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大山ダムの基礎掘削後に認められた高角度断層への対処
松尾達也
石橋一恭

大山ダムでは、右岸河床部付近の基礎掘削後に、当初設計の想定になかった複数の高角度断層とその周辺の軟質な岩盤の存在が明らかとなった。基礎掘削により新たに認められた断層のうち、最も規模の大きいF-2断層は、堤敷を上下流方向に連続するとともに、複数の断層と交錯する箇所では、破砕や風化の影響により、軟質化したD級岩盤の幅は約10mに及んでいた。このため、直ちに断層およびその周辺のD級岩盤の平面・深度方向の分布、および、性状を明らかにするため、基礎掘削面での観察や試錐調査を行った。それらの調査結果を基に、断層部を構成するD級岩盤を地質や性状によりDh、Dm、およびDlの三つに区分し、それぞれの力学特性や浸透破壊抵抗性を把握するための原位置試験、および室内土質試験等を実施し、その結果を基に堤体修正設計を行った。

キーワード:新第三紀火山岩類、高角度断層、フィレット

1.はじめに

大山ダムは、筑後川水系赤石川に建設中の堤高94m、総貯水容量1,960万m3の重力式コンクリートダムである。大山ダムは洪水調節、既得取水の安定化・河川環境の保全および新規利水(水道用水)を目的とした多目的ダムである(表-1)。
大山ダムでは、平成19年4月に本体工事に着手し、平成19年8月には、ダム堤体部の基礎掘削に着手したが、複数の断層が認められたため、緊急的に追加調査・堤体の修正設計を実施した。

2.地質

ダムサイトの基礎岩盤は、新第三紀の釈迦岳火山岩類に属する安山岩と自破砕安山岩(岩盤等級に’を付す)であり、高標高部(サーチャージ水位よりはるか上)にはそれを覆って第四紀更新世の耶馬溪火砕流堆積物が分布する。ダムの基礎岩盤となるのは釈迦岳火山岩類であり、その構成は表-2に示すとおりである。釈迦岳火山岩類は、安山岩と自破砕安山岩がほぼ右岸下流傾斜で互層状に累重する構造で特徴づけられる(図-1)。

3.基礎掘削後の岩盤状況
3.1 当初設計時と基礎掘削後の比較

図-2に当初設計時と粗掘削後のダムサイト河床部付近の岩級区分平面図を示す。
当初設計時のダム河床部付近の想定岩級分布は、I測線(ダム軸より下流20m)より上流側では、CM級およびCM’級の堅硬な岩盤、I測線より下流側ではCL級やCL’級が分布すると想定していた。また、断層については、河床部左岸側のF-1断層のみを想定していた。
しかし、粗掘削後、大きな地質分布の違いはなかったものの、河床部において新たにF-2~F-7断層の6条の断層を確認し、それら断層に伴うD級岩盤が認められた(図-2,3)。特にF-1断層と同方向のF-2断層は、当初設計時に局所的に岩盤状況が悪いとしたJ14~J15、IJ~J測線付近に、F-2、F-3、およびF-4断層の交錯部が位置することから、岩盤状況が悪くなっており、D級岩盤の最大幅は10m程度と幅広くなっていた。

粗掘削後に実施した試錐調査のボーリングコアをみると、F-2断層は堤体敷下流側の安山岩部では脆性破壊的な性状を示し、硬質な安山岩礫とその間を充填する細粒な粘土等が認められる(写真-2)。一方、調査時点に実施したボーリングコア(写真-1)では、採取状況が良好でないため、細粒分が流出し、硬質な安山岩の礫状コアとなっており、堤趾に広く分布する亀裂性のCL級岩盤のコアとさほど変わりはない。このため、当時は断層と判断せず、局所的な脆弱部としていた。

また、今回新たに認められた断層の傾斜は高角度であり、調査時点の鉛直ボーリング主体の調査において、確実に断層の分布を捉えきれなかったと考えられる。

3.2 河床部に認められた断層の概要

粗掘削後に確認された断層は河床部を上下流方向に連続する断層であり、左岸側に高角度(70~80°)に傾斜するF-1、F-2の2条の正断層と、それから派生したF-3~F-7断層である。このうち、F-2断層は、水平方向の変位量が最大であり、破砕幅も概ね1~2.5m程度であるが、I測線より下流側では、複数の断層が交錯するため、破砕や風化の影響によりD級岩盤の幅は5~10m程度と幅広くなっている。
F-3~F-7断層の破砕幅は数10㎝~1m程度と規模はそれほど大きくない。これらのうち、F-3、F-5断層は、堤敷外上流の調査横坑DRT-2において、上下流方向の小断層として事前に確認されていた。しかしながら、横坑壁面では密着した割れ目程度の性状で、断層の両側はAuグループCM’級岩盤であったため、現掘削面で確認される規模の破砕帯を有する断層が延々と連続することは想定しえなかった。

4.追加調査
4.1 D級岩盤の性状・分布

粗掘削後の岩盤状況に対する措置として、掘削線を当初設計より部分的に2~3m下げることにより、部分的に岩盤状況の改善がみられたものの、全体的に大きな改善にまでは至らなかった。
そこで、以下の目的で基礎掘削面から新たに調査ボーリング21孔を実施した。図-4に調査ボーリングおよび平板載荷試験の調査位置を示す。
  1. (1)堤敷、および堤敷上流側の岩盤状況の確認
  2. (2)断層部の地盤内での性状、連続性の把握
  3. (3)断層の性状を把握するための各種土質試験
    用試料採取
(1)の目的は、掘削面より下位の岩盤状況を確認し、さらなる掘削によって岩盤状況が改善されるかを想定するとともに、基礎岩盤の状況に応じて堤敷を広げる堤体形状修正検討のための基礎情報を得ることである。
(2),(3)は、断層の岩盤内での地質性状・分布の確認と併せてD級岩盤の物理・力学特性の把握が目的である。ここでは、一部ボーリング孔径φ116㎜のコアサンプリングを行い、土質試験を実施した。

また、原位置試験として、平板載荷試験を実施した。
基礎掘削面の観察、および、調査ボーリングコアの性状から、F-2断層およびその周辺のD級岩盤は、すべてがいわゆる断層破砕帯(断層角礫、断層粘土)といったものではなく、地質、締まり具合、含まれる礫の量などからDl、Dm、Dhの3区分(表-3)に分類した。

すなわち、Dlは断層の本体部であり、断層角礫および断層粘土等の破砕帯から構成される礫混じり土砂状を呈する。Dlは断層に沿って断続的に分布しているがその分布は局所的である。
Dmは断層本体部周辺の安山岩の破砕帯であり、硬質な安山岩礫混じり砂、粘土を主体とし、節理を有する岩塊が部分的に残存している。
Dhは、断層本体部の周辺の自破砕安山岩に認められ、砂分を主体とし、含まれる礫の割合は少ない。現地ではある程度固結しており、調査ボーリングコアにおいても完全に自立するほど締まっている。
図-5に調査結果を基にF-2断層周辺の追加掘削(プラグ掘削)を実施し、D級岩盤を3区分した岩級区分平面図を示す。

追加掘削の結果、BL.14付近に分布していたD級岩盤は、大幅にCL’級岩盤に改善した。一方、IJ測線の下流側(堤趾付近)のDmは、既往調査結果等も踏まえ、追加掘削を行っても岩盤状況の改善には至らないと判断した。
D級岩盤が広く認められたBL.13~15は、当初設計の堤敷き面積では、所要の安全率を確保できないと判断され、上流側に堤敷きを伸ばしフィレットを増厚することとした。BL.13~15上流側の岩盤状況は追加調査結果等から概ねCM’~CL’級が認められ、ダム基礎として問題ない岩盤であり、追加掘削によるD級岩盤の除去と上流側への堤敷きの拡大により、所要の安全率を確保することができた。
また、F-2断層に伴うD級岩盤の深度方向の分布は、基礎掘削面観察や追加調査結果より、地表付近で厚く、深部に向かうにしたがって破砕幅が狭くなっていると想定された。すなわち、地表付近で約10m程度の幅を有したD級岩盤は、基礎掘削面標高から10m深部では幅3m程度、35m深部では幅0.5m程度となっていることが確認された。

4.2 D級岩盤の力学特性試験結果
4.2.1 弾性係数
F-2断層に伴うD級岩盤のDl、DmおよびDhの弾性係数は、平板載荷試験により設定した。なお、平板載荷試験数は、Dl、DmおよびDhで、それぞれ3点、8点、2点である。
試験は、直径30㎝の剛体盤を使用し、5段階の予備載荷試験と3回の繰り返し試験を実施した。
原位置での平板載荷試験の結果を表-4に示す。
Dl、Dm、およびDhの弾性係数の平均値はそれぞれ120MPa、250MPa、270MPa程度である。
Dlの弾性係数は、試験点3箇所の平均値120MPaとした。
Dmの弾性係数は、含まれる礫の大きさや割合は様々であるが、試験を実施した8点でばらつきは小さかったため、試験点8箇所の平均値を採用し、250MPaとした。
Dhの弾性係数は、試験点2箇所の弾性係数にばらつきがあり、得られた2つの弾性係数のうち、弾性係数の値の低い180MPaを採用した。

4.2.2 設計せん断強度
基礎掘削後に新たに認められたF-2断層に伴うD級岩盤は、前節のとおり3区分した。ダム基礎は通常、原位置岩盤せん断試験を実施して強度を設定するが、Dh、Dmにおいて、通常のせん断試験面を整形することは、含まれる礫や粘土等の影響を受けやすい性状であることから、室内三軸圧縮試験や原位置平板載荷試験結果より設計せん断強度を設定した。

(1)Dh級の設計せん断強度
表-5および図-6にDhの三軸圧縮試験結果を示す。
図-6の三軸試料全体のモール円から、Dhのせん断強度τ0=0.1MPa、せん断抵抗角φ=20°を採用した。

(2)Dm級の設計せん断強度
Dmの力学強度は、平板載荷試験結果より、弾性係数がDhより高く、また、Dhの平板載荷試験での降伏応力が2.0~2.5MPaであったのに対し、Dmにおいては、8点とも降伏応力は3MPa以上であった。したがって、DhとDmの弾性係数および平板載荷試験での降伏応力より、Dmの力学強度はDhのそれに比べて相対的に強度は高いと考えられる。しかしながら、Dmはレキを多く含む性状からボーリングによる乱さないコアの採取が困難であり、直接試験によって力学強度を求めていないため、Dhと同じせん断強度τ0=0.1MPa、せん断抵抗角φ=20°を設定することとした。
Dlの力学強度は、その分布が断層本体部沿いにのみ認められ、狭長かつ断続的に分布するため、見込まないこととした。

4.3 D級岩盤の浸透破壊抵抗性試験結果

F-2断層に伴うD級岩盤は、分布範囲が広く、上下流方向に連続し、かつ堤敷下流側では軟質で高透水性のAnグループCL級岩盤内に分布しているため、ダム基礎岩盤として貯水による浸透破壊が生じないことを確認した。浸透破壊の抵抗性を確認するため、F-2断層で採取したDlとDhのボーリングコアを用いて、室内浸透破壊抵抗試験を実施した。Dmはレキを多く含む性状であることから乱さないコアの採取が困難であった。
試験方法は、透水容器内に入れた円柱形の乱さない試料を飽和させた後、供試体底部に作用させる水圧を段階的に増加させて、各圧力段階での試料の状態を観察記録し、浸透破壊時の動水勾配を求めた。
浸透破壊抵抗性試験の結果、Dlの限界動水勾配は12程度、Dhのそれは20程度と評価した。
大山ダムのダム貯水位高は89m(洪水時最高水位~基礎岩盤標高)、堤敷長は約60m(カーテンライン~下流端)であることから、カーテンライン下流の基礎岩盤に作用する平均動水勾配は1.5程度となる。
F-2断層の断層処理は、堤体上流端から少なくともカーテンラインの10m下流までは、基礎掘削面から深度35m(調査ボーリング結果よりD級岩盤が幅広く分布する深度)までのD級岩盤についてグラウチングを実施し、高透水のD級岩盤と周辺のゆるみゾーンの補強を行う。
以上のことから、河床部F-2断層のD級岩盤は、浸透破壊に対する問題はなく、大山ダムのダム基礎岩盤にできると判断した。

5.おわりに

本報告での検討を基に、幅広く分布しているD級岩盤を3つに区分し、そのうちDhとDm級岩盤にせん断強度を設定した。設定したせん断強度を基に堤体修正設計を行い、F-2断層が分布するブロックの上流側のフィレットを増厚することで、各ブロックにおいてブロック全体のヘニーのせん断摩擦安全率4を確保することができた。
また、D級岩盤の幅の広いF-2断層については、中央内挿法により改良状況を確認する格子状の孔配置で断層処理を実施した。深度方向の改良範囲は、堤体上流端からダム軸より10m下流までは7st(35.0m)、それより下流側については2st(10.0m)配置とし、改良目標値5Luで施工を完了したところである。
最後に想定外の断層部の短期間での調査や評価に関して、ご指導頂いた(独)土木研究所の方々に深謝の意を表します。

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