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宮崎県における今後の社会資本整備のあり方
宮崎県 県土整備部長 児玉宏紀
1 はじめに

本県は、これから本格的な少子高齢化・人口減少時代を迎えますが、その一方でグローバル化の進展や地球温暖化対策など環境にやさしい持続可能な社会への転換も求められています。
このような環境の変化と新たな課題に対応していくため、平成23年3月に今後の県政運営の指針として宮崎県総合計画「未来みやざき創造プラン」を策定しました。今後本県では、総合計画に位置づけられた施策目標の「危機事象への対応と再生・復興」や「産業・雇用づくり」などを実現するために社会資本整備を推進していきます。

2 危機事象への対応と再生・復興

本県は、平成22年4月に口蹄疫、平成23年1月に高病原性鳥インフルエンザ、霧島山(新燃岳)の火山噴火など全国的に見ても特殊な災害に立て続けに見舞われ、そこからの再生復興が課題となっています。
また、地形的特性から梅雨や台風に伴う集中豪雨の常襲地帯となっており、毎年のように家屋の浸水被害や土砂災害が発生しています。さらに、平成23年3月に発生した東日本大震災では、太平洋側のプレート境界で発生した地震により沿岸部が津波被害を受けており、日向灘沖のプレート境界型地震が想定される本県においても、津波に対する県民の不安が高まっています。

このため災害に強い県土づくりをめざし、災害時の生命線となる緊急輸送道路の橋梁耐震化を重点的に進めるとともに、大雨や地震等による被害を未然に防止するため、国県道の災害防除事業を進めています。また洪水から県民の生命財産を守るため、近年甚大な浸水被害の発生した河川など、緊急度の高いところから重点的に治水対策を進めています。河道掘削、河道拡幅の他、中流域では下流域への治水上の影響が少ない輪中堤や宅地嵩上げなどの工法を採用し、総合的な浸水対策を進めています。土石流対策については、災害時要援護者施設や避難場所がある箇所など緊急度の高い所から計画的に砂防施設等の整備を進めています。しかしながらハード対策だけでは対応に時間を要するため、土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域等の指定の推進など、危険箇所における土砂災害から人命を守るためのソフト対策にも取り組んでいます。
また、約300年ぶりのマグマ噴火で大量の火山灰が堆積した新燃岳周辺では、再噴火も予想され土石流の発生する危険性が高いことから、国の直轄砂防事業で抜本的な土石流対策が進められる予定です。県としても国等と連携し、地域の安全で安心な生活の確保が図られるよう砂防事業に取り組んでいきます。
県民生活を守るためには、災害時に迅速かつ的確な災害復旧対応ができる体制の確立も重要と考えています。県土整備部では、平成22年度から災害復旧に精通した職員を応援要員に任命する「大規模災害復旧の応援チーム」を創設しました。
これは、大規模災害の発生した地区の出先機関に応援要員を派遣するもので、派遣者は事前に災害復旧に精通した職員から任命しておくものです。
平成22年7月に都城地区を襲った集中豪雨災害の復旧業務では総勢26名を派遣し、迅速に復旧業務を進めることができたところです。

3 産業・雇用づくり

地域に根ざした産業を育成し、地場企業の競争力や経営力を高め、地域の特性を活かした産業が伸びていくためには、高速道路や港湾など地域の経済発展を支える広域交通網が必要不可欠です。
本県の高速道路供用率は50%で全国でも低いレベルにあり、産業振興にはその早期整備がかかせません。また、今回の東日本大震災では、災害時及び災害復旧時における高速道路の機能・役割が再認識されたところであり、本県でも将来想定される東南海・南海地震や日向灘地震など非常時における備えとして高速道路は、まさに「命の道」となることから、ミッシングリンクの早期解消は喫緊の課題です。
現在、県内では2本の高速道路を整備中です。
1本は北九州から本県を経由し鹿児島県に至る東九州自動車道、もう1本は本県の延岡市と熊本市を結ぶ九州横断自動車道延岡線(九州中央自動車道)です。国の公共事業予算が減少する中、整備の遅れを危惧しており、国に対しては、社会資本整備に必要な予算の総額確保と整備の遅れた地方に対する配慮を求めているところです。

県が進める道路整備については、平成23年に「宮崎県中長期道路整備計画」を見直し、『力強い「経済」の浮揚を支援する道づくり』『定住自立を図る「地域」の発展を支援する道づくり』『安全・安心な「くらし」の確保を支援する道づくり』を基本方針とし、具体的には今後10年間で地域高規格道路の整備率を49%から82%に、第三次救急医療施設60分到達不可能地域減少率を0%から25%に、主要渋滞対策ポイントの緩和割合を68%から89%に、通学路内歩道整備率を68%から72%にするなどの成果目標を掲げ、整備に取り組んでいます。
海外や県外との物流を担う港湾整備については、地域開発に大きな影響を及ぼすことから、それぞれの地域の特性に応じた港湾機能の確保に努めています。特に県北の細島港では今後貨物量の増加が予想されることから、大型岸壁やガントリークレーンの整備を進めています。一方、国において東日本大震災の教訓から、既存施設の機能強化など、津波に対する防災対策を進めるべく、検討が進められていると聞いており、その動向を見ながら、必要な施設の整備に対応していく予定です。

4 最後に

今回の大震災を受け、今後の大規模災害への備えとして、三つのポイントがあると思います。
一つ目は事業採択基準です。現在の道路整備は、交通量の大小に左右される採択基準により、なかなか着手されない区間があります。今回の震災で供用中の高速道路が被災直後の緊急物資の輸送や復興に大きく寄与したことから、現在、国において防災面の指標を盛り込むことが検討されていると聞いています。多くの未整備区間をかかえる本県では、新たな指標に期待しているところです。
二つ目は既存計画の見直し方です。平成9年の台風19号に伴い本県北部を流れる北川で、計画規模を越える洪水があり、甚大な浸水被害が発生しました。再度被災防止の面から北川の河川改修では、北川の歴史と文化、地形条件等を調査し、これまでの改修計画を踏襲しつつ計画規模を越える洪水への対策として、河道掘削で断面を確保する一方、堤内の浸水を許容する霞堤と堤防を洪水が越流しても耐えられる耐越流堤を整備しました。今後様々な施設で基準の見直しなどが行われることが予想されますが、公共事業予算が限られる中、既存施設を有効活用する必要があり、既存施設の能力とこれまでの被災の歴史を調査し温故知新の気持ちで対策に取り組む必要があると考えています。

三つ目は体制づくりです。緊急時のマニュアル整備を進めるなど、職員に常在危機の意識を持たせ、災害時に慌てず行動できる仕組みづくりも重要と考えています。
公共事業予算は、引き続き大変厳しい状況にありますが、県民生活の向上や地域の活性化・発展のため、整備の遅れている道路、河川、港湾等県民共通の社会資本の整備を引き続き推進していく必要があると考えています。

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