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画像処理手法を用いた完成時の大田発電所のディジタル再現
二宮公紀
1.はじめに
わが国で建造された石構造の発電所は、秋田1、鳥取1、広島1、佐賀1、大分3、宮崎1、鹿児島3 の計11 ヶ所である[1]、[2]。このうち、石材が建造当初の姿で見られるのは、秋田の樺山発電所(明治33 年)、鳥取の江尾発電所(大正8 年)、広島の深山変電所(旧・椋梨川発電所:大正7 年)、佐賀の川上川第三発電所(大正11 年増設)、大分の廃・沈堕発電所(明治42 年)、宮崎の黒北発電所(明治40 年)、鹿児島の麓川発電所(大正9 年)の7 ヶ所で、残りは漆喰やモルタルが吹き付けられて往時の姿が失われている。その中で九州の4 ヶ所は凝灰岩特有の黒っぽい壁面が特徴的である。
現役で稼働中の大田発電所(鹿児島県日置市伊集院町)は、明治41(1908)年島津家の自家用発電所として運用を開始し、串木野神岡鉱山に送電していた歴史を有する[3]。外観上の最大の特徴は切妻屋根の平屋の南隅に六角塔が配置されている点である(写真- 1)。六角塔は管理事務室として使用されていたらしいが、こうした塔が付属しているのは全国の発電所でもここだけで、最大の魅力となっている。

これらにより、平成17(2005)年度に選奨土木遺産に認定されている。
ただ残念なことは、現在見られる壁面は柱の部分を除き、大正時代の修復・補強工事により竣工当時の姿と異なったものになったと思われることである。壁面が未修復の柱と同じ建材である凝灰岩であったとすれば、竣工当時の外観は現在と全く異なる印象を与えていたことが予想される。
大正期の工事の記録は残されていないとのことである。そこで、工事の実態調査の一環として、九州電力の協力を得て発電所の内壁表面の漆喰の一部を剥がしてみた。写真- 2 で分かるように見事に石積みの壁が出現している。竣工時の外観を取り戻すためには漆喰・モルタルを撤去することも考えられる。この場合100 年近く外気に晒されていた柱の部分とは異なった色彩を有した側壁が出現することになるだろうと容易に想像できる。

2.色彩復元
補修が行われなかった場合に見られるであろう外観を漆喰・モルタル剥離により再現する方法は、風化の激しい建材とそうでない建材が混在することになるため、外観の色合いに違和感を持つ可能性がある。そこで新たな手法として画像処理法を採用することが考えられる。これにより、大田発電所の往時の姿を明らかにしてみたいと思う。
画像処理に関する研究やソフトなどは今まで多くの人が行ってきた。画像処理には様々な要素があり、明るさの調整、色調の調整、画像の合成(2種類)、モザイク、エンボス(2 種類)、波型エフェクト(3 種類)、クリスタル、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタコントラスト調整カラー情報廃棄機能、マスク画像作成、色の反転、RGB 分解等、他にも多くの処理があげられる。
ここで用いた画像処理の特徴は、代表的な色データ(少数の入力データ)から多様な色構成のデータ(多数の出力データ)を作り出すことである。
手順としては、被覆されていなかった柱の石の画像をRGB 分解し、色を取り出す。つぎに減色解析作業を行う。図- 1 はRGB の256 段階の色をそれぞれ32 分割した滅色結果を示している。

滅色作業後に全体のピクセル数に対して分割した色の個数の割合を求める。色の割合が同じになるように乱数を用いて土台となる石のイメージの色を決定するのである。
この処理で得られた割合データをもとに乱数を用いて(従って、試行ごとに違った)土台となる石のイメージを作成することが可能となる。図-2 の作成イメージは色の割合は基のイメージと同じだが、このままでは印象は全く異なっている。
通常、石には多様な模様がついている。模様の種類は様々で、特徴的な模様があるもの、層を成しているもの、点として広範囲いに広がっているものなどが見られる。
ここでは全体に広がる模様と、特定の領域内に色を塗る模様の2 種類を想定し、石の模様の再現を行った。
全体に広がる模様は元になる石の割合に応じてランダムに数種類の色が決定される。特定の模様は、不規則に変わる楕円曲線によって閉じられる形の領域内を塗りつぶして作成した。それぞれの模様や形、再現される位置なども乱数によりランダムに決定される。これにより同じ模様の石が一つもないようにする。

図- 3 は、作成イメージ(図- 2)の上に模様を施したイメージである。各ピクセルについて色がはっきりと強調されていて、石に模様が定着していない。この状態ではまだ石というには程遠く、色の雰囲気のみ掴める状態である。
つぎに行う拡散効果は、ピクセル値の合計や差に基づかない処理になる。拡散を行うにはランダム関数を使ってイメージにある種の不規則性を与えることにより絵画風の感じを出せる。中心のピクセルに別のピクセルの値(5 × 5 の隣接ピクセルの中からランダムに選択)をランダムにいれて算出する。ぼかしと同じで土台となる石の色と模様の色とに明らかな差が見られた場合にこの処理を行い、模様をできるだけなじませるようにする。
数回拡散加工を施すことによって、土台の石のイメージと模様の色がはっきりと違っていたものでも、模様の色が拡散され、その差がなくなる。
拡散加工のつぎは、ぼかしを施す。これにより模様と土台となる石のイメージとの色の荒っぽさを少なくして、模様を石になじませる効果を狙う。ここでは3 × 3 のピクセルブロックを使い、その中で平均値を出して新しい色を作ることにした。
模様を施しただけでは模様と土台となる作成イメージの色の違いがはっきりしていたが、ぼかしを施すことで、各ピクセルの色の荒っぽさがなくなり模様の定着化が図られたと思われる。
最後に行うのは作成した石の画像に荒削りの石特有のでこぼこを施すためのエンボス処理となる。基になる画像の近接するピクセルの差を計算し、保持しておく。つぎに先ほどぼかしを施した画像に保持していた値を加算することで図- 4 のようなイメージになる。

さて、作成した石画像の完成度を確認するために、人間の目から見た近似性をアンケートにより調査してみた。対象者は20 歳前後の健全な男女62 人であった。アンケートは、最初に複数枚の自然石の写真を見せて、溶結凝灰岩のイメージを持たせてから、4 枚の画像に1 枚作成した石を混ぜ、それを当てる方法である。正答率は30% であった。また、適合検定を有意水準0.05 で行うと、作成した石と自然石との間に差は見られないという結果となった。

3.大田発電所への適用
2 章において述べた手法に従って石の画像を多数作成する。石の画像を作成する際に、基本となる画像は撮影された画像から石1 個を選び、それからだけの情報で色組成を解析後に、作成される石は無限の多様性を持つことができることになる。
そこで、大田発電所の裏口正面と南側の側面から見た写真に、述べてきた手法を適用してみた。
写真- 3 に大田発電所の裏口を示す。同図に見られる石積みの溶結凝灰岩の柱から色の組成情報を取得した。一例として、それを用いて作成した大田発電所のイメージ画像を図- 5 示す。大正時代になされた補修工事以前の側面図等が発見できなかったため図- 5 の窓枠のアーチ部のアーチ輪石の形状は、町田第二発電所の窓を参考に再現している。また、キーストーンの大きさは図- 5 より判明しているので、輪石の大きさはその約6 割とした。
写真- 4 は側面からの写真であり、これに、画像処理を施した。図- 6 に太田発電所の側面に作成された多様な石を張り付けた場合の画像を示す。この図の窓枠部分のアーチに対しても図- 5 と同様の基準で再現を行っている。特徴として図- 5にも図- 6 にも1 個として同じ「色合い+模様の石」はないのである。

4.まとめ
モルタルが吹き付けられる前の大田発電所の写真を入手できていない(残っていてもカラー写真ではないと思われる)ために、ここで作成した画像がどこまで実際のものに近づけたかを評価することは困難である。しかし、作成した石を貼り付けた画像(図- 5、6)を見てみると、現在の発電所のイメージはガラリと変わり、石造建造物らしいものになったと思われる。
作成されたイメージ画像を詳細に見てみると、作成した石を貼り付けた図- 5 の発電所には赤っぽく見える石もいくつか作られている。これは、土台とした石の一部に赤っぽく風化した部分があったための影響と思われる。また図- 6 のイメージ画像では、既存の石にもまったく見られないような色合いのものも見受けられた。ただし、これらの色合いの溶結凝灰岩は現実に存在する色合いに近い。これらの現象は石を作成したときに乱数を用いて色合いや模様
を発生させているが、その段階でこのような色のものができてしまうためである。
エンボス加工を施す際に基になるイメージを使って凹凸を表現してきたが、もっと明確にわかる凹凸を作成する手法を検討する余地は残っている。最終的にはアンケート等を実施し、多くの人が見ても竣工状態の大田発電所(石造建造物)であると認識できるように検討する必要があると思われる。
手法としての洗練度の検討の余地は残っていると思われるが、このような画像処理手法を使用することで、夢のある映像を作り出すことができる。大田発電所は溶結凝灰岩でできていたため、手順はそれに対応したものとなっているが、一部の画像からいくつかの処理を組み合わせ、それに乱数を用いて現実世界では実現できないような映像を、多様性をもって再現できるという手法を見つけることができている。著者はこの手法を基礎に、溶結凝灰岩だけではなく大理石などにも拡張しているが、面白い結果も得ている。土木と情報処理の融合がもたらしたものと考えている。

参考文献
[1] 馬場俊介:土木史研究の現状と展望 土木計画学との相補的連携を含めた今後の展開、土木学会論文集、No.632、pp.17-28、1999.
[2] 日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2800 選、土木学会土木史研究委員会、374P.、2006.
[3] 二宮公紀:閑静のくつわ紋と大田発電所、土木学会誌、No.91(8)、pp.60-61、2006.

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