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地域に開かれた鳴淵ダム

福岡県 鳴渕ダム建設事務所
 所長
山 口 一 幸

福岡県 鳴渕ダム建設事務所
工務課 主任技師
野 中 智 弘

1 はじめに
ダムは自然の水を利用した社会資本であるが,近年地球環境問題が重要課題となり,開発と環境保全の調和について新しい対応が必要となってきている。また,最近ではダム周辺の自然環境だけでなく,ダム・貯水池それ自体が社会教育や観光・レクリエーションの場として注目され,地域の活性化に役立っている事例も少なくない。
当ダムにおいては,平成4年度に『地域に開かれたダム』として指定を受け,ダムが完成した後,長期にわたり地域の景観と調和して,人々に親しまれる良好な景観を創造するとともに,ダム貯水池を地域の観光・レクリエーション利用を促すことを目的とした施設となるように周辺整備計画を行った。

2 事業の概要
鳴淵ダムは,福岡県糟屋郡篠栗町の多々良川水系鳴渕川に建設された多目的ダムであり,洪水調節,既得用水の安定化および河川環境保全,福岡都市圏への水道用水の確保を目的としている。鳴淵ダムの諸元を表ー1に示す。
本事業は,昭和48年度より予備調査を開始,昭和53年度より実施計画調査,翌54年度に建設採択となり,昭和61年度に補償基準を妥結し,工事用道路工事に着手している。本体工事は,平成4年10月に着手し,平成12年度には本体工事等を完成,平成12年12月より試験湛水を始めたところである。

3 嗚淵ダムの周辺整備計画
3.1 位置および交通
鳴淵ダムの建設地である篠栗町は,福岡市内から東へ12㎞の位置にあり,福岡都市圏のベッドタウンとして住宅開発が進行し,人口も急増している。
交通は,福岡市と筑豊地区を結ぶ国道201号線が横断し,また福岡市と筑豊,北九州地域を結ぶ“JR福北ゆたか線”も通っており,交通至便の地でもある。

3.2 ダム周辺環境
篠栗町は,標高400m級の山地に囲まれており,町の面積の70%を山林が占めている。観光としては,日本三大新四国の一つとして有名な篠栗四国霊場があり,年間100万人以上を越える観光客が訪れる巡礼地である。また,鳴渕川上流には篠栗耶馬渓や五塔の滝などがあり,自然に親しむことが出来る。
また,鳴淵ダム貯水池周辺にも7箇所の札所が存在し,お遍路巡礼の通過地点となっている。(写真ー1)
一方で,レクリエーション施設としては,山岳地帯を利用したハングライダー,パラグライダーの基地があり,人気を集めている。

3.3 周辺整備の必要性
近年,余暇時間の増大に伴い,ゆとりある生活が希求される傾向にある中で,ダムについても環境機能をさらに高めようとする要望が強くなってきている。さらに,ダムが立地する篠栗町では『自然と都市機能が共存するふれあいの町』を基本とする快適な環境づくりを発展させるべく取り組みを行っており,周辺地域住民の要望に応えることも必要不可欠な条件となっている。
以上のことから,ダムの建設にあたっては美しい環境を創出し,人々の心に安らぎを与えるという機能を有した自然の健康,豊かなダム造り,また,ダムを一層地域に開放し,地元にとって密着した施設となるよう,周辺整備に取り組むものである。

3.4 鳴淵ダム周辺整備のコンセプト
鳴淵ダムに関する周辺地域特性(自然的条件・社会的条件)および関連計画(地域計画・河川環境計画)により,次のとおり特性をとりまとめた。
(1)自然に調和したダム
ダム建設地は県立太宰府自然公園や生活環境保全林の指定を受けている。そして生活環境保全林内では五塔の滝が『福岡自然100選』に紅葉の名所として紹介されている。このため,町ではその環境を活かし,周辺に憩いの広場等を整備している。したがって,ダムの周辺整備計画にあたっては,自然に調和したものを創造する。
(2)霊場巡りの里としてのダム
ダム建設予定地の周辺には札所が存在し,観光客は年間100万人を超している。このため付替道路・ダム天端道路については巡礼の路としての利便を考慮した計画とする。
(3)地域に開かれたダム
ダム堤体・ダム湖および周辺地域は水と緑のオープンスペースとして,その利活用を地域に密着したものとするため積極的に開放した設計を考える。
(4)均整がとれたダム堤体
ダム堤体については,コンクリートダムが直線的で固いイメージを和らげた設計を考える。

3.5 整備基本方針およびゾーニング
鳴淵ダムの環境整備にあたっては,3項目の基本方針を設定した。

①人と自然の交流の場づくり(“人と自然の交流”を目指した緑豊かな森林と渓流を活用したレクリエーション空間を整備する。)
②過去・現在・未来の交流の場づくり(篠栗四国霊場としての歴史的な過去,福岡都市圏として発展しつつある現在,町民はもとより,都市圏住民および観光客等,幅広い層の人々が集い親しめる鳴淵ダム周辺整備としての未来,すなわち“過去・現在・未来の交流”を目指したダム湖周辺のレクリエーション空間を整備する。)
③都市と地域の交流の場づくり(“都市と地域の交流”を目指した特色ある屋外レクリエーション空間を整備する。)

この基本方針に基づき,図ー2に示すゾーニングを行った。整備範囲は,整備することによりその効果を発揮し,整備の基本理念を具体化できる区域とした。特に河川区域外については,生活環境保全林の整備と一休となったダム湖環境整備を行うことにより,より一層の整備効果が期待されるため,上流域の生活環境保全林も整備区域に取り込むこととした。

4 周辺施設整備
整備基本方針およびゾーニングに基づき,各ゾーンの整備を以下のとおり行った。
4.1 森林ゾーン
篠栗町が主体となり,「緑豊かな自然環境」を活かし,自然とふれあう空間として整備する。そのため,スギやヒノキの人工林,渓流沿いの広葉樹林,五塔の滝を中心とする篠栗耶馬渓等,緑豊かな森林と渓流を活用したレクリエーション空間を整備した。
(1)森林浴コース
ゾーン内にある生活環境保全林等を,自然とふれあう空間として遊歩道の整備を行う。
(2)河川沿い散策路
ダム上流からの河川沿いの散策路を整備するとともに,訪れる人々の休息と交流の場として,休憩施設を設ける。

4.2 親水ゾーン
「地域に開かれたダム」では,ダムおよびダム湖周辺の水辺を整備するため,ダム湖周辺の水辺および広い湖面を利用し,鳴渕川の水と親しみ,リフレッシュできるゾーンとする。
(1)ダム資料館(ダム管理所内)
ダム管理所は「ダム機能を管理する施設」にとどまらず,周辺の景観に調和し,訪れる人々が親しみを持てるようなランドマーク的構造物とした。
資料館には,ダム建設の過程やダムの機能の説明をパネル等で展示し,ダムに興味を持てるような学習施設として開放する。
(2)展望所
森林とダム湖の調和や湖面の広がり,さらには篠栗町の町並み等が展望できるよう整備した。
(3)休憩所
巡礼者や行楽客が湖面を眺めながら,憩える場として整備した。

4.3 コミュニティーゾーン
土捨場付近一帯は,広い平地が確保できるゾーンであるため,計画全体の拠点ゾーンと位置づけ,地域住民や行楽客が楽しみ交流できる場として整備した。
(1)桜の広場,散策路
土捨場法面を利用し,一面に桜の木を植え,その中に散策路を設け,人々が交流できるよう整備した。
(2)せせらぎ公園
土捨場を流れる流路工を利用して,飛び石等を配置し,滞水面であるダム湖とは異なり,流れる水とふれあうことができる“親水護岸”を整備した。

4.4 シンボルゾーン
環境整備地区の導入部に当たるゾーンであるため,シンボルとなる各種施設を配置し地域住民が親しめ,行楽客等が入りやすいゾーンとする。
また,ダム堤体内部を一般開放する。
(1)ダム堤体
ダム等の大型構造物は,周辺の自然環境や地域の風景に大きな影響を与える。このため自然との調和を図る工夫をし,ダム本体の景観への配慮をする必要から,ダム非越流部下流面の立上げ部に曲線を用い,視覚的に柔らかい印象を与えるようなデザインとした。また,ダム本体のコンクリー卜壁面は,周辺の緑豊かな自然の中で違和感を和らげるため,化粧型枠を採用した。
(2)ダムの管理用建屋
エレベーター塔,量水塔,取水塔および放流バルブ室は,篠栗町の町木「杉」をイメージして建屋を円形とし,屋根の形状を八角錐とした。また,天端建屋の周囲はバルコニーを設置し上下流を展望出来るよう配慮した。
(3)天端道路
「地域に開かれたダム」として天端道路を開放することとなるため,道路としての機能に加え,テラスを設けるなど,訪れた人々がくつろげる空間を持てるよう配慮した。
幅員構成は,車道を4.0m,歩道を上流側2.0m,下流側1.0mとした。舗装は,車道部をアスファル卜舗装,歩道部は石張舗装とした。また,ダム中央部下流側に幅4.0m,長さ36.0mのテラスを設置した。

(4)ダム堤体内監査廊
ダム堤体内の通路は,エレベーター設置位置より左岸側の通路を一般開放することとした。堤内への出入りは,左岸天端,減勢工左岸側出入り口およびエレベーターとした。開放するにあたって,歩行者の安全を確保するため考慮した事項は下記の通りである。

① 通路断面は,幅2.5m(管理用通路は2.0m)とした。
② 階段は,建築基準法に準じ,ステップ高15cm,ステップ26cmの勾配1:1.733(管理用は1:1.5)とし,高さ3.0mごとに踊り場(踏幅1.2m)を設けた。
③ 照明設備・配線ラックおよび揚圧力測定設備は埋め込み式とし,壁面に突起物が無いよう計画した。照明は天井部に6~7m間隔に設置し,配線ケーブルは側壁に配置した。
④ 階段手摺りはアルミ製とし,中央と側溝側に設置した。
⑤ 保安設備として,防水電話機3台を設置した。
⑥ その他水平部の排水側溝にはグレーチング蓋を設けた。

(5)ダムのライトアップ
ライトアップすることにより,人工構造物であるダムを浮き立たせる。
(6)ダム下流の緑化
ダム下流に植栽を施し,ダムと自然景観との調和を創出する。
(7)ダム下流河川公園(写真ー3)
ダムから下流の河川は,郷土の水辺整備事業等で親水性や生態系に配慮した護岸構造とし,周辺の整備を行い,ミニ河川公園とした。

4.5 共通施設
名ゾーンに配置される施設に必要な副次的施設や利用者が安全に気持ちよく移動できるための,サポート施設を設けた。
(1)トイレ
ダム湖周辺道路沿いや施設内に,公衆トイレを設置した。トイレは周辺景観に調和したデザインとし,身体障害者等にも配慮したものとした。
(2)駐車場
施設規模に応じて駐車場を整備した。
(3)照明設備
ダムの暗いイメージをなくし,夜間通行の安全を確保するため,街灯等の照明施設を整備した。

5 あとがき
はじめに述べたとおり,整備計画は,学識経験者,町および県関係者,地元住民による「鳴淵ダム地域整備協議会」で決定されている。しかし,決定された時期が,バブル経済時代であり,かなりグレードの高い計画となっていた。最近の経済状況の悪化などから整備も当初の計画からグレードを落としたものとなったが,関係機関の協力を得ながら整備を進めることができた。
今後の課題は,ダム周辺を開放することによる,ダム周辺への不法投棄の増加や周辺道路および公園等への暴走行為者の出没等をどのように防止するか,また,ダム堤体監査廊,ダム資料館(ダム管理棟)の開放について,安全でかつ多くの方に開放できるよう考慮した,具体的な開放の方法を検討する必要がある。

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