息する底生生物の現状p.79,㈶世界自然保護基金日本員会,東京

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