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宮崎大橋床版工事の計画と施工について

新日本土木㈱ 飯田建設㈱ 共同企業体
所長
緒 方 茂 幸

川崎製鉄㈱ エンジニアリング事業部
 課長
高 部 良 二

1 まえがき
宮崎大橋は,一般国道10号の一部として,大淀川にかかる橋長410.6m(最大支間40.3m),幅員15.2 mのゲルバー形式の非合成鈑桁(図1-1)であり,本橋(旧橋)は昭和33年2月に架設され,現在まで約29年を経過している。又交通量増加に伴ない,約15年前には橋の両サイド(主桁G1,G4)に,ブラケット張出しによる巾2.75mの歩道が設けられた。この間,車両重量の増大及び,経過年数による,床版コンクリートの損傷が相当激しく,時期的にも何等かの対策を必要とされていた。今回,現地調査,床版打替工法の検討,グレーチング床版の設計等をへて,一般国道,二次改築宮崎西バイパスの工事の一環として,床版打替の運びとなった。尚,当現場では,床版工事と平行して,旧橋台A2の不等沈下に伴う解体並びに,リバース杭(φ1200×ℓ=41.5m×8本)基礎の新橋台を架設した。ここでは,床版打替工法の検討,グレーチング床版の設計製作及び床版工事の施工について概要を紹介するものである。

2 設計条件
型 式   合成桁橋(ゲルバー桁)
全橋長   410.600m
有効幅員   車道8.250m~9.500m
      歩道2.500m(片側)
総幅員   11.750m~13.000m
活荷重   T-20(一等橋)割増20%
横断勾配   2%
縦断勾配  水平
舗装厚   7.0cm~15.5cm
床版厚   グレーチング床版17cm
許容応力度 コンクリートσca=85.7kg/cm2
            σck=300kg/cm2
      鋼材    σsa=1,400kg/cm2
      付加モーメントを考慮した場合
            σca=107kg/cm2,σsa=1,750kg/cm2

3 打替工法の検討
本橋の補強工法の決定に先立ち,主桁も含めた主構部材の錆,腐食状況調査が実施された。その内容は,腐食,錆等を外観上で判断し,主要箇所では肉厚計にて,その肉厚を計測した。その結果特に問題になる変状はなく,主桁等鋼桁の応力計算は当初設計断面で行うこととなった。
床版打替えの工法としては,RC現場打コンクリート床版,Ⅰ型鋼格子床版(グレーチング床版),プレキャスト(RC,PC)床版,合成床版,鋼床版等がある。このそれぞれに対する比較検討項目は,
①構造性(非合成桁か合成桁,下部工等の安全性),②床版自体の安全性,③施工性,④経済性,⑤工期等である。おもな検討項目について下記に述べる。

(1)合成桁,非合成桁としての検討
主桁応力は床版厚(死荷重)により影響するが,桁構造が合成か非合成かで応力状況は大きく変化する。床版厚16cmから22cmまでの各死荷重を仮定し,応力計算をした結果,非合成桁では許容応力で,吊桁支間中央で超過し,たわみ量は定着桁の張出し部で許容値をオーバーする。よって,構造応力計算は合成桁として検討する。

(2)床版厚からの検討
各工法における必要最低限度の床版厚は下記の通りである。
 ① RC床版(現場打ち)-22cm
 ② Ⅰ型鋼格子床版----16cm
 ③ コンポスラブ-----18cm
 ④ RCプレキャスト---18cm
 ⑤ PC合成床版-----23cm
 ⑥ PCプレキャスト---16cm
 ⑦ 鋼床版--------25cm

この結果,床版厚が厚い①と⑤の比較では,経済性より①が,又逆に薄いタイプの②と⑥では施工実績や容易性などで②が適当と考えられる。
よって,①と②との比較検討が必要となる。

(3)沓の検討
死荷重増加に対する沓の安全性について,改良前(旧橋),改良後(場所打RCt=22cm,グレーチングt=16cm)を比較して検討する。
a 支承反力

b 単位長さ当り死荷重

c 支承反力に対する検討

上記検討から,t=22cmの床版厚では許容値を超えている。工法を床版厚t=22cmに決定して,支承の取替えも考えられるが,経済的,施工上の面で問題が大きい。

(4)主桁の疲労に対する照査
道路橋においては設計応力に占める活荷重応力の割合が小さく,設計活荷重に相当する活荷重が載荷される頻度が小さいため,一般に活荷重による疲労の照査は行なわなくてよいが,当大橋が旧橋であるため応力検討をする。
設計法:応力比法による

以上の様な検討の結果,工程的,経済的,施工面等の比較から床版厚16cmのグレーチング床版が最も適当と判断される。

4 Ⅰ型鋼格子床版の設計及び製作について
Ⅰ型鋼格子床版は特殊Ⅰ型鋼,配力筋と,亜鉛鉄板の組み立てを工場で行い,パネル化した急速施工用床版で,運搬の関係から幅は2.4m前後としている。また長さについては道路幅員(12~13m)に合わせている。

(1)宮崎大橋主桁形状への対応
宮崎大橋は昭和28年に設計されたゲルバータイプの鋼製鈑桁橋であるが,主桁フランジ部はカバープレートで補強された形式となっている。今回のⅠ型鋼格子床版の設計に当っては,このカバープレートとライナー高さとの取合いが非常に複雑であった。すなわちパネル内で幅方向のライナー高さが変わる場合がしばしば発生し製作過程で十分注意をはらう必要があった。またカバープレートがあるため桁上にハンチプレート下端を乗せる事が出来ないので,ハンチ受けプレートを主桁全線にわたって設けることとした。ハンチ受けプレートFB6×50を用いている。
Ⅰ型鋼格子床版においては,ハンチプレート押えとライナーを兼用するのが一般的であるが,今回はハンチ押えを別途設けることとした。このハンチ押えは後述するように拡幅部の勾配の徴調整にも用いた(図3-1)。

(2)道路の拡幅
またこの他の特徴として,A2側は交差点のすり付けの関係から道路幅を拡幅しており,さらにこれに追随する形で横断勾配もA1側標準部2%両勾配から,A2側拡幅部2%片勾配へと変化させている。パネル設計上は標準部はレベルとし,拡幅部へのすり付けをハンチ高,すなわちライナー高さを徐々に変化させて行くことにより,2%片勾配となるようにした。その結果拡幅部におけるハンチ高は最大255mmとなった。ハンチプレートの斜辺が長くなったためアングル及び,吊り鉄筋により補強を行なっている(図3-2)。

拡幅部においてはパネルはレベルの状態から徐々に傾いていくため,ライナー高さはパネル毎に変化させることとなった。同一パネル内でライナ一高さを変えることは,パネル自体捩れを持ったものとなり,これは製作管理上からも,運搬上も問題があるため,ライナー高さはパネル内では一定とした。従って,パネル間で10mmの段差が付くことになったが,その間のハンチ高調整はハンチ押えボルトを利用して行なうこととした。
また,ハンチプレートはパネル間で重ねるのを標準としているが拡幅部では,ハンチ部も底板継手と同様に,継手板方式を採用した(図3-3)。

(3)高さ調整式地覆型枠の採用
拡幅及び勾配の変化に伴い地覆型枠の高さも変化させねばならないが,これについては高さ調整式型枠を採用した。
これは地覆型枠を上,下二段に分割したものであり設置は多少めんどうになるが,高さは±30mm程度調整ができ,地覆高さを変化させるのには大変便利なものである(図3-4)。

(4)主部材の補強
今回の床版打替に際しては,橋格を一等橋にするということが重要であった。そのためスタッドジベルを用いて,合成桁方式とし,かつ主桁床組も補強している。また床版支持桁の剛性が異なるため桁の不等沈下による付加曲げモーメントが働くことから主部材を局所的に鉄筋(D19)で補強している。補強範囲を(図3-5)に示す。

(5)製作および運搬
製作パネル数は,合計178パネルであった。拡幅部パネル(44パネル)は,その各々が形状が異なっており,予想外の製作時間を要したが,現場サイドの協力もあって無事工程に乗せることができた。Ⅰ型鋼格子床版は磯子で製作したため,カーフェリーによる輸送を行った。輸送を行なうに当っては,現地工事工程の調整を行いながら,6~10パネル/車を単位とした輸送計画をたて,現地への搬入は昭和62年11月25日から昭和63年1月25日の間に21車分納した。海象状況が比較的穏やかだったため輸送上のトラプルも発生せず,工程上も支障なく無事完納する事ができた。

5 施 工
床版打替施工中の供用は,新設橋(Bライン)を利用するため交通は全面遮断が可能であった。
不等沈下によるA2橋台の架替えのため,P9~A2間の吊桁(全重量43t)を一時撤去(仮置)した。よって,床版工事と橋台工事が同時施工するため仮桟橋(W=4m,L=38m)を設置した。施工順序は下記の通りであった。

上記工程の中で,床版取壊し工ではコンクリー卜斫りで発生するコンクリートガラの落下防止のため,床版下に縦桁,横桁のフランジを利用した型枠用合板による移動式防護工を施工した。
また床組補強工は,パネル架設と平均24mの交互施工とした。補強の主な作業内容は,溶接による縦桁,横桁の補強,パネルハンチ受けフラットバー取付,合成桁とするスタットジベル(φ22)打設,P9~A2間拡幅部の張出しブラケット取付及び,落橋防止のための各定着桁AB,吊桁を継ぐ連結板の取付である。

(1)既設床版の取壊し
a 既設床版取壊し手順
① まず,縦断方向2.5m,横断方向1.5mのコンクリートブロック(一個当り重さ2~2.5t)に分割するため,コンクリートカッターにて,深さ10cm程度に二重に目地を入れる。
② 次に,油圧式ブレーカーとコンプレッサーによる人力ブレーカーの併用にて,目地内のコンクリートを斫り取り,配筋を露出させる。
③ ブロックが落下せぬ様にトラッククレーンにて,台付ワイヤーを掛け,鉄筋をガス切断する。
④ 分割されたコンクリートブロックをダンプトラックに積込む。
⑤ 斫りガラも同様に,あらかじめ防護工の上に敷いたワイヤーモッコで受け,トラッククレーンにて吊り上げ,ダンプトラックに積込む。
以上の様な作業方法で,橋中央部からそれぞれ,左右岸に向って取壊し,一日当り2セットで平均15m~17.5m(約250m2)の仕事量であった。
b 既設床版取壊し上の留意事項
取壊しは橋梁中心線に対して,左右対称に進め,主桁や主構材に不等な荷重を掛け,変状を起さない様に注意する。また,重機や人力ブレーカーによる主桁,縦桁フランジを損傷させない様,留意する。取壊しコンクリートブロックの大きさについては,設計,クレーン車の能力,ダンプの積載能力等も考慮しなければならないが,今後の取壊しに当っては,出来るだけ大きく(面積体積),分割しコンクリートガラ,鉄筋切断量とも少なくする様計画することが,能率的,工程的に良いと思われる。

(2)グレーチング架設
a 架設のフローチャート

b 作業手順
① 既設床版取壊しの完了したスパンから,主桁の桁長間隔などを実測し,その寸法をチェックする。計測の済んだ箇所については,工程的,施工的に制約があって,ズレ止め筋撤去後のスタッドジベル打設,グレーチング床版パネルハンチ受けフラットバー取付を順次施工する。また,グレーチング床版搬入前には,パネル割り付けと桁中心線を主桁縦桁にそれぞれ墨出しを行う。
 さらに床組補強として縦桁,横桁,端部桁のCT形鋼による補強,P8~A2間の拡幅部の歩道,車道ブラケット取付を行い,床版搬入にそなえる。
② パネル(グレーチング床版)の架設では,搬入されたパネルに車上中(荷卸し前),パネル継手筋及び端部補強筋を挿入する。パネルは4点吊りとし,マーキング位置に敷設する。敷設方向は左右両岸より河川中央部に向って行い,桁補強とパネル架設を交互に24m(縦断方向)の割で施工する。尚,パネル搬入の頻度は,桁補強とパネル製作工程の関係から週2回となり,トレーラーは架設箇所に直接乗入れが可能な様に,敷設完了パネル上に鉄板(t=25mm)を敷いた。
③ パネル位置調整後,ハンチ高調整ボル卜締め,継手用底板取付を行い,継手筋を引き出し所定の位置に配筋し,結束する。
④ パネル設置完了部から順次,地覆板を取付ける。橋梁幅員を確保するため,両サイド(上流,下流側)にそれぞれ1.5cm設計より広くセットした。尚,板の固定方法はボルト締め,溶接である。
⑤ 次に,コンクリート打設時の水及びセメントミルク漏れを防ぐため,フラットバーと主桁フランジ間,排水桝据付部,伸縮継手部等に現場シーリングを施工する。
⑥ 地覆板取付,継手筋及び地覆筋,排水桝,照明灯受台のアンカー等の一連の作業終了後,地覆型枠の高さ,通り及びシーリングの再確認を行う。特にパネル押えボルトを必要以上に締めつけた場合,フイラー(グレーチング高調整用足)が主桁フランジより隔れ,床版を持ち上げることになるため,チェックが必要である。
⑦ 打設準備として,床版コンクリート天端仕上げ用トンボ及び打設足場を設置し,打設前にコンプレッサーにてエアー清掃を行う。
⑧ 打設順序は連続ゲルバー橋であるため吊桁→定着桁支間中央部→定着桁支点部の順とした。

6 あとがき
当現場は昭和62年9月着工,昭和63年3月に完成したわけであるが,施工計画時点から工程的に厳しく,4月には供用開始と言うこともあって,早期着工,あるいは週間,月間の工程のホローアップを行いながら,床版撤去,桁補強,床版打設準備等各々の工種について工程の短縮に努めた。一方安全管理面では,墜落災害,重機災害の防止を重点目標とし,現場関係者皆様の安全に対する理解もあって,無事工事を終了することが出来た。

参考文献
(1) 道路橋示方書・同解説(S55.2)
(2) 鋼道路橋設計便覧
(3) 建設省宮崎工事事務所:宮崎大橋床版補強実施設計委託業務1987
(4) 鋼構造物設計指針(第4次案):土木学会

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