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本体工事最盛期の大分川ダム ~九州地整 初のロックフィルダム~
山口英彦
菅原俊幸

キーワード:ロックフィルダム、本体着工、地域振興

1.はじめに
大分川ダムは、平成21年12月、ダム事業の検証対象ダムとして選定の後、計5回の「大分川ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場」を経て、平成24年7月に事業の継続が決定された。
それまで、仮排水路トンネルの完成を見ていた当ダムは、検証後全国初の本体着手直轄ダムとして、再びその息吹を取り戻し、現在、本体工事の最盛期を迎えている。
当稿では、大分川ダムの概要、工事の進捗状況から、去る2月28日に執り行われた「定礎式」の模様、新技術を駆使した工事の紹介、ダム完成後を見据えた「地域を元気にする様々な取り組み」など、「最盛期大分川ダムの激動の今」を紹介する(図-1)。

2.大分川ダムの概要
県都大分市の市街地を貫流する大分川。大分川ダムは大分川の支川七瀬川上流に建設中の多目的ダムである(図-2)。
当ダムの目的は洪水調節、水道用水の確保、流水の正常な機能の維持であり、その内容は以下のとおりである。

(1)洪水調節
大分川流域における既設の芹川ダムとあわせて700m3/s を調節し、基準地点府内大橋での基本高水のピーク流量5,700m3/s を5,000m3/s まで低減させることで、大分市街部の洪水氾濫を防御する計画である。
大分川沿川では昭和28年6月の梅雨前線豪雨や昭和32年9月の台風による洪水被害をはじめ、近年でも、平成5年9月、平成16年10月に洪水が発生し、家屋等の浸水被害も発生している。河川改修や道路整備の進捗に伴い、沿川では大型商業施設や宅地開発が進んでいる(写真-1)。
大分市の発展を支える治水対策として、大分川ダムに寄せる地域の期待は大きい。

なお、大分川の整備計画河道が完成しても、昭和28年6月水害相当の洪水が発生した場合、これら沿川の発展地域をはじめ、東九州の大動脈である国道10号線、県庁や市役所、新日鐵住金等臨海工業地域までもが洪水被害の影響を受けることが想定され、大分川ダムの洪水調節は、これら洪水被害の軽減に、大きく貢献できるものと考えている(図-3)。

(2)水道用水の確保、流水の正常な機能の維持
大分市の水道用水として1 日最大35,000m3の取水を可能とし、安定的に水道用水を供給することとしている。
大分市の水需要は、新規開発団地の建設や、新副都心開発等により逼迫しており、昭和48年渇水の3か月にわたる給水制限をはじめ、近年でも平成17 年、19年、21年と渇水による発電停止や取水制限等の被害が生じている(図-4)。

大分市の水道用水は沿岸の大分臨海工業地帯にも供給されており、大分川ダムによる水道用水の安定供給はこれら地域経済の維持・発展にも寄与するものと考えている(図-5)。

当ダムは昭和62年より建設事業に着手、平成12年2月に損失補償基準協定書の調印をさせていただき、49世帯の家屋等移転や156haにおよぶ貴重な土地をご提供頂いた。また、平成16年12月には漁業補償契約を締結していただいた。その後、平成18年に仮排水路トンネル工事に着手し、平成25年9月の本体一期工事の契約を経て、平成26年2月にダム本体建設工事起工式、平成28年2月にダム本体建設工事定礎式を執り行った。

3.九州地整初のロックフィルダム
大分川ダム周辺の地質は、主に中生代白亜紀の山中花崗閃緑岩と荷尾杵花崗岩を基盤岩とし、それを被覆する第四紀の未固結の堆積物および火砕流堆積物で構成されている(図-6)。

ダムの型式は、基盤岩の性状・強度および周辺での材料採取の可能性等から総合的に判断し、中央コア型ロックフィルダムを採用した。なお、これは九州地方整備局で初めてのダムとなる(図-7)。

4.工事の進捗状況
平成27年3月の本体基礎掘削完了後、引き続き監査廊工やグラウト工に着手。同年7月から洪水吐のコンクリート打設、9月から本体盛立を順次開始。まさに工事は最盛期を迎えている(写真- 2、3、4)。

また、平成28年2月には、ダム基礎部の立ち上がりを記念すると共に、ダムの永久堅固と安泰を祈願する「大分川ダム本体建設工事定礎式」が開催された(写真-5、6)。
今後は、ダム堤体盛立工をはじめ、平成28年度より本格化する各種管理設備工を経て、平成29年春には本体盛立完了、試験湛水へと移る予定である。

付け替え道路については、平成28年3月現在で、国道442号(国施工部分)は完了、大分市道(尾原線、河内線)は残すところ100m(進捗率97%)、林道付替工事を鋭意施工中である(進捗率52%)(写真-7)。
施工管理および安全管理においては、以下に示す新技術・新材料を活用しつつ進めている。

(1)重機の3Dマシンガイダンスシステムの採用
重機にGPSと3DCADシステムを搭載することにより、目的物の位置や形を運転席のモニタで確認することができるシステム(写真-8)。

(2)敷き均し、転圧管理システムの採用
盛立工において所定の敷き均し厚さ、所定の転圧回数の管理を確実に行うため、GPSを使用したシステムをブルドーザ、ローラーに搭載。

(3)監査廊プレキャスト型枠の採用
施工の効率化、良好な出来栄えおよび安全性の向上を図るため、あらかじめ工場製作されたプレキャスト型枠を採用。

(4)ダンプ運行管理システムの採用
重ダンプトラックにGPSシステムを搭載し、ダンプの現在位置や、行き先、土量等を事務所にいながらリアルタイムに確認できるシステム。

(5)レーザー計測による出来形管理の採用
任意点から3Dレーザー計測を行い、全域の現地地形情報を取得して、3DCADから縦横断図に反映させることで出来高を管理(図-8)。

また、当工事ではCIM(ConstructionInformation Modeling)の活用を推進しており、工事に関するあらゆる情報データ(地形、地質、品質、出来形等)を1つの3Dモデルに盛り込むことによって一元管理して、設計、施工および将来の維持管理で情報を有効に活用することを目指している。

5.「地域を元気にする!」さまざまな取り組み
大分川ダムの地元大分市(旧野津原町)では、大分川ダムをきっかけとした地域振興策が計画されている。ダム建設も佳境を迎えたことから、平成27年5月には振興策の実現と運営を見据えた「大分川ダム周辺施設整備検討会」(事務局大分市)が設立された。ダムサイト近傍に予定されている交流拠点施設やコア材料山の跡地利用に関する議論がなされており、事業者としてもできうる限りの支援をしたいと考えている(写真-9、図-9)。

ダム事業を正しく理解していただくだけでなく、地域に「賑わい」を呼び込む活性化の「追い風」として、以下のさまざまな活動を展開している。なお、これらすべての取組みは、職員自らが「汗をかき」、「顔の見える事務所」として認知いただくよう配慮している。

(1)バスツアー「大分川ダムサファリパーク」 の定期開催
一般の方が普段入ることのできない事業地内へバスにて案内し、55tの重ダンプトラックや6m3バックホウ等、迫力の大型機械を間近で見て乗ることができ、日々変化する激動の工事現場を肌で感じていただくことができる。
同じ県内にある「アフリカンサファリ」を連想させる内容であることから銘々。本体施工者である鹿島・竹中土木・三井住友特定建設工事共同企業体は、重ダンプに手作りで飾り付けし、イベントに花を添えている(写真-10)。
平成26年度より毎月1回(バス2便)を運行しており、平成28年3月現在、計28便を運行してきた。また、平成27年11月1日には地元で恒例のイベント「のつはるななせの里まつり」ともタイアップ開催したところである。

最近では市民の関心も高くなり、テレビ局や新聞各社から多数の取材を受けており、朝の情報番組での生中継などもしていただいた(写真-11)。これら報道の効果もあってか、問い合わせも急増し申し込みを断るケースも生じたことから、バスの定員を増員し対応している状況にある。

(2)小学生宿泊体験研修(大分市教育委員会) との連携
大分市内の小学校(5年生)を対象に大分市教育委員会が主催している宿泊体験研修の行程に大分川ダムの見学を組み込んで頂いている。初年のH26年度は、18 校1,160人が参加。平成27年度は、22校1,805人が参加し、学習の場としても一翼を担っている。

(3)ダムカードの配布とリニューアル
平成26年11月より大分川ダムカードを配布。遠くは北海道や東北地方からも来所されるなど、全国的なダムへの関心の高まり(深まり)を窺うことができる。
平成27年11月にはダムカード(非公式分)のVer.2 を配布開始したところである(図-10)

(4)情報紙の配布
ダム建設の進捗や周辺地域の観光情報・歴史文化をお知らせする「ななせ館だより」を職員手作りで作成。近隣44自治区他へ毎月配布している。

(5)大分川ダムガイドの育成
これらの活動はすべて職員の手作りで行われているため、マンパワーを要する。少ない職員が交代で対応していることから、事務所職員全員が案内役となれるよう、事務系職員を対象に、ダムの基礎知識を習得させる「大分川ダムガイド育成プログラム」を実施しており、主に小学生への説明等で活躍していただいている(写真-12)。

ダムの建設工事も最盛期を迎え、また、マスコミ各社の報道のおかげもあり、日に日に見学者が増加している状況である。これらの取組みが「賑わい」創出の一助となっていれば幸いである。
(6)地域との美化活動
大分川ダムでは地域と協働で美化活動にも取り組んでいる。ダムサイト展望所周辺では、「大分川ダムフラワー大作戦」と称して、地元の野津原ボランティア団体(婦人会、老人会、クラブ等)、NPO、工事関係者、行政等の参加により、除草や花植え活動が行われている。この取り組みは12年目を迎え、今年最初の活動はあいにくの雨にも関わらず約100名が参加し、子供から大人まで作業に汗を流した。今後も定期的な除草や清掃活動等を予定しており、多くの参加者が秋のサツマイモ収穫を楽しみにしている。
このような活動は、地域や世代をつなぐ役割も果たしていると思われるため、今後も継続して取り組む所存である(写真-13、14)。

6.終わりに
本事業は本体盛立が最盛期を迎えており、早期完成・効果発現を果たすためにも、各関係者との調整等工程管理や品質管理はもとより、日々の安全管理により、事故無く完成を目指していく所存である。
また、大分川ダムは、大分市内中心部から車で約40分と良好なアクセス性を有している。大分市もダム周辺に交流拠点や公園の整備を計画されており、当事務所としても関係者・関係機関の調整役となって積極的に支援していきたいと考えている。
完成後には、「大分川ダムができて良かった」と地域の方々に言っていただけるよう、また、当事務所の職員はもとより、施工者の鹿島・竹中土木・三井住友特定建設工事共同企業体やコンサルタントなども含め、この事業に携われて良かったと思えるよう、一丸となって頑張っていきたい。

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