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宮崎県における景観形成の取組みについて
~自然と人々の生活が融合した”美しいみやざき”の創造を目指して~
宮崎県 岡部章
1.はじめに

我が国では戦災復興から高度経済成長期は、全国的な動向と歩調を合わせるように、経済発展に向けた社会基盤整備を進める中で、里山や田畑を開発し、都市を拡大してきた。
一方、本県では、開発を進めながらも自然を敬い、生かす取組みを住民と行政が連携して取組んできたことが大きな特徴に挙げられる。
そのような取組みの具体的なあらわれとして、本県では、昭和44年に全国に先駆けて「宮崎県沿道修景美化条例」を制定するなど、豊かな自然を生かした美しい県土づくりに取組み、その保全・創出の成果を観光分野で生かしてきた。
この流れの中で、平成16年に景観法が制定され、本県の魅力をより高めるためには、これまで取組んできた自然景観に加え、都市景観や農山漁村景観、文化的景観の保全・創出にも取組んでいく必要があった。
そこで、宮崎県では、県としての景観形成に関する基本的考え方や方向性を明らかにし、住民と行政が協働して景観を糸口とした持続的かつ活力ある宮崎県を創造するため「宮崎県景観形成基本方針」を平成19年4月に策定した。
この基本方針では、県民、事業者、市町村、県が一体となって、「自然と人々の生活が融合した“ 美しいみやざきの創造”」を目指すこととしている。

2.景観づくりの主体と役割

「自然と人々の生活が融合した“ 美しいみやざき”」は、それぞれの地域に住み続ける住民や産業活動を展開する事業者の意識と行動がなければ、その実現は非常に難しいといえる。
また、宮崎らしさや美しさ、住みよさ等の価値観が多様化している状況をふまえると、公益的な景観づくりの視点からの調整や公共施設の管理者である行政の関わりも必要不可欠なものである。
これらを踏まえ、宮崎県景観形成基本方針では、景観づくりの主体別役割を、以下のよう位置づけ、住民・事業者・市町村ならびに県が一体となって景観形成に取組むこととしている。

①住民の役割
景観づくりの主役は住民であり、身近な景観や環境への関心を高め、景観づくり活動を主体的に担う。
②事業者の役割
景観づくりの重要な担い手であり、地域の景観形成への関心と配慮を行い、景観形成活動に参加・協力する役割を担う。
③市町村の役割
地域固有の歴史・文化等を生かした景観づくりを展開するためには、その主役である住民に最も身近な行政である市町村が景観行政団体となり、中心的な役割を担う。
④県の役割
県は、住民・事業者の啓発、支援を行うととともに、広域行政の担い手として広域的な観点からの景観づくりを市町村と連携しながら、一体的に推進する役割を担う。

3.県における取組み

県では、宮崎県景観形成基本方針において、県として取組むべき重点施策に位置づけられた様々な施策を推進している。

(1)住民・市町村等に対する啓発・支援
景観づくりは「地域づくり」であることを理解いただくとともに、景観形成活動への関心や意欲を高めるための啓発を市町村や景観整備機構等と連携して実施している。

(2)景観アドバイザーの派遣制度
景観に関して専門的な知識を有している学識者の方々をアドバイザーとして登録し、地域毎のテーマに沿った専門家を派遣する「宮崎県景観アドバイザー制度」を平成19年9月に創設し、住民・各種団体・市町村が行う景観に配慮した地域づくり活動を支援している。

(3)行政職員の意識改革と人材育成
行政職員も地域の一員であり、職員の意識を高め、住民とともに地域づくりを推進できる人材の育成に取組んでいる。

(4)公共事業景観形成指針の策定
公共施設は地域の景観を構成する重要な要素の一つであり、地域の景観に与える影響も非常に大きいことから、県自らが率先して良好な景観形成の先導的な役割を果たすべく、公共事業を実施する際の景観配慮のあり方と方向性を示した指針の策定を進めている。

(5)景観形成に向けた体制整備
県民・事業者・市町村等と相互に協働・連携しながら、県民総力戦で全県的な取組みを展開していくためには、県においても、率先して職員一人ひとりの意識改革を図るとともに、景観形成の意義を理解し、景観形成の取組みを推進する組織体制の整備が必要である。
このため、景観形成に関する各種計画の策定や公共事業の設計・施工等に携わる部署を対象に、景観形成への理解や取組みを促す役割を担う「景観形成推進員」を設置する取組みを進めている。

4.景観法の施行状況について
(1)景観行政団体の移行状況
景観法においては、地域における景観行政を担う主体として、景観行政団体という仕組みを創設している。
これは、同一の行政区域を都道府県及び市町村が重複して二重に行政を行う事態を避けるために、そのいずれかが、景観行政団体として景観行政を一元的に担うこととしたものであり、具体的には政令市、中核市は自動的に景観行政団体となり、その他の市町村は都道府県と協議をし、同意を得ることでなることができるとされている。
本県では、中核市の宮崎市を含め、これまでに16団体が景観行政団体に移行しているところである。(平成21年12月1日現在)

(2)景観法に基づく各種施策の施行状況
景観行政団体になると、景観に関する総合計画である「景観計画」を策定することが可能となる。
県内では、宮崎市、日南市、綾町が景観計画を策定し、景観まちづくりの方針に基づいて、届出対象や景観形成基準を定めるとともに、良好な景観形成に向けた様々な施策を推進している。
①景観重要建造物・樹木
景観重要建造物及び樹木の指定制度は、地域の景観上重要な建築物や工作物、樹木について、所有者や管理者が適切に管理・対応するように事前に調整を行う仕組みである。
本県では、平成20年12月に宮崎市により県庁本館、県庁5号館、商家旧阪本家が九州で初めてとなる景観重要建造物の指定を受けたほか、これまでに延べ5件の建造物が景観重要建造物に指定されている。
また、平成21年10月には宮崎市により県庁本館前のフェニックス2本が県内初となる景観重要樹木に指定されるなど、景観上重要な建造物や樹木を保全し、地域の景観の核として保全・活用していく取組みが進められている。

②景観重要公共施設
景観重要公共施設とは、景観計画区域内にある景観上重要な公共施設を管理者の同意を得て指定することにより、景観計画に即して整備が行われるようになる仕組みである。
県内では、日南市が、歴史的な建造物である堀川運河を中心とした港町油津地区景観計画区域において、景観重要公共施設の指定制度を活用して良好な景観の創出に取組んでいるほか、市内全域を景観計画区域としている宮崎市においても、市内全域の主要幹線道路や主要河川を景観重要公共施設に指定するなど、地域の景観の基盤でもある公共施設における景観形成の取組みが積極的に進められている。

③景観整備機構
景観整備機構の指定制度は、地域で活動する公益法人やNPO法人を景観行政団体の長が指定するもので、指定を受けた法人等は、住民主導の持続的な景観まちづくりの支援、景観重要建造物・樹木の管理、耕作放棄地の利用権の取得等を行うことが可能となる。
 本県では、県が、県内市町村に先立って(社)宮崎県建築士会と(財)宮崎県公園協会の2団体を指定したのに引き続き、宮崎市と日向市が(社)宮崎県建築士会を景観整備機構に指定しており、県や市町村と一体となって住民・事業者等を対象としたセミナーや将来の担い手となる子供達への景観教室の開催を行うなどの取組みが進められている。

5.景観づくりは地域づくり

日々の生活や生業の中で育まれた結果が「景観」であり、景観という視点から地域を見つめ直すことにより、地域づくりの新たな切り口が見つかるものと考える。
そして、多くの住民、事業者、市町村等が、身近な景観に関心を持ち、「景観」という視点から自らの地域づくりを考え、行動することができれば、他にはないオンリーワンのまちづくりが可能となる。
景観法の制定により、地方公共団体による建築物等の形態意匠の制限や景観上重要な建造物や樹木等の保全等の様々な施策が実施できるようになり、県内でもこれまでに宮崎市、日南市、綾町が景観計画を策定し、その他の景観行政団体においても、景観計画の策定が進められるなど、景観法に基づく取組みが少しづつ目に見えるものになってきた。
県としても、引き続きこれらの市町村の支援を行うとともに、その他の市町村についても住民と一体となって地域の景観を生かした地域づくりに取組めるよう、啓発や情報提供に努めることとしている。
これらの取組みによって、地域に対する愛着や誇り、連帯感が醸成されるとともに、地域固有の環境や文化が大切に守り、育まれていくことを期待している。

6.おわりに

少子・高齢化が進む中、地域に魅力が無ければ、より就業や交通の便に優れる都市部への人口流出は加速していくことが懸念される。
このようなことから、住民・事業者等と一体となり、地域の“ 経営戦略” として、住民がその地域に誇りを持って住み続けられるような取組みを進め、美しい景観を次の世代に引き継いでいくことが、私達、現代に生きるものに課せられた責務であると考える。

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