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完成が近づく佐賀導水事業
―低平地「佐賀平野」の水問題解決へ向けて―

国土交通省 九州地方整備局
 佐賀河川総合開発工事事務所 所長
森 川 幹 夫

1 はじめに
佐賀導水事業は,低平地として知られる佐賀平野において,低平地特有の課題である,治水,利水等の水問題を一挙に解決する切り札とも呼べるー大事業です。
当事業は,昭和54年に流況調整河川事業として建設に着手し,平成20年度事業完了に向け,現在,最終段階を迎えているところです。
今回,本事業の計画の経緯から,これまでの進捗状況,段階的に発揮してきた事業効果等を振り返るとともに,完成後の管理への円滑な移行に向けた課題を展望しつつ,佐賀導水事業をご紹介します。

2 佐賀平野と水問題
佐賀平野は,北の背振山系から南の有明海に広がる約6万haの広大な平野であり,そのほとんどが有明海の干満の影響,さらには急峻な背振山地からの洪水の影響を受ける地形で,洪水氾濫や内水氾濫等の災害が頻発してきました。
一方,利水面においても山が浅く水源がないため,かんばつによる被害の発生や,近年では地下水に依存した結果,地盤沈下の被害を発生させるなど,多くの水問題を抱えていました。

3 佐賀平野の治水,利水の歴史
このような佐賀平野の地形的制約を克服する巧妙なシステムとして,治水面では野越や霞堤,遊水池,利水面では干拓やため池,クリーク,アオ取水等,流域で役割分担する佐賀平野独特の技術や工夫により,洪水対策や水源の確保が行われて来ました。
特に,今から約400年前に成富兵庫茂安が手がけた嘉瀬川の石井樋や千布沖田遊水池(巨勢川調整池の原形),城原川の三千石堰・横落水路などに代表される地形の特徴を生かした数々の治水利水技術は,佐賀城下等の要衝を守るとともに水害と干ばつに悩まされ続けた農業の安定を図るなど,その多くは今なお現存し活躍を続けています。
しかし,一方でこれらの治水利水システムが上下流や左右岸の不公平感や対立を生んだのも事実で,藩政時代にあっては租税の減免措置等によりある程度は緩和されていたものの,土地利用の高度化が進み,公平性が重要視されるようになった近代にあっては,旧来のシステムだけでは対応しきれなくなり,技術の高度化や経済力の増大に見合う抜本的な対策が求められるようになりました。

 

4 現代における佐賀平野の治水方式
佐賀平野を流下する筑後川や嘉瀬川を除く河川のほとんどは小規模河川で,内水排除の阻害となる地形条件やガタ土と呼ばれる軟弱地盤とも相まって,築堤や河床掘削等の単純な治水方式がとりにくいのが特徴です。(勾配が緩いため,広い川幅や高い堤防が必要で構造物も大きくなるなど総じて不経済になりやすく,社会的影響も大きい)
このため,市街化の進展やクリークの減少など土地利用の高度化に伴うさらなる堤防拡幅等の治水対策は困難で,特に有明海の干満の影響を受けやすい内水対策はポンプに頼らざるを得ないのが実状です。
このような状況にあって,効率良く,また経済性や社会性等にも配慮するには,高低差をうまく利用したダムや放水路等による抜本対策が最も有効な手段として考えられてきました。

5 現代における佐賀平野の利水方式
クリークによる反復利用やアオ取水等の不安定な水源への依存,過剰な地下水汲み上げによる地盤沈下の問題等に加え,現代の生活様式や農業形態の変化等に伴う利水需要に対し,自然流況の改善は期待できない現実があります。
このため,安定した水源の確保には,ダムによる新規開発も含めた河川水への水源転換が最も確実で安定した利水方式と考えられてきました。

6 佐賀導水計画の立案
前述のような抜本的な水問題の解決と相まって高度成長期を迎えた昭和40年,佐賀平野の中でも規模の大きな筑後川と城原川,嘉瀬川をつなぎ,治水,利水,さらには環境対策(水質浄化)までをも一挙解決する抜本的な対策として,佐賀導水計画の予備調査に着手,昭和49年実施計画調査を経て,昭和54年流況調整河川事業として建設に移行しました。
この導水路のルートは,高低差を確保することで内水対策の効果も最大限に期待される山地と平地の境界付近に計画され,その後,内水対策河川の追加や洪水調節量の変更等の変遷を経て現在の計画となっています。

7 佐賀導水計画の詳細
昭和54年の建設事業着手以降,現計画の基礎となる事業計画を昭和61年に策定,平成16年に事業費や工期等の一部変更を行った現事業計画の主な内容は以下のとおりです。
 〇全体事業費 995億円(H16末進捗率91%)
 〇工期     平成20年度まで
 〇目的及び事業内容

①治 水
・佐賀市街部を流れる巨勢川の洪水調節(巨勢川調整池[V=220万m3]建設)
・内水排除(5河川・3内水域計8排水機場[排水量計72m3/s]建設)

②利 水
・佐賀西部地域(佐賀西部広域水道企業団[武雄市など3市5町1企業団])への水道用水補給(最大0.65m3/s)
・佐賀市内の浄化用水補給(最大1.2m3/s)
・城原川(0.1m3/s),嘉瀬川(0.3m3/s)の不特定用水(河川維持用水)の補給(最大0.4m3)

③導水路等の建設
・東佐賀導水路(筑後川~城原川L=13.2km)の建設(管路Φ1.9~3.0m)
・西佐賀導水路(城原川~嘉瀬川L=9.8km)の建設(管路Φ3.0m,開水路)
・多布施川分水工,筑後川(揚水)機場等の建設

8 主要施設の概要と進捗状況
8-1 導水路
平成13年に敷設を完了し,筑後川水系東佐賀導水路,西佐賀導水路としてー級河川指定され,既に治水運用されています。
管路は,基本的に鋼管及び鋳鉄管製で地下埋設(開削及び推進工法)され,地上部はそのほとんどが道路として利用されていますが,一部民地として区分地上権が設定されているところもあります。
・東佐賀導水路
埋設された管路は筑後川下流用水事業の導水管とほぼ並行して敷設され,そのほとんどを水資開発公団(現水資源機構)に委託して施工されました。
・西佐賀導水路
城原川から巨勢川調整池間は,旧中地江川の河道を利用した開水路区間です。
巨勢川調整池の地下区間(約900m)は,アーチカルバート埋設,巨勢川調整池から嘉瀬川までは鋼管埋設となっています。

8-2 排水機場
全排水機場(8機場)のうち,6機場が既に運用中で,残る2機場も今年の出水期には稼動予定です。
ポンプ形式は,ほとんどが立軸ガスタービンエンジンを採用するなどコンパクト化が図られています。
また,通常見られるポンプ場と違い,排水先が圧送管路であることから,20~30mもの高さがある調圧水槽が併設されているのも特徴です。

8-3 巨勢川調整池
巨勢川の洪水125m3/sのうち55m3/s,支川黒川の洪水75m3/sの全量,計130m3/sの洪水調節を行う施設で,その機能から平地ダムとも呼ばれています。
広さは約55ha,容量220万m3で,既に190万m3程度を確保済みです。
今後は,容量確保のための掘削工事と巨勢川合流点付近の施設工事を残すのみとなっています。
ちなみに,調整池の中央付近では縄文時代早期の貝塚(規模は西日本最大級)や遺物(木製品や装飾具等)等の埋蔵文化財が非常に良好な保存状態で発見され,佐賀市では平成20年の本事業完了に間に合うよう,慎重に調査が進められています。
そのほか,事業完了後広大な土地を地域の交流等の拠点として活用する「巨勢川調整池利活用計画」について,検討をいただいた委員会からの提言を受け,現在地域住民との懇談会を設け,より親しみやすく魅力のある整備のあり方や将来管理のあり方など,議論を行っているところです。

9 段階的な効果発現
9-1 治水効果の発現
完成した機場については,暫定操作要領を策定のうえ,速やかに操作できる体制を整えています。特に,下流河川の改修が進んでいない現在,平成16年だけでも22回ものポンプ運転を行い,下流域の内水排除に貢献しています。
また,巨勢川調整池についても,排水機場の建設や掘削工事等が残る状況にあったものの,平成13年7月には緊急的に調整池へ洪水を流入させ,約90haの浸水被害軽減を図りました。
そのほか,調整池周辺では宅地化の進展や農業の高度化(イチゴ等の高付加価値作物への転換)がなされるなど,土地利用の変化のうえでも確実にその効果が現れてきています。

9-2 利水効果の発現
平成13年の一級河川指定を受け,嘉瀬川への補給を開始しました。
これを受けて佐賀西部広域水道企業団の取水も始まり,構成市町においては地下水等から河川水への水源転換がなされました。
特に杵島郡白石町においては,かつて豊富な湧水で地域の憩いの場として親しまれながら,地下水の過剰取水等により枯渇していた「縫の池」の湧水が約40年ぶりに復活し,地域住民等がこれを核とした地域づくりに取り組むなど,大きな効果を発揮しています。

10 維持管理への移行に向けて
10-1 維持管理への配慮
導水路(総延長約23km)の約8割を占める埋設管路の施工にあたっては,維持管理の容易性等を考慮した以下のような工夫がなされています。
①制水弁
埋設管路は圧送管という特性上,常に満水状態にあることから,点検や補修等の対策を行うにあたっては,水抜きを行う必要が生じます。
管路は最大13kmも連続し,その容量は約57,000m3にも達するため,全量を排水せず,部分的な点検や補修等ができるよう,約2kmおきに制水弁と呼ばれる仕切が設けられています。また,各機場と導水管を接続する区間にも,仕切のための制水弁を設けています。
②空気弁,ブローオフ
管路内が満水状態にあるのは前述のとおりですが,管路内を流れる水は河川水なので土砂などを含んでいます。
これらによる管路内の詰まり等を防止するため,管路敷高が最も高くなる部分には空気弁を,低くなる部分にはブローオフと呼ばれる土砂だまりを設けています。
③電気防食
埋設管は酸化等による腐食防止のため,表面は塗装されていますが,不測の損傷や地質(溶存塩類の多さ等)によって局部腐食が進むことがあります。
このため,腐食電流と逆方向に外部から電流を与えることにより,腐食電流を消滅させる電気防食と呼ばれる技術が用いられています。

10-2 IT化の推進
佐賀導水は,約23kmに及ぶ導水路のほか,8つの排水機場,調整池及び関連する9つの水門,さらに分水工,制水弁,サイフォン,取水堰等数多くの管理施設があり,そのほとんどが人為的な操作を必要とします。
また,流況調整河川という性質上,数多くの流域を抱えており,降雨パターンの違いによって操作パターンも無限に想定されるため,限られた予算人員という環境でも確実に操作ができるよう,徹底したIT化が進められています。
特に,機場等の機械設備については,ほとんどが遠隔操作可能で,実際の洪水時の操作も導水管という優位性もあって,事務所からの遠隔操作により運転されています。

11 おわりに
(管理体制の充実等残された課題解決に向けて)
佐賀導水事業について,計画から管理までを紹介しましたが,紙面の都合もあって詳細な報告や用地買収,施工時の苦労等については紹介することができませんでした。
これらについては,4年後に迎える事業完了時に改めて紹介できる機会があるものと思います。
最後に,佐賀導水事業は,治水や利水など多岐に亘り効果をもたらすプロジェクトであることから,本事業に対する地域の期待は非常に大きなものがあり,佐賀平野の水問題解決に大きく寄与するものと確信しています。
今後も早期効果発現やライフサイクルコストの低減さらには地域住民と連携した将来管理のあり方など,残された課題の解決に邁進するとともに,地域住民の安全安心な生活に寄与するべく努力を続ける所存です。

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